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第23話「外交官とエロMOD先輩」


―――外宇宙辺境惑星【フォールダウン】。


「ミスティーク。今日はどうしたんだ? スゴかったけど」


「ちょっとだけ、怖くなったの……いつか、貴方が目の前から消えてしまう気がして」


「いやいや、時々普通に遠征してるだろ?」


「そういう事じゃないの!! もぉ、デリカシーが無いわね。ガラークは!!」


 ちょっと膨れたミスティーきゅんである。


「……貴方はいっつもそう。都合が悪くなるとすぐに誤魔化すんだから」


 寝台の上で膨れた横顔もカワイイとは思うのだが、世の中そう何でも上手くいく事は無い。


 また、世界の終わりが近付いていた。


 ラスボスを倒して新しい未来に旅立つ時が。


「ねぇ、世界が滅んでもまたちゃんと私のとこに来てね?」


「滅びから救ったばっかじゃなかったか?」


「もぅ!!? そういう感じなの!! うんと言っておいて!!」


「あはは、分かった。分かったから。そう叩くなって……」


 内心、ドキッとした事は間違いない。


 また、新しく世界は始まる。


 新しいゲームが始まる。


 それは本来愉しい事のはずなのに悲しい。


 今、此処にいるミスティーきゅんも再び出会うミスティーきゅんも同じ存在だ。


 此処が人生そのものとなった時、そうなるようリアルで大きく努力した。


 本を読み漁り、莫大なネットの先人の知恵を借り、AI研究の最新論文を無い頭で読み解いて少しでもと……一緒に楽しく、永く共にいる為に……。


「ねぇ、約束してガラーク」


「何だ? 藪から棒に……」


「もし、もしね……もし……」


 そこから先の言葉を今も思い出せる。


 だから、例え世界が滅んでも、例え全てが消えてしまっても、例え、己が失われようとも……その約束だけは守るだろう。


 己が己である為に……。


「――ラークさん」


「?」


「ガラークさん!?」


「おわ?!」


 ガバッと起きた途端、豚人のミスティークがジト目でこちらを見ていた。


「お、おはよう」


「おはようございます。ガラークさん。ホント、朝からいやらしいんですから。死体になってるか確認しなきゃいけないとか心臓に悪いですぅ。もぉ~~」


 よく見れば股間がもっこりしていた。


 MODのせいで基本的に死んだ男、オス、男性生殖器がある存在は基本もっこり死に勃ちする為、男性の生存確認は極めて簡単であるというのは世の中の常識らしい。


「だから、大尉ちゃんにきちくげどーもっこり~とか言われちゃうんですよ?」


「あ、はい。スイマセン」


 思わず正座するしかない。


「それといつまで寝てるんですか? 皆さんもう食べてますからね」


「そうなのか?」


「ええ、それとお客様が来たみたいですぅ」


「お客様?」


「はい。さっきシレッと知らない猫の人が朝食に混じってました。アレ……バレてないつもりなんですかね? 人間さんの考えはよく分かりません」


「オイオイ!? 思いっ切りスパイじゃねぇか!? マニアクス・ニャァン何人だ?」


「お二人ですぅ。取り合えず、農作業現場にご案内しておきました。あふ、昨日街の予算の会計業務してて、眠いのでしばらく仮眠室で寝てますね~」


「あ、ああ、ゆっくり休んでくれ。報告助かった。ミスティーク」


「はい。それじゃ、地下の魔法研究室の方で寝かせてもらいますぅ……」


 欠伸をしたミスティークが地下に降りていく。


 おばさん三人衆も詰めているので問題はないだろう。


 イソイソ食卓に座るとエーラが他の猫達と共に食事を取っており、こちらに手を振っていた。


「おう」


 どうやら、猫達に料理の方法を伝授していたらしい。


 言葉は分かる猫達である。


 自炊出来る事に越した事は無いので有難い話である。


 ちょっとずつではあるが、猫達の自炊レベルは高く為って来ており、近頃は焼き物に続いて煮物や少し金が掛かる揚げ物まで食卓には出て来るようになっていた。


 まぁ、肉が家畜のディノ化で手に入らなくなり、事実上は肉は魚オンリーで時々星肉で外から船経由で入って来るものを食べるくらいである。


「今度、肉……取りに行くか。もうドラゴン肉も全員食わせたら枯渇したし」


 現在、猫達の最初期組み以外の精鋭にはドラゴンのバックパックを解体して仕立て直した装備を見に付けて貰っており、モンスターをハントし始めそうな竜骨の剣やら盾やらを装備し、一部の希少鉱物を塗布して補強。


 見た目が竜鱗のカッコイイ紺碧色の装備なので街の子供達に大人気になっていた。


 親方に言わせるとマシンガンまでは止められるらしいが、対物ライフルは抜けるようなので事実上はそう大した代物ではない。


 ただ、高速で動きながら戦う事が可能な竜系能力持ち化した者達は何やら中尉からの教えで千術に目覚め始めたらしく。


 身体能力と知覚能力が著しく上がり始めていた。


「また、狩って来るのはメンドイし、クローニングで増やす方式の開発、急がないとなぁ……」


 現在、博士達にはとにかく防御面での装備開発をお願いしている。


 威力そのものよりも動きで圧倒するのが一番効率が良い敵との戦い方であり、ドローン相手では生身の消耗は話にならないのでそういう敵が出て来てから、攻撃力の要となる重火器の更新となるだろう。


(そもそもこの世界の事が何も分からなさ過ぎる。さっさとセントラルとやらを確認したり、ヤバイ種族の居留地や勢力の確認もしないと……)


 本日は卵と野菜のサンドイッチ。


 それにスパイスを加えた比較的簡単な代物だったが根菜類のスープと一緒だったのでかなりおいしく頂けた。


 現在、アルマートの食糧事情は大分改善しているが、それは収量が増えて、成長が早くなった事で収穫時期が短くなっただけである。


 その為、野菜の種類は6種類程度しか存在しない。


 現実とほぼ同じような野菜がちょっと名前が違ったり、○○レタスみたいな命名で作られているわけである。


 葉野菜は正しくそんな命名の代物だ。


【荒野レタス】


 ごわごわした歯ごたえの葉野菜だが、蟲が付き難く、水に晒して1時間程でレタスみたいな触感を取り戻す街の野菜の代表格。


【荒野根】


 読み方がこうやこんという完全に根とされるゴボウは事実上、汚染された土から栽培出来る唯一のヘブンのデフォルト根菜であり、放射能汚染された大地でもしっかり育つが、放射化した大地で育ったせいでちょっと放射能汚染を受けてしまう危ないヤツ。


 だが、基本的に食材系MODが入っている為、大体の食材は現実とは異なり、放射化していない水で洗うと“放射線が落ちる”馬鹿仕様である。


(物理とか関係ねぇ!! って、レベルで便利使いされたのは間違いないだろうな)


 本来のヘブンは食事で汚染されていく体を引きずって、代謝剤という細胞増殖促進剤と細胞代謝サイクルを短くする薬と細胞の増殖回数を増やす過去の遺跡からしか発見されないテロメア増強剤を一緒くたに混合したものを使って汚染で死ぬのを防ぐというのが序盤における最難関ミッションの一つだ。


 この為、殆どのプレイヤーは発売当初、幾ら完璧にFPS的な撃ち合いや殺し合いが上手くても途中で汚染のデバフで弱くなり、薬を手に入れようとした時には手遅れという事が多くて詰んだセーブデータを大量に抱える嵌めになった。


 基本、ヘブンは荒野を彷徨いながらサバイバルしつつ、戦うのみならず、様々な知識や常識を身に付けて生き抜くのが必須だったのだ。


 遣りたい事をやれるのはその最低限の足切りラインを潜り抜けた者だけなのだ。


 肉体のあらゆる細胞を新しくする事で汚染された大地で生きていく。


 というマゾ仕様は公式では一切改変が加えられていない。


 一部不評なこの仕様を変更してくれる食材MOD、調理MODは正しく天の助け。


 普通のプレイスキルしか持たない一般人及び廃人には為れないライトゲーマーは入れない理由が無い代物だったのである。


 まぁ、途中から殆ど立ち回りで回避出来た為、高難易度をやろうとし始めた頃からはとにかくゲームを軽くする為、MODの多くを入れても未適応状態でやっていたのであまり意識する事は無かったのだが。


「ごちそうさま」


 皿を洗い場に片付けて、近場の畑に向かう。


 現在、壁の延伸を続けた結果。


 街の四方はトゲトゲした壁と延長された外壁に囲い込まれた畑が同居する場所が増えて星型の要塞みたいになっていた。


 その殆どの石材を切り出したのは猫達だが、猫達も実質的な作業は半分くらいしかしていない。


 その理由が猫の城のあちこちをうろちょろしていた。


(ドローンによる建築能力の大幅な向上……勢力や拠点の増築には必須だな。やっぱ……楽出来るところは楽しないとやる事が多過ぎて手が回らねぇ)


 音も無く。


 作動音も殆どしない。


 正方形の箱型50cm程の図体に左右から伸びた細い金属製のサブアーム。


 ディノ化動物達の死骸から回収した生体金属を用いたしなやかで柔軟性のある移動用の車輪とアームによって自在に移動してモノを運搬する。


 簡易AI式の雑務用ドローンだ。


 体を巻くような薄緑色の識別番号が振られた発光式ラインと箱の四方の上辺にあるモノアイ移動式のセンサーを積んだソレが稼働し始めていた。


「ほぼ、これで最初期段階の立ち上げは完了。此処からだな……情報収集のターンは……」


 先日イエーガー・タイプ4体を撃破した事で得られた資材と知識を元に博士達が片手間で造り出した簡易AI式作業用ドローン。


【イノセント】


 元々は宇宙テックなものが沢山出て来る中盤以降に使えるようになる代物でMODドローンではない。


 この界隈というか大陸では無線操縦がドローンの大前提だったらしいのだが、それが命令一つで勝手に手伝ってくれるようになった効果は大きい。


 現在、メルタ博士達が持ち回りで日に1機ずつ親方の工房からの資材と自作した基盤で仕上げている手作りで数はまだ多くない。


 が、それでも最初期に一斉製造された分が街の外壁では稼働しており、猫達が切り出して超膂力で運搬、車両から重機も無しに積み下ろした石材を共にサブアームを変形した工具でブロック玩具のように互い違いに噛み合うように削って加工。


 それを複雑に積み上げ、コンクリートで塗って補強して……という具合に新街区の建造にも活躍していた。


【―――】


 充電は猫の城にある専用の充電器が室内のあちこちに延伸されたケーブルの先にあるのでほぼ問題無く行われており、生体金属細胞による柔軟性によって頑丈で壊れ難く、作業も精密だ。


 電池はスチューデント・スーツの背部のパーツを大本にしたらしく。


 かなり長持ちで何も持たなければ、300時間は余裕との事。


 まだ本格的な設備も届いていないのに作ってくれるのだから、三人の技術開発力と頭脳は正しく折り紙付きな代物に違いない。


 運搬重量も1機で500kgを超えており、複数機でサブアームや今までの機材を用いる事で器用に壁を昼夜無く積んで指示通りに作ってくれる姿は街の土建業者から目を丸くされていた。


(勿論、仕事を奪わないように基本的には希少な品なので危険な仕事や緊急の仕事にしか付かせられないとか街には宣伝しといたけども)


 これには土建業者さんもニッコリ。


 食いっぱぐれる事も無いだろう。


 今は数台が猫の城の雑務による運搬に従事しており、他は全て壁の延伸と拡張。


 更に電源を他の集落に持ち込んで集落の要塞化に従事と大活躍していた。


「いたな……」


 田畑の方へと向かう。


 思っていた通り。


 駐機場としていた田畑の一角に一組の男女がただあまりにもヤバイと自分達の状況が分かった様子で何やら話し合いをしている。


 動揺は隠しようも無いのだろう。


 それはそれで良い交渉材料にはなるかもしれないが、畏れられ過ぎても困るというのが本音なのは間違いない。


「アバンシア共同体の渉外担当者か?」


「「ッッッ」」


 その顔はさすがに引き攣っていたが、すぐにこちらを見て男が僅か半歩前に出る。


「反逆のガラーク殿とお見受けする!! 私はアバンシア共同体辺境衛星領域軍所属フタル第二歩哨部隊少尉ヒガノ・ベルチャー!! 我が国の外交官及び外交団の護衛として罷り越した次第!! こちらは外務省衛星領アマゴステの外交官であられる【イシル・ガイン】次席補佐官殿。勝手に機密を目にした事は謝罪したい。だが、今回の来訪は断崖のアルマートにとっても重大な事であると認識している。どうか、外交官殿と会談の場を設けて頂きたい。出来れば、今すぐに」


「お、おぅ(´・ω・`)」


 圧が強い。


 思わず頷いていた。


「失礼します。我が邦の護衛が失礼しました。彼はまだ若いので重責に逸っていまして。わたくし、今紹介されましたイシル・ガインと申します。ミスター・ガラーク……」


 2人とも美男美女なのは間違いない。


 片方の青年は何処か責任感の強そうなよく中尉とか少尉止まりだが、やたら優秀な現場最優先の専任に良くいそうな骨の太そうな高身長ではないが、イケメンと性格だけで食ってけそうな下士官に見える。


 もう片方は明らかに猫を被った……いや、化けの皮を被った出来れば、あまり関わり合いになりたくない類の女傑……それもネチネチ重箱の隅を突いて来そうな部隊の会計担当者にいそうなタイプに見えた。


「それでお二人の目にはオレはどう映った? オレは見た通り、ただの傭兵だ。だから、アンタらと交渉するヤツは別にいるんだが……まぁ、今担当者は徹夜が祟って寝てる。話くらいは聞こう」


 そのまま猫の城に踵を返す事にする。


 背後からは何か絶望したような気配がヒシヒシと伝わって来る。


 何か勘違いされてる気がした朝方の事であった。


 *


―――1時間後。


「なるほど。まるで意味が分からん。貴国の上層部は無能揃いだな」


「ッ……さすがに直截なのでは?」


「だが、貴女もそう思っているのでは? オレから言わせれば、負けたなら負けたらしく黙って大人しく見てればいい。それが一番簡単な手傷の癒し方だ」


「……我が邦も色々ありまして」


 長いテーブルを挟んで帰る前にエーラに御茶を入れて貰って話を聞く事になっていた……のだが、アバンシア共同体とやらはかなりおかしな行動を取っている事が明らかになっていた。


「どうして、わざわざ敗北したからと再び侵攻を開始する? 普通、そういうのは短期間で挽回出来るもんじゃない」


「ええ、はい。常識的には……」


「先日、アンタらが滅ぼした街と同じだ。時間を掛けてどうこうするんだ普通。搦め手も使って、懐柔するなり、便宜を図って厳しい交渉で実利を得る。そういうもんじゃないか?」


「御尤もで……」


 イシル・ガインと名乗った20代半ばの彼女の顔色は変わらない。


 だが、実際のところ事実陳列罪でこちらを八つ裂きにしたそうに見える。


 昔、隊の金庫を預かっていた女性士官がよくこんな顔で男達の欲しがる雑貨代金をビキビキした青筋を浮かべながら決済していたっけなと思い出した。


「まぁ、ここまでがオレの所感だ。アバンシア共同体は確かに強いんだろう。だが、今のような状況になっているという事は上層部が無能か。もしくは単純にそうせねばならない理由があるかの二択だ」


「……そちらは我々の行動をどうお考えなのですか? ガラーク殿」


「賢者の窯」


「っ……ええ、そうですね。ある程度の推測はされているとは思っておりました」


「言っておくが、アレはもう無いぞ」


「え?」


「何か此処最近滅茶苦茶色々な蛮族や略奪者連中が来るんだけどな。みーんな、言うんだよ。賢者の窯の力だ。賢者の窯を使ったなって」


「違うと?」


「まったく、古代の技術に夢を見過ぎだろ……」


 思わず溜息を吐く。


「それはどういう?」


「よく聞け。数十年前に滅び掛けたアルマートを1人の男が救った。そいつは賢者の窯を発見し、ソレを使って汚染の酷い辺境地域で子供や大人達を長生きさせる為にその力を使いまくった。結果、今も此処にアルマートがある。そして、その力も限界だった」


 固まったガイン=サンとその背後で直立不動で後ろに手を組んでいた青年下士官が愕然とした様子となる。


「な……それは……では、今その賢者の窯は?」


「使われ過ぎた道具はどうなる? 古代の技術だって万能じゃない。使い過ぎれば、故障もすれば、壊れもする。最終的にその力が使われなくなったのはどうしてか分かるだろ?」


「も、もう無いのですか?」


「壊れたもんはもう当時の関係者が“何の道具か分からないが金にはなる”という事でガラクタとして売り飛ばしたそうだ」


「そ、そんな……ッ」


「嘘だ!!」


「中尉?!」


「あの動物達は明らかに改造されていた!! 賢者の窯の力でなければ、何だと言うんだ!?」


「ちょっと中尉?!」


 さすがにそう言うヤツが出て来るのは想定内だ。


 ただ、やはり中尉は若い熱血漢みたいな良い士官であるが、交渉の場には要らなさそうであった。


「戦争を止めたい中尉殿。オレが教えてやろう。アレはディノ・ハザードだ」


「ディノ・ハザード?」


「少し前の話だ。此処から離れた場所に地下遺跡を発見した。その地下遺跡近辺から巨大なトカゲが出現した。それも街一つ分くらいの体積があるヤツがな」


「な、そんなバカな話……」


「中尉。下がりなさい」


「す、すみません。つい……」


「……実際、その話は一部の学者なら分るでしょう」


「ほう?」


 ちょっと意外だった。


 話が分かるヤツがそもそも研究者でもないヤツにいるとは思っていなかったのだ。


「大学では生物学を齧っていたので。恐竜……太古の時代から何度か出土した本物が動いていたというのは学会の論文で拝見した事があります」


「そいつはな。金属が組み込まれた細胞で出来てる。ソレを倒したのは良いんだが、その後に外環境のせいでゾンビや化け物みたいに変質して、それも何とか倒した。だが、そのせいで周辺が汚染されたんだ」


「汚染、ですか?」


「生物を侵食するディノ・ハザードは基本的に汚染された土地の食物から摂取した微量な金属細胞が増える事で発生する。殆どの動物は能力が馬鹿上がりする」


「ほ、ほう?」


「で、これはこの間攻めて来た破棄の楽園が開発してる新型マシンナリーの技術と同系統だ。あるいはソレを大本にしたんだろうな。生物との相性が良いんだよ。そんな古代の遺産の暴走だ」


「ッ―――つまり、賢者の窯の力ではない、と?」


「ああ、単純に汚染が広がっててな。金属細胞自体は金属を補給しなければ増えない性質があるから、無尽蔵には増えない。地表の金属資源は有限だからな」


「確かに……」


「だが、金属細胞の割合が増えると動物は金属資源を掘り起こして喰らうようになる。誘導されるんだ。更に増える際に単為生殖でどんどん増える」


「そ、それは……つまり……」


「オレは別にお前らが死のうが生きようが滅びようが繁栄しようがどうでもいいんだが、忠告だけはしといてやろう。オレの手間を増やしてくれるな」


「まさか―――」


「近頃、何か動物が多いなぁと思ってたんだが、周辺から動物が集まって来てる。理由は単純だ。少しずつ汚染された動物が汚染源の金属細胞を求めてここら辺に集まって来てるんだよ」


「ッ」


「オレは忠告したからな? さて、話は終わりだ」


「―――せ、戦争を回避したいとは思わないのですか!?」


 中尉が思わずといった様子で食い下がってくる。


 思っていた通りの正義漢らしい。


「生憎とこれから自業自得でボロボロになって辿り着いた時には恐らく3分の1くらいになってるだろう“略奪者”と戦争なんて程のものも起こらないからな」


「な―――」


「お前らはわざわざ動物共に機甲戦力ってエサを遣りに来た観光客だ。戦争というのは国家と国家がやるもんだ。オレ1人にすら劣る軍隊が拠点に攻め込んで来るのを戦争と呼ぶのか?」


「さ、三万以上の精鋭と機械化混成部隊!! 機甲戦力だぞ!? 戦車!! 自走砲!! 高軌道装輪装甲車両!! それらを使って戦争じゃないって言うのか!?」


「それが合理性を投げ捨てて仕掛けて来るだって? オイオイ、それはあんまりだろ? 戦略そのものが劣悪ってレベルじゃないぞ?」


 溜息一つ。


「戦力比1対1000だろうが1対10万だろうが、1対100万だろうが……雑兵の群れに意味は無い」


「ぞ、雑兵?!」


 まぁ、実際は銃弾一発でもMODの力が無ければ即死。


 何なら今正に街の外に追い出したクロイ・ディノ・ネズミー=サンがちょっと触れても死亡なのだが、交渉で弱みを見せるのは単なる間抜けのする事だ。


 此処は余裕ぶっておくに限る。


「戦争をしたきゃ、スチューデント・スーツでそうだな……最低1万着用意して来い。その時は戦争だ。ちゃんとな? 外交官殿」


 ちょっと圧を掛けたら、再び中尉が外交官の前に立つ


「~~~」


「どうやら、交渉はご破算なようで。これ以上の交渉に意味が無いなら、引き上げるべきです。外交官殿」


「いや、それは違うな。アンタらは今から吹っ飛ぶ人命を救う手札を前にしてるんだぞ?」


「何?」


 中尉殿に肩を竦める。


「言っただろ? オレはただの“傭兵”だ。傭兵は何の為に動くのか知らないのか? 中尉……だとしたら、まだまだだな」


「ッ、外交官殿!! 行きましょう!!」


「待ちなさい中尉」


「外交官殿?」


 彼女が顔色を変えずに立ち上がる。


「貴方ならそれをどうにか出来るのね?」


「ああ、約束しよう。オレがその現場に居ればな」


「外交官殿?!」


「中尉……あの動物達が大量に動いたら、スチューデント・スーツと専用武装以外だとどれくらいの脅威なの?」


「……外交官殿。本国は……」


「中尉」


 その強い口調に中尉が根を上げた。


「恐らく、纏まった数に襲われれば、3割は恐らく……」


「そう、正直に喋ってくれてありがとう。三割……普通なら即時撤退ね」


「だが、そうはならない。合理性を欠いた軍隊程に脆いもんはない」


「ガラーク殿。いえ、傭兵さん……貴方を雇うのは一体どれだけのキャッシュがいるのかしら?」


 中尉が滅茶苦茶渋い顔をしていた。


 今から目の前で起こる事は喜劇だ。


 そう、喜劇なのだ。


 何せ、何か不合理な上層部が決めた侵攻軍の被害を食い止める為に来たら、侵攻先の目的地で起こってる災害で大規模な被害を受けるのを侵攻先にいる傭兵にどうにかしてくれと泣き付くなんて話になるのだから。


「その前に一つ訊きたい。奇特な外交官殿。貴方を上が此処に寄越した理由は?」


「―――まったく、筋肉どころか。頭でも上を行かれているわね。ええ、想像している通りよ。私は……どんな事があっても、この戦いを止めたいの」


「ま、アンタを遣わしたって事はある程度はそちらも一枚岩じゃないんだろう。止めようという勢力がいると知れただけで収穫だ」


「外交官殿。一体、何の話を?」


「普通なら、こんな話は誰も引き受けない。そう……引き受ける理由が無い限りは……そういう事よ」


「恋人か? 家族か? 友人か?」


「ホント、完敗ね……」


 女外交官イシル・ガインが決意した様子でこちらに頭を下げる。


「此処からは外交官ではなく。1人の女イシル・ガインとして頼むわ。実現可能な規模でならば、キャッシュでも仕事でも便宜でも必ず出来る限りは払いましょう。どうか、私の夫を……助けて下さい……」


「ッ」


 中尉が今度こそ度肝を抜かれた様子で目を丸くしていた。


「中尉殿。注釈を付けておこう。殆どの場合、軍の全面的な意向に逆らうような外交、交渉が成される時はその意見の少数派の中でも利害関係者が選ばれる事が多い……ま、生け贄だな」


「利害……生け贄……」


「そうだ。正式な連中以外の例外的交渉役はそういうのが多い。裏切ったり、やり遂げる意志が薄弱じゃ困るからだ」


 その利害に思い至って中尉がようやく納得はしないが理解したような顔で自分の国の外交官とやらを見やる。


「私的な理由だよ。脅されたり、自分で願い出たりな。その殆どの利害の大半は金ではどうにも出来ない部分だ。何せ軍事関連だからな。生半可な理由じゃ軍法会議で銃殺刑覚悟、死刑、国家反逆罪なんてガンギマリにはなれないよな」


「つまり……今回、外交官殿。貴方がこの任務に志願したのは……」


 微動だにしない女外交官。


 いや、元外交官はかなり状況が見えているだろう。


 こちらの話を理解出来る聡明さと好機を逃さない強かさは目を見張るものがある。


 そう、此処で傭兵を1人雇わなければ、彼女の愛する人は恐らく死ぬという意見は確率的には3割では済まないのだろう。


「ま、そういう事だ。多くの場合、軍事関連の交渉で多いのは今も昔も人の身柄に付いてだ。囚われた捕虜の開放、身代金、人質交換、捕虜交換。今回は戦争で夫を死なせたくない外交官が戦争を止める為の任務に選出されたんだろう」


「能書きはいいわ。答えは……反逆のガラーク?」


「いいだろう。今のところ、色々とやって欲しい事は思い付くが、最初に行った通り、オレは渉外担当じゃない。だから、代価は保留だ」


「分かったわ」


「ただし、外交官殿が言った通り、出来ない事は言わない。言わせない。だが、殺さずに止めるのは骨だ。その分は貸しが大きくなると思ってくれ」


「了解しましょう……」


 顔を上げた女に手を差し出す。


「交渉成立だ。外交官殿……アンタが邦に戻れようと戻れまいとアンタの夫がその後どうなろうとオレは干渉しない。自力でどうにかするんだな」


「分かってる……」


 さすがに重い決断だったらしく。


 拳から滴った血が床に滴っていた。


「中尉。もう帰っていいぞ。お前の仕事は終わりだ」


「外交官殿!? 本国を裏切るおつもりですか!?」


「戦争が起こらなければ、あの人が戦争で死ななければ、それでいいわ。私に出来る事をちゃんとした結果だもの……あの人を逃がす為の算段くらいはしてあるの……」


「な、最初から?! ですが、どうするんです!? “ライフリンク・ポイント”が尽きれば我々は!?」


「いいの……あの人に少しでも生きててもらいたいのよ。ごめんなさいね。もし聞かれたら、裏切って殺そうとしたが邪魔が入って不可能だったと言っておいて頂戴」


「勝手な!? それで本当にいいんですか!?」


「中尉。あんまり女に恥を掻かせるな。一番分かってるのはそこのご婦人だ。外交官としての矜持と仕事を全部捨てても頼む。とても、普通のヤツが真似出来る事じゃない。時間も押してるんだろう?」


「クッ!!?」


「じゃあ、契約内容はこうだ。オレがお前らの軍隊を殺さずに止めて、動物達から護る。ついでに戦闘不能にして軍の本拠地に送り返してやる。ただし、もう死んでいたり、死んでなくても怪我で死に掛けていてもオレは関知しない。そして、アンタはその代価を後払いする」


「構わないわ。確かに……それくらいの力はあるでしょう。あの四基のドローンを破壊する程の威力……本国ですら不可能な事を貴方はやってのけた」


 中尉が忸怩たる思いを顔に滲ませ、こちらを睨む。


 まぁ、本当は蜂サンが種族一丸でドローンに特攻したおかげで楽に倒せただけなのだが、肩を竦めていなしておく。


「……反逆のガラーク。この街を戦場にした事、後悔するなよ?」


「二つ間違えてるぞ。此処は最初から戦場だ。辺境に戦場じゃない街も集落も無い。いつでも簡単にあらゆる存在は死ぬ。略奪者も大勢だ」


「それでも戦場にはなる」


「かもな? でも、お前ら程度の勢力をオレは“軍”とは思ってない。そういうのは大陸を支配出来るくらい強くなってから言え。弱小勢力の坊主」


 ちょっとカッコ付けておくのがオーソドックスな軍人相手には丁度良い。


 特に自分に自信が無い有能な人間は相手も合理的で有能だと思い込むようなところがある。


 人間の感情というのは大抵判断力を曇らせがちなのだ。


「ッ、失礼させて貰おう!!」


 そのまま言い返しもせずに帰っていく中尉の背中であった。


 それが見えなくなった後、チラリと未だに俯く元外交官を見やり、小瓶を渡す。


「治癒剤だ。血の付いた手で契約書にサインするつもりか?」


「え、ええ、すぐに行くの?」


「準備してからに決まってる。オレはただの傭兵だ。今は強い訳でもない」


「へ?」


「博士~~!! 全員ちょっと来てくれ」


 地下の通路にそう声を掛けるとすぐに奥からドヤドヤと足音が近づいて来る。


「何じゃ何じゃ? お、もうマニアクス・ニャァン共のスパイをぶっ飛ばしたのか?」


「ぶっ飛ばしてない」


「おお、別嬪さんじゃなぁ。まぁた捕虜増やしたのか?」


「捕虜じゃねぇ。依頼者だ」


「まだまだ拠点地下の掘削は必要そうじゃな。拡張が大変そうじゃ」


「話聞いてる?」


「「「ふぉっふぉっふぉ……」」」


「何か人格まで変わってねぇか? あんたら」


「「「我らも余裕があれば、こんなんじゃよ♪」」」


「ま、まぁ、いいけども三人とも遠隔地の情報を映像で送信出来る機材は出来てるか?」


「おぉ、ドローンに積んであるぞい」


「もしもの時の偵察用じゃな。通信を遠隔で繋ぐ中継機材にもなるぞ」


「明王号にチャンネルはリンク登録済みじゃ。近頃は自分の才能が怖いわい」


 三博士を見たイシル・ガイン元外交官が一言。


「な、なんか……どこかで見たような?」


「ワシらも有名になったもんじゃな」


「うむ。ま、今の我らを見て、過去の我らとは分からんじゃろうが」


「ふっくらしまくったからのう♪」


「取り合えず一機借りてくぞ。それと車両にあるだけ治癒剤を積んでくれ。後、キメラティック・アームドは借り出しとくと大尉に言っといてくれ」


「了解じゃ」


 メルタ博士が親指を立てる。


 すると、その背後からサラッと白衣を着た邪神が出て来た。


「だ、誰? 今、いきなり現れなかった?」


「気にするな。で? 何か用か? “ロイヤーちゃん”」


「あらあら、うふふ♪ 呼び方がお気に召さないみたいですわね。雇用主様♪」


「呼べと強制してるんだから、呼ぶしかないだろ? それで?」


「今、大変な事になってますわよ? あの有象無象達」


「だろうな。でも、そんなのでお前出て来ないだろ?(。-∀-)」


 思わず本音が零れる。


「ええ、勿論ですわぁ♪ あのUUを召喚する時、不真面目な召喚口上にしませんでした?」


「は? というか、知ってるのかよ!? ウルトラ・ユーマとか!?」


「ええ、カワイイですわよね。ペットに飼ってる人、多いんですのよ?」


「えぇ……犬猫じゃないんですけどヤダー(*´Д`) 邪神特有の日常会話は御止め下さい。御止め下さい。【黒緑の君】」


 パチーンといつものように送還する為の黒い穴が尻尾に叩き落とされる。


 相手が油断さえしていれば、確実に送り返せるはずなのだが、どうやら目の前の女医兼ナース邪神=サンには何時如何なる時も油断は無いらしい。


 ウルトラ・ユーマの大半は基本的に人類を滅ぼせるナニカばかりだ。


 最下級ですら魔法の為とはいえ、あんまり惑星上の勢力に迷惑を掛けたくない場合は使わない事も実は多い。


 デメリットが時々洒落に為らない事があるのだ。


 そんなのをプレイヤーでもないのに日常的に飼い慣らしているなんてヤバ過ぎるのは間違いない。


「ああいうのは召喚したてだと頭が良くないんですわ。だから、解釈する時は言語ではなくてニュアンスで汲み取るものなのよ? あ、まさか知らなかったんですの? クスクス」


「な、何か不吉な予感(*´Д`)」


「“何かもう疲れて来たな”は“相手を先に疲れさせるように”ですわ。“まだ続くのか。なげー”は“行動を早くするように”……“よしコンプリート!! お疲れ~”は“行動を完了し、己を育てるように”……どうかしら?」


「―――((( ゜Д゜)))」


「な、何の話なのよ!?」


「……あ~~アンタの夫がDieピンチだ\(^o^)/」


 思わず惑星オワタ状態になった。


「ええ!?」


「この惑星の緊急事態とか!! おなかが痛くなっちゃうだろ!!(´Д⊂ヽ 急いで行くぞ。アンタの夫がいる部隊は?」


「ちゅ、中央から攻めて来るA群にいるわ……補給中隊で司令部付の将校なの。お、恐らく、街道沿いを南下してるはずよ」


「分かった。治癒剤積んだ車両をドローンに運転させてくれ。とにかくそっち方面に急がるように。オレが先に出る!! あ、映像は送るから、随時こいつに見せてやってくれ」


「了解じゃ~~」


 とにかく、行かねばならなくなった。


 猫の城の表玄関から走って明王号のカーゴの上に飛び乗る。


「サイドブーストを目一杯で街道沿いを飛ばせ。戦力を確認と同時に回避機動を取りつつ旋回して攪乱。攻撃は戦力に当てず、相手の武器を使用不能にするだけでいい。貫通させるなよ?」


『了解』


「敵はスチューデント・スーツと専用装備も使って来るぞ。他の装備持ちは無視していい。それと動物を最優先撃破だ。オレの声には真っ先に応えろ」


『プロトコル化完了。命令受諾』


「死にそうな奴がいたら、助けてやれ。お前は最終的に破壊されてもいいが、死人は出すな。戻って来れたら修理してやる」


『了解。ドリンクを準備開始』


「気が利くな? 行くぞ!! 三度目の正直だ。そろそろ恐竜の呪縛からは解放されたいしな」


『イエス・サー』


「オレはミスターらしいぞ?」


『イエス・ミスター』


「よろしい。行くぞ相棒二号」


 サイドブーストが電力を猛烈に消費しながら、吸引した空気を圧縮。


 爆速でカッ飛んでいく。


「ッッッ、う(´Д`) この歳でこの加速はキッツイわ。消耗戦末期に空挺させられた時くらいゲッソリしそう。あ~~保険掛けとくかぁ……」


『治癒剤の服用を推奨』


「正直、飲みたくねぇ~~(|Д|)。後でどんな副作用あるか分かったもんじゃねぇし~ヴぉぇ(〇Д〇)」


 サイドブーストの一次点火が終了して速度が落ちて地表の街道に着地、そのままの勢いで爆走する明王号のサイドアームに腰を掴まれながら、ポーチから小瓶を呷るのだった。

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