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第4話 美の戦士

おはようございます。

今日も3話投稿していきます。

空に一閃の光が伸びる。

街中から驚きと期待の声が上がる。

ホミニスは城門の前で高山を背にした街を見ていた。

美の戦士ディコトムスの凱旋行進が始まる。


豊潤な笛の音と共に、鳥の形を成した光の集合体が一羽、空に舞い上がる。

その豊かな翼から新たな光の筋が飛び出し、街の上空を覆ってゆく。

光の筋は幾何学模様を生み出しては消え、絡み合っては離れ、人々の目を奪っていた。

光魔術。実用性を求めるホミニスには必要のない芸当だった。


複雑な挙動を繰り返していた光が細かく飛び散り、一瞬の静けさを与えた。

人々が息を呑む音が聞こえるようだ。

今度は、五色の光が駆け昇っていく。

五戦士それぞれを象徴する色たちは競うように空を渡り、次々に交差する。

街の屋根や織物に反射した光と混ざり、絶え間なく色調が変わる。

やがて中心に行き着いた紫色の光がラーフィール王国の紋章を形成した。


「ディコトムス様!」


人々が帰還した戦士の名を悟り口にする。

もっとも、ホミニスが知る限りこんな凱旋行進をするのは美の戦士だけだ。

再び細かな光の粒が飛び回り、紋章の中心に渦を巻くように吸い寄せられていく。

中心が限りなく眩しさを集めると、こぼれ出した光が一直線に地面に降り注いだ。

地表で弾けた光の跡にその男は立っていた。


「ディコトムス!」

「ディコトムス!」


限りなく濃縮された紫色の鎧は、その磨き抜かれた曲面に人々の歓喜の顔を映し出していた。

彼は精悍な顔つきで視線に答える。

鎧の隅々に巡らされた真紅のラインに光の粒が伝い、静かに脈動していた。

ゆっくりと、ディコトムスが城に歩みを進める。


見物人たちは思い思いの身の振りで美の戦士の帰還を歓迎した。

ホミニスも笑顔を作る。

不意にディコトムスが天を指差した。

上空には金色の雲が形成され、細かな光子を降らせた。


「お恵みを」

「ありがとう!」

光子を浴びた人々は恍惚の表情を浮かべ、身体をいっぱいに伸ばした。

軽いヒーリング粒子だが、民にはそれ以上の価値があることが伺える。

「キマりましたな。おかげで私の腰の痛みも和らいだ。」

門前にたどり着いたディコトムスにホミニスが声をかける。

「ご苦労だ。ホミニス宰相。」


街のほうへ振り返り、人々の顔を見渡しながらディコトムスが口を開く。

「長旅でしたでしょう。今夜はゆっくりと休まれて――」

「留守中異変はなかったか。」

ホミニスは表情を変えない。


「無論、至って平和だ。この私がおりますから。」

ディコトムスは目を細め城を見ていた。

若君(わかぎみ)はまた補習か?」

「そーうなんだ、パレードを見たいと言って聞かなかったが...。」

「それくらい見せてやれ。」

後ろで依然、民の拍手が鳴っている。


「そうだ、高層階の塗り直しがまだ完了しておらず。担当部隊を急かしているところだ。」

「そんなことはいいのだ。」

ディコトムスが城内に歩き出す。

「ミコトマスと二人に。」

「おお、ごゆっくり。」

ホミニスは光の残滓が滲む塔の頂を見上げた。


_______



「おかえり、ディコ」

ミコトマスは生気のない笑顔で自室に来たディコトムスを歓迎した。

無論ディコトムスの要件が歓迎できる内容ではないことはミコトマスも承知の上だった。

「若君、元気そうで。」

「...はは。」

ミコトマスが息を漏らす。


「いいパレードだった。ここからよく見えたよ。」

「それはよかった。今回はぜひ若君にお見せしたくてね。」

ディコトムスが室内に目を通す。

「南方で異質な魔粒子の報告があり、原因を探っていたのです。」

「南方で...」

「すぐに解明するでしょう。現地の有力者と面会の手筈はついている。」

手首をさすりながらディコトムスが淡々と話す。

「ぬかりないな。」

「問題は早期解決に尽きる。さいわい魔粒子は素直だ。痕跡を辿ればすぐに因果が見える。」

ディコトムスの鋭い視線がミコトマスに向けられる。


「ホミニスの魔術は美しかったか?」

ミコトマスの瞳に光が入りディコトムスを見つめる。

ふたつの視線が音もなく互いの目を突き刺していた。

「昨夜だな、即死魔術の痕跡がある。」

ディコトムスは拳をひるがえし、右手首に巻かれていたロープを滑らかに伸ばした。


蛇のようにうねるロープの端を握り、軽く回すと一定の速さで回転運動を始めた。

「それは...」

繊細に結わえられた繊維に時折光が渡り、残像を目で追うと時を忘れそうになる。

エンケルと呼ばれるこのロープは魔粒子が織り込まれており、魔術制御を助ける。

今のミコトマスが見たくはない品であった。


「派手にやったな。」

昨夜ホミニスが魔術を放った場所を起点に、ディコトムスはバルコニーの方に歩みを進める。

エンケルはホミニスの魔術が残した残留魔粒子に反応し発光しているようだ。

魔術が放たれた軌跡を正確に捉えディコトムスを導いていく。


ミコトマスは何とかして穏便な説明をしようと考えを巡らせたが、どう取り繕おうとディコトムスはすべてを突き止めるに違いなかった。

程なくして布がかけられた剣の場所までたどり着いたとき、ディコトムスは声を上げた。


「粒子が霧散している...。」

ミコトマスの意識が再びディコトムスに集中する。

ディコトムスは回していたエンケルを大きく伸ばし、鞭のように振り回し始めた。

ロープが風を切る音と魔術がほとばしるノイズが続けざまに鳴り響く。


「ディコトムス...?」

やがて動きを止めたディコトムスがミコトマスのほうを振り返る。

「ここでなにがあった。ミコトマス。」

混乱を映したディコトムスの表情はミコトマスが今まで見たことがないものだった。

ディコトムスの襟羽根が風にそよぐ。


「私が規律を守らないから...ホミニスが叱っただけだ。」

ミコトマスが苦し紛れの理屈を口にする。

ただ一心に、あの暗殺者の身を案じていた。

ディコトムスに知られれば、ミコトマスは彼の痛みを理解する余地はない。


「即死魔術を。我が国の王子に。」

「私がどうしようもない子供だからだ。」

「何を隠してる。」

ディコトムスがひとつかみの光の粒子を放つ。

ホミニスの魔粒子の痕跡が光り、浮かび上がる。


「魔粒子は嘘をつかない。即死魔術は確かにここまで到達し、どういうわけか跡形もなく消えている。対抗魔術の痕跡もない。」

ディコトムスが荒々しく光をかき回す。

「第一この威力の即死魔術を相殺する魔術師がここに侵入したのであれば、侵入経路に魔粒子がこびりついているはずだ。それもない...。」

エンケルが脈動する音が静寂を埋める。

「...っ」


「それともだ。この城の結界を容易く破るのみならず、この私が感知し得ない、なんの痕跡も残さない、ホミニスすら敵わぬ程の神秘の力があるとでも言うのか――」

ミコトマスはこの事件が示す真の危機にようやく気づいた。

空を飛んで現れたあの男は、まさにそういった力を持っていたのだ。

国家が最も恐れる制御不能の力。

彼はミコトマスを殺しに来たと言った。


ディコトムスが布をめくり、残された剣を眺める。

エンケルが一切の反応を見せずだらりと垂れ下がる。

「こんな武器は有り得ん。」

ディコトムスが手をかざし言う。

「若君、なにかを知っているなら...。この持ち主が誰なのか、答えるんだ。」

「それは...」

「わかっているだろうが...。」


ミコトマスを見つめるディコトムスの表情が緩んだ。

「この持ち主は反逆罪に当たるだろう。城への無断侵入は禁じられている。そしてこの者を助けたものも――」

「わかっている。」

「反逆罪は最も重い罪だぞ即ち、」

「随分たのしそうじゃないか。」

ホミニスが割って入る。衛兵たちを引き連れている。

ディコトムスが一瞬笑ったように見えた。

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