表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/22

二話

 すでに日は傾きつつある頃、三人の少年は商店立ち並ぶ場所へと足を運んだ。

 石や煉瓦を中心として作られた首都アルブルグム。となれば商店街もそれは例外ではない。


 しっかりと道が整備されており、良質の石で出来た建物は堅いと言うより滑らかさと言う部分が勝っており、見るものの目には優しい印象を与える。

 道には敷石がつめられており、とても歩きやすく出来ている。

 そんな街中を三人の少年はすでに見飽きた景色だと言わんばかりに、興味なさげに歩いていた。


「しっかしとんでもねーお嬢様だったなー」

 そう口を開いたのは灰褐色の髪の色をした少年マルクであり、口には出店で買ったフランクフルトを加えながら歩いている。


「まったくっすよー。エフィム様からはこれまで色々な仕事を要求されたっすけどああいうのは苦手っす」

 他、二人の少年に比べると一段背の低い茶色い髪をした少年アラムであり、どこか眠たげな目をしている。


「お前達は……まったくもう少し真剣に考えないか! 護衛だぞ! 護衛! しかも公爵家のお嬢様だ。そのような大任を見習いの身で与えられたことをなぜ喜ばん!?」

 

 二人に対して生き生きと目を輝かせているのは、二人に比べると大柄な体格を持ち、見事なまでの金髪碧眼、容姿端麗と言った言葉がぴったりと来る少年レオニードで、ここまで来る間に女性の目を存分に引いている少年でもあった。


「そーっすねー金貨40枚の仕事っすもんね。ほんとこればっかりは心底嬉しいっすよ。エフィム様最高っす」

 手には数枚の金貨を持ち手で弄びながらニヤニヤとアラムは喜色を顕わにする。

 

「でもよーやっぱりわからねえんだよな……エフィム様は俺達の立場を充分に知っているはずだ。なのに他者が関わる護衛の仕事をどうして押し付ける……下手すりゃばれるぞ……」

 

 マルクの言葉に三人は沈黙する。

 9年前の虐殺の生き残り、それだけなら別にばれたとしても特に問題はない。

 問題なのは彼ら自信が内包する力だ。そして彼ら自身はその力を忌み嫌っている。


「ドローニン公爵家か……まあ帝国の歴史もかなりのものだしな公爵家自体、珍しいってほどではないだろうが、やはりエフィム様直々と言うのが気になるな」


「いやーきなくさくなてきたっすねー。厄介ごとに巻き込まれなきゃいいんすけどね」


「すでに巻き込まれているような気もせんでもないが、その前に飯にしようや。懐もあったまったことだし少しばかり豪勢にいこうぜ」


 三人はそうして一つの建物の前で足を止めた。

 この界隈でも評判のレストランでもあり、夜には人気の酒場となっている建物だ。

 新鮮な海鮮料理を中心とした見せであり、当然貴族様御用達の店でもあるのだが、店のオーナーが平民と言うこともあり、貴族様専用の店というわけでもない。

 ゆえに裕福な平民達も利用できる店でもあるのだ。


 そんな店に三人の少年は足を運ぶ。

 

 お昼をすでに過ぎたと言うこともあり客の入りはそれほどでもない。暇を持て余したご婦人達がつかの間のティータイムを楽しんでいると言った様子だ。


 お昼時であればまず座れなかったであろうが、この時間帯であれば特に問題はなく三人は適当に席を見つけて座り食べ物を注文する。


「新鮮海老の炒めパスタっす」

「クリームソースとカキの詰め合わせサンド」

「じっくり煮込んだトマトソースとイカの包み焼き」


 それぞれが注文して食べ物を待つ。

 三人が座った席は窓際と言うこともあり、外を行く年頃の女性から好奇の目が注がれる。

 お目当ては当然レオニードだ。


 当のレオニードは気付いていないのか、気付かない振りをしているのか気にする様子もないが、居心地が悪いのは他の二人だ。


「あーやってらんねーっす。むかつくっす。なんで俺こんなやつと友達やっているのか不思議っす」

 いきなりアラムが僻みを丸出しにする。

 

「ずいぶんといきなりだなアラム……あのなジロジロ見られるってのは何もいいことばかりではないぞ? 考えてみろ常に他人の目が付きまとうと言うことは息抜きするのも一苦労になる。まあこれも修行のうちと思えばそう苦にもならんが、やはり時にはうっとうしく思うときだってあるぞ」


 出された紅茶を優雅にすすりながら、アラムの不満に対抗するレオニード。

 降り注がれる午後の日差し、そして優雅に紅茶をすする金髪碧眼の若者。

 絵になると言うのはこの事を言っているのだろう。

 

 本当にうっとうしく思っているのか疑問に思わないでもない。


「大体っすねなんでそんなに背が高いんすか? 同い年なのに明らかにおかしいっすよ! 俺なんてこの一年間で2センチしか伸びていないってのにずるいっす」

 背が低いことにコンプレックスを持っているのか、口を尖らせてさらに不満をぶつけるアラム。


「まあまあ、押さえろアラム。んなこといって、ないものねだりしても仕方ないだろ? ここはもう少し現実的にいこうじゃないか」


 嫌な予感がレオニードを襲う。

 この二人がこのように自分に対して言ってくる時は必ずろくなことじゃないのだ。


「そーっすね。レオンがおごってくれるみたいなんで今日のところは矛を収めるっす」


「なぜそうなる!」

 アラムの言葉に抗議するレオニード。

 なぜいきなりここの食事代を負担しなければならないのだ。

 理不尽にもほどがあるだろ! と当然の抗議でもある。


「あのな? お前と一緒にいることによって俺達も好奇の目に晒されているわけだ。分かるか? お前のように容姿端麗な奴と一緒にいると言うのがどれだけ苦痛か? 常に比較されるわけだ」




「キャー見て見てあの人かっこいー。ほんと本の中の王子様みたい。一体どのようなお方なのかしら。ああんお近づきになりたいわ」

「あら何よあの人のそばにいる山猿と不良みたいな男。あらやだ気持ち悪いわ」

「きっとあのお優しい方が傍に従えてあげているのよ。あの二人が食いっぱぐれないように養ってあげているのよ。名目上従者と言うことにしてあげて」

「ああ何て優しい方なのかしら素敵」


「とまあこうなるわけだ」

 突然はじまった二人の小芝居にうんざりして額に手をやるレオニード。


「となると精神的慰謝料が発生するっす。レオンと一緒にいると山猿に見られるっす。ひどい侮辱っす」

 とても侮辱されたとは思えないような顔つきでけろっとのたまうアラム。

 その横でうんうんと頷いているマルク。


「貴様ら……いつもいつもそうやって難癖つけて食事代を巻き上げようとしやがって、いいか今日こそは割り勘だからな! お前らに銅貨一枚だって払うもんか」

 コメカミをヒクヒクとさせつつも怒りを何とか抑えるレオニード。

 今までもなんだかんだと言われて食事代をこの二人に取られていたのだろう。


「あら聞きました? 奥様? 騎士を志す方がずいぶんと器量の狭いこと」

「金、金、金。いやーがめつい騎士は見てるだけで不快になるっす」

 再び始まる小芝居。

 

 とその時、彼ら三人に対して声をかけてくる者達がいた。

 

「おや? レオン、マルク、アラム奇遇じゃないか。お前達も食事に来たのか?」

 そう言ってきたのは先ほど別れたばかりの少女二人であった。

 彼女の言い方からおそらく彼女達も食事に来たのであろう。


「ジーナ様、リーリヤ様」

 レオニードが二人の姿を確認して笑みを見せる。

 

「ほらジーナ挨拶なさい」

「全くやっと窮屈な思いから解放されたと思ったらまた会うなんて。どうせ明日からつきっきりになるでしょうから今日くらいは羽を伸ばしたかったのに」

 相変わらずの態度だ。

 

「ジーナ……全く。すまない。後でよく言って聞かせる。ここであったのは幸いと言うべきかな? 先程は慌しかったのでお互いの事を知る暇もなかっただろう。良ければ一緒に食事を取らないか?」

 

 どこか罰の悪そうな顔をしながらも黒髪を短く切りそろえた少女は三人に向かって礼儀正しくそう願い出る。


 そして三人の少年の反応はまたもや三者三様だ。

 一人はさわやかな笑みを見せたまま了承し、一人は他人事見たくどっちでも良いと言う様な態度を取り、もう一人はめんどくさそうな態度を隠そうともしない。


 そして不満をあらわにしたのは金髪の少女であるジーナだが、リーリヤが何とか説得し、お互い相席することとなった。

 

 注文した食事が運ばれ、テーブルの上はそれぞれが頼んだご馳走で彩られており、5人の若者はその食事を口に運び始める。


 そんな折、リーリヤが話題を振ってきた。


「失礼ながら君達の事を少しだけ調べさせてもらった。レオンは実技、座学、共に他の追随を許さず去年トップの成績を収めたらしいな。マルクは座学はそれほどでもないようだが、実技においては中々に優秀と聞く。アラムに関しては座学が素晴らしく、実技において二人に一歩譲るもののやはり相当優秀だと聞いている。頼もしい限りだな仲良くやっていけるとよいが」


「いえいえこちらこそご期待に沿えるよう身命をとして事に当たらせていただきます。それとわずかばかりその評価を修正させて下さい。確かに学校内における実技に関して私は成績1位ですが、こと実戦においては二人のほうが恐らく上です。ですので護衛をするという意味合いにおきましてはあの二人を私以上に信用していただいて構いません。それと総合成績は一位という事ですが……魔法に関しては苦手でして」


 最後の言葉対しては少しばかり気恥ずかしいのか、目線を背けて照れがあるような口調である。


 ただ、前半に関しては謙遜というにはあまりにも態度が堂々としており、友人をただ褒めていると言うのでもなく、まるで確定しているかのごとく、誇りに思っているといわんばかりで、食べ物を取り合っている二人を褒めるレオニード。


「はは、魔法に関しては個人差があるからな。私も苦手だよ。とにかく大いに頼りにさせてもらおう」

 

 ニコリと笑みをレオニードに向けるリーリヤ。

 それに対してレオニードも爽やかな笑みを見せる。

 もしこれが二人だけであるならば、美男美女のお似合いのカップルの出来上がりと言うところだが生憎そうは行かない。


「そこのお姫様は士官学校に通うことを不満そうにしてるっすけど、そんなに嫌ならお父上に言えばよかったんじゃないっすか?」

「言ったわよ! 何回も! でも聞き入れてくれなくて……いつもなら大抵のことは聞き入れてくれるのに」

 

 ぶつぶつと自分の父親に対して不満をあらわにするジーナだが、いくら不満を述べたところで現実が変わるわけでもない。


「しかしヴァフルコフ公爵家に連なるものが士官学校に通っているなどさすがに驚いたぞ。確かにあの一族は優秀なものを輩出しているから納得できるものはあるが、まさかその一族のものと共に勉学に励む事が出来るとはな」


「まあ、確かに後見人はエフィム様なんだがな……さっきも言ったと思うが俺達は別にヴァフルコフ公爵家の一族でもなんでもない。出身自体はさっきそこのお姫様が言ったとおり公爵家なんて一生縁のないような下級貴族と対して変わらんよ」


 多少事実とは異なっているが、嘘は言っていない。

 マルクの言葉を聞いて、ニヤリと笑みを深めたのはジーナだ。


「そう、でしたら何度も言っているように言葉遣いには少し気をつけたほうがいいんじゃないかしら? 特にそこのチンピラみたいな態度を取っている方と、山猿みたいな方を連れて歩くと言うのは私にとっても恥となりますわ」


 先程の小芝居で言った事をそのまま言われる二人。

 思わず目を見合わせて苦笑する。


「山猿だってよ。いやはや言われちまったなアラム」

「チンピラっすよ、ヒャッハーって言うセリフがお似合いっすよ。いっその事食い逃げでもしたらどうっすか?」


 一瞬の沈黙……。


「誰がチンピラだ!」

「誰が山猿っすか!」

 そして二人同時に叫びだす。


「あら、貴方達二人以外、他に誰がいますの? まったくレオニードの従順な態度を少しは見習って欲しいですわね」


 悪びれた様子もなく優雅に食事を口元に運びながら、ジーナは二人の事を小馬鹿にする。

 リーリヤは額に手をやるもたしなめるのを諦めたのか我関せずといった感じで、レオニードと話を進める。


「ところで死者が出るほどの授業内容とは一体どのようなものなのか聞いてもいいか?」


「死者が出ると言ってもここ最近は余りそういうことにはなりませんよ。と言うより教師の言うことを聞かない生徒達が勝手に行動してモンスターにやられてしまうのが大半です。しっかりと教師に付き従っていれば実地訓練などで死にそうな目にあうなんて事はないんですがね」


「つまり一部の跳ねっ返りが粋がって、腕試しのような感覚で勝手に行動した挙句命を落としているというわけか?」

 

 頭を振りながら、やれやれとぼやきまじりにリーリヤはため息をつく。

 

「そういうことです。だからこそわざわざ私達に護衛を任せた意味が気になるのですよ。その程度のための護衛ならば、多少腕の立つ若者を一緒に通わせればいいだけの話です。そういった人材なんてドローニン公爵家の人脈を持ってすればいくらでも見つかるとは思うのですがね」


 そこで一息つくレオニード。

 食後に来た紅茶を一口のみ、少し考えを纏める。


「ああ、確かにそういう話もあったんだが、ジーナが嫌がってな……それでもなんとか当主様が説得して、少ない人数でと言うことで了承したんだ」


 となれば、案外大したことのない任務なのか? とレオニードは思考する。

 多少腕の立つ若者を取り揃える程度で何とかなるような事柄であれば、そこまで大きなことに巻き込まれることはないと考えたのだ。


 とはいえ自分達の後見人であるエフィム様関わっていると言うのがやはり引っかかっており、平民である自分達を指名すると言うことに関してもやはり気になってくる部分ではあるのだ。

 

 ドローニン公爵家とヴァフルコフ公爵家……お互い同じ国の貴族である以上、見知っているであろうが、特になにかしら接点があるとは聞いていない。


「まあ、授業に関しては一応そちらでも注意して目を見張っていて下さい。我々も出来る限り協力します」

「了解した。うん、仲良くやっていけそうで安心したよ」


 そうリーリヤが言ったとたん横から騒がしい声が聞こえてくる。


「この山猿! 本当に教育がなっていないわね! ちょうどいいわペットが欲しかったところよ! 私がしつけてあげる! 言うことを聞いていれば餌くらい恵んであげるわ」


「世間知らずのお姫様に飼われるペットがあわれっす。三日もたたないうちに飢え死にするのがオチっす。命は大事にするもんっすよ」


「まったくだ。自分ひとりじゃその日の食事すら満足にとれねえ奴がペットなんてな……むしろペットに食われて『助けてー』ってなるんじゃねえの? 特殊な性癖を持った男ならそれだけで涎もんだな」


 金髪の少年と黒髪の少女は顔を見合わせてため息を吐いた。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ