第1話「恐竜の呪いとエロMOD」
―――灰燼都市【京都】サーバーエントランス?年前。
『ホント、エロMOD先輩って詳しいっすよねぇ。その手の事』
サメのヌイグルミなアバターがそうヒレをぺちぺちさせて虚空で笑う。
『これでも随分と長くやってるからな』
応えるのはこちらが操る紅の骸骨アバターだ。
サーバー経由のプレイヤーエントランスは円筒形の空間の中心にカウンターがあり、周囲が企業広告やMOD広告、商品広告が占拠する騒がしい場所だ。
ゲーム内時間を止めてイケる唯一の他世界との出入口。
此処から各地にあるサーバーを経由すれば、世界を渡り歩きながらアイテムを収集する事も出来るが、デフォルトのもの以外は自身のゲームに入れているMODアイテムでなければ受け取れない仕様になっている為、そうして行脚する人々は多くない。
『サメMOD先輩君はマジでB級映画の事なら全部知ってるだろ? それと同じだって』
『あははは、こっちは趣味っすよ~~。貴方みたいにゲーム内仕様を見ただけで殆ど判別出来る廃人て程じゃないですし、自分でMOD作っても全部サメだし~』
サメが今度は尾ひれをグネグネさせて笑う。
『今日はこれから?』
『ああ、触手迷宮にアイテム漁りに行こうかと。友達にお勧めされたので』
『ああ、彼女のサーバーかぁ……気を付けろよ? いや、あっちもサメはさすがに襲わんだろうけど、あの人、美少女にしか興味無いし』
『う~~ん。さすが、おっさんしか行かないと噂の超怖無配布私的MOD世界……マジで女は入ったら悲惨って聞きますけど、アレ本当なんですか?』
『ああ、マジで何も知らない一般の少女が意識投射で入ったら、廃人一歩手前で救出されて、その時に警察沙汰になってから、あの人のサーバー入る前には規約30枚見せられて同意するか尋ねられるからな』
『ああ、それであんな枚数の書類に電子サインさせられてたのか……危ないんじゃねーのって聞いたら、美少女アバターのプレイヤーは襲われても文句言わないって同意するだけだって言ってたけど』
『でも、あの人のMODはマジで神掛かってるからな。配布しないのも自分専用にチューニングしてるだけで他人に見せる為のものじゃないからだし』
サメがほぉ~~と感心した様子になる。
『エロMOD先輩はお知り合いなんですよね?』
『ああ、昔一緒にちょっとMOD開発関連のサーバー会議で知り合ってからの付き合いだから、もう数年になるかな』
『へ~~じゃ、行ってきま~す!!』
『ああ、一つだけ注意しとくな』
一応、先人として忠告だけはしておく事にした。
『はい?』
『あの人のMODの効果。一度でもサーバー経由で接続すると戻らなくなるから。殆ど無害ではあるんだが、設備系MODに分類されてるもんを使う時は気を付けろよ? “触手化”や“迷宮化”するかもしれんから。オレは天然物の迷宮ですぐヤバイ事になったからロールバックしたけど』
『ま、マジですかぁ……』
『ま、よっぽどに高レベルの構造体や設備じゃないと発現しないように一応ストッパー掛けてるから問題無いさ。“品質EXの人造迷宮”なんて、あの人以外界隈じゃ見た事無いし……』
『うぇーい。気を付けま~~す!! じゃ、また今度!!』
『ああ、君のMOD愉しく使わせてもう。サメMOD先輩君』
―――辺境【断崖のアルマート】。
「う~~ん。さめもっどせんぱいくん……」
「ガラァアアアアクサァアアアアアン(´Д⊂ヽ 起きてぇえええええええ!! 超起きてぇえええ!? 起きて下さいぃいいいいいいいい!!?」
「ハッ!?(゜Д゜)」
あわや爆発オチENDでこの第二の人生っぽいものも終わりかと思っていたのだが、どうやら違っていたらしい。
最後に街へあの数十km級の破片が落ちて来た事は確認したのだが、それ以降の記憶がまったく無かった。
「……ひかり?」
真上を見上げる。
すると、ドーム状に多層と重ねられた黄金に輝くリングの群れが街全体を覆って回転し続けていた。
倒れていた猫達も起き上がって来た様子で周囲を見て、キョロキョロし、あ、あれは何にゃーみたいな\(゜ロ\)(/ロ゜)/感じで右往左往している。
各地の情報を収集し始めたのを見て、今の周辺環境……空が見えない街の周囲に次々と空が映し出されていくのを確認する。
「?」
思わず首を傾げた。
リングが映し出しているのか。
映像が切り替わると周辺の知りたいと思っていた状況が次々空へと映し出される。
「あ、そういう……まだ簡易AIは生きてるのか……」
「ど、どういう事なんですか!? 何か、いきなり墜ちて来てビカアアアアッと光ってましたけど!!?」
所得者の優先コードによって、所有した人物への優先権が発生している。
元々、ヘブンにおける拾い物の優先権、優先的占有使用権限は基本的に持主→拾得者の順だが、持主が居ない時に限っては拾得者が優先権を得る仕様になっている。
同時にその取得物が何処かの勢力の代物だった場合は勢力→拾得者になるのだが、此処のルールを変更するMODがあるのだ。
取得物ルール変更MOD【拾える君】。
ヘブンでは拾得物を優先権のある存在からの返還要求があると返さない場合にゲーム内での犯罪になり、ペナルティーが科されたり、その犯罪履歴で力を発揮するというゲーム内のアイテムやスキルの類、資質、適性があった。
(元々は拾った所有物扱いになる奴隷や兵隊を捕虜じゃなく仲間にしてゲームクリア目指すタイムアタック用に入れたんだよなぁ……途中から、古代のエログッズをミスティーきゅんと一緒に楽しむ為に所有権をパクれるコレが重宝されて、事実上はエロMOD化してたけど……)
拾い物はこのような仕様のおかげでそういったスキルの類を無限強化出来る仕様でもあるのだが、これを封印、一種のゲームの縛りプレイ要素を追加して、“取得者に全ての拾得物の優先権がある”に変更する事で拾ったものはオレのもの状態に出来る。
ついでに電子ロックのような特定条件が必要なロックが掛かっていない状態ではどれだけ重要なアイテムでも返還要求はされても“返還するかは返還要求された者が決める事”という暗黙のルールが敷かれており、これを覆すには力付くで奪い返すしかない。
「おぉ!!? ジグラットが壊れ掛けとはいえ、手に入ったのか? う、う~~ん。それにしても街を覆ってる金色のリング……あれって艦隊保護の為のシールドジェネレーターだよな?」
「あの~ガラークさん。何かブツブツ言ってるところ悪いんですけど」
「?」
「此処から街の外にどうやって行くんですか? というか、畑は!? 住居は大丈夫なんですか!? うぅぅぅぅぅ(´Д⊂ヽ」
「悪い悪い。ちょっと、色々確認しなきゃならなくなったから、先に街の人達を一旦纏めておいてくれるか? 代表者だけでいいからさ。ちょっと調査してくるわ」
「は、はい!! お気を付けて!!」
それから数時間後。
幾らかの調査と実験、検証が終わった後。
街中に戻って店主達とミスティーク、ミスティークの親父さんと一緒に夜通し、色々と情報から緊急事態の対処を詰める事になったのだった。
*
―――現在、セントラル外延部辺境北端。
「ぁ~~働いた働いた。2300人とか多過ぎだろ!! 何で全員、何か差別主義者バリバリで人間至上主義、亜人系や獣人系を奴隷にしたがってるんだよ!!」
思わず走行中の肩部が未だ素の状態のままの明王号のカーゴ内で愚痴が出た。
「その上、何かやたら魔法撃って来るし!! トシンに栄光あれとか何とか言いながら……何の魔法かも分からんから、全回避しながら1人ずつ丁寧に狙撃とか」
げっそり疲れたのは間違いない。
「やたら走らされたし、跳ばされたな……」
1日中チートMODで走りっぱなしだったのだ。
「猫は全員避難誘導と護衛で数を減らすのはオレと明王号だけだし……」
『仕方ないですにゃ』
現地に残して来た中尉が映像の最中で襲撃された街でミスティークの護衛を行う傍ら、こちらに肩を竦める。
その背後では豚人の少女がにこやかな笑顔で街の人々に色々と伝えていた。
『破棄の楽園からの依頼は達成。ただし、予備電源の再起動が残ってますにゃ。こちらはやっておくのでお先にお帰り下さいですにゃ』
「悪いな。本当ならそっちに残ってるべきなんだろうが、これから落ちて来た船の二つ目の落着場所の調査だ」
『先行した大尉からは?』
「目標地点に到達したみたいだ。だが、コレを見てくれ」
映像が中尉の端末にも浮かび上がっているだろう。
『これは……山脈に傾いた巨大な門……ですかにゃ? ソレが突き刺さっている? 後は地面がやたら平たくないですかにゃ?』
中尉に見せた映像は夕暮れ時の山脈。
先日、ウルトラ・ユーマであるタイタニック・ガラクシオを倒した場所だった。
その現場の山脈に紅の“門”がめり込むように倒れ込んでいるが、その一辺が2km四方にも成るソレは明らかに人智を超越した構造物だろう。
その周囲には金属製の大地があちこちで地面に生じていた。
「ああ、コイツは箱の残骸だ。空中分解した一片4km四方の箱があちこちにバラバラに落着してだだっ広い金属製の地面に見えてるだけだ」
『にゃんと!?』
「それとあの赤い門みたいなのは鳥居だ。バニシング・ゲートってヤツだな」
『トリー? バニャシング?』
「まぁ、そんな感じだ」
『ごしゅりんは何でも知ってますにゃ♪』
そう、門は簡単に言えば、鳥居だ。
神が潜る門だ。
神格召喚MOD【神威神楽】。
召喚系魔法に属するMODであるが、通常の魔法系MODとは異なり、独自の仕様が受けた代物だ。
その中にある召喚機能を有する門こそソレであった。
日本人が創ったMODとしてはかなり世界でダウンロードされただろう。
その内容は世界中の神話の神をモーション付きの召喚技の攻撃として発動させ、絶大な攻撃力と大げさなグラフィックで敵を圧倒するというものだ。
AIなどは組み込まれていないので使い勝手が良く。
それなりの魔力が在れば、上位神格を呼び出してそれこそ星を割る事すら出来る。
数はそれなりに多く120種類前後。
グラフィックもかなり気合が入っており、AIによる生成機能で変化を及ぼしても大体がカッコイイ。
「ミスティークの事は任せるぞ。オレは夜戦してから出発だ」
『申し訳ないですにゃ。本来は街を一時的にでもがら空きにするのは良くにゃいのですが』
「みんな分かってる。人が増えてる状態であの騒動だ。混乱から暴動や略奪にならないだけマシだろう。食料の買い付けや諸々の外交関係、街の資金用に傭兵家業したのは大当たりだったしな」
『そう言えば、イシル・ガイン外交官殿は?』
「今、破棄の楽園の国庫を減らしたから、今度はあちこちに高額で防衛戦に時給で雇わないかと宣伝してるらしい。勿論、ヤバイところや明らかに思想や諸々ダメそうな勢力を除外してな」
イシル・ガイン外交官。
現在、ただの外交官と名乗って傭兵ガラークと猫の城の部隊を超高額時給で売り出してくれている元アバンシア共同体の外交官は豊富な知識を使ってあちこちでミスティークの情報収集や買い物を手伝う別同部隊のように動いており、一部の猫達を連れて営業していた。
【破棄の楽園】
魔法を使わず超科学を探求したセントラル勢力の一角は現在、周辺の本国以外の領域半数以上をアバンシア共同体に制圧されて、本国へ攻め寄せる火事場泥棒的な諸勢力の防衛戦に苦慮しており、先日は正しく本国の防衛網を抜かれる寸前にこちらとの交渉が成立。
断崖のアルマートに手を出さないという契約を大々的に国民に宣伝する事を確約しての防衛線参加となった。
本国民に被害が出るギリギリのタイミングでの参戦で攻めて来ていたドローン師団を実質傭兵1人と明王号1機で押し返したというか殲滅し、2日で2万機のドローンと30近いドローン制御用の遠隔地に通信を伸ばす為の小陣地を撃滅。
捕虜は30人程取ったが、全て生きて返して宣伝したのでしばらくは陰謀渦巻くセントラルとやらで仕事は途切れないだろう。
こちらの通貨レートには疎いのだが、凡そ10億と外交官殿は言っていたので時給換算では割の良い仕事に違いないだろう。
(ま、AIが使えないせいで無線操縦不能化したドローンを大量にタンカーで戦利品として運搬中って話だったが、アレが落ちて来る前に届いてて良かったな……)
現在、ドローンを改良して無線式ながらも複数のドローンに制御させる事でドローン隊を100機単位で製造中であり、今回は猫達が半数しか残らない街の防衛にドローン部隊が初めて投入される事となっていた。
「ミスティークの帰還に合わせてアバンシアの諜報部隊に何かがいないか確認しろよ?」
『了解ですにゃ!!』
「それと帰還途中に辺境の連中にアルマートの“呪い”に付いても説明しておいてくれ」
『分かっておりますにゃ♪ 河が出来たのも!! 何か街道から逸れると進めなくなって、何かに圧し戻されるのも全て“恐竜の呪い”ですにゃぁ!!』
そう、宇宙船の墜落を対外的に隠蔽しつつ、その殆どの不可思議な事象の全ては恐竜が悪いという事で押し通す事にしたのである。
国家化に際して宇宙船に圧し潰された地域は禁域指定して、他国及び一般人の出入りを禁止し、街道沿いの道を外れると見えない流体金属の壁に圧し戻されるという状況に陥る人々にこれで説明を完了したのだ。
『あ、そろそろ交渉が終わりそうですにゃ。では、また』
「ああ、そういや思い出した。近辺から後々使う用で通信経由用のドローン式中継点埋めといてくれ。そういや博士達に言われてたんだ」
『ハイですにゃ!! いや~本当に便利ですにゃ~~博士達の道具は……』
こうして通信が切れたのを見て、シートに背中を預ける。
「( ´Д`)=3 此処最近、滅茶苦茶働いた気がする……オレも誰かにしといてくれなんて仕事振るばっかの大人か……あの頃はそんな小隊長に腹が立ったもんだが、そういう大人になっちまったみたいですオレ。小隊長……」
懐かしき若者の頃。
なんて、言う程に歳を取っているのかもしれず。
だが、別に大した事を成した事もなく。
生き残っているのも殆ど運と多くの部隊の仲間や上官達のおかげでしかなく。
ジッと手を見ても、血に濡れた幻影なんて欠片も幻視しない精神性なので苦笑しか零れない。
それが逆に向いていると軍医に言われてちょっとショックだった事は今も思い出せば溜息の種だ。
「あ~~やめやめ(; ・`д・´)。幾ら殺しても精神の健全性損なわれてませんねぇ。サイコパス気質で良かったですね♪ とか言う軍医の事はスッパリ忘れて、帰って仕事だ(^◇^)」
と、言っても帰るまで爆速の明王号内部にいるしかないのだが、少しはスヤァと眠れるかと思った矢先。
ドンッと何かにぶつかったような衝撃。
即座に停車させて見ていなかった何かを引いた状況を映像でリプレイした。
「女の子引いてるぅぅぅぅぅぅぅうっΣ(゜Д゜)!!? 自動操縦はAI式だよね!? 明王号=サン?!!!」
【認識から障害物への到達まで0.00032秒でした】
「障害物じゃねーよ!? 女の子だよ!!?」
思わず急いで外に出ると夜道に少女が1人倒れていた。
何で気付かなかったんだよという言葉は呑み込んで急いでポーチから治癒剤を引っ張り、走り寄った相手に呑ませようとした時だった。
サクンッと何か胴体に突き刺さる。
「な、なんじゃこりゃぁあああああああああああ(゜д゜) あ―――」
一気に意識が落ちていく。
と、同時に少女のカンバセが見えた。
ソレは整った黒い瞳に褐色の肌をした金髪の少女。
雨合羽のような光学迷彩用の外套を着込んだ彼女がその感情の無さそうな瞳でこちらを見やる。
人形のような貌には確かに何処か見覚えがあった。
「っ……ゼノ・アニマ・タイプ……レゾ系、か―――」
『はい。やはり、分るようですね。反逆のガラーク……では、行きましょう。上位コード393を発令。一般稼働AIは軍上位個体群の指揮下に入られたし』
【―――了解。上位コード認識。これより指揮下に入ります】
機械は機械。
墜ちて来た戦艦のドローンと一緒だ。
最初から組み込まれてあるものを変えるのは難しい。
意識が完全に落ちる寸前。
少女は何故かグッと拳を握って、こちらに―――。




