ドヤ街の警察官
しばらくして店の前に白いバイクが二台、停る。
ダストボックスの上で『雉トラ(招き猫)』が警官達を見ている。
馴染みの下谷警察署のメタボ巡査長(安部信蔵・アベ・ノブゾウ)と部下の巡査(片岡哲雄・カタオカ・テツオ)が息を荒げて店に入って来る。
安部巡査長はカウンターに立っている静子を見て、
「いや~あ、忙しい。多摩と全然違う」
「ご苦労さまです」
安部巡査長は静子に軽く敬礼して、
「で、捕まえました?」
「はい。奥の事務所に」
「お~お、お手柄、お手柄。じゃ、失礼して」
二人は、息を切らして事務所へ入って行く。
事務所では恋三が女の名前を聞いている。
吉松は椅子に座って事務所の中をキョロキョロと見回している。
安部巡査長と片岡巡査が事務所に入って来る。
「いや~あ、店長さん。災難でしたね」
恋三は安部巡査長を見て、
「いや〜、安部さん。まいりましよ」
安部巡査長は持参のカバンから「調書用紙」を取り出し、大きな尻で折りたたみ椅子に座る。
片岡巡査は事務所の中を見回している。
安部巡査長は吉松を見て、
「で、この男がドアーを?」
吉松が焦って、
「チッ、ちょっと待ってくれよ。オレじゃねえ~よ。すぐ、これだもんなぁ~」
片岡巡査がキツい眼差しで吉松を見る。
安部巡査長が、
「あ、失礼しました。で・・・、まさか、こちらの女性が?」
「え~え、まあ・・・」
安部巡査長は俯いている女を見て、
「・・・どうしたの~。お名前は何て云うの?」
ペンと調書をテーブルの上に置いて、取り調べを始める。
女は黙ってふて腐れている。
「別に喋んなくても良いけど、直ぐに分かっちゃうよ。で、足は大丈夫~」
「安部さん、足よりも、ウチの店のガラスドアーですよ。それに僕はこの女に咬まれたんですよ?」
安部巡査長が驚いて女を見る。
「噛んだ?」
安部巡査長は調書用紙に書き取って行く。
そして女に優しく尋ねる。
「咬んじゃったの?」
女は一言も喋らない。
安部巡査長は恋三を見て、
「ところで店長、あのガラスって幾ら位するんですか?」
「アレですか? ・・・以前、他の店に車が飛び込んだ時、確かぁ・・・十二~三万って回覧表に書いてありましたよ」
「十二~三万! 結構するんですねえ~」
「はあ」
「えーと、加害者は女、被害総額は十二~三万円也、店の経営者が噛まれたと・・・」
手際良く書き取って行く安部巡査長。
安部巡査長は椅子に座っている吉松を見て、
「で、こちらの方は?」
「ああ、この人は元です。手伝ってくれた方ですよ」
吉松は頭を掻きながら、
「いや、オレは通りがかっただけだよ」
「失礼ですけど、お名前は?」
「い~よ、ナマエなんか」
表にパトカーが静かに停まる。
ドアーが開いて二人(A・B)の警察官が車から降りて来る。
警官Aは割れたガラスドアーを見て石田さんに、
「ここですか?」
石田さんはテープを貼りながら振り向き、
「ご苦労さんス」
警官Aは石田さんの奇妙な挨拶に、
「あ、どうも。・・・で、奥っスか?」
「そおス」
「そおスか」
店内に入って行く二人の警官。
静子はカウンター越しに、
「ご苦労さまです」
「どーも。捕まえたらしいですね」
「はい。事務所に」
警官Bがガラスドアーを指差し、
「で、あそこですか。蹴られたのは」
「そうなンですよお」
「災難でしたねえ。ちょっと写真撮らせてもらいます」
「どうぞ、どうぞ」
「で、被害届は出されますか?」
「そうですねえ・・・。でもあの人、弁償出来るのかしら」
「とにかく中で話を聞いてみましょう」
「お願いします」
二人は事務所に入って行く。
事務所では安部巡査長達が女を囲んで座って居る。
警官Aが、
「ご苦労さんです」
安部巡査長は振り向き、応援の警察官達に軽く敬礼する。
片岡巡査も、
「ご苦労さんです」
「で、怪我人は居るんですか?」
「店の経営者が手を咬まれましてね」
「咬まれた? 抵抗したんだ。で、名前は?」
「完全黙秘です」
警官Bはしゃがんで、
「アンタ、どこから来たの? 名前は?」
女は貝の様に何も喋らない。
「しょうがない。本署で喋ってもらいましょう」
女の傍に立つ警官Aが、
「分かりました。じゃあ皆で署に行きましょう。? と言っても一人車に乗れないなあ」
吉松は焦って、
「いや、ワシはいいよ。ワシ、あそこアカンのや。もう良いヤロ~。ホナ・・・」
吉松が急いで事務所を出て行く。
恋三は、
「あッ! 大将、元サン。コンロ!」
安部巡査長は吉松の後姿を見て、
「元サンて云うんですか。どこにお住まいで?」
「そこの公園です」
片岡巡査が、
「あ~あ、それで」
安部巡査長も奇妙な形で納得し、調書に書き取る。
片岡巡査が、
「じゃあ、後でお礼でも」
「そうですね」
吉松は逃げる様にカウンターの前を通り過ぎて行く。
石田さんがニヤっと笑って、
「ご苦労サンっス」
「おう!」
ダストボックスの上で『雉トラ(招き猫)』が走り去る吉松を見ている。
吉松と入れ違いに、アミーゴの大石が店に入って来る。
石田さんがニヤっと笑って、
「ご苦労サンっス」
「おう!」
「忙しいっスね」
大石は生意気な石田さんの言葉に、
「うるさい!」
急いで事務所に入って行く大石。
事務所で大石が恋三を見て、
「教授、お怪我は!」
「遅いですよ大石サン。僕は『スーパーマン』だなんて言ってるくせに」
「いや、すいません。吾妻橋店でお客さんが倒れましてねえ」
「え~え!」
恋三は大石を見て、
「大石さんも大変ですねえ」
「まあ、仕事ですから。で、いま出て行った男がガラスを割ったんですか?」
「違いますよ。あの方は捕まえるのを手伝ってくれた方です。割ったのは『この女』の方」
大石は目を丸くして、
「オンナ?」
警官Aは大石を見て、
「アミーゴの方ですか」
大石は警官Aを見て、
「あ、ご苦労さまです。アミーゴ本部の大石と申します」
「最近、こう云うの多いですねえ。だいぶストレスが溜まってるのかなあ。じゃ、店長さんと署でお話を聞かせてもらいますので」
「じゃ、大石サン、後をお願いします」
「え? あ、はい」
警官達は女と恋三を連れて、事務所を出て行く。安部巡査長は壁の貼り紙(万引き決意書)を見て笑いながら、
「おおッ! 増えてますね」
「ここの店なんか良い方ですよ。泪橋店なんて体育会系のアルバイトしか採用しないそうですよ」
安部巡査長は感心して、
「へ~え」
「あそこの店は、オーナーのお母さんが出入り口で椅子に座って、客を見張って居ますから」
「あ~あ、あのお婆さんはあそこのオーナーのお母さんですか」
安部巡査長はソレを聞いて、
「お~お、それは良い」
つづく




