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第6話「モブとステルスと戦争とエロMOD」


 ファナーナク壊滅とアバンシア共同体先遣部隊壊滅から3日。


 ウチには拾い猫が増えた。


 ついでに食費も爆増した。


「ニャゴラァン♪」


「ニャゴゴゴオオ」


「グニャーグニャー……」


 しかも、おっさん猫のイビキが芸術的過ぎて眠れない。


 後、周辺の誰も入居してない複数の廃墟が全て借り受けられ、現在も突貫工事中であり、最果ての街の住人が150人くらい増加した。


 食料供給は問題無いが、そのお金を誰が払うのか?


 という問題に対しての回答は一つ。


 勿論、“飼い主”が払う以外無いという意見で落ち着いた。


「シノギ、考えないと……はぁぁ(*´Д`)」


 あの戦いから数日。


 “捕虜”にしたアバンシアの兵隊達は“まったく非人道的な事に”……猫のようになってしまい。


 部下すらも切り捨てる情報漏出の防御術に多くの辺境の人々がドン引きした。


 何せ捕虜が全て精神性:猫にクラスチェンジしてまともな受け答えが出来ずに過去も殆ど覚えていないのだ。


 結果として辺境の流儀に従って、壊滅した街を襲った兵隊達はそれを討伐した新進気鋭の“人間の傭兵”のものとなった。


「孤児院とか入れるわけにも行かないしなぁ……」


 辺境伯何某はこの功績を称えて、称号を送ろうとか言い出したらしいが、豚人の少女にその称号一つを送る手間よりもどうか生き残った街の人々の支援と街の復興に尽力して頂ければ幸いですと当人が言っていたとの報告を受け、驚きながらも人格者であるらしい傭兵の深い懐に感じ入ったとか何とか。


(勿論、適当に事を治めようとしたら、結果的にそうなっただけだが)


 こうして断崖のアルマートに英雄と呼べる人間が1人誕生した、らしい。


 が、そのおかげか。


 捕虜にした“猫”達の面倒を見る男の下には善意の寄付とか幾つかの支援が舞い降りて来ていた。


『おう!! アンタが“反逆の”英雄様か!! オレぁ関心したよ!! 人間でありながら、悪を許さず、義憤あれども人を憎まず!! いやぁ、うん!! よくやった!! アンタのとこの“猫”共の事は許せんが、そいつらも切り捨てられた側だろう?』


 そんな風に思ってくれる善人が結構いたのだ。


『その面倒までも見ようってんだ。そいつらも頭は悪いが、案外働けるって言うじゃねぇか。憶えられる事は覚えさせれば、アンタの役には立つだろう?』


 結果的に人々は英雄の猫の世話の為、仕事を依頼してくれたのである。


『どうだい? そいつらをウチで働かせてみねぇか? 勿論、悪いようにはしねぇよ。単純労働だしな。他と同じように賃金も払う。勿論、出来高払いだけどな』


 このような現地の組合の人々が猫達を下っ端労働者として働かせててもいいよと言い出して、実際に出来高払いではあるが、猫化した者達の殆どが何かしらの単純労働に付いて食えるようになった。


 更にこちらからのアドバイスを受けた現場の人々にこき使われている様子は少なからず大変そうではあるが、致命的にダメそうには見えない。


 “英雄の持ち物”である彼らを虐げようという者がいなかったのは幸いだった。


『いやぁ、あの猫ちゃん達、案外知能は残ってるね。うん。簡単なお使いなら全然問題無さそうだ。それにしてもお邦の為に働いたら、猫にされて捨てられるなんて、人間の勢力は怖いなぁ……』


 こんな事を言われながらも、ある程度の労働で賃金をせっせと稼いで来た猫諸氏である。


 少なくとも一日分の食糧と少し程度の金額は自力で稼げるようになったが、未だに寝床は全員分は完成していない。


 周辺の建築を行っている人数は約30人以上と結構多いので最終的には莫大な赤字ではないが、少しずつ負債は詰み上がっていた。


『大丈夫ですよ。しばらくは私のお小遣いでどうにかなる範囲ですし、ガラークさんのお家と猫ちゃん達のお家が完成したら、ウチでも働いて貰えるようにしますしね、うふふ♪』


 殆どの食費は1人の人豚少女が被ってくれているが、現地に残された物資や飛行船の残骸は全て街の復興に当てて下さいと言った手前、残された物質的な儲けというのは殆ど無く。


 何かしらの儲けを出さないと食っては行けなさそうというのが実際のところに違いなかった。


(まぁ、それもチート使ったせいで死ぬけどな♪ヽ(^o^)丿)


 可能な限り、明るく内心で呟いてみても状況は変わらない。


 何せレベル1固定である。


 そして、実際に最初期の自分よりもあらゆる能力が弱くなったのを実感出来るのでどうにもならなかった。


 特にハンターや傭兵として外に出ようという気にすらならないレベルであらゆる技能は最低値の威力能力であり、もはや素人同然。


 残されたのは知識のみであり、知識で食っていくのはかなり難しい。


「はぁぁ(≧▽≦)……こういう時こそミスティーきゅんの事を思い出して元気出さないとな!!」


 と、言ってはみたものの、過去に縋ると過去が恋しくなるものだ。


 結局、眠れずに外に出る。


 猫達は誰も彼もが今は古びれた古着姿で3日に1回の河での集団水浴びで何とか衛生面を保っている。


 トイレも増設して、綺麗に使ったり、掃除を心掛けさせているが、150人分となれば、埋め立てた後に別の場所にトイレを移設して掘ってと繰り返さねばならない。


 此処には水洗トイレなんて無いし、基本的には汲み出すか。


 もしくは埋め立てて別の場所にトイレを移設するしかないのだ。


 まぁ、一応色々とそういう生活上の現実を変えてくれそうなMODには心当たりはあるのだが、まだ実現出来てはいない。


 とにかく、やる事が多過ぎるのである。


 中々に飽き性な猫達は指導者となるちょっと喋れる大尉がいなければ、日常生活の規範は緩めにしか護ってくれないというのもある。


「……(ノД`)・゜・。」


 ちょっと泣き言を零したい気分。


 だって、レベル1なんだもんという話は誰に出来るものでも無かった。


 夜空は何も語らず。


 しかし、殆ど人口の光が無い街の夜には星がよく見える。


 だが、知っている星座は一つも無く。


 ただ、月だけが静かに照ら―――。


「……んんん?」


 よく月をじ~~っと見ると月の中央周辺が滅茶苦茶キラキラしているように感じられた。


「アレ? もしかして、宇宙文明入ってる勢力結構いる? 月面開発されてる? ええと、月面に拠点を置くのは宇宙海賊、宇宙系テック企業やら太古の古代遺跡勢力やら諸々……」


 と思い出している最中にドガンッという音が聞こえて来そうな小さな小さな火花が月面で散った。


「…………マジかぁ。月面で核撃つ勢力いるのか。縮尺的に半径3km以上はありそうな? ヤバイ、怖過ぎ、戸締りしとこ……」


 思わず素になって、イソイソと自分の寝台に戻ろうとしたら、猫が山積みになっていて、結局猫山に寄り掛かるようにして寝る事になったのだった。


 *


「ごしゅりん~~あさにゃ~~」


 大尉に起こされた翌朝。


 寝ぼけ眼で未だ寝ている猫達の“エサ”を造る。


 と、言ってもこの地域で一番安い干し肉と野菜と穀物を煮込んだ塩スープである。


 ぶっちゃけ、塩がこの地域で一番高いとは思わなかった。


 どうやら海が遠いので手には入るが割高。


 岩塩が出る地域も周辺に無いせいらしい。


 別に塩そのものが無くても人間食べてる食物にある程度の塩は含まれていて、過剰に塩分が抜けるような労働や熱気で無ければ、数か月程度は問題無いのだが、肉体労働、単純労働を文句も言わずにやっている猫達にそれを言うのは酷だろう。


 なので必須の栄養素だけは何とか補給させていた。


「大尉。スープ配ったら、監督頼む」


「あいあいにゃ~」


 ニャゴニャゴ起き出した彼らの姿は常に野戦服姿か【スチューデント・スーツ】だが、やはり希少なアイテムらしく。


 スーツはあの爆発した飛行船にも無かったらしい。


 その為、8人の最初期捕虜勢のみが常人の数倍の膂力と活動時間で働ける唯一無二の部隊という事で他の猫達を指導する立場に収まっていた。


 まぁ、ほぼだらける連中をちょっと働けと急かす程度だが誰も急かさないよりはマシだろう。


「さて、行くか……」


 先日まで両隣が廃墟だった街の外れの廃墟群の一角。


 元々は農地に向かう農民達の住む場所だったらしいのだが、この厳しい環境で複数の伝染病が出た時に周辺一帯が空き地になったとの事。


 そう簡単にこの荒野では人口が増えないし、増やそうとしたところでそれを養える環境や育てられる環境でもない為、自然増するまでほったらかしになっていたそうなのだが、そこに捕虜化して猫になった勢力が済む事になったせいか。


 周辺にはそこそこ人気が戻っていた。


 安全性が結構高い地区と地域住民に見なされたらしい。


 これを機に人気が戻った廃墟に住み始める独身連中がいるかと思えば、獣人でもどうやら人間を伴侶にする者も少数はいるらしく。


 何やら猫化した【マニアクス・ニャァン】を恋する乙女的に見ている女性陣やら餌付けしようとする男性陣が結構いた。


 それも大尉に監視させてはいたが、当人はしっかりものらしく。


 今のところ現地人との間に問題は出て来ていない。


(はぁぁ……人の恋愛事情にとやかく言ったりせんけど、父親や母親がぐにゃーとかにゃごーとかしか喋れなくてもいいんだろうか。連中(´・ω・`))


 まぁ、そこまで管理する程ではないが、悪い連中に食い物にされたりはしないように気を付けようと思いつつ、今日もマイザス商会の小店舗に向かう事とした。


「あ、ガラークさぁん♪」


 5分前行動染みて絶対にこちらより早く待っている豚人の少女が1人。


 店舗前でいつもの継ぎ接ぎドレス姿で待っていた。


「今日もよろしくな。ミスティーク」


「はい!! さっそく工房に行きましょう」


 知識で儲けるのは難しい。


 そもそも知識はあっても大抵は資材が無いから、多くの人々は儲けを出せる商売なんて出来ないのである。


 その上、現在はチートモードのせいで一般人に為り下がった英雄(笑)は戦闘能力まで失っている。


 そんな自分に出来る事は間違いなく肉体を鍛える事ではないという事だけは確かだろう。


 そう考えた後。


 知識を元手に出来る事で辺境でニーズのあるお金が動く事を想像した結果は……自分の知っている限りのDIY知識で先進文明勢力並みのサプライ。


 つまり、商品の企画と製造現場を造り、ミスティークに売り込む事であった。


 彼女は先進文明並みの商品を質が多少悪くても安価に供給する商売で儲け、こちらは製造現場……つまり、簡単な工場や作業場を猫達に造らせて土建業で儲けつつ、ミスティークの商売の売り上げの一部をロイヤリティーとして貰う。


 そして、その最も儲けが出そうな事業が一部今日から稼働しそうであった。


「ふんふんふふ~ん♪」


 ご機嫌な人豚の少女と向かう先は工房。


 正確には兵器工房だ。


 どうせ、先進文明の武装は馬鹿高いし、武器弾薬も吹っ掛けられるのならば、威力は低くても高性能な量産が利いて、ちょっとしたお値段で買える普段使い出来る武器を製造する。


 まったく、普通に過ぎる金策である。


「親方ぁ~~おはようございます」


「おお、お嬢様来たな。反逆の英雄殿も」


「いえ、英雄だなんて、ガラークと呼んで下さい。親方」


 御年72歳という高齢の鼠型のゼノ・アニマルの老人。


 “親方”はこの話に載って来た工房の主だ。


 複数人の数十人の弟子がいるのだが、此処最近は自分の一族が増え過ぎたらしく。


 食い扶持になりそうな新規の仕事を欲していたのだと言う。


 捩じり鉢巻きを付けた鼠顔の筋骨隆々の老人の手は正しく焼きいれた彫像のように浅黒く分厚い皮膚に覆われている。


 仕事着は肌着のような一枚布を継ぎ接ぎしたシャツ一枚。


 汗で張り付いたソレは熱気によって乾き、汗で張り付きを繰り返した様子で洗っても取れないだろう色合いに染まっている。


「こっちだ」


 親方が案内する工房の奥。


 複数の新作の武器が置かれていた。


「仕事が早いですね。親方……これがウチでも造れる銃器ですか? はえ~~ちゃんと銃器の形してます。スゴイ!!」


 目をキラキラさせた人豚の少女の言う事は最もだが、苦笑した親方がまぁ、そういう感想になるよなぁという顔となった。


(AKM……最初期型がもう出来たのか。さすがAKだけあるか。グロックも良さそうだ……)


 ほぼ手作りの小銃と拳銃が数点。


 その殆どは嘗て重火器を分解整備、更には自身で自作していた時の知識を頼りにして製造工程を親方に指示して作って貰ったものだ。


 今まで重火器は出回っていても分解再構築しようとしても実際の作り方が分からず、エンジニアリング出来なかった。


 それを実銃の製造工程をしっかりやってくれる重火器製造MOD【サニティ0】で学んだ事を筆頭として親方に知識を伝え、現技術で出来るか検証して貰ったのである。


「いやぁ、この“グロック”? オレ達は拳銃としか呼んでなかったが、素材がなぁ……元々あった市場のもんを溶かして再利用してみたんだが、やっぱり大本を造れないとダメそうだ。強度が足りない」


(ポリマーかぁ……プラスチック関連の技術や知識は無いから仕方ないか。多少重くても内部機構のセーフティーは優秀だし、AKMに技術転用すれば、恐らく安全な小銃が出来上がる。後は弾の問題か。信頼性の高い弾丸を造るのは製造設備在りきだから、さすがに無理だろうし……セット販売が無理なのは痛い)


 親方が正直な感想を伝えて来る。


「親方。グロックのセーフティー。安全装置をAKMに流用出来ないか? それが可能なら、弾丸はともかく。安全で安価な銃本体は此処でも製造出来るはずだ」


「出来なくはない。出来なくはないが……オレ達の工房で効率よく造れるようになっても、恐らく……工房1つで日に12挺。更に価格単価が今までの仕事よりも大きいかと言われると……まぁ、儲けは出るし、今までよりも多少は日銭の額は大きくなるが、売り出し値はあまり上げられないって話なら、面倒が増えてもあんま儲からないって感じか?」


「正直な感想ありがとうございます。親方。そうですかぁ……やっぱり、そう上手い話は無いみたいですね……」


 残念そうなミスティークである。


「親方。なら、部品はどうだ?」


「部品?」


「ああ、ここら辺に出回ってる銃器の種類は全部見させて貰った。高度なもの以外は同じ重火器を作れなくても、部品を細かく造ってバラ売りするのはどうだ?」


「補修部品て事ですかい?」


「ああ、部品なら鋳造と旋盤の加工、バフの磨きだけでいい。内部構造を組み立てる手間を省いて、銃の所有者に銃を整備させる文化を根付かせたら、案外長期的に儲かりそうじゃないか?」


「ほうほうほう? ふむ……最初から全部在庫としてバーッと造っちまって、安く買わせるのか……んぅ? 部品の精度や交換度合いにも寄るが、単価的に行けるか?」


 親方が考え込む。


「部品精度で値段を上下させればいい。ついでに高い弾丸をこちらで揃えて一緒に買わせればいい。単価は低くても消耗品の販売額はグッと増えるはずだ」


「確かに……」


「最初はおまけでつけるんだ。試供品です。故障したら、この部品を使えば、治るよってな」


「ふむ? で、壊れたら、また部品が欲しくなると」


「直し方自体は紙にでも書いて事細かく整備用のものを配布すればいい。相手にしてみたら、撃てない銃は持ってても意味が無い。新しく買うのは金が掛かり過ぎる。自分で補修出来たら、今まで買ってた銃が部品だけでずっと使える」


「安く済むわけか。でも、そうなると銃の在庫がダブついて扱ってる連中が文句を垂れそうだが……」


「修理事業も一緒に始めればいい。顧客登録した連中に登録した業者を通して修理依頼を持ち込めば、配送や運送で連中に儲けを出せる」


「ふぅむ。それは良さそうな案だな。確かに……」


「完品の銃はどうせ全て輸入だ。商人からしたら、高いものを更に高く買わせてるだけに過ぎない。でも、此処の部品は?」


「安く買って高く売れる? 調達費用が安くなるから、経営が楽になるのか?」


「ああ、交易で他の街や先進国が市場を握ってる場所に部品を大量に流しても、完品を売ってる先進勢力のバイヤーは部品を売ろうとしても儲けが出ない。あっちの方が通貨は高いし、為替的に安くも出来ない。絶対に足が出る」


「価格勝負なら負けないと?」


 ちなみにマーチャントMODと呼ばれる経済、商売関連のものは複数種類入っていたが、その殆どは売買の細かな取引と調整、販売方法などを多数揃えており、生産職として世界を支配する俗に死の商人MODと呼ばれる。


 勿論、ミスティーきゅんと一緒に大人の玩具を安く造り、大人のお薬を手に入れて楽しめるようにしたかったから使っていたエロMODである。


 エロ系商品、サプライにはそういうMODにしかないものが結構多かったのだ。


「銃の使用頻度的摩耗率にも辺境が一番儲かるはずなんだ。あっちが価格度外視で部品を安く流したら、今度はその部品を全部組み立てて完品を安く売ればいい」


「ッ―――あははは!! つまり、造れねぇ部品が無ければ、完品の中古市場よりも安く上がる新品が出来上がるって寸法か!! いや、考えたな。乗った!!」


「あ、ガラークさんて案外計算出来るんですね!!」


「えぇ?! 今まで出来ないと思われてたのか?」


「あはは、じゃあ、ガラークさんの案で少しやってみましょう。まずは儲けが出るラインを探って、相手の出方を伺いましょう。相手がジャブジャブに部品を流してくれたら、辺境の治安が一気に改善するかもしれませんし」


「おうおう!! 2人とも悪い事考えるなぁ。じゃあ、こっちも悪巧みを始めよう。儲けさせて貰うぜ?」


「勿論だ」


 ガシッと握手が交わして頷き合う。


「あ、英雄殿の個人的に頼んだのはもう出来てるぞ。全部特別製だが、流して貰った武装の素材で色々試作出来た。それにしても銃にしなくて良かったのか?」


「ああ、安いのが在れば十分だからな。重火器はどうせ先進文明勢力の独壇場だ。なら、必要なのは火力じゃないって事だ」


「?」


 ミスティークが首を傾げる間にも傍に立て掛けてあった大きな革袋を渡されて、それを受け取る。


 こうして能力は上がらなくても取り回しや運用方法を洗練させる為にイソイソと新武器を担いで出掛ける事にしたのだった。


 *


「ガラークさん。それでこれからどちらに? 新しい武器ですよね? ソレ」


「ああ、親方に頼んでいたヤツが出来たから試し撃ちに」


「試し撃ち。銃?」


「いや、これは―――」


 説明しようとした時だった。


 街の方の喧騒が大きくなる。


「行ってみよう」


「あ、はい。何かあったみたいですね」


 イソイソと二人で街の大通りに向かう。


 すると、明らかに柄の悪そうなトゲトゲしい肩パットを付けたヤンキー……いや、チンピラのようなモヒカンがいた。


 思わず吹き出しそうになったのも束の間。


『オイ。テメェ!! オレ達【赤靴の同胞団】に何いちゃもんつけてんだオラぁ?!』


 店先で商人を堂々と恐喝していた。


「知ってる?」


「いえ、知りません。というか、赤靴? ここら辺の勢力にそんなのいなかったような?」


 ミスティークも首を傾げていた。


 脳裏を浚ってみるが……名前自体に該当する情報が無く。


 しかし、相手の明らかに世紀末伝説のモブみたいな様子にピンと来るモノがあったのは確かだ。


(これ経験値稼ぎ用に入れてたモブ湧きMOD【ルーザーエネミーズ】の汎用ランダム湧き勢力じゃないか? あの肩パットどっかで見たと思ったが、無限湧きモブ勢力でそういや結構潰してた気が……経験値稼ぎで随分お世話になったヤツだ……)


『オレらは近頃此処に来たんだよ!! あのいけすかねぇセントラルの連中が吹き飛んで新しい稼ぎ場が出来たってなぁ!! テメェら辺境もんにも教えてやる!! 赤靴は総勢2000名!! こんなちんけな街なんざ、一瞬で墜とせるんだぜぇ?』


 ナイフを舐め出す不衛生な下っ端に頬を掻く。


「分かり易い悪党だな」


「ええ、本当に分かり易い蛮族ですね。私達、アレと一緒にはして欲しくないですよ。さすがに……」


 どうやらミスティークも同じ気持ちらしい。


(2000か。規模的に襲撃20回未満……弱小勢力。それにあいつらの身形から察するに持ってるのは精々豆鉄砲から小銃程度。榴弾砲があるかどうか……)


『ひゃははは!! 反逆の英雄だか何だか知らんが、オレら相手に勝てるかっつーの!! セントラルのあの顔しか能のねぇ、マニアクス・ニャァン共は最初からここらの空飛ぶトカゲに落とされてたってのは知ってんだよ。どうせ、死に掛けを殺して意気ってる馬鹿だろ?』


 どうやら、本当にパーフェクト・モブ染みた説明までしてくれる初心者に優しいチンピラはまったく芸術的だと思いつつ、これならまぁいいか、と。


 近場の建物の上に上がる。


 そのまま得物を取り出した時には街の住人達の反感の視線に怒りを覚えた男がナイフを取り出して威嚇し始めていた。


「テメェら!! 赤靴に手ぇ出したら、皆殺しだからな!!」


「はい。言質取りました。あ、どうぞどうぞ」


 ミスティークがこちらの得物を見ていたが、相手の言葉を聞いてGOサインを出す。


 片腕で狙って引き金を引いた。


 チュトッという軽い音と共に男の頭蓋をアルミ製の安い矢が貫通する。


 ドサリと男が崩れ落ちて、ミスティークが住民達に危ない人は排除しましたよ~~と守備隊に連絡するように通達。


 住人達がこっちの姿を見付けると何やら笑顔で手を振ってくれたのでこちらも手を振り返して、一応は愛想良くしておく。


 こうして全自動で矢を装填する機械式クロスボウの試射は完璧に終わった。


 まるでコウモリのような形の翅にも見える造型が印象的だろう。


 全自動クロスボウ【オーバーシャット】。


 黒鉄のように見える部材は全て生産職MODでしか手に入らない希少鋼材だ。


 大尉のスーツに付いていた装甲。


【オーバーメタル】


 それを溶かして形成、焼き入れした代物である。


 黒い炭素塗装で光を殆ど吸収してくれる代物は持ってると日中熱い以外は欠点も無さそうであった。


 オーバーメタルを筆頭にした生産職系MODの素材は通常のものよりも製品の性能を高めるという効果がある。


 矢は安いもので十分だが、機構そのものの威力が強化されるのが大きい。


 特に通常では使えないような強力な弦、ストリングを用いて貫通力を高めるとそこらの狙撃銃並みの威力どこか。


 近距離から中距離では圧倒的な貫通性能を生み出せる。


(マジでクロスボウ自体の悪いところは矢が嵩張る事だけなんだよなぁ。携行数無限MODは入れてなかったけど、入れてるとマジで狙撃合戦してても結構なキル数稼いでたし。あくまで此処がオレのやってたゲームだと仮定した場合だけど)


 音がしないのもかなり大きい。


 全自動という事で電源を付けてモーター駆動部分を付け足して尚、殆どシューッと矢を巻き取る小さな音がするくらいだ。


 しかし、今時の狙撃戦、銃撃戦だと発砲音で相手を探すよりも光学観測機器ですぐに見付けられるので左程に戦闘での旨味は無い。


 先進装備があれば、赤外線や音響センサー、感圧センサー類で一発だ。


 なら、どうして重火器じゃないのかと言えば、扱い易さと命中のさせ易さもあるが、闇夜での戦闘でマズルフラッシュが出ない事が最大の理由である。


 つまり、夜間戦闘での狙撃と暗殺に向いているのだ。


 スニーク・キル特化。


 サプレッサーもかなり独特な音がするので聞き分けられる者は多い。


 しかし、クロスボウの音を聞き分けられる者は殆どいないし、夜間戦闘ではセンサーや暗視ゴーグル無しの戦闘はマズルフラッシュ頼りが殆どだ。


 要は蛮族な人々のいる領域では攻撃している人間は透明人間状態。


 無双武器の一つという事になる。


(前見てた【レベル1でヘヴンを征く】の動画配信者さんも滅茶苦茶強かったしな。初心者お勧めムーブにも入るんだから、レベル1縛り高難易度鉄板ムーヴ的に振舞えば……この状況でも行ける、と思いたいところだ)


 中距離から近距離での連射性能と視認性の低さで相手に近付いて貫通力抜群の矢を連射するのはかなり強い。


 一部のセンサーを使わない勢力相手ならば、恐らく無双。


 それはヘヴンでレベル1縛りのような動画勢と呼ばれる人物達がよくやっていた戦闘スタイルでもあった。


 ヘブンにおける特殊状況における攻撃に関する威力倍率は増減の幅が大きく。


 極めた装備で倍率を高くしていくと隠密、ステルス・キル、スニーク・キルを行う熟練者の大半は攻撃威力がチートMOD並みの威力を発揮する。


 そろそろ帰ろうと建物の屋上から降りようとした時だった。


 また、別の通りで何やら喧騒が響く。


『ひゃっはぁ!! オレたちゃ【ユッカラの氏族】!! このクソド田舎を勢力圏に加えてやろうって言うありがたぁい善意の隣人だぜ? テメェ、このオレら相手に―――』


「「………」」


 思わず閉口する。


 どうやら、マニアクス・ニャァン壊滅の報で何か変なスイッチでも入ったかのように辺境にはモブ勢力が大量に湧いた事が白日の下になるのはそれから1日後の事。


 各勢力4勢力程がアルマートに勢力化に為れ。


 みかじめ料を払え。


 さもなくば……というお決まりの言葉を送って来た辺りでアルマートは戦争準備を始めるのだった。

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