異世界と繋がる門が近所に出来ました。私は村の薬師です。
私の名前はドーラ・ドロン。ドロン村のドーラという意味です。おわかりかと思いますが、平民でほかの村人と同じように、畑を耕し、大地より恵みを得る、農民です。
少し違うところがあるとするならば、母直伝の薬師の技を持つことと、育ててる作物が、麦や野菜ではなく、薬草や、そのままでは口にしてはいけない毒草を育ててることでしょうか。
大きな町とかだと、司祭様などがいて、怪我の治療などに当たるのですが、ドロン村は辺境の開拓村で司祭様はおろか侍祭様すらいないので、実質私が、この村の命の最後の砦を担っています。
じゃあ、母どこ行った?と思う方、ご安心を。隣の新しく出来た海辺の開拓村で同じく薬師をしています。隣といっても、徒歩で半月はかかるのですが。
行商人に頼んで年に何度か手紙のやり取りをしているので、生きていることは確認できています。
そんなこんなで、いつものように畑の様子よ見ていると……
ゴゴゴゴゴ…………
今まで感じたことの無い、地面が揺れるという現象を体験をしました。すぐに揺れは収まりましたが、しばらくして、お隣さんがやってきて…
「ドーラさん大変、北門のちかくに建物ができているよ」
私は揺れの原因が気になったので、お隣さんと一緒に見に行くことにした。
確かに昨日までは無かったものが北門をでてすぐのところに出来てました。形を見る限り城門を思わせる、いえ、『城壁のない城門そのもの』と言って良いそれが、そこにはありました。
さらに、門の内側の景色と、外側の景色が明らかに違います。
こちらは昼なのに、門の内側は満月の夜なのです。そしてもう一つ、『月が一つしかない』のです。
男月(青みががった白色)と女月(赤みがかった白色)が有るはずなのに、それがあっちには片方しか無いし、色も黄色に近い。
そうやって、遠巻きに城門らしきものを眺めていると、城門の向こう側から、人がやってきました。なんとも変な色、変な模様の服を着た人が、いえ人々が、全員が同じような変な模様の服を着ていました。
村の人全員が警戒を顕わにしていると、向こうから話しかけてきました。
「あの、ここはどこなのでしょう?」
村の皆は互いに顔を合わせどうしようかと悩んでいたようでした。このままではまずいような気がしたので私が答えることにしました。
「ここはドロン村です。ところで、そちらはどこなのでしょう?」
「はい、ニホンという国のイタミシという場所です」
「はあ、国の名前もそうですが、イタミシなんて村の名前は聞いたこともありませんね。申し遅れました。わたしはドーラといいます。この村で薬師をやっています」
「これは、ご丁寧に。私は陸上自衛隊第3師団イタミ駐屯地所属のフワといいます。」
「ニホンの兵士さん?ということでよろしいのでしょうか?あと、イタミとイタミシの違いはなんでしょう?」
「その認識でだいたい合っています。それと、イタミが地名でシは行政区分、シ(市)、チョウ(町)、ムラ(村)、ク(区)とありますが、イタミは市に分類されます。」
などなど、色々話していってわかったことは。
・この城門のようなものは異世界へ繋がる門であること
・ニホンはこのような門を作った覚えは無いこと
・時差?がほぼ半日であること
などがわかりました。そんなとき…
「大変だ、西門外の畑にマナボアが現れた。自警団が対応してるが、ドーラさんも支援に向かって下さい」
「わかりました。…すいませんが、ここで失礼します」
「いえ、これも何かの縁でしょう。私も向かいます」「フワさん!?」
「イシダさんは現状を上に報告してください。私はイシャとしての判断で動きます」
「はぁ…危なくなったら退いて下さいね、フワニイ…おまえとおまえはニイの護衛につけ。私は上に連絡してくる」
なんだか変な事になりましたね。イシャというのが何なのかはわかりませんが、兵士さんが助けてくれるのはとても助かります。
マナボアというのは、雑食性の魔物で畑を荒らしまわりつつ、近くの動物も食べます。とうぜん人も食われます。農村泣かせであり、数次第では村が滅ぶこともあります。
幸い、今回は単独でしたので被害は最小ですみましたが…
「あの、何をしているのでしょう?」
「傷の手当ですが、おかしかったですか?」
たしかに、彼らは、白い布を巻いで止血をし、骨折の箇所には添え木をして悪化しないようにはしています。ただ…
「なら、なぜ、中途半端なところで止めてるのでしょう?」
「中途半端?」
何かしら齟齬があるのでしょうか、彼らの中では悪化しないようにするまでが、治療なのでしょうか?
まあいいです。私は、私の仕事をするだけです。
「さ、これを飲んで下さい」
そういって、傷薬を負傷者に飲ませていきます。今回のもいい出来だったようで、すぐに回復してくれました。
「なんじゃぁーこりゃー!!」
フワさんがきゅうに大声を上げました。隣にいた護衛の兵士さんが驚いています。私も驚いています。
「どんな薬ですか、それは。飲んだだけで怪我が治る薬なんて、聞いたことが無い」
「ちなみに、母が作った最高級品は欠損した腕を再生させましたよ?」
「はぁーーー!?」バタンッ
フワさんが倒れてしまいました。そんなに変なこと言ったのかな?
ドロン村の人は、乳幼児以外全員、知っている話なのに。
どうやら、あっちとこっちでは、色々違うことが多いようです。