第24話「エロMOD先輩と賢者の窯」
―――辺境【断崖のアルマート】まで33km地点アバンシア辺境遠征連隊A群。
『此処は地獄さオレ達ヘイタイ♪』
『アンタ馬鹿だろ誰でも地獄さ~♪』
『覚えてろよ~♪ ケツ穴増やすぜ~♪』
『バンッバンッバンッ、明日は無い~♪』
『ガンッガンッガンッ、上官が怖い~♪』
『歌っとる場合かぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?』
『ク、クソ!? あの防護壁!? 何なんだ!? 一体何なんだ!!?』
『崩れやしねぇ!? 120mmの直撃でビクともしねぇ!?』
『自走砲も戦車砲も効かないって何だよぉ!?』
『HAHAHA、何なら精鋭連中のプラズマ武装も効いてなかったぞ♪』
『壁のせいで動物の集団を狙えない!?』
『ほ、包囲されるぞ!!? 街道を突っ切れぇええ!!?』
『第33歩兵中隊が進軍停止!! 動物の死骸で街道沿いを迂回するしかないと報告が!?』
『こちら第32補給小隊!! て、敵の攻撃を受けている!!? ば、爆発カバァアアアアアア!!?』
『司令部!! 司令部!! 側面攻撃だ!! く、蜘蛛の母親だぁあああああああ!!?』
『うっそだろオィ……ご、50mはありやがる。あ、あれがセーフスパイダーの大本かぁ!!?』
『は、早い!? 自動照準があの図体で追いつかないのか!?』
『小火器は効果がありません!? 隊長!!?』
『司令部!! 命令を!! 押し寄せて来る金属化した動物達にこのままでは完全に包囲されます!!』
『………いいのか? 部下共が悲鳴を上げているぞ』
『“ああ、雑兵はアレには意味が無い” “プラズマ兵器があれば、包囲されても持ち堪えるだろう” “それよりも準備は?”』
『滞りなく終わった。後は生け贄を捧げるだけだ』
『“そうか”……“付き合わせて済まないな”……』
『貴様が舞台役者だったとはな。若い頃に別たれた貴様との道……こちらは研究に没頭した挙句に異端だと学会から追放された身だ……貴様はもう少し賢いと思っていたぞ。シアーニア』
『“フン” “追い詰められずに誰が貴様の手など借りるか”……“だが、早くせねばならん”』
『そこまでの存在か? 反逆のガラークとやらは……』
『“兵士としての勘だ” “アレは何れ辺境を、セントラルを……祖国を……いや、この大陸の全て、この星を……”』
『まぁ、いい。こちらはただ研究を表舞台で使って情報が欲しいだけだ』
『“分かっている” “さぁ、そろそろ来るか” “それとも本拠地まで消耗戦か” “此処からだ”』
『シアーニア司令に伝令!! 大型蟲獣類が複数西部方面より襲来中!!』
『“煩いぞ” “プラズマ兵器で黙らせろ” “何の為のスチューデント・スーツだ?”』
『で、ですが、持ち堪えているとはいえ!!? 数が尋常ではありません!? また、駆除した動物の爆発の影響で更に周囲から大量の動物が集まって来ています!!?』
『“火砲と武器弾薬の制限解除” ゛全力戦闘で構わん” “火力は全面にスチューデント・スーツ着用者を展開して削れ” “所詮は動物。囲まれても乱戦にならなければ問題無いはずだ”』
『で、ですが、それでは辺境攻めの物資が!?』
『“最初から雑兵などアレ相手には意味が無い” “スチューデント・スーツと武装、運用者を死守せよ” “それを陸路で送り届ける為の軍隊だ” “運用者の予備は常に第三待機させておけ”』
『了解致しました!? す、すぐ―――うわ、揺れて!?』
『何だ!? 地震か!?』
『“来たか?” “それともヤツの手下か”……“外に出るぞ” “貴様はいつでも動けるようにしておけ” “愚弟”』
『………』
『見ろぉおおおおおお!? アレだ!? アレだ!? な、何だ!? 何だアレ!? そ、空に浮かんで―――』
『ど、動物共が退いていくぞぉおお!!?』
『な、何、あの虚空に浮かぶキノコみたいなヤツ、何だ? 何だ?!』
『ゆ、揺れが激しく!? ち、地表に伏せろぉおおおおおお!!!』
『停止ぃいいいいいい!! 進軍停止ぃいいいいいい!!! 揺れが収まるまで伏せろぉおおお!!』
『な、何ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい?!!!』
『え? え? な、何で空が地平線に見え―――』
『違う!? 地平線に空が見えてるじゃない!? お、オレ達のいる場所が隆起してるんだぁあ!!?』
『まさか!? あの虚空に浮かぶキノコみたいなヤツのせいなのか!?』
『地平線まで此処から20kmはあるんだぞ!? 此処は標高が高い!! 地殻がこんな突然隆起するなんて有り得んだろう!?』
『み、見ろぉおおおおおおおおお!!? あのキノコが落ちて来るぞぉおおおおおお』
『さ、避けろぉおおおおおおおおおおおおおお!!!?』
『“っ……” “神話の通りと言うわけか” “彼の者、地に蔓延りし悪鬼一掃せしめんが為、大いなる法を解き放たん。逆賊、悉く大地の霊にて轍に伏し、大いなる御所を見上げん、か”』
『き、きのこが成長してる!? アレは樹木か!?』
『いや、おかしい?! あの木の、葉なのか!? ヒレに見えないか!!?』
『ぐ、ぁあああああああああああああああああ!!?』
『ど、どうし―――あがあああああああああああああああああ!!?』
『う、うわぁあああああああああああ!!!?』
『地表から伸びた根に触れるなぁああああ!!? 激痛が奔るぞぉおおおおおお!!?』
『プラズマ兵器照準せよぉおおおおお!! 全スチューデント・スーツ着用者は一斉攻撃ぃいいいいいいいいいいいい!!!』
『ウオ!? ひ、ひかりが!? 目が!? これが全力のスチューデント・スーツ着用者の一斉攻撃か!?』
『見えねぇ!? 中心はどうなってやが、るんだ!?』
『は、華が咲いてる……樹木じゃねぇ。アレは華の雌しべか?』
『お―――あ、ひ!? か、体が!? 体が、根にくっ付いて!!? あがあああああああああ?!!』
『う、うぉおおおおおおおおおおおお!!? オレの手を放せぇえええええええ!!?』
『根に触れるなぁあああああ!!? 同化されるぞぉおおおおおお!!?』
『い、嫌だぁああああああ!!? オレは樹木じゃねぇ!!? 怪物じゃねぇ!!?』
『ふ、触れた場所の近くを切り落とせぇええええええええ!!? 抉り出すんだぁああああ!!?』
『あ、あ、あ、うわああああああああああああああ?!!』
『光が!? お、治まって来て、う……華、華が燃え……てない?!』
『ば、馬鹿な―――葉が!? ひれか!? エネルギーを吸い取っている!?』
『光を捻じ曲げて吸収!? レーザーを!? プラズマを!!? 食い取っているのか!? あの葉は!!?』
『何なんだ!? 何なんだコレはぁああああああああ!!?!』
―――第三形体まで変化してるじゃないですかヤダー(・ω・`)。
保険を掛け終わって降り立つ。
恐らく、最初期変態完了までもう少し。
半径60km四方の領域が隆起した巨大な大地の中腹に軍隊が右往左往しており、あちこちにディノ化動物達が逃げ去っていくところだった。
小型の偵察ドローンを搭載して貰っていた明王号のカーゴの追加装甲内部から空に舞い上がったソレが撮影したのは完全にヤバイ環境で急成長しているウルトラ・ユーマだった。
動物達の様子はもはや狂乱状態。
どうやらディノ化による金属資源の収奪本能すらも上回る恐怖を感じている。
「あのさぁ……エネルギー武装バカスカ撃ち込んだせいでエネルギー足りちゃってるじゃん。“羽化”したら今度は地域全体がヤバイ……(。-∀-)」
すぐに突撃した明王号のカーゴの上で大声を張る事にする。
「止まれぇえええええええええ!!! 制御コード【枝葉は絶えず大地に】だ!!」
自動で動くAI制御のウルトラ・ユーマのコントロール時、特定のコードを叫ぶ事で今までの命令をリセットし、デフォルト状態に移行。
承認可能ならば、そのコードを反復し続けるようにする事が出来る。
今まで拡大していた大樹めいた花弁へと変化しつつあったヒレが雌しべ全体を覆うように窄まり、ガチガチと音をさせながらクリスタルの尖塔のように変質。
薄っすらとエメラルド・グリーンな質感を晒して停止し、ズズッと根も地表に根差して地殻の安定化へと向かっていく。
恐らく300m近い隆起が起こっていたが、一気に4000m級になっていなかったのは不幸中の幸いであった。
『構えぇええええええ!!』
サイドブーストで降り立つ明王号に一切の躊躇なく銃を構える兵士達。
だが、そう出来ているのは凡そ8分の1程度だろう。
複数のスチューデント・スーツを着込んだ連中がこちらにプラズマ・グレネードランチャーどころか。
ロケランぽいプラズマ・バズーカだの、近接用のプラズマ・ショットガンを向けて囲い込んでいた。
ソレを無視して、上空からカッ飛んできた時に見た移動式司令部。
巨大トレーラーを3台横に連結した代物の方へと向かっていく。
乗り物系MODを内包する大型陸戦MOD。
【ラディカル・ハント・エクスプローラー】
宇宙で使う想定ではない地表での陸戦主体用の特に車輪付きな車両や装甲車を追加する代物でトレジャーハント要素も組み合わせた車両と宝探しのMODだ。
そこで運用される移動司令部【アイアン・ハート】は戦場後方では移動式の野戦病院もこなせる地獄の“牛車”だ。
あまりにも車両として低速。
移動速度が遅い事を除けば、言う事の無い動く鋼の小要塞である。
そこらの倒れてる兵隊を避けながら傍まで向かう。
すると、驚く事に再び捕虜達以外に見知った顔がいた。
「アンタか。大将……随分と変わり果ててるじゃないか」
「“反逆の英雄”……“我らを倒した時から変わらぬ姿”……“ようやくケリを付けられそうだ”」
「死んだ部下共の弔い合戦か?」
複数のスチューデント・スーツを使う猛者。
それが男の周囲でこちらに武器を構えていた。
漢はもはや満身創痍。
いや、肉体を機械で補いまくった結果。
半ば、機械になっていた。
右腕の総とっかえに左半身のあちこちに入れ込まれた臓器を補強する為の機材の一部が軍服を突き出て突出。
まるでアッシュ・メタルな色合いの機械の骨格に取り込まれた人型。
頭蓋の4割近くが部品製。
左から喉までを覆っている状況で声帯までもが置換されている。
その片手にはレールガン式のアサルトライフルが持たれていた。
「長くない体でよくやる」
「“ああ、そうだ”……“だが、貴様に敗れ”……“あの頃よりも将としては大成した気分だ”」
「何?」
「“種の未来の為?” “軍人の矜持?” “下らぬ議会の意志?” “違うな” “私は今1人の兵士として此処に立っている”」
「……ご高説どうも。それで? 帰宅する準備はいいか? 家や病院でガクガク震えながら敗北の味を噛み締め死んでいく。そんな普通の敗残兵になる準備は? 宗教はやってるみたいだが、お祈りもいいぞ?」
「“くくくくくく” “ああ、そうだな” “それが普通だ” “我らは常勝し過ぎた” “そのせいで私自身が兵の本質を忘れていた” “勝つ為には何もかもを成さねばならない”」
「………」
ようやく相手が敵であるのを認めずにはいられなかった。
先日叩き潰した時とはまるで違う。
しっかりとした受け答えに自信。
そして、何よりも命を賭した死兵こそが何よりも怖ろしい。
「“貴様が何者か” “何処の誰でどんな目的が有り” “どんな理屈で動き” “何を成すのか?” “下らん” “全て必要のない情報だ”」
「ほう?」
「“貴様に我らが普通にやって勝てぬ事など、あの戦より百も承知している”」
目の前の司令官の瞳には執念があった。
「“故に必殺の策を携えて来るのは道理だろう?”」
「それがスチューデント・スーツなら、アンタは敗北しているわけだが?」
「“コレは貴様を殺す武器ではあるが、策ではないさ”」
「何?」
ブワリと老境へと向かう道すがらの男の体が大量の淫紋……いや、魔法陣に飲み込まれる。
「魔術と魔導の混成方陣?」
「“くくくくっ” “分るのか?” “さすが、ガラークを名乗るだけはあるか”」
「何だと?」
「“ああ、殺してくれても構わない” “どの道、全ては捧げ終わった” “時間稼ぎは終了だ”」
男が包囲していた者達を見回した。
「“これより我が最後の命令を告げる” “この男が無防備に撃たれ続ける事を確約した時より、死体になるまで撃ち続けろ” “これは最優先命令である”」
「?!」
「“来るぞ!!” “さぁ、貴様の弱みを見せて貰おうか”」
相手の魔法の類をキャンセルするにはその効果を打ち消す必要がある。
しかし、それなりに魔法をやっていたから分かる。
もう効果が解決される途中だ。
つまり、魔法自体は止まらない
「“これより、現れるものを使って脅せ” “動けば殺すとな”」
「な!?」
「“動くな!! ”我が死よりも先に来るか“ “等価交換には為らぬ程度の何かという事か”」
その時、男の片腕がボグンッと何か空間に食われたかのように一瞬で蒸発して消える。
だが、男は叫びもなく。
消え失せていく肉体のあちこちに構わず。
自分の前に現れ始めたソレに銃を向けた。
「は、はれ? ガラーク、さん?」
「ミスティーク」
召喚。
それもプレイヤーにとっては最悪な出来事の一つ。
地表より湧き出た巨大な方陣の中心に豚人の少女が1人。
嘗て、存在した少数事例。
NPCによる【無法召喚】によって勢力中核の人材を誘拐される。
その実現は正しく超低確率でしか起こり得ない事実。
現れた少女に周辺から銃口が満遍なく向けられた。
「仕方ないな。良いだろう……オレを撃ってもその子には手を出すな」
「“いいだろう”」
「え、あ? な!? ど、どうして、こんなところに私!?」
「悪い。寝てたところだっただろ? オレが倒れたら、オレの手でも握ってくれ。悪いな。ミスティーク……巻き込んだ」
「あ、ガ、ガ―――」
「“撃てぇえええええええええええええええ”」
「いやぁああああああああああああああああああああああ―――」
その時、確かにいつもよく聞いていた叫びを耳にした。
まだ熟練する前。
よく1人の女を護れても自分を護れず。
撃ち倒された自分を見て泣き伏す彼女。
白く染まっていく世界にゲームオーバーの文字があるのが日常だった。
そう……もう一度やり直せばいいと死ねた事は最初くらいだろう。
その後、悪党や敵を前に無防備な少女はどうなる。
セーブデータからやり直して、やり直せても……その気持ちは晴れなかった。
「(何もかもを成さねばならない、か……ああ、その通りだ)」
こうして今日も1人の底辺ゲーマーは死を迎える事になりそうであった。
*
―――廃塵都市【東京】??年前。
結局、日本を自衛軍は護る事が出来なかった。
核を墜とされた9つの大都市は焦土と化した。
同時に大陸の全ての大都市も軍事基地と共に焦土となった。
日本は滅びていない。
相手は滅んだの文字を以て、護ったとは言えない。
気の良い仲間達は戦後の汚染が続く名古屋で廃品回収で生計を立てて死んだとメールでお知らせが来たし、何とか生き残ったはずの軍同期の3割は事実上住む地域が消え失せて今や何処にいるのかも分からない。
戦争は終わった。
国家は生き残った。
しかし、遺された全ては灰色に褪せ。
無限にも思える放射性の灰に汚染されていった。
何れ……何れ、何とか復興の道はあると人々に多くの政治家は語り掛けた。
今日を何とか生きる事は出来た。
けれども、夢は褪せて放射能の泥に塗れたのだ。
『今日から現場に入る―――』
『ああ、名前は良い。番号なんだ。此処の現場は』
『そうなんですか?』
『お前は新しい83番だな』
『そうですか。はい』
東京の端。
もう存在しない街を望むクレーター群の傍。
死者1200万人その後の混乱で430万人が関東で死んだ。
だが、その複数のクレーターの端で今日も人々は生きている。
無限の灰の泥濘が続く世界は核の冬で固まった。
巨大な氷床染みた街の上には今日も轍を残して耐放射線車両のダンプが行き交う。
『すぐに死んじまう相手と仲良くなると能率が下がる。復興の礎に底辺労働者の労力を最大限に軽減して、精神疾患を防ぐ為の措置、だそうだ』
『何処もそうなんですね。前の職場もそうでした』
『あんちゃんも軍隊出か? 見りゃ分る。死ぬ程、そういう連中しかいねぇ』
『ええ、九州の隊で最終的に専任で軍曹してました』
『お、上官じゃねぇか』
『随分と畑違いのところまで引きずり回されて、最後は人がいなくて軍曹ですから、実力じゃ……』
『オレは東京近郊で上陸して来たドローンの掃討作戦してたんだ。一番下っ端でな。最前線のおかげで逆に助かった』
『ああ……東京の上陸阻止作戦は酷いことになったのは聞いてます』
『はは、もう昔の話さ。ぶっちゃけ、あの頃の記憶が半分以上無ぇ……毎日泥を被ってドローン相手に狙撃戦してたせいで時間間隔がな。ちょっと逝っちまってたみたいでな』
『………』
『そんな顔すんなよ。戦争だ。戦争だったんだ(。-∀-)』
『ええ、戦争でした……』
『廃塵都市【東京】なんて呼ばれて3年だ。今じゃようやく灰が落ち切って日光も見え始めたし、核の冬も終わるって話だ。此処からは温かくなるさ。きっと……』
『ええ、そうですね……』
『凍り付いた北米も南米も雪解けの兆しだとよ。復興の為に旧式の火力発電所を大増設したおかげで温暖化が急加速……今度は冬の跡には常しえの真夏になるんじゃねぇかとさ』
『いい加減ですね。大本営の放送も……』
『違ぇねぇ!! 違ぇねぇ!! 今は非常時だからって情報統制してやがるからな。今から地球が滅びますって言われた方が少しはリアリティがありやがる。その前にオレ達は死んでるだろうがな』
『ええ、そうかもしれません。貴方の番号は?』
『22番だ。おう新人。テメェにいいもん見せてやる。ほら、これ』
『HMD? 労務規定違反ですよ?』
『ふふ、馬鹿な監督AI様には分からんように作ってある。ほら、被って見ろって』
『え、ええ―――これは……ゲーム?』
『ああ、【ヘヴィー・ドーン・レッド】……略称は【ヘヴン】……今話題の一番ヤバイ・ゲームさ♪』
『……放射線に覆われた大地で自由の為に生き抜け? 壮大なオープニングですね。何か最後には宇宙行くみたいだし』
『ちなみに二度と同じOPは見られねぇんだぜ? 生成AIをフル活用してるからな』
『凝った仕様だ……面白んですか?』
『ああ、最高だよ。此処にはオレ達の人生で失っちまったもんが全部ある』
『全部?』
『ほら、あれだよ? 男なら分かるだろ? 今じゃ、人口子宮が普通だからな』
『……エロは地球を救う、か』
『ははは、エロはオレ達みたいな底辺労働者すら救うぜ? 女なんぞ今じゃ男を選り好みするヤツしかいねぇ。出生率は国家の規定人口排出数と受け入れ家庭数を変数に入れてるくらいなんだからな。イイ経験になるぜ? お前、恋愛は?』
『それ、聞きます?』
『教えてやったんだから、いいだろ?』
『……童貞です』
『くくくく、あはははは!! そういうヤツこそ嵌るぞ!! ほら、今じゃ放射化した肉体同士の接触も寿命が縮むからやめとけって風潮だろ?』
『まぁ? そうですかね。確かに……』
『どうだ? 良い子はいたか?』
その時、OPにエルフであろう彼女がいた。
『……この子、昔……好きだった子に似てる気がします』
『ほう? その子とは?』
『蒸発したので』
悲しい記憶だった。
『……そうか。悪りぃ……でも、お前も此処じゃ恋愛くらい出来るさ。エロMODを極めれば、出来ない事など何もない!!!』
『なんですか? それ……くく……っ』
『ようやく笑いやがったな?』
『え?』
『若いんだ。お前はまだ生きられる……オレと違ってな!! 笑って死ね!! 泣いて死ぬな!! もう涙は戦場に置いて来たんだろ?』
そうだ。
涙なんてもう随分と流していない。
いや、流せる事はもうきっと無い。
『―――はい』
『笑顔だよ。笑顔( ^ω^ ) もし、お前がオレよりもMOD使いを極めたら先輩と呼んでやろう』
『先輩? 自分には似合わないかもしれません』
『このゲームの界隈じゃ、先輩ってのは極めたヤツの事なんだ。何れ、誰でも辿り付く。いつか、ゲームが古くなっても、お前の心を救うだろう。ソレが戦争で得られなかったもんの代わりになるかは分からねぇけどな』
『……なら、丁度いいですし、エロに詳しい【先輩】に為りますよ。オレ』
『がははは!!! よろしくな先輩♪ じゃあ、お前のアダ名は今日から―――』
―――辺境【断崖のアルマート】まで33km地点【紺碧の槍塔】領域。
「“撃て!!” “撃つんだ!!” “灰になるまで!!!”」
「シアーニア司令……もう死んでいます」
「“嘘だ!?” “騙されるな!!” “ヤツは死んでなどいない” “死んでなど!?” “貴様らも見ているだろう!!” “このスチューデント・スーツ専用重火器の火力を受けて何故肉体が原型を留めている!!?” “撃―――ゲホッ、ゴガッッ、グゥゥウッゥゥ”」
「司令!? し、司令を早く医務室に!!?」
雨が降っていた。
世界には雨が……まるで戦場の熱を冷ますように。
あるいは1人の少女の瞳を代わるように。
「何で……何で笑ってるんですか……そんなボロボロになって……そんな体が全身抉れて、焼かれて、全部……砕けてるのに……どうして……」
少女はもう完全に弾切れとなったスチューデント・スーツの男女がレーザーでまで焼こうとはしなかったのを横にフラフラとその腕すら無い、脚すらない……ボロボロの体の前に崩れ落ちるように膝立ちとなる。
「貴方に……どうやって、この借りを返せばいいんですか……初めて会った時、私は貴方を殺そうとしたのに……貴方は助けてくれた……二度目の時も……命を懸けて……笑っていた……どうして……そんなの……おかしいじゃないですか……」
「“ご、ごろぜぇ” “ぞのおんなも” “ガフッ!?!”」
「司令!? もう御止め下さい!? 司令をすぐに医務室へ。鎮静剤を誰か!?」
藻掻く男が部下達の手によって抑えられながらも喚く。
その体は遂に土気色へと変貌しつつあった。
生け贄。
そう……因果関係ある存在を触媒に用いて召喚術は行われる。
男と出会い生き残ったシアーニアという男そのものが今や召喚術の触媒として“消費”されていたのである。
だが、それでも生気を失わない瞳は爛々と輝き。
その場を押し留める者達にとって、本当の怪物こそはその自分の上官なのではないかという思考が誰の頭にも横切っていた。
死体を故意に損壊するなど、戦争ではよくある事だが、マニアクス・ニャァンの洗練された戦争の中で多くは起こり得ない出来事であった。
「殺せ。それで終わりだ。焼け」
遂に服司令の命令が下る。
少女の背後からスチューデント・スーツの女が1人、プラズマ・グレネードでその体……せめて後が残るようにと低出力で焼く。
そのまま、男と共に抱き合って死に絶えた跡を片付ける。
その後味の悪さに誰もが目を背けようとした時だった。
旋律が何処からか流れ始めていた。
「何? どこから聞こえて来るの?」
旋律は声だ。
何かを短く強く小さく叫ぶ声。
小さな小さな声が、高ぶり始めた管弦楽の音色に載って―――。
「何だ!? 何だ!? 何処から聞こえている?! 奏楽の前奏か?」
戦場に遍く旋律は高まり……そして、1人のマニアクス・ニャァンが気付く。
燃えた男の股間は―――存在するのに凪いでいた。
「ッッッ―――」
カラリと燃えているはずの女と男の合間から小さなペンダントが落ちる。
ソレはもう炭化していた。
だが、燃えているのではない。
塵に為って消えていく。
声が、響いた。
【ATLAS!!】
声は何と言っているのか?
【ATLASッ!!】
誰も知らない。
【ATLASッッ!!】
この世界の言語を知る誰にも分からない。
【ATLASッッッ!!】
だが、荘厳にうねりを上げていく波濤が世を―――世界を、その星の全ての領域に鳴り響く。
そして、唱が聞えた。
管弦楽の音色に乗って……世界を全て圧し潰すように……ソレは確かに何時か何処かで謳われた伝説だった。
【星踏みの―雄が―み―が―ゆ―き過ぎて――戻―り来たる――】
【脚向かう――人の世は――編―み往きて――腐―り落ちる――】
【さ―りとて―人の―灯―集―つめたて―祀―つ―らんと――】
【彼―の―もの―世を―愛でん――】
この世界の誰にも分からない唱。
この世界の言語ではない歌。
日本語ですら無い何処かの言葉。
そして1人の邪神は恍惚に空を見上げて微笑んだ。
【あらあらあら……やはり、そうでしたわね……失われた神話……終わり続ける世界……再び、この世に顕れたのですわね……御柱の方……】
「“何だぁ゛!?” “こ゛の゛【詠唱】は!?” “そ゛、そ゛い゛つ゛を早く゛灰に゛し゛ろ゛おぉお゛お゛おお”」
最後の力を振り絞り、老境を超えて畢竟の男が叫ぶ。
ハッとした全てのスチューデント・スーツの男女が残った電力の全てをレーザーとして照射した。
“その時、不思議な事が起こった!!!”
爆発的な発光。
ソレがレーザーの照射ではなく。
崩れ去ろうという男の体の内側より噴き出している事をまだ誰も知らない。
「な、何だ!? 誰の声だ!?」
「何で光ってるんだ!? 何でぇ!?」
“それを誰も奇跡とは呼ぶな!!”
「何、何だ!? 周辺警戒!!」
“新たな世が拓く時、賢者の窯は蘇る!!”
「何だと!? 賢者の窯が蘇る!? どういう事だ?! 何だ!? この揺れはぁあああああああ!!?」
「“滅びる゛の゛が……す゛べて゛”」
管弦楽と鐘の音が―――世界に響き渡り、誰もが空を見上げた。
“これは1人の女の為にこの世の全てを創り捧げた1人の男の愛と献身の物語である!!”
「一体、何を言ってるんだ!? この声はぁ!?」
「副司令!? 死体が!!?」
浮き上がる二組の遺体……いや、そう思われていた体に、男のもう何も見に付けていない体に赤黒く力線の象形が奔る。
“ウェイクアップ!!”
だが、ソレ自体が紺碧に染まって形を変えていく。
まるで、紋章の方が侵食されるかのように変貌していく。
何もかもを弾き飛ばすようにただ1人の女を無いはずの腕で胸に抱いて頭部さえ無い死体が吠えた。
“ノーマンズゴッド―――【開闢之我落神】!!!”
―――OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!
獣では無い。
人でも無い。
誰も聞いた事など無い。
それは雄叫び。
絶する声が波濤となり、辺境から、セントラルへ、セントラルから中央域へ、中央域から更に果てまで、惑星すらも越えて月に届き―――長く永く遥か深淵にまでも響いていく。
旋律はそれに色彩を添えるように絶望を超えて諦観を連れて来るように幾多の天使の声を縒り合わせたかの如き重低音となった。
そして、その絶声を慰めるよう支えるよう小さく小さく囁いた。
【―――星踏む者は熾りたり】
爆発。
否、閃光。
否、崩壊。
否……それは全てであり、ただ1人を顕現させる肥大化。
たった一人の男の面影が、その“星を踏む影”が、小さな小さな星の、小さな小さな大陸の、小さな小さな場所を……足の裏で踏み抜いた。
「何だ。コレはな、何だ?! 何なんだぁああああああああ―――」
何もかもが脚の裏。
何もかもがその淫紋とすら呼べないだろう無限の色彩を束ねたる優美な曲線によって描かれた紋章の……存在より発される光に消え去っていく。
「“く゛そ゛……がみ゛は゛も゛は゛や゛、こ゛の゛ぢに゛要―――ぁあああああああああ”」
巨人。
それは星踏む巨人であった。
星より更に大きく。
ただ、ただ、大きく。
月などその前では砲丸程度に過ぎない。
踏まれた光が全て消えた時。
“男は走り出す!! 女を救う為に!!”
確かに全裸の男が1人、風よりも早く。
背後に何もかもを置き去りにして。
その失われていく紋章の力を借りて、光の如く掛けて輩の元へと向かった。
“何れ人は識るだろう!!”
“この世に不可能などありはしないと!!”
“何故ならば、この星は夜明け紅き彼方!!”
“世を支えんとした最後の一柱護る地であった!!”
「死ぬな!! 死ぬなミスティーク!! ちゃんとあのお前が作ったマッズイ・スープも飲むし、後で猫共にお前の前で盛るなって注意しとくから(´Д⊂ヽ」
「♪」
世界の残酷さを誰もが知る夜明けの最中。
昼に掛かるはずだった月は小さく小さく朝と同じように瞬いて。
『―――勢力撃滅ポイントが一定数に達しました。勢力撃破報酬が配布されます。以下の内容から1つをお選び下さい。1.イグゼリヲンAlpha(壊れ掛け)。2.トレジャーコード(壊れ掛け)。3.女神の加護(使用対象指定可能)-』
「3だ!! この子に!!」
少女はまったく馬鹿な男に……近頃の不満だった事を正確に言い当てて何とかするとか言い始めた……見てるところは見てる相手に……微笑んでいたのだった。




