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外れスキル【分身】は装備も増やせたので、追放された俺は一人軍隊でダンジョン配信したら企業案件が止まりません  作者: 月影光貴


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第21話 緩く行こうぜ

 退院と薬の投与から翌日。

 那由多は目を覚ました。

 窓から差し込む柔らかな朝日が、部屋を照らしている。


「ふぁ〜……ヴェルナは先に起きたのか」


 大きくあくびをして、ベッドから立ち上がる。

 ちなみに、ヴェルナとはいつも添い寝している

 本人たちにとってはすっかり日常だが、これを他の女子たちが知ったらどうなるのだろうか?


『アンサー。神楽那由多は殺されます。体内の私も嫉妬です。まあ私が一番ある意味密着していますけどね!』


「誰と話しているんだネア?」


『ご主人には関係ないことです! それより、おはようございます!』


「ああ、おはよう」


 相変わらず騒がしいAIである。

 那由多は洗面所へ向かい、歯を磨こうとドアノブに手を掛けた。


 バキッ。


「……やば」


 ドアノブが根元から折れた。


『ご主人は力の加減を覚えましょう』


「いや、普通に握っただけなんだけど……」


『それが問題なのです』


 昨日投与された身体強化薬の影響だろう。

 身体が軽い。

 それどころか、今までと同じ感覚で動かすと力が余ってしまう。


「こりゃあ、リハビリが大変そうだな……」


『だからこそ、無理は禁物ですよ』


「分かってるって」


 そう言いながら洗面所へ向かった。

 


 朝食の時間。

 食卓にはヴェルナが作った料理が並んでいた。

 那由多、父、母、そしてヴェルナ。

 いつもの四人で食卓を囲む。


「那由多、今日は元気そうだな!」


「身体が軽いんだよね!」


「軽いからって調子に乗らないのよ」


 母親が釘を刺す。


 ヴェルナも頷いた。


「ああ、そうだ。お前は少し無鉄砲だからな」


「たはは……」


 苦笑しながら、那由多は料理を見る。


「にしても、ヴェルナは料理が上手いな!」


「ずっと一人で自炊してきたからな」


 その言葉を聞いた瞬間、食卓の空気が少しだけ静かになった。


「……」


 ヴェルナは気にしていないように食事を続けている。


 けれど那由多は、その過去を知っている。

 だからこそ、これ以上暗くしたくなかった。


「あ、そうだ! 俺、今日はダンジョン行ってくるよ!」


「ダンジョン?」


「リハビリだよ。Eランクの浅いところだけ。ボス部屋にも行かないから!」


 するとヴェルナは無言でスマートフォンを取り出した。


「……?」


 数秒後。

 スマートフォンが次々と通知を受け始める。


「おい、何してるんだ?」


「仲間を呼んだ」


「仲間?」


 その答えから、そう時間は掛からなかった。


    

「いや、あのー……そんなに心配ですか?」


 那由多は困ったように笑っていた。

 目の前にはレイ、美琴、律、そしてヴェルナ。


「Eランクダンジョンの浅瀬でちゃぷちゃぷするだけだよ?」


「「「「心配」」」」


「そんなに!?」


『もう少し、自分が他者から慕われていることを理解しましょうか、ご主人』


「うっす……」


『入院中、ご主人のために見舞いに来た友人は合計数十人。これは、とても友人が多い証拠です』


 那由多は少し驚いた。

 本人にはあまり自覚がない。

 困っている人を放っておけない。

 誰かが落ち込んでいれば、場を明るくしようとする。

 ただし、長身で鋭い目つきをしているため、初対面では少し威圧的に見られることもある。

 それでも、気付けば人が集まっている。


 那由多には、そういう不思議な人付き合いの才能があった。


「まあ……みんなが来てくれるなら心強いな!」


 こうして一行は、近場のEランクダンジョンへ向かった。


     


 ダンジョンの入口。

 那由多はカメラドローンを取り出した。


「配信した方がいいかな?」


「あーし的には、元気な姿を見せた方がいいと思うよー」


 美琴が答える。


「じゃあ短いけど配信するか」


 配信タイトルは、


 『リハビリ! ほんの少しだけ戦闘します』


 である。


 配信開始。

 すると視聴者数が一気に伸びていく。

 100→2641→4203。


「うおっ……」


 那由多も思わず目を丸くする。

 コメント欄も一瞬で埋まっていった。


〈ナユタン! 待っていたぞ!!〉

〈イカれたいつメンで草〉

〈腹は大丈夫なのか?〉

〈噂によると身体に色々入れたらしいじゃん?〉

〈元気そうでよかった!〉


「話してないのにリークされてんのか……」


 那由多は苦笑する。


「じゃあ、ネア。自己紹介してみるか?」


『了解です!』


 那由多の目元をフェムトマシンが覆う。

 次の瞬間、そこから投影されたホログラムが空中に浮かび上がった。


「どうも! シンギュラリティに到達したAI! 電脳美少女ネアちゃんです!」


 コメント欄が一気に加速した。


〈マジかよ!?〉

〈AIを身体に入れる軍人はいるけど、民間人がそれやるの!?〉

〈ナノマシンじゃなくてフェムトマシン!?〉

〈自分でシンギュラリティ到達って言うの草〉

〈なんかごちゃごちゃしてるけどスゲェ!〉


「なんか……満たされるな」


『ご主人、顔がニヤけています』


「いやいや、こんなに注目されたら嬉しいだろ!」


 那由多は満面の笑みを浮かべる。


「なんと神代工業さんから、ナノの次のピコの次のフェムトのフェムトマシンが入ってます!」


『説明が雑ですね』


「だから……ほら!」


 那由多が手を掲げる。

 腕の一部を覆っていたフェムトマシンが変形し、手の形状を刃へと変えた。


〈すげぇ!〉

〈フェムトマシンってそんなことできんの!?〉

〈ナユタンの身体どうなってんだよ!〉


「そして、もう一つ!」


 那由多は得意げに胸を張った。


「カンタレラさんの身体強化薬も注入されています!」


 コメント欄がさらに加速する。


「これによって、パンチ力は約1.5トン! 世界記録の1.3トンちょいより上なんですよ!」


〈もう本当に人間兵器やな〉

〈軍や探索者向けの商品を先取りしてて草〉

〈とりあえず元気そうでよかった〉

〈分身したらヤバいやん!〉


 そのコメントを見て、那由多は少しだけ残念そうに笑った。


「それがさ……フェムトマシンやら薬を入れた影響で、まだ身体が安定してないんですよね」


『だから、分身は禁止です』


 ネアが補足する。


「俺の一番の武器なのになぁ……」


『命の方が大事です』


「はい……」


 そんな会話をしながら、那由多たちはダンジョンの浅い階層を進んでいく。


 すると。

 ガサガサッ!


 巨大な蜘蛛型の魔物が姿を現した。


「おっ、出たな!」


 那由多が前に出る。


「では、お見せします!」


 右腕を構える。

 フェムトマシンが腕を覆い、マットブラックの装甲を形成する。

 その一部から青い光が走った。


「行くぜ!」


 地面を蹴る。

 身体強化によって跳躍力まで大きく向上した那由多は、一気に魔物との距離を詰める。


「増幅パンチッ!」


 拳を振り抜く。

 ドンッ!


 魔物が吹き飛び、地面を転がった。


「こんなもんよ!」


〈すげぇええ!!!!〉

〈前からCランク相当って言われてたけど、もうBあるだろこれ〉

〈ナユタンかっこいい!〉


「いやー、照れちゃうね」


 那由多が頭を掻く。

 その後ろでは律が興奮気味に拳を握っていた。


「素晴らしい結果だよ! ナユタン、いいぞ!」


「律、俺じゃなくて薬のデータ見てない?」


「もちろん見ているとも!」


「やっぱり!」


「でもナユタンもしゅき!」


 そんなやり取りをしていると奥から、さらに魔物が現れた。


 一体。

 二体。

 三体。


「ふふっ……今の俺なら――」


 その瞬間。


「っ!」


 ズキッ。


 胸の奥を刺されたような痛みが走った。


「あ……うぐっ……!」


 那由多の膝が崩れる。


「那由多!」


 ヴェルナがすぐさま駆け寄り、那由多の身体を支えた。


「どうした!?」


「わか……らない……急に……」


 那由多の顔から笑みが消える。

 ヴェルナは那由多を支えたまま、後方へ下がる。


「レイ!」


「任せて!」


 レイが光となって飛び出し、魔物を次々と撃ち抜く。


「まとめて飛ばすよ!」


 美琴が周囲の物体を重力で浮かせ、一気に叩きつける。


「分析完了。ここなら問題ない! 皆殺しよ!!」


 律も二丁拳銃を構え、正確に魔物を撃ち抜いていく。


 低ランクダンジョンに対しては、あまりにも過剰な戦力だった。


〈ナユタン大丈夫!?〉

〈うひゃ〜、魔物が可哀想なレベル〉

〈身体に色々入れすぎたんじゃないか?〉


 しばらくして、魔物の姿が消える。


 那由多はヴェルナに支えられながら息を整えていた。


「……もう、大丈夫」


「本当か?」


「ああ。心配をかけた」


 那由多は立ち上がる。

 しかし、ネアがすぐに制止した。


『本日はここまでにしましょう』


「そうだな」


 那由多はカメラへ向き直る。


「とりあえず、今日の配信は終わり!」


 そして笑顔を作る。


「ボス部屋には行かないって約束だからね!」


 少しだけ間を置いて、


「あと、カンタレラと神代工業をよろしくお願いします!」


 配信終了。




 ダンジョンの外。

 一行はベンチに座っていた。

 那由多の隣にレイが座る。


「……本当に大丈夫?」


「大丈夫だよ」


「……」


 レイはしばらく黙っていた。


「……あの時」


「ん?」


「あなたが、ずっと目を覚まさなかったらって思った」


 那由多も黙る。


「……心配をかけたな」


「ううん」


 レイは小さく首を振る。


「帰ってきてくれて、良かった」


 その言葉に、那由多は少しだけ笑った。


「……ああ」


 美琴も律も、そしてヴェルナも、それぞれ那由多を心配していたことを口にする。

 那由多は何度も「ありがとう」と答えた。

 それから一行は帰路についた。


     


 自宅。

 ヴェルナが冷蔵庫からペットボトルを取り出し、那由多へ投げ渡す。


「お前の好きなジュースだ」


「お、サンキュー!」


「疲れたか?」


「全然!」


 那由多は元気よく答えた。


「胸の痛みだって、たまたまだよ!」


「……そうか」


 ヴェルナは小さく息を吐いた。

 どうやら、少し安心したらしい。


「心配してくれるんだな」


「当たり前だろ」


 ヴェルナはまっすぐ那由多を見る。


「お前以外に拾われていたら……恐らく、私は終わっていたからな」


「……そっか」


 那由多は少しだけ考え、ヴェルナの肩を軽く抱いた。


「お前を傷つけるものは、俺が取り払ってやる」


 そして笑う。


「だから、このまま安心してくれ」


「……ありがとう」


 ヴェルナも小さく笑い抱き返す。

 ネアは黙っていた。


     


 その夜。

 那由多が眠りについた後、ネアはフェムトコアとフェムトマシンの状態を確認していた。


『……』


 モニターに表示された数値を見て、ネアは固まる。


 適応率0.07%


『……また増えてる』


 昨日より、明らかに数値が上がっている。


《身体変化への適応を確認》


『身体変化には適応してる……』


 ネアは首を傾げた。


『うーん……適応って、何に?』


 シンギュラリティに到達した、自分より頭の良い人間は存在しない――はずだ。

 そんな自負を持つネアですら、この現象の意味が分からない。


『とにかく……ご主人に悪いことじゃないならいいけど』


 誰も、その変化の正体を知らない。

 そしてそのまま、静かに時間だけが過ぎていくのだった。

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