不敵に笑う男
真夜中の電柱に、虫が集まる。
青いポリバケツに、ゴミを照らす、電柱の蛍光灯。
それだけが、目の前にポツン、と象徴的。
腕時計の秒針は、夜中の三時を指している。
薄気味悪い、寒気が一瞬。
帰宅途中の私は、その場を後にすれば、良かったのだ。
何故か、好奇心のような出来心で、サッと後ろを振り返ったのだ。
「誰も居ない・・・。」
そう、安堵した矢先・・・。
私の首は、後ろを向いたまま、金縛りのような感覚で数秒間、止まった。
鼓動は、脈々と速くなる。
瞳孔は開きっぱなしで、恐怖に支配されたよう。
要らぬ想像が、本当に起こるのだろうかという、怖さに怯える。
数秒間経って、不安から開放され、溜息をつく瞬間・・・。
暗闇から突如現れる、ニヤリと不敵に笑う見知らぬ男性が、立っている。
私の心臓がバクバクと、パニックに陥った。
すぐさま、ダッシュでその場を逃げ出した。
男が、完全に見えなくなるまで、走った。
記憶が正しければ、男は何か光る物を手に持っていた。
「ハッ!まさか・・・」
脳裏に焼き付いた不安は、正に恐怖という二文字で埋め尽くされてゆく。
まずは、警察に電話するのが先決であろう。
だが、私はパニックに陥って真っ当な判断ができないでいた。
「どうしよう・・・どうしよう・・・。」
同じような文字で、頭は混乱している。
インパクト大のあの、不敵な笑いは、心の歪みを起因させていく。
まるで、奇形を超える異物のような、不協和音で崩れていく。
現存の通りが全く、通りはしない、無秩序な状況。
似たようなポリバケツが視界に入り、思わず蹴り飛ばしてしまう。
非常に怯えているようだ。
このままじゃ、衰弱してしまいそう。
思いついたように電話を取り出して、警察に電話する。
私はまた、そこで安堵してしまった。
ふと、視線を逸らす。
男は覗き込むように頭を逆さにしてニヤリとこちらを見る。
私をマネて白い瞳孔を開き、切り裂いた口角。
首縄を連想させるかのような形にしてニヤリと笑っている。
こんな奴が世の中に存在するわけがないよ。
私は、その刃物を突き付けられ、目の前が真っ赤に染まる。
瞬間をただ、ただじっと見つめている。
そう、私はファンに殺されたのだ。
青いポリバケツに捨てなきゃよかったよ・・・。
腕時計は未開封のまま、そこに転がっていた。
男の手紙と一緒に。