林 君と指切り
林 君が眠い目を擦りながら事務所に戻って来る。
林 「・・・おツカレれっス」
恋三は林 君を見て、
恋三「お疲れさま。・・・そう云う喋り方って今、ハヤ(流行)ってるの?」
林 君は怪訝な顔で、
林 「何んスか?」
恋三「あッ、いや。何でもない。眠いところ悪いんだけど、初めてだから面接でもしよう」
林 「いっスよ」
恋三は机上の履歴書ファイルを広げ、林 君の名前を探す。
恋三「え~と・・・。あッ! その前に僕は百地恋三って云うんだ」
林 君は恋三の名前を聞いて急に顔を上げ、
林 「モチ?」
恋三「いや、モ・モチだ」
林 君はぶっきらぼうに、
林 「そースか」
恋三はファイルを捲って行く。
恋三「林・・・ハヤ。お、有った。林 辰巳。タッちゃんか。良い名前だね。・・・へ~え、浅草から通ってるんだ。なんか浅草にピッタリの名前だな・・・十八歳か。え? 十八ッ? 新卒? 新卒でこの店に?」
恋三は驚いて林 君を見る。
林 「そ~ス」
恋三「ジャ、高校の時からず~とここで働いて居たの?」
林 「そ~ス」
恋三「へえ~。・・・こう云う仕事好きなの?」
林 「え?」
恋三「あッ、いや、こう云う仕事をどう思う?」
恋三は急いで質問の中身を変えた。
林 「どうでも良いっス」
恋三は納得する様に、
恋三「ああ、そうだろうな」
林 君と恋三の会話がうまくかみ合わない。
恋三はまた林 君の履歴書に目を移す。
すると林 君が一言。
林 「兄貴がここでバイトやってたンす。ソイツの紹介っス」
恋三「ソイツ? ああ、兄さんの紹介か・・・。で、・・・兄弟が三人、みんな男。へ~え、みんな男か。それで・・・君は三男の末っ子。家は煎餅屋。じゃ、将来はセンベイ屋の跡継ぎだな」
林 「長男が焼いてッス」
恋三は林 君を見て、
恋三「あ、そう。・・・そうスか。じゃ、林 君の将来の目標は何?」
林 「アーチストっス」
恋三は驚いて、
恋三「アーチスト! 芸術家?」
林 君は怪訝な顔で恋三を見て、
林 「・・・パンクっス」
恋三「パンク? あ~あ、自転車屋」
林 「え? ロックっス」
恋三「あ~あ、ごめんごめん。インフルエンザだ」
林 「インフルエンザ? ペニシリンでしょう?・・・知ってンすか?」
恋三は頭の隅に残ってた名前を出す。
恋三「知ってるよ。昔、リトル・リチャードの大フアンだった」
林 「リトル・リチャード?」
その一言で急に会話に『白い空気』が漂う。
恋三「あッ、ごめん、ごめん。君は知らないよね。良いんだ・・・」
恋三は急いで話題を変えた。
恋三「で、当分この仕事は続けられるの?」
林 「良いっスよ」
恋三「ヨシッ! じゃ、一緒に頑張ろう」
恋三はまた『小指』を立てた。
林 君はそれを見て、
林 「何スか? それ」
恋三「ユビキリだ」
林 「ハア~?」
恋三「男の約束って言うんだ」
林 「あ~あ、約束ね。ハハハ」
林 君は恋三の右手の小指に自分の小指を躊躇しながら絡ませる。
恋三は林 君の目を見て、
恋三「よろしくお願いします」
林 君は笑いを堪えながら、
林 「ウイッス」
恋三「え~と、何か質問とか要望はないか?」
林 君は素っ気なく、
林 「ベツに」
恋三も林 君の言葉を真似て、
恋三「そおスか。何でも言ってくれ。相談ぐらいなら乗るぞ」
林 君はバカにした様な目で恋三をチラッと見た。
恋三は履歴書ファイルを机の引き出しに仕舞いながら、
恋三「ジャ、お疲れさん。御免な。時間取らせちゃって」
林 「ウィス!」
恋三はストコン(ストアーコンピュータ)をタップする。
林 君はやっと解放されたかのように椅子から立ち上がり、恋三の目の前で大きく伸びをする。
林 「ウッう~~うッ! お疲れっス」
林 君はロッカーを開けて、ユニホームをハンガーに掛けながら、
林 「オーナーっチ、どっから通ってンすか?」
恋三「うん? 根岸」
林 「ネギシ? 近いっスね」
恋三「まあ~な」
林 君はタオルを頭に被りロッカーを閉め、
林 「ジャッ!」
恋三「おう、またな。気をつけて帰れよ」
恋三は廃棄の弁当を思い出し、
恋三「あッ、そうだ。そこのカゴから、好きなもの持ってって良いよ」
林 「えッ、良いンすか?」
林 君は床にしゃがみ、カゴの中の『廃棄弁当』を漁る。
恋三はストコンのキーボードを叩きながら、
恋三「もったないなあ。そう思わないか?」
林 「そおッスね~え。『プー太郎』にでもくれてやれば良いンすよ」
恋三はその言葉を聞いてストコンのキーを叩く指が止まる。
恋三『プー太郎?』
林 「ええ。この辺の住人っス。うちの塵ボックスもよく漁ってますよ」
恋三「漁ってる?」
その言葉を聞いて、一瞬ストコンの画面が暗くなる。
そして恋三のキーボードを叩く指が硬直した。
林 「じゃ、オニギリとこの蕎麦、貰って行きます」
恋三は我に帰って、
恋三「え? お、おお。良いよ。何だったら、それ全部持って帰れば」
林 「全部っスか?」
林 君は苦笑しながら、
林 「 い~スよ。ジャッ!」
恋三「おお、お疲れさま」
恋三はストコンキーを叩きながら溜め息を吐く。
恋三「プー太郎かあー・・・」
つづく




