第3話「おじーちゃんとエロMOD先輩」
エロMODガチを一般MOD(真)で封殺したら、何故か“しょくしゅだいすきおー”の称号を得てしまった翌日の事である。
猫の城の連中に新しい仲間(拾得物)を紹介したら、メソメソ感情が設定された少女が泣いているせいで物凄く猫達からジト目で見られたのも何のその。
そのこちらを滅茶苦茶睨んで来る褐色美少女アルファ=サンを連れて猫の城の地下施設の見学をする事になっていた。
所有権を主張した以上、もはやこちらに対して所有者の不利いなる事は出来ないという生体端末特有のロックが掛かった彼女は何度も涙目で電波を別の自分に送ろうとしていたが、ガクリと挫折して今や虚ろな視線を振り切って、この野郎を必ず地獄に落としてやる的な瞳でこちらの情報を少しでも集めるべく付いて来ていた。
「それで? どうするつもりですか?」
「つもりにゃー?」
「ああ、今日は地下工場稼働記念だからな」
「こーじょー?」
「何でお前が知らないんだよ。いや、どうせ全部中尉に投げてたんだろうけど」
「にゃ~~♪」
「誤魔化してもダメだからな? はぁぁ、取り合えずガラクシオ跡地の報告は受けたし、すぐ行きたいところだが、今日は自分で確認しておきたいのもあって此処に来たんだ。ちょっと待て」
「確認とは?」
昨日、下腹部と心臓と背骨と口に触手を同化させられて突っ込まれた状態で改造が終わった後、死んだ魚の目で猫の女子達にイソイソ可哀そうにと運ばれていったアルファは現在、辺境の女性用のスタンダードなパッチが当てられまくったデニム地のドレスを着込んでいた。
「お前が昨日見た通りだ」
「……辺境に何を呼び込んだのですか? 諸悪の根源」
「酷い言われようだな。大昔を知ってるお前なら【ジグラット】の名前くらいは聞いた事あるんじゃないか?」
「な―――」
思わず棒立ちになった彼女がすぐにツカツカとこちらの横に付いてこちらを睨み上げて来る。
昨日とは打って変わって感情的なのは感情の項目設定と調整のおかげだ。
本来、こういった繊細な人型知性への干渉は専門機材が必要なのだが、メンタル・イエーガーが便利過ぎて、代わりとしてはしっかり機能していた。
「ジグラット?! 500km級を呼び込んだのですか!? マスター!!? ハッ(゜д゜)」
思わず口を自分で押さえるアルファ=サンである。
「マスターと言いたくないなら、名前で呼ぶ事だ」
「う、く、卑怯者!! 社会のゴミ!! ゲス野郎!! 触手好きの変態!!」
「あれぇ? 不利益な事は出来ないはずでは……(・ω・)?」
思わず首を傾げる。
「にゃ? ごしゅりんはののしられるとうれしいへんたいと“てーぎ”されているきがするにゃー」
「その通りです!! こんな罵倒で喜ぶなんて変態!! 貴方の心を必ず殺して見せます!!」
「早くも人の心を削りに来るウチの子とか。どーしろと(´Д⊂ヽ」
ガクリと思わず膝を付くと喜々として更に罵倒が飛んで来た。
「はぁぁ~~(*´Д`) はいはい。音声報告はしばらく止めてましょうねぇ~~」
一応、命令は可能なのでそう言った途端に口をパクパクさせた彼女が更に『この卑怯者~~!!』と罵っている気がしたが、取り合えず地下に向かった。
猫の城は此処最近の激変において一番変化した場所だ。
特にジグラットの艦橋が墜落した事で得られた大量のドローン及びその現物のパーツを組み立てて、一部ジグラットのパーツで天井付近から四方に立てていた監視塔を接続していた。
(ま、パーツ接続で延伸出来る範囲なら囲い込めるから、街を完全に防衛圏内に出来れば、艦橋のみでもある程度の護りは敷けるだろ)
この作業によって塔と接続されている壁もジグラットの一部と見なす事で延伸工事を通じて面倒なドローンの制約を回避。
石造りの建物のあちこちに金属パーツを延伸する事で猫の城内部の地下にまで工事の即戦力としてドローンを呼び込んだのだ。
(ホント、何で落ちて来たんだか。ドローンは助かるが、それ以上の厄介事だよなぁ)
博士達特性の【イノセント】と呼んでいるAIドローン達はこの機にジグラットにあったパーツで更に強化され、現在は街中の石製の建物を崩落して来たパーツを形成してジグラットの一部として延伸する取り込み工事へと邁進している。
事実上、壁が必要無くなったアルマートだが、外とは地続きのままなので地面の下にパーツを張り巡らせ、小地域の地下や地表を艦橋に取り込む事にしたのだ。
(マジで墜落で街が潰れなかったのは不幸中の幸いだったな)
結果として、現在アルマートに通じる河と道以外の特定の領域。
ジグラット艦橋の大部分は見えないように偽装、立ち入り禁止区域指定された。
落着した艦橋の地面との間にある罅割れが街道と被っていたおかげで物流はまだ止まっていないが、諸々の工事は流体金属で偽装された巨大な壁やトンネル……ジグラットの破断部位に限って補修、補強が偽装の裏側で続けられている。
「~~~!!?」
「いいにゃ?」
「ああいう地味な罵倒は心に悪いのです(´・ω・`)」
「そーされてもしかたにゃいことをしてたようにゃ?」
「気のせい気のせい(`・ω・) さ、地下行くぞ~~」
こうしてイソイソと猫の城に延伸された艦橋構造のパーツを継ぎ接ぎした地下通路を抜けると今までの道幅が嘘のように広大な体育館倉庫が数個分くらいありそうな地下壕に出た。
「お~~ひ~ろ~い~にゃ~~」
山彦が聞えそうなくらいの広さは確かに在る。
「そりゃな。ここ数日で補修強化以外のドローンをバンバン増やして増築してる地下設備だからな」
「つちは?」
「全部押し固めて街の壁の周囲の土塁にしてるだろ?」
「ああ、どろーんがやってるあれにゃ?」
「~~~?!!」
「ちなみに此処は第1地下壕層だ。他に6つの地下壕を猫の城の下に放射状に並べてて、通路を環状線上に配置。輪の周囲に並んだ地下壕は更に小さな地下壕で繋げて、その構造を更に地下に連ねてる最中だ」
「つまり?」
「今現在、猫の城に詰めてる連中とあの地下モールにいる連中以外はほぼ訓練に回せてる。建設はドローンにお任せ状態。ま、重労働から解放されたと思えばいい」
「お~~~!! うれしーはなしにゃ~~!! そーだったのにゃ~~!!」
「そーだったんだよ。はぁぁ……中尉が全部仕切ってるなコレ……今、猫の城の寝床を地下へ移してる最中で直通のエレベーターと階段も複数建築中だ」
持ってた端末に全体構造を見せる。
正しく放射状に並べられた縦長の体育館が複数本地下に向かって延ばされているのが分かっただろう。
「おぉ……ねこのしろよりもひろいにゃ!! でっかいにゃ!!」
「~~~?!!」
「で、今は此処にモールの設備とコンテナを運び込む巨大な九十九折状のトンネルも掘ってる最中だ。これが完成したら、大型のコンテナや機材が楽々入れられるようになる」
ジグラットの内部にあった宇宙テック基準の端末を取り出してホログラムで全体構造を虚空に投影してみる。
「ふむふむ♪」
「そしたら、一番上にはお前らや研究班の個人部屋と武器庫と弾薬庫と食糧庫を連ねて、その下の地下壕層は研究室と実験室、更に下は生産設備と空調及び動力炉を入れる事になる」
「おぉ~~~ひみつきちにゃ~~♪ ひみつきち~ひみつきち~♪」
どうやらワクワクしっぱなしらしい。
「どうせ、全部廃材になるジグラットのパーツだ。補修と補強に使う以外は殆どゾンビやディノ化動物に食われるから、それを倒して金属資源も回収する」
「ほうほう?」
「街の横で精錬用の炉をジグラットの廃材で博士達が設計、ドローンがさっそく拵えてくれたから、そこで金属資源を溶かして金属細胞を浄化する」
「おぉぉ?」
「それで更に補修と補強、街の取り込みと地下施設の建設を進める。余った端材は全部工房の武器生産に回す事になると思う」
「ゆめいっぱいにゃ~~♪」
「蟲は全部シャットアウト出来るらしいが、出入口や地下から入るのは避けられないらしいからな。そこは今後の課題だな」
「ごしゅりん。ぐっじょぶにゃ~~」
「………(/ω\)」
横では『絶対マズイよコレぇ……』みたいな顔で遂に頭を抱えたアルファ=サンがプルプルしていた。
恐らく、アバンシア共同体の本国並みに国力増強しているのを知って愕然としたのだろう。
「今は電源ケーブルを入れてる最中だ。ま、この壁は仮組みだから、その内に溶かした鋼材で少しずつ置換していく事になるだろうけど」
「あ、見えて来た」
今まで喋りながら大きな空間の端の通路を下っていたのだが、ようやく目的地の豪が見えた。
「ッッッ??!!」
内部では……12ダース近い明王号の元々の形である【MYOU-OU】が組み立て作業用の機材の電源が通った広い豪の中央で次々に組み立てられ、お手伝い用である民間の運搬ドローンが大量の物資を運び込み続け、銃弾や諸々の消耗品を装填。
次々に品質EXのヤバイ・ドローン兵隊を量産していた。
「お~~みょーおーごうにゃ~~」
中には明王号と同じカスタムで更に改良したモノが複数存在して整列中であった。
特にカーゴ部分が二倍近く大きくなって伸びている。
「明王号は量産中だ。主にスチューデント・スーツ着用者の運搬と一部人員の送り迎えに滅茶苦茶時間が掛かるのを何とかする為だな。街中にもコイツみたいなヤバイのが来ないとも限らないし、出入りする生身連中の護衛だ」
「おばさんずやはかせたちやえーらやすみゃーな、みすてぃーくようにゃ?」
「そういう事だ。死なれちゃ困るからな。勿論、従来の複数の猫による護衛も同時に行って貰う。こっちは速度と防御力重視で、攻撃力は二の次だ」
「う~~ん♪」
「―――?!!」
「事実上は超高価格馬車だな。カーゴは増設して2倍の広さで7名までサブシート込みで入れられる大型化。病人や怪我人の搬送も出来る生命維持装置もあのモールで見付けたから積んである」
「いたれり、つくせりにゃ♪」
「代替部品が無いから部品取用に何機か残してあるとはいえ、こうして並ぶと壮観だな」
「そうにゃ?」
「博士達が同じようなのを作れて量産出来るまでは使い切りになるから、あんま壊すなよ?」
「はいにゃ~♪」
「攻撃手段は全方位に打ち込める高速回転変形式のレーザータレット12門をカーゴ周囲に装着。シールド発生装置は3倍の出力、明王号は装甲を4割増し、全てのサブアームをレーザー投射機と小型のシールド発生装置を付けた盾で全身とカーゴをガード出来る仕様だ」
「っ~~~、すてきにゃ~~♪」
「ッッッ!!!?」
大尉の目は正しくお宝を見付けた如くキラキラしていた。
アルファ=サンは『何てものを!!?』みたいな様子でプルプルしていた。
(こーいうところだけ男の子というか。軍人だった頃もこーいうの好きだったんだろうなぁ)
そういうところは子供っぽいとも思う。
普段の言動が舌っ足らずで分かり難いが、大尉はかなり頭の回転は速い方なのだ。
いつもダラダラしたり、自分の感情に素直に行動しているだけで。
「複数のスーツからの電力供給があれば問題無く動くのは確認済みだ。AI認証は全部オレとお前と中尉で統一済みでもある」
巨大化した明王号のカーゴは正しくコレから傭兵家業でも大活躍する予定の移動車両……いや、小型のマイクロバスみたいなものだ。
「よしよし(´▽`) これなら大丈夫そうだな。中尉達のところにさっそく【明王号MarkⅡ】を奔らせたし、通信網もセントラルの端まで届くようになったし、此処からだな」
「ここからにゃ~♪」
「AI式で金属製の監視網と検問所も4か所の出入口に設置中だ。これで心置きなく留守にしても大丈夫……だと信じたい( 一一)」
「しんじられないにゃ?」
「コイツみたいなのが1人とは限らないからな」
アルファ=サンを見やる。
「!!!」
滅茶苦茶頬を膨らませて不満を表明していた。
完全に感情に支配されたAIの出来上がりである。
「ふぅ。喋っていいぞ。あ、罵倒はしてもいいが、3時間に1回とかにしてくれ」
「~~~ッ、鬼畜!! 外道!! 鬼!! 悪魔!! ガラークみたいなヤツ!!!」
「もはやオレ自身が罵倒語なの?! 第一声がソレとか……はぁぁぁ(*´Д`)」
「あの邪神を従える貴方を倒す日まで絶対にあきらめません!!」
【あ、この子には色々と教えたり、色々と情報を渡しておきますわぁ。“色々な条件”と引き換えに……うふふ】
脳裏に邪神の声が聞えて来る。
(もうどうにでもしてくれ。つーか、絶対ロクでもない事になるな(´ρ`))
こうしてげんなりしながら、“秘密基地”を案内して、将来的に自分が任せられる場所を二人の少女達に見せて解説する事になるのだった。
*
―――『猫の城』技術研究室。
“ここは猫の城の地下……ほぼ住み込みの三人の老齢の人間【博士】達の住まう場所……”
『ん~~やはり、メンタルちゃんの構造は難解じゃのう』
『左様。しかし、ロイヤーちゃんの知識でかなり解析は進んどるな』
『研究のしがいがあるわい』
“三人の博士は巨大な数メートルはあるだろう脳髄のような形状であちこちに金属インプラントを埋め込んだような形になりつつあるソレの周囲で機材の調整に勤しんでいた”
『機能制限が入っておるとはいえ、太古の遺産を弄れるデバイスとしては優秀じゃな』
『英雄殿の御所望だったメンタル・ブレイカーの機能はほぼ研究が終了』
『後は銃や猫達の攻撃用近接装備に載せるだけじゃな』
『うむ。それにしてもまさか古代の生体端末を弄るのに使うとは……』
『データも取れてホクホクじゃわい』
『確かに……あの子の身体データでより一層マシンナリーの調整や制御系の強化が捗る』
『諸々の諸種族に入れられる汎用性がある。かなり売れるはずじゃしな』
『金属資源は今も落下してくるジグラットとやらの破片から大量に回収出来るはずじゃ』
『それを通常の金属資源に混入させて強度を上昇させつつ、嵩増し』
『削り滓は全部再利用じゃからな……これで猫達の分どころか街の住人全員分のマシンナリーの予備パーツを完成させられるぞい』
『あの“ミスティーク・パーツ”とやらを多少解析出来たのも大きいしのう』
『駆動系に関係無いブラックボックスが多過ぎなんじゃよ。一体、何を詰めとるのかのう。本当に英雄殿は持っておる。誠に“幸運”じゃな』
『『うんうん(*・ω・)(*-ω-)』』
“技術が遅れた辺境よりも進んだ科学力を持つセントラルでさえ、現在は機械化された義肢の多くは汎用ではなく種族毎の専用のものしか開発されていない”
『そう言えば、他のジュール・イエーガーとボルト・イエーガー、グラビトロ・イエーガーはどうしたかのう?』
『アレだけは複数回の修理が必要だったからな』
『第二次修理が終わった時点で戦力化して、ヤバイのが来るまで畑横の駐機場に放置じゃぞ』
『ま、もしもの時は猫達に動かし方は伝えてある。運用は出来るじゃろ』
『左様。そもそもアレが必要になるとしたら軍隊が攻めて来る以外の理由が無い』
『スチューデント・スーツに使われておる無限機関の大型版を積んでおるからな。稼働は破損個所さえ治っていれば、可能じゃしな』
『アレを倒した蜂はやはりヤバイのう。逆にアレを制御出来れば、かなりの戦力を見込めるのではないか?』
『ふぅむ。今、英雄殿からタンパク質の合成増殖機器の開発を頼まれておるし、此処は一つまたロイヤーちゃんに教えを乞うかのう』
『『漲るぅぅぅぅぅ(*|ω|)(*◎ω◎)♪』』
“今や博士達は表向きは妙齢のムチムチ・エロ・ボデーな超絶美女に見える本当は七つの瞳を持つ能面尻尾尽き邪神にマッサージされる事により、更なる知性の増強を行われていた!!”
“ソレを彼らが識るのはいつの事か誰も知らない”
―――同時刻『猫の城』駐機場。
“一方その頃、猫達もまた鍛錬に励んでいた”
『にゃっご~にゃごにゃご、にゃごごごご~~』
『『『『『『にゃっご~にゃごにゃご、にゃごごごご~~!!!』』』』』』
『にゃごにゃ、にゃごにゃ、にゃごごにゃにゃ~~』
『『『『『『にゃごにゃ、にゃごにゃ、にゃごごにゃにゃ~~!!!』』』』』』
“超絶重い荷物を背負っての走り込み、格闘、建造物や障害物を使っての銃を持ったかくれんぼ、ロープ昇降、銃の組み立てと解体、筋トレ、狙撃、嘗て1人の男がレンジャーをしていた頃の焼き回しである”
『にゃご~~……』
『なうなう……』
『なーご?』
『なごごーご?』
『にゃぐらっしゅ!! しゅしゅ、しゅしゅしゅ!!』
『にゃごごごご♪』
“例え、余人には分からない猫語だろうと彼らの間には意思疎通が成立していた”
“喋れる大尉や中尉と名前を貰った者達以外も言葉は聞き取れるし、理解出来るので決して知性が下がってるからと言って頭が極端に弱いわけではない”
“そんな彼らが冗談を言いながら休憩時間の談笑に興じていると……”
『にゃご? にゃごーごご?』
『にゃ~~~?』
『にゃしゅ!! にゃしゅ!!』
『ぐーにゃ? ぐにゃーにゃ?』
『にゃるぅ~~?』
“一匹の猫があの強そうなドローンは何処に行ったの?と同僚に訊ね”
“アレはきっとまた博士達が弄って直してるんだよとその猫は答えた……憶測である”
『にゃーご。にゃごご……にゃ!!』
『にゃるぅ~~♪』
“後で女共に隠れて街の美人引っ掛けに行こうぜと片方は言い”
“なーいす♪と片方は答え……耳の良い女性陣の中でもその男達と伴侶の関係にある女猫達が後ろで聞いているとも知らず”
『『ぉ、ぉ〇んこぉ………(^◇^)』』
“彼らは夜に搾り取られて干乾びる事になるのだった”
“畑横の駐機場。いつもは明王号が鎮座する其処にはいつもいるはずのヤバイ・ドローン達の姿は無く……しかし、誰も消えた事に気付かなかったのである。
*
―――辺境東端【無名台地】。
“近頃、多くの勢力が辺境に注目する最中、一つの組織が辺境東端の巨大山脈が連なり始める荒野の端に集結していた。”
『長……【絶尽の御手】総員集結致しました』
『今回の依頼はセントラル【七つの境界の丘】からのものだ』
『先日、ドローン師団が大打撃を受けて併呑しようとしていた【破棄の楽園】を墜とし損ねたと聞きましたが……』
『そうだ。その時、彼奴らのドローン師団を阻んだのはたった一人の男と一騎のドローンだったと情報では聞いている』
『まさか? 腐ってもセントラル。破棄の楽園の戦力では無かったのですか?』
『ああ、後から情報を収集した者達から傭兵を雇ったとの話を聞いた』
『傭兵? セントラルだと師団規模を相手に出来るのは【カリゴタ】【エゼルベス】【騎乗者】【善き行いのハクリア人】辺りですが……』
『1人と1機だろ? 有り得ない……さすがの連中もそこまで理不尽じゃないだろ』
『長よ……辺境の英雄【反逆のガラーク】ですな?』
“その1人の男の声に多くの者達がざわめく”
『その通りだ。楽園の国庫の2割が消えたと報告が入った』
『ッ、例の?』
『さすがに噂だと思っていたが……存在するのか?』
『そもそもやり合ったはずの“お人形連中”が口を閉ざしてる』
『辺境領域の荒くれが根こそぎ徴兵で消えた後、戻ってこないとは情報屋が話していたが……断崖のアルマートをセントラルの【円卓】に推薦した話とも関係が?』
『静まれ……事実だけを話そうか』
『……それで本当に例の噂の?』
『ああ、そうだ。アバンシア共同体辺境軍の3割が消えた事を確かな情報として確認している。機甲戦力は全滅したが、残りの7割は武装と重火器、車両をロストしつつもほぼ無傷で帰還したとの事で……事実上は敗北したと見ていい』
『嘘だろ? アバンシアの機甲戦力を?』
『数万規模の攻撃を辺境が耐えられるものなのか?』
『まさか、今回の仕事は……』
“そこでようやく集結した者達は自分達が何の為に全戦力とも言えるだろうだけの人員を集めさせられ、結集したのかを悟った。”
『今回の目標は反逆のガラークだ。難民に偽装し、断崖のアルマートに潜入。そのまま全ての関係者を皆殺しにし、難民の仕業に見せ掛けて逃走する』
『殺せますか? 噂ではあの“スーツ”の重火器を数十分も浴びても戦ったとか』
『こちらが聞いた話では、あの辺境に巨大な光が降った時にアバンシア辺境の将軍を1人討ち取ったという話も……』
『こっちの話じゃ、辺境の蜂を全部、炎や電撃で焼き殺して、女王も複数倒したって噂が……』
『さすがに眉唾だろ? 蜂は疫病か何かだろうし』
『オレのところだと商人達から重火器やその部品の製造をし始めて、辺境の武器生産工場の元締めになってるって言ってたが……』
“彼らは口々に自分達が効いた噂、情報屋から仕入れた話を共有し合い、何処までが本当なものかと首を傾げつつ、ヒソヒソと相手の底知れなさを語る”
『静まれ。現在、大陸中央域から3つの母集団が難民としてこの一帯に流れ込んで来ている』
『例の大陸中央領域の“大戦”の結果ですか?』
『ああ、中央領域のヤバイ種族共が【マキナーズ】に敗れたり、各地での小競り合いや戦乱で国を追われたとの事だ。今後、順次連中が到着するだろう』
『これから中央ベルト地帯はAIが幅を利かせる地域になりそうだな……』
『数日中には先遣となる者達がこの辺境最東端である無名台地に到達し、そのまま進めば、険しい山岳部を超えて街道とは完全に真逆の荒地から流入する事となる』
『つまり、難民と偽るのは決して無理ではないと?』
『そうだ。中央の負け犬とはいえ。それでもセントラルに比肩する技術力と科学力を持った集団が流浪の民として流れて来るのだ。どうやら各集団とも一枚岩ではなさそうだが、今後は顧客が増える事も考えられる』
『金は持って無さそうでは?』
『馬鹿、技術を頂くんだろ』
『我ら【絶尽の御手】は古来より辺境とセントラルにて汚れ仕事を行って来た。しかし、先日の辺境の大変動、大異変……気付いている者もいるだろうが、巨大な魔力が大陸を流れ始め、星すら降って来ていると聞く』
“その事はその場の誰もが実感していたことであった。”
“何故なら彼らは中央で日陰者となった魔法使いで構成されていたからだ。”
『確かのあの頃から一気に魔力が増えましたな。何処の結社も喜んでいるとは聞きますが……』
『環境の大異変と共に再辺境地域には魔力の濃い場所が出来ている可能性も指摘されているのは一部知っている者もいるだろう』
『まさか? 長よ?』
『そうだ。我らが旗揚げの時は来た!! 今回の報酬は凡そ12億……これを軍資金とし、魔法勢力を立ち上げ、我らの領域を得るのだ!!』
“どよめきが奔り、多くの魔法使い達は目を輝かせる。”
“日陰者となって朽ちていく自分達の国……それは正しく夢であった。”
『おぉぉ!? 何と壮大な!!』
『長よ。ですが、この領域は既に断崖のアルマートが各セントラルに領土主張しているのでは?』
『そうか。つまり、それも含めて、今回の一件で片付けてしまおうという事なのですね!!』
『さすが長だ!!』
『苦節500年……我ら暗殺家業の者が報われる時が遂に……ッ』
『これより【絶尽の御手】は新たなる時代に入る!! 辺境を手中とし!! 英雄を打ち倒せば、後は裏より我らの思うがままだ!! 我らが魔なる法500年の研鑽にて辺境は魔都と化すだろう!!』
『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――』
『さて、では、まず―――?』
“その時、不思議な事は起こらなかった。”
『体が、重―――ペァ』
『な、何だ!? か、体が!? 動かな―――コパ』
“人間が自重でペシャンコに潰れて赤い血の染みとなって地面に次々と白と臙脂色の絨毯を敷き詰めていく。”
『な、何が―――カパ』
“まるで咲き乱れる華のように彼らの多くは何を出来るでもなく……ただ潰れて生命活動を停止し、自分達の上空にゆっくり落下してくる星型の何かを確認したものは誰もいなかった。”
『にゃっごにゃっご、にゃぁ~~』
“その数mはあるだろう星型……メンタル・イエーガーによって修復されたAIを持つ勢力を絶対に滅ぼすモノ……空より飛来する太古の機械の一つであった【グラビトロ・イエーガー】の真上から声が響く。”
『ふぁぁ~~にゃご……』
“マニアクス・ニャァンの老人が1人……機械を埋め込まれた体をだらけさせて眠そうに欠伸をしながらスィ~~っと最辺境周辺の無人の荒野を進んでいた。”
“積雪が残る山脈が遠方に見える東部の最奥付近には獣すらも少数だが、複数の大型竜類は存在している。”
“アルマーニアと呼ばれる竜種こそは辺境を辺境たらしめる要素の一つであり、人の住まう領域の果てである断崖のアルマートの名前の由来でもある。”
“そして、それこそが航空機械の殆どが辺境において役に立たない理由の一つでもあった。”
『ギィッ、ギュァアアアアアアアアア!!!』
“全長120m近い最大規模の個体が複数群れを率い、生息域を点在させる様子は紛う事無く魔窟……ソレが老人の載る星型を見た時、侵入者だと襲い掛かって来たのも無理はない。”
“今まで竜達の楽園だったのだから……そして、1匹の彼らの主たる竜が消息を絶ってから数日以上……統制が取れなくなった群れは拡散し、新たな竜の時代を築こうとしていた。”
“だが、それは……1人の小さな猫の老人と彼が床代わりにした古代の叡智に阻まれる。”
『ギッ、ギシュアァアアアアアアアアアアア?!!!?』
“竜達が次々に墜落していった。”
“自重で地面に叩き付けられて爆砕した個体もいたが、半数は未だ無事に着地。”
“だが、その残った猛者達すらもが巨大な熱線の薙ぎ払いによって首を焼き落とされ、超電圧、超電流の雷撃で動きを拘束され、次々に倒されていく。”
『―――――ッッッ!!!!』
“それでも数匹が浮かぶ星型の機影に超高速の振動波を開口した喉奥から放つ。”
『あふ……にゃぁ~~~♪』
“しかし、全ての振動が空間の歪みによって拡散し、空に空しく散った後。”
“近辺で襲い掛かっていた竜の全てが首を焼き切られて地表に屍を晒した。”
『にゃーご。にゃっごにゃっご、にゃにゃ』
“老猫は何と指示したのか。すぐにその死体が殆どの血の一滴までもがフワフワと浮かび上がり、星型のドローンに牽かれるようにして移動を開始した。”
“地表には他にも二体の数m級のドローンがいる。”
“が、その姿は見えない。それは重力による光波を屈折させる隠蔽【重力式光学迷彩】とでも言うべき能力であった。”
『にゃごぉ~~にゃ?』
“おじいちゃんと猫達から言われる男の体に異変が起きる……ソレは無数の敵を【道具ドローン】によって屠った故に得られる経験のせいだ。”
“今もボケて食料が足りないとの話を聞いて狩りに来ただけのご老人……。”
“うっかり偶然にも修復が間に合っておらず、重力制御の未だ甘いドローンでやって来て、全ての暗殺者を蟲のように潰した彼の頭部に雄山羊の如き背後へネジくれた鮮やかな蒼い角が生えていく。”
『にゃ~~~?』
“頭に触れた彼が首を傾げ。”
『あふ……ねむいのじゃ』
“欠伸をした彼は指を弾いた。”
“すると、今までよりも素早く……否、何かに急かされたかのようにドローン達は高速で自分達の住処へと戻っていく。”
“【権能】”
“大陸に知られている魔法体系10種の内の一つ。”
“【権能】は一つの分野の一つの事象に対しての絶対的なアドバンテージと称され、肉体に得意な器官と共に発生する極めて稀な代物だ。”
“そこには他者との圧倒的な隔たりがある。”
“それはその分野に対しての才覚があれば、発現すると言われているが、発現した【権能】は能力が得られたり、ステータスが上がるという代物ではない。”
“【権能】とは例えどんな状況、どんな場所、どんな時間だろうとも【権能】として発現した分野の一つの事象に対しては運用者個人の行動が圧倒的に上手くいく。”
“一部の事柄に対してだけ、己に都合の良い結果が起きる事象の確率操作……つまり、ダイスを振れば常にゲームで最も優位な値、六面ダイスなら最大値の6が固定値で出るという状況になる事をそう呼ぶ。”
『うむ……老後は寝て過ごすのじゃ~』
“穏やかな寝顔で持ち込んだ枕でスヤスヤし始めたご老人は知らない……己が嘗て辺境最優の将であった事も……1人の傭兵を本当の意味で追い詰めた事も……殺し損ねた事も……全ては忘れた記憶の彼方。”
『ごしゅりんのためにぃ~~♪』
“【権能】‐軍略家‐”
”……未だ大陸に認定された【権能】の保有者に同じものを持つものはいない。”
“ただ、嘗てシアーニア・メロト・グイナスと呼ばれた猛将は今や亡く。”
“そこにはただのおじーちゃんがいるだけであった。”
『た、大量のド、ド、ドラゴン肉だぁああああああΣ(゜Д゜) 何でもう倒しに行くはずだったヤバイ・ドラゴン=サンの生首と死体があるの!? 怪異!? 怪異なの!? 何のMODの仕業だぁああ(ノД`)・゜・。』
“翌日、1人の男が出発しようとした明け方の事、新鮮出来立てドラゴン死体30体分……120m級3体、30m級27体が出現したアルマートの事実上の入り口である東向きの街道終点の検問所前でいきなり上空から降って来たソレらの処理で多くの者が右往左往する事となる。”
『すやぁ……( -ω- )』
『あいかわらずねてるにゃ。おじーちゃん……ほんとうにがいはないのかにゃぁ? にゃ? こんなつのはえてたかにゃ? ま、いいにゃ……ごしゅりぃ~~ん。いまいくにゃ~』
“数日居なかった事も見てないだけだろうと考える大尉の前では猫の城のベンチで枕を持ち込んで眠るご老人が……一仕事終えたような笑顔で夢見ているのだった。”




