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第9話 決起

「どう、かなり、安定してきた。」

水の流れる音が心地よい河原で、ミコトが竹とんぼを飛ばしている。

竹とんぼの動きに合わせて、その真下に添えた手のひらを動かす。

「ブレが大きい。」

ムサシが短く評価する。彼も一本飛ばしながら、ミコトの竹とんぼを見ている。

「もう一回、お手本頼む。」

「ずっとやってるだろ。」

「飛ばすところから!」


やれやれといった表情でムサシは懐から次々と竹とんぼを出し飛ばしていった。10ほどの竹とんぼがムサシの周りで回っている。

「...す、すごいけど、全然参考にならない...!ていうか、どんだけ持ってるんだよ!」

「多めに作っておいた。無いと困る。誰かがチンピラにやったりするからな。」

「はい...。」

ザルカの村から出る時に、ミコトはトラキにひとつ渡していた。


「はあ、疲れた。」

ミコトの竹とんぼが砂利に落ちる。

「疲れはしない。」

ムサシは飛ばしている竹とんぼをひとつひとつ回収し懐にしまった。


「剣を振ってみろ。」

ムサシがいつも腰に下げている剣がふた振り、岩に立てかけられている。

ひと振りずつ持ち、まっすぐに構える。

「悪くない。」

「剣術のほうが得意さ。」

ミコトが素振りを見せ、風を切る音が鳴る。


「この剣はやけに軽い。...ふんっ!」

力強く振り抜くが、手応えが少ない。

「これか、ディコがありえないと言っていたのは。」

ムサシの視線を受け、ミコトが続ける。

「この剣は魔術が乗らないんだ。戦士は剣に魔術を込めて斬る。」


--「俺の剣は魔術を斬る。」

ミコトが目を見開いてムサシを見た。

「かっけえ...。技名は??」

ムサシが眉をひそめる。

「魔術を斬る技の名前、考えたほうがいいよ!」

「いらん。」

「すごいなあ、僕が考えておく。」

ミコトは顎に手を当て真剣な顔で技名を考えた。


「お前もやってただろ。あのとき。」

ホミニスの魔術を切り払ったあの剣さばき。

「あれか...?あのときは無意識で...」

沈黙のなか、ムサシの剣の音が河原に響く。


「なぜ、助けてくれるんだ?」

ミコトの問いかけに答えず、剣を振るムサシ。

「あの夜、君の痛みを感じた。」

ムサシが剣を止めた。

「あの風がなんなのか、知ってるんだろ?あの光るような風。」


「さあな。」

立ち去ろうとするムサシの背中にミコトが語りかける。

「僕は探すよ。あの風を。君が現れた意味を。」

ムサシは一度だけ振り返り、何も言わずその場を去った。



_______



リオストスは薬草を川で洗い、馬の身体にめぐらせた紐にくくりつけていた。

ザルカ村に赴任したときに国から支給された芦毛馬で、リオストスがアラシと名付けた。

連日の移動でアラシもくたびれたようで、水を飲むのに頭を下げたままぐったりしている。

首に巻き付けたエンケルで常に体調を確認できるので、健康なことは確かだ。


「ブブブッ」

居眠りして鼻が水面につき、驚くアラシ。

「なにしてんの。」

寝ぼけ眼でリオストスのほうを見るアラシだったが、突然首をまっすぐ伸ばし蹄を鳴らした。

「なに突然。」

振り返るとムサシが立っていた。

「なんか変な匂いだぞ。」

「使えそうな薬草を集めてるのよ。私たちほとんど無一文でしょ。」

「問題ないけどな。」

「私はあります。それにもうミコトの怪我は治ったでしょ。」

アラシがムサシをじっと見ている。


「いや、あいつはしばらく調子が悪い。」

リオストスがため息をつく。

「馬に草を巻きつけるのをやめたらどうだ。」

「アラシだって。」

「ひどい名前だぞ。」

アラシが身を揺すり、ぶら下げた草を鳴らした。

「暴れ馬で手を焼いたのよ。」

「そうは見えんが。」


ムサシがいるときのアラシはやけに従順だった。

今も目を細めて気取っているように見える。

「あなたを気に入ってるのかも。」

「それなら俺が引き取ろう。」

「グォォウ」

「!?」

アラシは猛獣のように吠えながら辺りを走り回りはじめた。

リオストスとムサシが呆気にとられる。


「アラシの声か...?」

ミコトも驚いた顔で現れた。

「それよりどうするの。五戦士に追われてるって、あんたたちどんな重罪人よ。」

三人は岩に腰掛ける。

「その話なんだけど、」

「ビノなんとかってやつだろ。」

「ビノダロス。知の戦士だ。」

リオストスの眉間にしわが寄る。


「知の戦士ビノダロスって、100年以上五戦士にいるマクレー人でしょ...五戦士のなかで一番のクセ者って聞くけど...。」

「そうなんだよ。」

「そのジジイとは遊んでないのか。」

ムサシの言葉にリオストスのしわが深まる。

「ビノダロスとはほとんど会ったことがないんだ。リオが言うように、五人のなかでも最強と言われてる。」

「どうやって逃げる。」

ミコトがなにか覚悟したような顔をする。


「僕らのほうから、ビノダロスを捕まえられないかな?」

「は??」

リオストスがすっとんきょうな声を出す。

「ビノダロスはマクレー教の修行で世界を旅している。ムサシの風の力について、なにか知ってるかもしれない。」

ムサシが面白いといった顔でミコトを見つめる。

「何言ってんの。最強の五戦士を捕まえられるわけないじゃない。魔術もろくに使えないのに。」


「お前が魔術使えるだろ。」

ムサシが平然と言い放つ。

「え?私は参加しないわよ。危険すぎる。実に非現実的よ。」

「リオを危険な目には遭わせないよ。でも少しだけ、助けてほしい。」

ミコトの真剣な眼差しにリオストスは言葉を失う。

「ミコトは、命の恩人だろ?」

二人に見つめられ、リオストスは渋々口を開く。

「何か勝算は、あるんでしょうね。」

「うん。風の力は、魔術師に察知されない。ビノダロスに気づかれずに、拘束することができるはずだ。」

「そんなの、信じられない。」

「リオ、一度目を閉じて。」


一瞬まを置いて、リオストスが目をつむった。

「...はい。」

「僕が風を起こしたのがわかったら、合図をして。」

静寂のなか、リオストスは魔粒子の動きに集中した。

三人の呼吸と川の流れ、アラシの蹄の音が聞こえてくる。


「...ちょっと、まだ?長いんだけど。」

リオストスは沈黙に耐えかねて声を出す。

「目を開けて。」

リオストスが目を開けると、ミコトの手の上で音も立てず竹とんぼが回っていた。

「ミコトの勝ちだな。」

ムサシが口を歪ませる。

「グォォオン」

アラシの雄叫びが辺り一帯に響き渡った。



_______



ミコトたちの野営地にほど近い村にムサシが潜んでいた。

ビノダロスを特定するのは実に容易かった。

黒く分厚い羽織に精巧な造りの兜をつけた、いかにもという出で立ちの男。

屈強な体躯からか、ムサシの想像より幾分か若く見えた。


ビノダロスは村人や駐屯兵からミコトの目撃情報を聞き出し、今にもミコトが隠れる森に向かおうとしている。

ムサシは足音も立てずその場を離れ、村外れに待たせたアラシの背に飛び乗った。

「グオォ」

アラシは控え目に叫び、突風のような速さで走り出す。

見たこともないアラシの走りに、リオストスは驚きを隠せなかった。


「来るぞ。デカい武器は持ってなさそうだ。」

ムサシがミコトに告げ、ミコトがリオストスに合図をする。

今度はミコトがアラシに乗り、互いを鼓舞するようにムサシと剣を打ち合わせた。

「恐れるな。」

ムサシの言葉を受け取り、ミコトはビノダロスが来る方角へ進んだ。

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