第5話「HEROチートとエロMOD」
「はぁ、どうしてこうなった……」
襲撃から1日後。
結局、拠点に連れ帰った少女達はまだ肉体の再生が完全では無さそうだったので当日は適当に食料を与えて、トイレの場所と水浴びの場所を指定して寝かせておいたのだが、いつの間にか寝台の上はギュウギュウであった。
猫布団である。
ちなみに彼女達の体重が凡そ百数十kgである上に8人分である。
大尉以外は名前も何も分からない上に食い扶持を急いで稼がなければならなくなったが、あの光景を見たミスティークは手伝ってくれなさそうであった。
朝方、大尉達を布団の上から何とか退かして、よく圧死しなかったオレと息を吐いて今日の食事を9人分創った後。
昨日の内に詰めておいた計画を再確認する。
(ミスティークに両隣の廃墟の使用許可と解体許可、再建許可は貰ったから、後はこいつら自身に……)
現在、お世話になっている建物の横はどちらも廃墟だ。
上下水道は通っていないが使える部屋は存在していて、一部を解体して、再度レンガなどで整備補修すれば、まだ使えそうであった。
という事で武装以外のスーツを全員に再配布。
更に解体、補修再建築の単純な指示を特定の箇所に特定の人材を割り振って役割を単純化。
猫と化した捕虜達の統率個体として【大尉】と呼ぶ事にした個体に一任。
ミスティークに買い入れて貰った建材で少年少女達の寝床作りを任せる事とした。
ちなみに建築許可が下りているので横の廃墟とこちらの寝床の建物は繋げる事になるだろう。
モルタルだのセメントだのが袋で運び込まれた現場はある意味金が飛び交う戦場であり、あまり失敗してくれるなよというのが実際のところだ。
基本的にゲーム世界基準で考えれば、使った材料が乾くまで凡そ2時間。
汲み上げてしまえば、夕飯までには造営完了するだろう。
それを土木建設のにーちゃんよろしく。
未来SFスーツを着込んだ少年少女に建築させているわけである。
「にゃぁ~~そこ~~もっとやさしくにゃぁ~~ごしゅじんにおこりゃりぇるにゃ~~」
必要な建設用の道具も借りているのだが、使い方のレクチャーは出来ても実際にやらせてみないと適正は分からない。
その状況でも何とか工事が進められているのは大尉だけ意思疎通で言語を話せた事がかなり大きい。
恐らくは知能指数が馬鹿高い個体だったのだろう事は容易に想像が付く。
脳機能を動物並みまで落とされた彼女達が大人しく従っているのも大尉という統率者がいればこそだろう。
「いってりゃ~~」
手を笑顔で振る大尉に一応は頭を撫でてコミュニケーションを取ると、嬉しそうにくすぐったそうな顔をされた。
じ~~~という周囲からの視線が痛い。
オレも私も撫でられたい欲に駆られた猫達である。
「か、帰ったら撫でてやる!! ちゃんと自分の寝床は造るんだぞ?」
「にゃーい」
『にゃ~~♪』
灰色の建材に塗れて元気に返事をする猫たちである。
きっと、10分後にはダレて再び大尉の激が飛んでいる事だろう。
そんな拠点を後にして今日はマイザス商会の本店へ出向く事になっていた。
狭い街と言っても歳よりや地区毎に店舗を出しているらしく。
先日、食事をした店舗はその一つらしい。
「ホント、デカイ猫拾っちまった……はぁぁ(*´Д`)」
荒野の中にある断崖のアルマートは実質的には食料確保と石の切り出しで何とか食っている場所らしく。
街道に続く道には常に建材搬出の為の馬車の列や現代車両の列がある。
馬車は近隣の更に小さな村などに建材を運ぶ用。
現代車両は遠方の都市圏に運ぶ用なのだとか。
東西を横断する運河にも石材運搬用の大型船舶が停泊しており、こちらは殆ど現代式のタンカー染みたものだ。
平べったい鋼鉄の船体に平積みされた石材が積み上げられている様子はかなり危なさそうに見えるのだが、川幅140m近い大河は底が深く。
魔法の類で船体は安定化させているとの事。
この建材は海辺や近隣の街の治水事業に使われているのだとか。
(水路で此処から他の地域にも行けるって分かったのは大きいな。それにしても拠点がある以上はしばらくは拠点造営と旅の為の準備だろうけど)
正面から見た時は色々見えなかったが、河という水源と食糧庫となる大規模工作地帯、特産品である石材を持っているアルマートはかなり恵まれていると言っていいだろう。
水が豊富で農業用水には困らないというのは大きな街には必須の条件だ。
街の河を挟んで反対側の丘陵の先には広大な麦畑と【セーソラ】という穀物畑。
つまりは雑穀が黄金色に輝いているとの話だが、まだ見てはいない。
その穀物で育てた家畜や資金で近辺の貧しい村々は持っている云々。
街を歩く人間が白い目で見られたのも、この最辺境の街が人間の手に渡れば、国家が転覆するからというのを大人達は知っているから、らしい。
「マジでどうすっかなぁ……あいつら連れて行けるか? う~~ん?」
この世界の情報をちゃんと知るには先進文明圏。
セントラルと俗称される人間の国家に行くのが一番早いし簡単なはずなのだ。
だが、それはまだ先の話。
足元を固めないと不用意に動いた後が困るというのはよくある事なのだ(203敗)。
悩みながらマイザス商会の本邸に到着する。
「―――そうだろうとは思ったけど、普通に豪邸」
凡そ30m四方の近い広い邸宅が見えた。
庭こそ存在しないが、質実剛健で要塞としても機能しそうな鉄扉に護られた館はさすがに辺境という趣であり、いつ襲われても対応出来ますと言いたげに歩哨が周囲を周回していた。
「あの~今日約そ―――」
「ガラークさん!! ちょっと付いて来て下さい!?」
「え? え?」
一瞬で正門が開いたかと思うとミスティークがズダダダダッと全速力でやって来て、館の裏から何やら馬車が出て来るとすぐに載せられた。
「あの……ミスティーク?」
「スミマセンが!! 今日は!! 本当に!! スミマセンが!!」
「え、あ、はい……」
傾聴しないと後が怖そうなので思わず背筋を正して正面に豚の少女と向き合う。
よく見れば、愛嬌のある顔立ちをしているのかもしれず。
ゴゴゴゴ、と。
後ろに擬音を背負っていそうな真面目な顔のミスティークがゆっくりと告げる。
「ほ、本当はお買い物一緒にしたかったけど、ダメになったんでずぅぅぅぅぅぅ!!?」
滅茶苦茶涙目で説明された。
「え? あ、じゃぁ、また今度?」
「それがぁ!? それがぁ!!? 聞いてくださいよぉ!?」
「あ、はい……」
再び聞く姿勢になるとすぐに情報が濁流のように流れ込んで来る。
曰く、先日自分を誘拐したクソハイエナ達の親玉がようやく分かったのだが、そいつに探りを入れようとしたら、運河で迎える【ファナーナク】という街にいる事は発覚したのにいきなり横槍が入った、という事らしい。
「横槍?」
「それがぁ!? あいつらのいる街が何か墜落した先進文明勢力に制圧されたらしくってぇ……ぶっ殺、粛清する為の装備一式を急遽頼んでたらぁ、そこで私の荷物も留め置かれて、商売も止まっちゃってぇ……こ、今月のお小遣いが出なさそうなんですぅぅぅぅ?!!」
ボロ泣きであった。
「お小遣い……」
聞く話によるとお小遣いは自分で稼いでねという事らしい。
商会で自分で儲けた内の3割が個人の懐に入るのだとか。
案外、彼女の御父様はミスティークに厳しいようだ。
「はぁ、それは災難だったな。それにしても墜落って、航空戦力?」
「そ、それが、よく分からないらしいんです」
「よく分からないって?」
「連中、いきなり大きな飛行機械で墜落して来て、そのまま街の守備隊を全滅させて居座ってるらしくて、辺境伯様が討伐隊を組んでる最中って話しか出て来なくてぇ……」
「つまり、現場が混乱してて、領主が出て来る事件になってる、と」
「はいぃ。それでもし荷物が全滅したら丸損な上に誘拐の首班をぶっ殺―――粛清出来ません!!?」
何故、言い直すのか。
これが分からない。
案外、敵と分かったら絶対殺すレディな辺り、最初に出会った時のミスティークはまったく素だったのだろうと確信する。
言葉遣いが問題なのだろうか?
「それでこの馬車どこに?」
「一応、近場の街はまだ大丈夫だから、そこからこっそり荷物を取りに向かおうかと……」
そこまで聞いて溜息一つ。
「……ミスティーク。傭兵を雇わないか?」
「へ? で、でも、これは個人的な問題で!?」
「友人が困ってたら手伝うよ。うん」
「ゆ、有人!? 友人? え、あ、で、でも、危険、ですよ?」
おずおずと上目遣いの豚人少女である。
「あの子達の事もあるし、もしその勢力が彼女達の本隊なら、どうにかしないと街がまた危ないかもしれない」
「危ないでしょうけど!? 逃げないんですか!?」
「……逃げてもいいが、逃げられない友人を置いてはいけない。じゃ、答えにならないか?」
「っ~~~ガラァアアクシャァアアン!!? ぜぇええったいに高い御給金払いますからぁ!! お願いしますぅぅぅぅ」
また盛大に泣き始めた少女にウンウン頷きつつも、落ちて来た飛行機械の話の方に意識は取られていた。
(マニアクス・ニャァンが創れる共同体規模は最大50万……一文明勢力辺りの平均攻撃力の1.3%が航空戦力ユニットで1勢力分が運用出来る最大規模が航空母艦で4隻……街一つ占領なら1隻程度……艦船カスタムMODで適応範囲指定は確か【ブラック・パイレーツ4】までで大気圏内限定ならAIの最適解としては飛行船型の【ラウンズ・フォートⅢ】までの機動母艦の可能性が高い)
昔取った杵柄というヤツで艦隊戦を遊んでいた頃の知識は未だ健在だ。
(そうなると艦船に載せられる基本武装は殆ど個人相手なら即死させられる。防御兵装は意味が無い。100mm連装砲12門なんて喰らったら粉微塵だろうなぁ……)
一部の原理系防御兵装と呼ばれる絶対〇〇系の攻撃では破損しないというタイプの防御兵装以外はほぼ紙屑同然。
つまり、ステルスして相手に捕捉されないように立ち回るのが第一になる。
「まぁ、とにかく夜までに帰ろう!!」
「はいぃぃぃぃぃい!!? 一生付いて行きますぅぅぅぅう!!」
「あはは、大げさ大げさ」
豚人少女を宥めつつ、家猫少年少女達の為に稼ぐ事にするのだった。
―――3時間後。
「そして、この有様だよ。クソが」
艦船があるとは聞いていたが、航空戦力ならば、下に砲塔が付いていて、少し破壊されたり修理に時間が取られている。
と、踏んだのが運の尽きであった。
(乗ってた船毎爆砕されるとか……寄り合い定期船で良かった……個人所有だったら、またミスティークが泣き出すところだった)
近くの街に向かう船に載ったら、遠方からの精密無比な射爆で一発ボーンである。
勿論、殆どの乗客が河の藻屑になった。
ギリギリ助かった理由は単純だ。
船の甲板に座る最下級席しか取れなかったミスティークのおかげである。
こっちは遥か遠方。
それも自分達の向かうはずだった場所に昼時なのにビカッと何かが光ったのだ。
マズイと思った時にはミスティークを連れて咄嗟に河に飛び込んでいた。
そして、その数秒後に着弾。
船はバラバラでついでに人体もバラバラ。
光り後人体の雨という天気である。
思わず気絶したミスティークを抱えて人命救助もしっかり海の上の艦隊戦を経験した事のあるガラーク何某さんは陸地に到着。
目的の街まで目と鼻の先だった事もあり、事無きを得た。
それにしても船を爆撃する以上は相手は完全に戦闘モード。
容赦のない事が分かった。
「オイ!! アンタ!! 大丈夫かい!!? 船の乗客は!!?」
すぐ街の守備隊らしき獣人達が馬で駆け付けて来るのが見える。
「済まないが、この子を頼む。オレは行かなきゃならないところが出来たみたいだ。アンタの馬、買いたいんだが、いいか?」
「え? あ」
「この革袋一杯でどうだ?」
「ッ―――ど、どうすんだ!?」
「ちょっと、あのクソ野郎共に挨拶してくるだけさ」
「あ、アンタまさか!?」
「売るのか? 売らないのか?」
「……売るよ。でも、ダメそうならお嬢さんのところに戻って来るんだぞ?」
「ああ、オレが夜までに戻らなかったら、その子を陸路で返してやってくれ」
セイウチの獣人が驚きに目を丸くしてミスティークの身柄を保護したのを確認し、ミスティークの持っていた革袋一杯の銅貨で馬を買い、目的の街に向かう。
キレてないっすよ。
ちょっと、先進文明勢力が蛮族より野蛮なのでお灸を据えに行くだけである。
世の中、まったく上手くいかない事ばかりだ。
だが、報復というのはいつでも心躍るものがあるのも確かだろう。
何も分からず、この世界に放り出されたストレスはちょっと限界に近かったので息抜きくらいは必要だ。
それが死に近いのならば、愉しんでしまえばいい。
そうでなくてはヘブンの高難易度攻略なんてやってられはしないのだから。
その為に今も自分が入れたMODが適応されているのならばという前提で戦力の底上げが可能かどうかを途中試す事にするのだった。
*
―――最果ての水源【ファナーナク】聖堂中央講壇前。
『片っ端から車両や船は落とせぇ!! 戦力が集中するのを少しでも遅らせるんだぁ!! 民間人? 構わん!! 本隊が到着するまで持てばいい!!』
『【アバンシア共同体】本国より入電!! 本隊の投入は一時停止!! 現在地の状況確認の後、72時間を置いて議会が再審議するとの事です』
『何故だぁああ!!? どうしてうまくいかん!!? 何故、邪魔される!!?』
『司令!! 激をお収め下さい!! 今は非常時です!!?』
『あの空飛ぶトカゲ共めぇえええ!!? 奴らさえいなければ!!? 名家のお嬢様如きに一番槍を任せたのも失敗だった!!? まさか、全滅!! 全滅だと!!? 生体反応が一時途絶後に再開!! 蛮族領に鹵獲技術まであるとは!?』
『司令!? CPより入電です!!』
『こちらに回せ!! 何だポンコツ!!? 今、忙しい!! 何の用だ!!?』
『ライフリンク・ポイントより罵倒語分を減点』
『ッ……それでッ、何の用だ?』
『シアーニア司令に伝達。本国議会の一部より最優先目標の変更がありました』
『何だと!?』
『本件は極秘事項です。回線を切り替えます』
『―――』
『戦略審議会の議長より“シアーニア司令には倒された先行偵察部隊の全隊員の死体及び装備の回収”が最優先命令として発令されました』
『ッ、議会の重鎮連中め!? 良家の女1人の為に戦略を破綻させる無能共め!?』
『ライフリンク・ポイント罵倒語分を減点』
『分かった!! つまり、連中はこの戦略的重大事の最中に無様に最果ての蛮族領の守備隊に負けた馬鹿共の死体を回収する為に損害を更に増やせと言うのだな!?』
『表現に不備はありますが、概ねそのような内容です。現在の状況が安定すれば、本隊の投入が可決される可能性82%弱』
『チッ、分かった!! いいだろう!! “賢者の窯”の回収は二の次にしてやる!! 本国の無能共に言っておけ!! 地方は貴様らの住まうセントラルと違って何もかもが足りんのだとな!! まともな物資も無く!! ロクな弾薬の供給も無く戦えば、磨り潰されるのはむしろ我らの方だ!! そこに無能を送り込んだツケは己で払えと一言一句そのまま伝えろ!!』
『……了解しました。次の定時連絡は12時間後です。アルマーニアの習性的に再度襲われる可能性がある為、部隊の護りを固める事をお勧めします』
『言われずともそうする!!』
『では、ご機嫌よう』
『司令!! 緊急報告です!!』
『何だ!? トカゲ共か!?』
『い、いえ!? 周辺に出していた偵察隊の一部と連絡が途絶しましたぁ!!?』
『ば、馬鹿な!? レーダー班は何をしていたぁ!! 部隊はまだ集結していないはずでは無かったのか!?』
『そ、それがレーダーには部隊らしき影は映っておりません!! 機甲戦力、車列、集団、共に無しです!!?』
『まさか、こんな辺境に我らのレーダーを掻い潜るステルス戦力があるとでも言うのか!!?』
『わ、分かりません!! ですが、二時間前に船を沈めた街の方面に出ていた事から、少数の敵戦力が向かってきている可能性が……』
『ッ、部隊を一部、北部方面に再配置しろ!! 急げ!!』
『は、はいぃぃぃぃ!!!』
―――ファナーナク北部簡易砲陣地。
『隊長……本当に先行偵察部隊の方々は……』
『ああ、最精鋭の本国出の連中がやられた』
『そ、そんな……あの【黄金の勲】メーニャ様が散ってしまわれるなんて……』
『本国で研究された古代装備の再生産品を使って尚破れたとすれば、あの蛮族領には恐らく……』
『れ、例の“賢者の窯”ってヤツですか?』
『そうだ。その可能性が高い……』
『隊長!! 他陣地から増援が寄越されるようです!!』
『く……本格的に何か来るなコレは。あの司令の事だ。今も喚いているだろうが、観察眼だけは一級品……来るぞ!! 構えろ!! 何が来ても絶対に通すな!! 船の修理が終わるまで残り8時間!! 絶対に死守す―――』
「――――――」
『て、敵襲!! 敵襲!! 北部方面に単独で近付く者を発見!! 直ちに排除を開始します』
【撃てぇえええええええええええええええええ!!!】
相手に真っ直ぐ突撃する。
正しく砲陣地と化した野戦砲周囲には土嚢が詰まれており、軽機関銃らしきものが複数見えた。
だが、今回だけは命を惜しむのは後にしようと息が切れない内に最速で切り込む。
「な、何だぁ!? あの速度は!? マシナリーにしても早過ぎる?!」
それはそうだろう。
陣地から100m離れていたが、約2秒で走破した。
本来ならば有り得ない事だ。
だが、それをとあるMODは可能にする。
「う、撃てぇ!!? 撃てぇ!?」
「当たらない!? 当たらないよぉ!?」
ベテランも新人も機関銃に張り付いていたが、ハッとこちらを下から見上げた時には陣地そのものを跳び越している。
「あの跳躍力!? あの速度、一体!?」
そんな声を背後に駆け抜ける街中は死体だらけだった。
特に酷いのは民間人の死者が道端にゴロゴロ転がされている事だろう。
誰も彼もが銃弾に打倒され、今や息をする者も無い。
「……報いは、受けろ」
そう喋った途端、速度が3割くらい上がった感覚がした。
相手が使っている仕掛け式のワイヤートラップ、無数のレーザー式起爆トラップが起爆したのはこちらが聖堂付近の陣地の前に堂々と身を晒した時だった。
「い、いつの間に?!」
「貴様達がコレをやったのか?」
「な、何だ!? どうやって現れた!? う、撃て」
此処に来るまでの道中、榴弾砲で正確に破壊された馬車の幌を引っぺがして纏ったボロボロ外套“風”のマントを広げた瞬間、全ての銃弾が弾き返される。
機関銃だけではない。
現実でも米軍に使われていた白銀の流線形物体……M98【ヘヴィーレーザーマシンガン】の掃射までもがボロボロのカーテンにしか過ぎない灰色のソレによって反射し、無数の攻撃が次々に陣地に詰めていた男も女も関係なく穴だらけにしていく。
『ぎゃぁあああああ!?!』
『お、オレの腕がぁあああああ!!?』
『死にたくない。死にたくない!?』
「通して貰うぞ」
悠々と陣地を跳躍してスルーして聖堂の門前に到着する。
だが、左右から次々に現れた多数の兵。
あの【スチューデント・スーツ】を着込んでいた大尉達程ではないが、それにしても灰色のデジタル迷彩柄の野戦服に現代式のレールガン式のアサルトライフルで武装した集団が次々に発砲。
しかし、まるで最初から狙いが逸れていたかのように銃弾が弾かれた様子もなく悠々と歩くこちらから逸れてあちこちに跳弾し、同士討ちが発生。
「がっ?! な、何だ!? ど、どうして、ごほッ?!」
「射撃止めぇ!? 敵に弾を利用されているぞぉ!!?」
「良い兵士だ。だが、哀れだな」
そのセリフを呟いた途端、更に身体能力が上がったのが感覚的に分かった。
聖堂の扉を渾身の蹴りで吹き飛ばす。
ソレが聖堂奥のステンドグラスを粉砕し、キラキラとガラスが散っていく最中。
黄昏時の陽光がサッと差し込んでいる聖堂にはハッとした様子で部隊を周囲に結集させていた50代くらいだろう銀髪の男がいた。
ゆっくりと歩く。
そう、それだけであらゆる能力が引き上げられていく。
たった、それだけの事で能力が上がり続けている。
「貴様は一体、何者だぁぁぁ!!」
恐怖に張り付いた指揮官らしき男の絶叫。
しかし、歩くこちらの周囲からは待ち構えていた男達の機銃掃射の雨。
だが、当たらない。
グロックを二挺、腰から左右の腕でクロスさせるように引き抜いた。
勿論、そんなのは絶対に意味も無い動作だ。
しかし、それだけで単なるグロックの放つ弾丸の攻撃力は飛躍的に上がっていくだろう。
「う、撃てぇええ!!!?」
恐怖に駆られた男の絶叫でサブマシンガンの猛烈な掃射がこちらを包み込む。
だが、やはり当たらない。
何故か?
それは腕をクロスさせて、拳銃を持ったまま歩き続けているからだ。
“カッコイイ・ポーズ”を決め続けているからだ。
「何だぁ!? 何だぁ!? ど、どういう事なんだぁ?! ひ!?」
グロックの引き金を引く度、次々に何処かにいる兵隊達がその弾の跳弾先で倒れていく。
そして、残弾がゼロになった瞬間、拳銃をスタイリッシュにガンホルダーへ一度だけ回転させて戻した。
男達の掃射している機関銃の前に立つ。
だが、機関銃は当たらず。
最後に機関銃の今にも溶け落ちそうな銃口を掴んで頭部に当てさせる。
「ッ―――――」
度肝を抜かれた男達だが、機関銃そのものの発射自体が止まっていた。
まるで確率の女神に愛されたかの如く。
ジャムったのだ。
弾詰まりした重火器なんて何も怖くない。
「オレを殺したいなら、神か悪魔を連れて来い!!」
片脚をダンと石製の床に叩き付けた途端。
周辺が巨大地震に襲われたが如く罅割れていく。
『う、うわぁああああああああああああああああ!!!?』
『何なんだコレ?! 何なんだコレぇあああああああ!!?』
波及した災害クラスの振動によって陣地で次々に砲弾と銃弾の箱が運悪く爆散。
連鎖した爆発に巻き込まれた兵隊達が次々に吹き飛びながら無力化されて、地表に倒れ伏していく。
聖堂は崩れ落ち始め、屋根が崩落し、兵隊達を圧し潰した。
そうして、辛うじて残った小さな幸運のように指揮官が後ろに倒れながらも部下達のように瓦礫に潰される事もなく。
涙と鼻水を垂れ流しながら、目を剥いて放尿。
後ろに下がりながらガクガクと震えて離れようとした。
「き、きさ、きさまは、な、なんなん、だぁ……」
恐怖のあまりにも泡が吹き出した口元。
男の横の壁を蹴り付ける。
すると、蹴られた壁がゆっくりと後ろに倒れていく。
夕暮れ時の陽光がこちらを照らし出し、馬車で見付けたジッポでやはり馬車で見付けた葉巻に火を付けた。
「オレか? オレの名はガラーク。ただの傭兵だ」
「が、がら、ふ、不敬者めぇ!!? クソぉ!? け、賢者の窯、賢者の窯の力かぁ!? これが!? これがぁ!? きひ、きひひ、きひひひひ!!?」
気が触れてしまった男の言葉に眉根を潜めるが、今は“恰好を付ける事だけ”を優先しなければならないので訊ねる事も無く。
「さっさと此処から消え失せろ。クズ野郎……次に会えば、殺してやる」
「ッッッ、ぎひぃぃぃぃぃぃぃぃ!?!!?」
錯乱した男が遂にこちらに拳銃を撃ち始めるが、当たらなかった。
弾道が曲がっているのではない。
銃身が曲がっているのだ。
そして、男の腕が折れていたのだ。
それだけで銃撃は意味が無くなっていた。
それでも銃を撃ち続ける男に背を向けて悠々と瓦礫に辛うじて埋もれていなかった聖堂の中央を歩いて退場する。
もう、呻き声はすれど、こちらに銃を向けて来る者は無く。
久しぶりに吸ったヤニを吐き出して、ピンと後ろに弾き捨てる。
「このぉ!? われ、我ら、我ら偉大なる【アバンシア共同体】に立てつく気かぁ!? お前を!? お前を、我らは許さないぞぉ!? か、必ず!? 必ず滅ぼし、その力を手に入れて!? わ、我らは大陸に覇を唱―――」
見なくても分かる。
クルクルと弧を描いて後方に落ちていく葉巻はきっと……何処かに置いていた燃料が流れた室内の床に引火するのだろう。
―――爆炎。
『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――』
全てが炎に包まれていく背後では絶叫すらも焼き尽くされていく。
「ご高説は貴様らのお遊戯会でやっていろ。明日の夢を断たれた者達の代価くらいは持って行く」
何故か、いきなり墜落していた【ブラック・パイレーツ4】の飛行船500m級【ラウンズ・フォートⅠ】……昔お世話になった白銀の巨大飛行船が大爆発した。
まぁ、そういうMODなので仕方ない。
確率操作HERO‐MOD【Dynamite Fever】。
日本人開発者初のトリプルミリオン。
900万ダウンロードを記録したヘヴンの大人気MODだ。
このMODはヒーローになる。
ヒーローに敗北は無い。
ヒーローとは爆発である。
ヒーローは恰好を付けている限り死なない。
ヒーローは超人的能力ではなく雰囲気で生きている。
という4原則を主軸とするものであり、ゲーム内に独自解釈したスタイリッシュ度なる数値が導入される。
このスタイリッシュ度はどんな無茶苦茶な事でもカッコイイ限りは可能だし、カッコイイ限りはあらゆる力が主人公を補正して生かし、敵を破滅に追い込める確率操作を行う原資になる。
という……いわゆる確率操作チートMODの一種なのだが、撃ち合うFPS的なゲーム性は壊滅するが、ロールプレイングとしてのゲーム性は上がるという代物だ。
ゲーム内でくらい恰好付けたい。
恰好良い自分でいたい。
という、人々が“痛々しい古典的中二病じゃんwww”と嗤われていた時代に登場したこのMODは対人戦でこそ使われなかったが、誰もが望むヒーローとして世界に名を馳せて、人々を助ける事を正当化した。
露悪的なプレイングが蔓延った当時のヘヴンにおいて、これは激震を走らせたMODでもあった。
そのせいでちょっとだけ対人戦のマナーが向上したというのは小さな話かもしれないが、誰も“正義を嗤わなくなった”のは大きな出来事だっただろう。
全うに戦闘を愉しみたい層からすれば、要らない代物だが、ロールプレイングで愉しみたい人間にはバカ受けした為、一時期ヒーローごっこをしていた時にはお世話になっていた。
このMODの発動条件はゲーム内で特定状況下においてパスワード。
“It's party time”を高らかに宣言する事で起動する。
だが、このチートMODの一番悪いところは正しくパーティーが終わった後だ。
基本的にはこのMODは事件の終幕がAIに認定されて、何かしらの大きなものが爆発して終了するのだが、効果自体は永続なのである。
一度使ったら……いや、一度ヒーローを名乗ったら、最後までやれというのが開発者の意向であり、事件の終幕後はこのMODのデメリットの時間となる。
それはつまり、一般人になれというものだ。
ヒーローは誰にでもなれるものだが、その他の時間は一般人として全うに生きている事が求められる。
つまり、何が言いたいかと言えば、あらゆる能力が一般人レベル……ゲーム内的な処理で言えば、レベル1固定となる。
しかも、その間に得たスキルの類がまったく成長せず。
性質や他のMODで得た恩恵も全て最低下限で固定化される。
要は滅茶苦茶日常では弱くなるのだ。
これが更に他の日常的に必要なスキルや常駐型の特性にも反映される為、能力が上がらないままに日常を送らされる羽目になる上、戦闘状況でなければ、チートモードが起動しない為、うっかり即死するという案件が多発。
結果として、高難易度でコレを入れた場合、戦闘状況ではない日常で毒を持った食材食って死亡、毒を持った生物に刺されて死亡、病気になって死亡、怪我をして死亡、事件の被害者として巻き込まれて死亡というような事が多くなる。
まぁ、つまり高難易度でこんなチート使ったら分るよね?ということだ。
あらゆる能力が最低値になるせいでそれを自力でどうにかする事が難しく。
結果として単独行動を絶対避けなければならない。
なので、使う時は一番易しい難易度で使うし、常にオートセーブが必須となった。
初心者向けヒーローなりきりチートMODとして定着した。
「はぁぁ(*´Д`) これでオレも日常即死生活に怯える日々か。マジでネズミーに殺されそう……」
街を出ようとした頃には生き残っていた多くの兵達が案外死んでなければ動ける様子で爆発した飛行船に茫然としつつも、こちらを避けて、悲鳴を上げて仲間達を連れ、何処かへと退避していく。
物資が無ければ、そう長くは生きられないだろう。
「………そこらへんに……落ちてるな」
まだ無事な無線機を拾って、設定されていた周波数に声を載せてみる。
「降伏するなら、捕虜としての処遇を約束する。ただし、武装解除の上、全裸で投降されたし、投降時には北部陣地に白旗を持参の事」
自分でも甘いとは思うが、思っていたよりも被害が大きい現場でこれ以上死人を出しても面倒なだけだろう。
そして、こんなMODにも弱点はあって、戦闘行動中の相手の攻撃に対して無敵になる状態を維持する為には常に“カッコイイ事”を要求される。
スタイリッシュ度が下がると攻撃が当るようになる。
結果的に上手くいったとはいえ、恨みを買ったまま終わりにしたら、更に暗殺の可能性に怯える必要がある以上、後処理は自分でするべきだろう。
ヨタヨタと複数の全裸になった男女が傷付いた体に何とか包帯代わりに何かを巻いて白旗を上げつつやってくるのが見えた。
さすがにあまりの理不尽さで戦意が尽きた様子なのは見れば分かる。
恐らく、一部は逃げるだろうが、それは辺境伯様とやらがどうにかするだろう。
だが、ふと後ろを振り返ると急ぎらしい馬車が駆け付けて来るのが見えた。
その窓からは滅茶苦茶見慣れた顔がひょっこりと飛び出している。
「ピュギィイイイイイ?!! ガラークさぁああああん!!(≧▽≦)/」
滅茶苦茶笑顔の人豚少女の馬車の背後からは次々に魔法陣で浮いた馬車がやって来ていた。
どうやら、即死はまだしなくて良さそうだ。
と、安堵に溜息を吐く事となったのである。
勿論、これもエロMODの一種。
夜に親しい男女が“大人のパーティーをするだけ”の些細なドーピングMODでもあるという事は公然の秘密であった。




