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第20話「前哨戦とエロMOD先輩」


―――辺境街道【死者の道行き】街道沿い野営地。


「くくくく、遂にこの時が来た!! いいかぁ!! テメェら!! 今まではそこらの雑魚勢力だったオレ達は今や2万の大所帯だ!! 四派閥統合によって大幹部四人を要する我ら【麦の統合】は周辺の辺境の穀倉地帯を2割も手に入れた!!」


 おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!


「後はあの邪魔な断崖のアルマートを叩き潰すだけだ!!」


 おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!


「薬がねぇ!! 食料がねぇ!! そうぬかしやがる奴隷共は殴って躾ろ!! オレ達がこれからは辺境の最大勢力となって、全部奪っちまうんだ!!」


 うううううううううおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!


「幾ら、連中が壁を作ろうと重火器を作ろうとオレ達の数には叶わねぇ!! 今日は宴だ!! 奴隷共を抱いて愉しめ!! 男は鉄板の上で踊らせろ!! 酒だ酒だぁああああああああ!!!」


 男達の飲んでいる酒を地表に流し捨てながら、ホントこういうのは世界共通、万国共通、何処にでもいるんだなぁーと感想を抱きつつ、街道沿いに出る何か勢力が大きくなったらしい蛮族部隊を見に来たら、コレである。


(ま、準備は万全だったし、10時間も時間が在れば、どうにでもなるという……蛮族は先制攻撃さえ出来てれば、単なる肥料と商品の山なんだよなぁ……)


 あちこちを見回してみるが、本当にヤバイ種族なんて存在していなかった。


 名前の出て来ないゼノ・アニマル種の殆どはちょっと能力が高い低いがあり、苦手、得意という程度の出来る事の差がある程度の存在である。


 種族差というのはヘブンにおいてはかなりの絶対的な壁だ。


 勿論、プレイヤーはそれを引っ繰り返す存在だし、マニアクス・ニャァンのような特異な能力を持つ種族も多いが……蛮族勢力と呼ばれるような集団に身を墜とすような殆どの種族は“普遍的な種”である事が多い。


(ま、モブはモブって事だが……あの邪神よりは一兆倍マシだな)


 数が多い、突出した能力を持たないというのが蛮族の条件となる。


 ヘブン内ではこれは逆の種族程に強力な存在であり、徒党を組んでいたらほぼ勢力的にはどんなに小さくてもヤバイという認識で間違いない。


 獣人の能力的なランクにおいても蛮族化するゼノ・アニマルの大半は低ランクであり、稀にちょっと希少な種族が率いていたりする程度。


(今回はとにかく数を集めた勢力の肥大化で強化されてたみたいだが、こんな近場で陣張ってたら分るわ。商人の情報網は甘くないしな)


 確かに2万人という数は脅威だが、各地の支配地域に3分の1以上が分散、敵本体にしても奴隷管理やら諸々の部隊の統制が取れていないせいで兵站は雑。


 酒と食い物と女以外はマジで兵器がほぼ親衛隊の部隊以外は棍棒とかであった。


(というか、マジで棍棒使ってるヤツは多くないと思ってたんだが、多過ぎる。そこらへんを入れてない弊害か?)


 敵を強くして歯ごたえのあるゲームをする為に敢えて、強化された野良敵を出すMODは多い。


 その中でも蛮族MODと俗称されるような襲撃者強化MODの多くはリソースを他のMODに頼り、あらゆる種族を蛮族化したりする事もあるヤバイ代物なのだが、そう言う種族MODを入れる時はさすがに蛮族MODを入れたりはしない。


 そう入ってないなら、さすがに適応されない、と思いたいところだ。


「さぁ、たの……し……う? な、んだ?」


 夕闇の最中。


 4派閥の頭領にして合同勢力の幹部達がフラフラと酩酊したように倒れていく。


 街道の横に大規模な陣を立てた男達の載っているのはロバ、羊、馬、カバ、トカゲ、野生動物を飼い慣らしたと思われる即死系動物や巨大昆虫類までいる始末だ。


 あちこちで奴隷として浚われた女子供の悲鳴が上がっているので困った話である。


「まずは酒……を……」


 奴隷に酒は飲ませない。


 なので、問題は無い。


 次々にバタバタ倒れていく男達が静かに息を引き取るのを横目に異常に気付いた者達が外に出始めていたが、豪快に酒を大量に振舞ったせいで荒くれ達はほろ酔い。


 そして、ほろ酔いは“致死量”であった。


「あ、ぐ……ね、む………―――」


「あ、え? お、ま……え……―――」


 酔っていない荒くれは1人もいなかった。


 酒を用意した手腕は褒めてもいいが、今回は奴隷やら何やら周辺辺境で浚われた人々がいるので大げさな攻撃は出来なかったのである。


「ひ!? し、死んでる!!?」


 そこで今まで集会をしていた陣地の中心から巨大な声が世界に響いた。


 酒を開けていい時間は決められていたし、それから30分も立っている。


 そろそろ『本当に飲んでしまったのか?』と聞かれてしまいそうな蛮族達は安らかな眠りに付く事だろう。


『さらわれたれんちゅーはきくにゃああああああああああああああ!!! へんきょうのだいえーゆーがたすけにきたにゃぁあああああ!! かいどーをのぼって、あるまーとににげこめば、たすけてやるにゃぁあああああああ』


 陣地に響く声はドラゴンの絶叫的な能力が使わている。


 ガラクシオの一件から戻って数日。


 大尉の能力は飛躍的に上がっており、遂に数十人の猫相手にも生身で無双し始めていたので能力を色々試していたが、その一つがこのよく遠くまで響く声であった。


「て、天の助けだぁ!! まさか、本当に存在するのか!? あの噂の英雄は!? 女子供を集めろぉ!! 早く逃げるんだぁ!!」


 奴隷化されていた者達が次々に足を引きずるやら、辛そうな体を押して陣地から遠ざかろうと街道沿いに出てアルマートの方へと向かっていく。


 此処から凡そ40km以上先にある大地に到達する前に死ぬ者が多い事だろうが、今回は大増産された邪神特製の【治癒剤】を樽で車両に詰んで来た。


 その為、街道で猫達がコップ一杯を手渡して傷を回復させ、体力を満タンにして徒歩で向かうよう指示していた。


「しっかり、勃ってるな。死亡確認ヨシ(・ω・) で? 残ってるのはどれくらいだ?」


「にゃ~~~まだ辛うじて動けるのが300から1000、もう動けずに死んでないのが1000くらいですにゃ」


「さすが邪神印の毒薬……完全無味無臭で1樽1摘でこの威力……いや、ホントにマジで帰ったら安全に破棄させねぇと不安で仕方ないな……」


 不意に脳裏へクスクスと声がひそめくように響く。


『あらあら、もっと欲しくないのかしら? 今ならお安くしておきますわぁ♪』


『そんなのは全部破棄しろ。それよりもやって欲しい事がある』


『ええ!? 雇用主様がわたくしに個人的に淫猥で卑猥な依頼を!? 明日は人類が滅びるかも♪』


『ちっげーよ( ゜Д゜) 単なる医者としての仕事だよ!!? どうせ、遠隔地に居たって人間数万人くらいの状況なら分子一つ分まで何でも知ってるだろ!!?』


『あらあら♪ お詳しい事で……ふふ』


『そこからでもいいから、ちょっと仕事しろ!! 今は忙しいから、終わるまで黙っててくれ!!』


 近頃、念じるだけで邪神相手に通じるようになってしまったのはかなりアレだが、今は忘れておこうと溜息を内心で吐く。


「ふ~む? 奴隷を襲おうとしてるのが守備隊の皆さまの狙撃でやられてるにゃ。後20分もせずに全滅ですにゃ。正しく死体撃ち」


 中尉の言葉の合間にもパスパスと気の抜けた銃弾の音色があちこちで響いていた。


 アルマート守備隊の狙撃部隊33名。


 近くの低木に腰掛けて撃ちまくっている彼らが持っているは品質EXの地下モールで集めて来たライフル。


 約14000人の内の8割以上が毒酒で死亡し、残った2000人近い半死人を狙い撃ちするだけの簡単なお仕事である。


 奴隷化された人々の恰好はボロボロな一枚布を紐で纏わせただけというのが辺境流らしく、見間違える事は無い。


 つまり、撃ち間違える事も無い。


 暗視スコープ付きのゴーグルを掛けて、此処最近ずっと訓練して貰っていた彼らは高品質な狙撃銃と相まってしっかり仕事を果たしてくれていた。


 弾丸は商人達に必要な口径のものを纏めて買って貰ったし、弾倉は全て親方や全ての工房に全力で造って貰って大量に装填済みで彼らのいる場所に積まれている。


 動きが鈍り、今にも倒れそうだが、倒れないくらいの蛮族を鴨打ちしているのだから、これで倒せない方がどうかしているというものだろう。


「ご苦労。中尉……つーか。お前……戻って来てからホントやつれたな?」


「は、はは、“せんにゃん”として色々あったのですにゃ……」


 登場当初の軍人然とした様子はどこへやら。


 今や何か悲哀が背中に滲むサラリーマンみたいな事を言い出す中尉である。


「ま、まぁ、理由は聞かないが、女遊びは程々にしろよ? 干乾びるぞ」


「は、はいですにゃ。う……もうお婿に行けにゃい」


 何やら中尉がいつの間にかハーレムを築いており、他の男達に滅茶苦茶拝まれる勢いで信頼されている様子になっていたのだが、留守の間に強くなったらしい以外の事は聞けなかった。


 邪神は何か艶々していたのできっとロクでもない事が起こっていたのだろう。


「奴隷にされてた人達の数は?」


「凡そ1200人くらいですにゃ。今数えましたにゃ」


「ホント、知覚能力も上がったのは有難いな。さすが【仙術】……」


 中尉に指示出しを行いながら、アルマートの方角からやってくる商隊を遠方に確認する。


 高速で近付いて来るのは現代車両だ。


 先日から大量の重火器の部品を製造し、販売網を強化していたおかげで利益が入って来たのを移動用車両の購入に重点。


 結果として迅速に商品を捌けるようになった商隊は殆ど重火器で武装した武器商人染みた人々となっていた。


『こりゃ大量だ。本当にこの数をたった数十名で……』


『ミスティークちゃんの言ってた事は本当だったな……』


『ああ、街にあの人は絶対に必要なんですって必死にな……』


『反逆の英雄、か。何に反逆してるんだか、オレ達はさっぱりだが……』


『でも、ミスティークちゃんの言ってた通り、食糧問題はあの人が帰って来てから作物が異常に成長が早くなって解決しつつある』


『だな。その上、魔法使いのばあさん共も何か涙流して喜んでたしよ。レイダー共の巨大連合がたった一晩でこの有様……あいつはすげぇよ。本当に……』


『あの人が居なかったら、オレ達の街は今頃……』


『あの人がこれから街に帰るそうだ。恐らく、まだ辺境に残ってる残党の殲滅計画を練るんじゃねぇかな……連中も馬鹿な事をしたもんだ』


『ああ、この情報はきっと辺境中を驚かせるぞ。辺境最悪の悪党共の大部隊をたった一夜にして壊滅させた英雄の名は歴史に刻まれるだろうさ』


『銅像でも建てるか。その内』


『ああ、親方に頼んでおこう』


 多くのゼノ・アニマル達の死骸から肌着以外の全てを剥ぎ取り、金歯、銀歯、義眼、義手義足、何でも取り合えず剥ぎ取って近場の仮市場に運び込んでいく。


(蛮族に人権は無いと)


 あちこちの辺境にはもう知らせが奔っており、蛮族の武装や蛮族の使っていた防具、装具、様々な残された品を全て超格安で買わせるのだ。


 勿論、金の無い近隣の辺境の集落には持ち寄れる物々交換用の品も用意して貰う事になるだろう。


 それをテコにして商売網を広げれば、悪党が消えて比較的道中が安全になった辺境の人、物、金の動きは活発となるに違いない。


 傍に戻って来た大尉が首を傾げる。


「したいはどうするにゃ? このままだとくさるにゃ」


「ああ、それは問題ない。人間は塩分以外は肥料になる。そして、塩分自体があっても問題ない植物の種がこの間めっちゃ手に入ったからな」


「ああ、そーいえば、りゅーかごのなかにほしにくといっしょにいっぱいだったにゃ……」


 先日、花畑から吹き飛んだ無数の華の種が肉が見えない程に竜で造ったバックパックに隙間から入り込んでいたのだ。


 凡そ数百万個の種が……。


【ガラクシオの標章】と呼ばれる花々は良い匂いと大尉が言っていた代物であり、使い方次第で毒にも薬にもスパイスにもなる。


 それを再生産する方法は肥沃な大地に植えるだけなのだが、ほぼどんな土でも問題なく。


 塩害をまったく受け付けないどころか。


 塩を取り込んで塩気のある種を調味料にすら出来る。


「ゼンラ・シタイ=サンは20キロ以上離れた場所に創る予定のお花畑予定地付近に満遍なく詰めておいてくれ」


「にゃ」


「近辺のディノ化した連中は肉に飢えてるからな」


「くわせたら、あじをおぼえておそってこにゃいにゃ?」


「ディノ化した動物は生肉よりも腐肉を好む習性がある。ついでにフンは発酵が早い。金属細胞自体が湿気を好む細菌や菌類、ウィルスを賦活させて、腐食速度を爆増させる。要は発酵だな。大地は即効肥えるはずだ」


「ほうほうにゃー」


「2週間で骨も残らないんじゃないか? あ、ちなみにディノ化した動物にはほぼ全ての毒は利かないからな。全部、その頃には分解されてるはずだ」


『うふふ、そうね♪ その毒はあのぴかぴかしたのはすぐ分解するんじゃないかしら? 1週間もせずにね。今のウチにちゃんと白状しちゃいましょう♪』


「う……」


 脳裏でゲロった邪神の話が嘘か本当かはまず自分で確かめようと心に誓う。


「にゃ? なんかくわしーにゃ。ごしゅりん」


「ディノ系列は恐竜好きだったから、ちょっと詳しい」


 後、あのMODの最終目標は恐竜さん達が暮らせる楽園を作るというものになる。


 太古の生物兵器群とそれに影響を受けた生命体というのは実は惑星環境が限界を迎えても生き残れるように最初は設計されたのだとシナリオで発覚するのだ。


 実はソレを生み出した博士達は平和と恐竜を愛しており、恐竜と世界が共存出来る豊かに暮らせる世界を作るという目的があったと判明した後。


 プレイヤーはその意志を引き継いでディノマゲドンを阻止して恐竜と共生する未来を作ってハッピーエンドとなる。


(ま、死体が腐ってる間は地獄の光景だから、3週間後にすっかり死体が平らげられてフンになった後の話だろうけど……)


 数か月発酵させたような完全な堆肥になるのはディノマゲドンの仕様だ。


 現在、街道沿いには猫達の部隊を配置しており、周辺のディノ化した動物達を狩らせてもいるので問題ないだろう。


 今までの猫達は非力な一般的マニアクス・ニャァンであったが、持って返って来た竜の干し肉で竜戦士マニアクス・ニャァンにクラスチェンジしたのだ(適当)。


(でも、ぶっちゃけ、レベル的にも単なる兵士の数倍以上の実戦と経験値で能力が増強されてたところに竜の能力……事実上あいつら接近戦しか出来ない以外はかなり優秀になってるんだよなぁ)


 実際に能力が爆増して、重火器が使えなくても全然強いのだ。


 防具と腕のクローや刃物、剣、ガントレットの類だけでディノ化動物達を得物として狩る側に回っており、動物達も爆発系以外はほぼ竜の気配というのを怖がってか逃げ出すのがお決まりである。


 おかげでアルマートの動物被害はここ数日でほぼ0になっていた。


(まぁ、その代わり駆除されないディノハザード中の動物は超速な単為生殖で増えるせいで爆増。今や爆弾カバ=サンの憩いの場と化して毎日壁外はパーティー状態。危なくて車両以外じゃ外に出たくないけど)


 まぁ、強くなるためとはいえ、さすがに穴という穴から光を駄々洩れにしていた食事風景はドン引きされていたが、それは必要経費というヤツだろう。


 例外存在は人の生活圏にも土足で踏み込んで来て、ディノ化後も更に勢力を増している存在……クロイ・ディノ・ネズミー=サンくらいであろう。


 マジで人を怖がらないし、寄って来るし、増殖してるし、拠点内のネズミは全駆除していたが、それにしても街ではネズミー・トラップがバカ売れ中だ。


 元々、真菌であるせいで燃やす以外に対処法が無かったのだが、今度は燃えないメタリック強化されたせいで罠に掛けて捕まえたら、壁の外に纏めて投げ捨てる事になっていた。


(ネズミーの駆除業者がオレの最後の希望だ。うぅぅぅぅ(*´Д`) あ、あいつら何か人に対する傍若無人度が増した気がするんだよなぁ……)


 今まではコソコソと人の擦り寄ろうとしていたのが、今は堂々と自分はディノ・ネズミーだ文句あるか?くらいの感じで近付いて来るのだ。


 更に病原菌そのものが強化されているのか。


 目を細めて見ると超健康状態で増殖率も爆増していた。


 普通に住民が触ってもすぐに具合が悪くなるらしく。


 手袋とブーツは必須アイテムとなっている。


 こんな状況なのだ。


 帰宅後に寝室で見付けた時には悪夢を見た心地となった。


 『オ、オレの傍に近寄るなぁああああああ!!?Σ(゜Д゜)』とガクブルしながら逃げ回った後、徹底的に消毒したが、黒い死は未だ傍らである。


「さ、悪党は肥料になるし、市場の設営もほぼ計画通りだし、帰るか。ホント、樽全部に毒仕込むの面倒だったな。何でオレが酒配る掛かりに最適なんだよ。はぁぁ」


「それはごしゅりんが一番あいつらに交じってて耳さえあれば気付かれない顔だからですにゃ」


 中尉がそう身も蓋も無い事実を突き付けて来る。


「すっげーショック……(´Д`)」


 後は猫達に任せて今後の予定を詰めようと近場に止めてある明王号に戻ろうとして、思わず欠伸一つ。


 伸びをした時だった。


「?」


 何かが頭の横を霞め、遠方から発砲音。


 だが、4秒近く掛かった。


 チラリとその方角を見やる。


「にゃ?! ごしゅりん!!」


「放っておけ。もう対策はした」


「は? ん?」


 再び何処かに銃弾が当たったような音が響くが、明らかに30mは離れていた。


「何か辺り一面が熱いにゃ? 魔力的なものを感じるようですにゃ?」


「狙撃手に一番効く手品だ。お前ら!! 狙撃手は放っておけ!! 事故でも奴隷にされてた連中や商隊の連中に当たらないように護衛に付いてろ!! 今のお前らなら弾丸は見えるし、弾けるだろ!!」


「りょ、了解ですにゃああああああああああ!!! ぜつゆる!! ぜつゆるぅぅぅぅう!!! ごしゅりんに感謝するがいいですにゃ!!! 馬鹿な狙撃手ぅうううう!!」


 狙撃者がいる方向にガオーッと吠えた中尉である。


 大尉がプラズマ・グレネードランチャーを一発。


「ごしゅりんをねらうやつはじょーはつにゃぁあああ!!!」


 遥か遠方に狙いを定めて撃ったので無駄弾は使うなと諫めて、さっさと指揮に戻らせたのだった。


 *


―――蛮族最大規模野営地より2km北方地点。


「はぁはぁはぁ、に、逃げる必要があるのか!? さっきの位置でもう一度」


「馬鹿かお前は!? あの様子を見て、まだ分からないのか!?」


「な、どういう事だ!? もう少しで反逆の英雄とやらを仕留めていたはずだろう!?」


「お前!! あの4射撃を同時にあいつは回避したんだぞ!? あんな間抜け面で伸びをしたみたいなポーズで!!? そんな事が本当にあり得ると思うのか!?」


「そ、そんな!? アレは偶然だろう!?」


「馬鹿が!? オレ達は8名のチームなんだぞ!? 其々が最適の狙撃ポイントから念話によってタイミングを計って狙撃している!! 更にオレ達とは違って、他の三組には本国の最新式狙撃銃。【メンタル・ブレイカー】が渡されていた!!」


「あの狙撃銃、普通のものとは違うのか?」


「クソ、情報封鎖していてすら、気付かれていたのか。今はいい。アレはな!! 無音、撃てば当たる本国の最新兵器だ!! しかも、マズルフラッシュが出ない上に相手の精神を粉々に破壊する!!」


「そ、そんな恐ろしいものが!?」


「ふ、伏せろぉおおおお!!?」


「え―――」


「ガハ!? ゴホッ!? う、ちょ、直撃は避けられたか。オイ!? 起きろ!? 逃げるんだ!? 恐らく、他の連中も銃は放棄してるはずだ。軽くするんだよ!! バックパックは破棄していけ!!」


「う、どうなって……」


「プラズマ・グレネードだ!! 本国で研究開発中の戦術兵器!! オレ達が15秒前にいた地点が今やクレーターだ!? 連中は!? いや、あの男は最初からオレ達のいる場所を知っていたんだ!?」


「な、そんなバカな!? 赤外線も出てなければ、視認も不可能に近いスーツにカモラージュ・シートまで使ってるんだぞ!?」


「どうしてお前はあのタイミングであの男がポーズを取ったと思う!! オレ達が引き金を引く直前だ!! あの瞬間以外に回避する方法は無かった!! しかも、ご丁寧にわざわざオレ達の音がする方を撃ったんだぞ!! オカシイだろう!?」


「オレ達は囮じゃないのか!?」


「違う!? 他の3者のメンタル・ブレイカーから放たれる精神崩壊波を避けてからわざわざ時間をおいて攻撃……ッ、遊んでやがる!! オレ達を生かして返すつもりだ!!」


「な、見付けられてないだけじゃないのか!?」


「あっちの方からどうして追手が掛からない!? 音がした方を正確無比に撃っておきながら、どうして攻撃も来ない!? 分からないか!!?」


「ま、まさか?」


「オレ達をメッセンジャーにするつもりなんだ。敵対するなら次は容赦しないと!! もしや、破棄の楽園がこの同盟を組ませ、裏から支援していた事まで……いや、有り得る……」


「そ、そんな……じゃ、じゃあ、オレ達の狙撃は……」


「ああ、知られていたんだ。泳がされてたんだよオレ達は!!((((;゜Д゜))))」


「じゃ、じゃあ、来るかどうかも分からない相手を張っていたオレ達にわざわざ危険を承知で撃たれに来たって言うのか!?」


「そうだ!! 何であの明らかにオレ達よりも格上に見えるマニアクス・ニャァン共はオレ達を最初に排除しなかった?」


「呑気に散歩していたように見えたが……」


「偽装に決まってる!! どうして、あんな狙撃され易い位置で立ち止まっていた? 何で即時反撃可能な狙撃手共が何十人もいて、あの馬鹿火力だが、明らかに遅いプラズマ兵器で砲撃する!? 考えれば分かるだろう!!」


「反逆の英雄……ガラーク……セントラルに喧嘩を売ろうって言うのか? 本気で!? こんな辺境の単なる1人の男が!?」


「お前は知らないだろうがな!!? あの最強無敵の名をセントラルで欲しいままにした最精鋭部隊【アダマンタイト】が……ゼート1が!! フルマシンナリーの未来と謳われた英雄が……死んでる」


「う、嘘、だろ? なぁ、嘘と言ってくれ!?」


「投入された裏切者の強襲作戦が……失敗に終わってるんだ。オレ達はその報復なんだよ……」


「ア、アダマンタイトと言えば、アバンシア戦線の英雄じゃねぇか!? 第六次防衛線、第七次籠城戦!! 全ての敵を退けた最強の―――」


「オレは見た。見たんだ!! あの部隊の頭部センサーにはマークがあるんだよ!!? 少尉、中尉、大尉、少佐……奴らの街の四方にある塔に……階級準に飾られてたんだ!!? オレ達が見に来た時、心を折る為に!!」


「そ、そんなぁ……っ」


「たった一人しか使っていないはずの機体階級章を付けた頭が本国の方角を向いて一番高いところに飾られてたんだぞ!!? 偶然なわけがあるか!?」


「う、あ……負けたのか? 楽園の英雄が……オレ達の未来が……」


「―――な!? う、嘘だ!? 嘘だぁ!?」


「ど、どうした!? 念話か!? 本国からか?!」


「……っ、う……ぅ……今、分かった……ヤツはオレ達を嘲笑していたんだ……お前らの本国など取るに足らないと……お前達如きを生きて返したところで何の問題も無いと……」


「オイ!? 一体、何があったんだ!?」


「本国領がアバンシアの襲撃を受けて半壊……死傷者捕虜多数……国外活動中の全部隊は帰投せよ……辺境領にアバンシア衛星領域より3個師団3万2000の部隊が各3方面から機甲戦力と共に進軍中……断崖のアルマート包囲確実……と」


「ッ―――」


「ヤツは……アバンシアとの決戦前にウォーミングアップをしていやがったんだ……兵に経験を積ませる為に!! もう祖国がほぼ消えたオレ達を使って兵隊に戦争の準備を……っ……」


「そんな……そんなバカな話があるか!? オレ達は単なる前座だったってのか!? なぁ、オイ!? 何とか言えよ!?」


「……帰ろう。オレ達に出来る事はもう無い。本国から最後に安全な迂回路の情報が来た。狙撃手各員はバラバラの方角から軍を避けて帰還せよ、だと」


「―――ヤツなら、勝てるのか? セントラルにおいて最大規模の領土と軍事力を誇るアバンシアに……あのお人形連中に……」


「さてな。分からん……分からんが一つだけは事実だ」


「何だってんだ?!」


「……今から此処に殺到してくる連中は……地獄を見るんだろうよ……オレ達と同じようにな!!!( ゜Д゜)」


 *


「あん? 何か銃拾った?」


 蛮族的レイダー集団の大部隊を毒殺した翌日。


 ようやく一息吐いて朝からニコニコしたエーラに起こして貰い。


 朝食を一緒に食べていると猫達が昨日、付近に残党がいないか探索していて見つけた武装とやらが横合いから手渡された。


「……ん~~? 形状はAKMに似てるが重量もまったく別物だし、どれ」


 コンコン機関部を叩いてみる。


「銃に必要な部品とか入ってない気がする……そもそもコレ弾打ち出す感じじゃないな? 色合いは普通にメタリックだが、所々コンバーターや電池っぽい? おーい。邪悪な医者の人~」


「ロイヤーちゃんですわ。ガラークさん♪」


「おわ?! 耳元に呟くな!? 近寄るな!? どうぞ御下がり下さい!? 御下がり下さい!!? 【黒緑の君】!!」


 いつの間にか後ろに邪神女医がいた。


 ちょっとだけニヤニヤしたロイヤー・邪神・何某=サンがクスクスしながら、ライフルを手に取る。


「もう退去呪文に手馴れてしまわれて、悲しいですわぁ~~♪」


 ペチーンと邪神の上に開いた黒い穴が尻尾に叩き落とされて消える。


 恐らく、他の連中は見えていないだろう。


「まったく悲しそうに見えない。コレ知ってるか?」


「ああ!! アレですわね。アレ」


「アレ?」


「わたくしのお友達が言ってましたわ。我々のようなものの極小規模の分体や小さな眷属相手に創られた警告する類の玩具で精神を削るヤツですわ♪」


「……普通の人間に使ったら?」


「可哀そうな事になりますわね」


「オイオイ(*´Д`) あんま使いたくねぇなぁ……でも、一応は有用か? 精神干渉兵器の現物なら……」


「んお? なんじゃ?」


「何じゃ何じゃ? 我らに頼み事か? 英雄殿」


「いつでも良いぞ~~♪」


「何も言ってねぇ。食い付くの早過ぎだろ。何か此処に来てからアンタら日に日に寿命が延びてねぇか?」


 アルタ、イオタ、メルタの三博士は出会った頃が嘘のようにふっくらしており、肌は艶々な上に瞳はキラキラ、正直気持ち悪いレベルで画風が何か違うキャラみたいになっていた。


 朝飯もパンがもう1人3枚くらいペロリと平らげている。


 ベーコンエッグもサラダも完食していた。


 凡そ、劇画チック・ホラーが少女漫画になったような感じの変貌はもはや悍ましいレベルである。


「いやぁ~~先日から治癒剤を呑んだり、猫達の御相伴に預かったら随分と気力が湧いて来てのう……」


「本当にまったく若い頃よりも充実しとるんじゃないか?」


「然り。我らも此処に馴染んだのかもしれん」


 じぃ~~っと目を細めると明らかにドラゴン食ってるわ、治癒剤で死滅しかけてた細胞が再生しているような情報がズラァアアアアッと流れ込んで来る。


 それこそ●●細胞(再生)という情報が大量だった。


「ま、まぁ、アンタらがいいなら、それでいいけども。コイツの量産とコイツの近接武装への能力転用をお願いしたい」


 朝食の席だが、すぐに博士達が渡された銃を繁々と見やり。


「ガラーク殿。それは分かった。だが、それよりもコイツを使って、アレを修復してみないか?」


「アレ?」


「近頃、研究のアイディアが死ぬ程湧いてのう。1から作るのは無理じゃが、修理なら恐らく出来るはずなんじゃ。お前さんが倒した四体の絶望を……」


「イエーガーか? また倒すの面倒なんだが?」


「後一押し、欠けた情報が足らんかったのだが、恐らくコレは原理的には近いはず……理解出来れば……全てが繋がる。戦力になるぞ?」


「出来るのか?」


「うむ。頭が冴えておる。安全装置を組み込んでプログラムの書き換えと破壊された部分を既存の機械式の基盤で補完すれば、恐らく……」


「分かった。ただし、試運転の時には此処じゃなくて少し離れた場所でやるぞ。自爆用の爆薬も必要だな。再生させた時に他にも制御下におけるか?」


「中枢部分が何処かは分かっておる。そこだけを取り払い。支援機の再生機能そのもののデータに変更を加えれば、たぶん……」


「いいだろう。一応、邪悪な女医の人をその時は帯同してくれ」


「「「心得た」」」


「邪悪だなんて。うふふ……」


「うむ。邪悪だなんてとんでもない!! ロイヤーちゃんは良い子じゃよ」


「本当に我らに色々教えてくれてのう。昨日なんて生体分子結合ポリマーの生成方法を教えてくれて……これで軽くて丈夫な義肢が創れるわい♪」


「我らは医学知識はそれなりじゃったが、我らよりも遥かな高みにある知識。正しく生きた辞書じゃよ」


 べた褒めされた邪神はニマニマしていた。


「いつの間にか。人員の乗っ取りが完了してる……」


「あらあら、うふふ♪」


「ガラークさん。誰か来たのだわ」


 エーラが我関せず。


 一生懸命に小さな大口でトーストを齧っていたが、入り口の方を見ていた。


 確かに玄関口付近に誰かいるようだった。


 会話している間に食べ終えて、そのまま対応に出る。


「どちら様だ?」


 玄関傍に皺枯れた手の腰の曲がった老女が1人。


 ワンピースタイプの如何にも老婆と言った風情のフード付きの外套に擦り切れた茶色の手提げ鞄を持ってこちらを見ていた。


「あら、あんただね? 此処の主ってのは。あたしは助産婆だよ」


 普通にご高齢のキリンっぽい首と顔のゼノ・アニマルである。


「……あれ? ウチの女性陣、妊娠してる?」


「知らなかったのかい? はいよ。退いた退いた。今日は定期健診だよ」


 勝手知ったる我が家みたいな様子でキリンの老婆がそのまま猫の城の女性陣達が現在詰めている場所へと消えていくのだった。


「え? 早くない?」


「あ、ガラークさんは知らないんですね。魔法使えば、大体どうなってるのか分かるんですよ? 今は魔法使いの人があんまりいなくて分る人が少ないですけど、アルマートにはまだ魔法使いがそれなりの数いるので」


 ミスティークがミルクを飲みつつ、そう定期健診のお知らせなる紙を見せた。


 そこには何処かで見た色合いの髪のデフォルメキャラとなったえおばさんが3人。


 早めの定期健診でお子さんを大切にという文句を呟いていた。


「ま、まぁ、個人の事はとやかく言わないが……それはそれとして男性陣、お前らヤル事はヤッテルな……」


 そう言うとクソ長テーブルの端の方で食っていた二十人近い男女の中でも男達だけがブルブルと首を横に振って、そっちそっち~~と指差した先にいるのは中尉であった。


「にゃ!? わ、わらしはそろそろ現場の方へ~~」


「はぁぁ~~(*´Д`) マジで女は程々にしろ。程々に」


「は、はいにゃぁああああああ!!?」


 逃げ出していく中尉に対し、食事中だった女性陣達が何だかヤンデレっぽい……ちょっと頬の紅いジットリした視線を背中に向けていた。


 それにガクガクブルブル((((;゜Д゜))))した猫男性陣が何も見なかったと言わんばかりに視線を逸らしたのだった。


 きっと、これから正妻戦争が始まるに違いない。


「ま、それはそれとしてだ。まだ辺境に残党が残ってて、労働する連中を搾取してるみたいだから、さっさと開放しに行くぞ」


「はいにゃ~~♪」


 手を挙げたのは大尉だ。


「お前は地下モールで発掘作業だ」


「ごしゅりんのきちくげどーもっこり~~~!!?;つД`)」


「博士達は早速修復作業に掛かってくれ。後、発掘後に設備を一部こっちに移設する事になった。起動準備が出来たらモール地下で設備移設の調査に行ってくれ」


「心得ましたぞ」


「うむ。今日も元気だ。たまごが旨い」


「まったくじゃな。おぉ、この歳で脂ぎったベーコンを食えるとは!!」


 博士達の了承を取ってから、本日はまだ地下の研究室に籠っている魔法使い勢の元に向かう事にした。


 先日、戻ってくるとおばさん達がマジ泣きしていたのだ。


 それも嬉し泣きであった。


 彼女達にはどうやら直感的な能力がそれなりに備わっているらしく。


 嘗てのゲームと同じように魔法使いはほぼ超能力者的な勘の良さを発揮。


 魔力を大量にガラクシオから解放した事で世界に魔力が戻った事に感動していたらしい。


 結果として爆発的に研究意欲が湧いたらしく。


 色々頼んでいた研究開発は急ピッチで進められていた。


「おーい。朝飯持って来たぞ~~」


 バスケットに入ったサンドイッチが4つに御茶の入った陶器製のポットが一つ。


 バスケットをドカリとテーブルに下す。


「あら? 悪いわねぇ~英雄殿♪」


「あたし達も旦那の飯は昼に作りに帰るんだけど、研究が愉しくてねぇ」


「うんうん。全員、旦那が何かゲッソリしてるけど」


 嘗てのガサガサ肌が嘘のように艶々しまくりのおばさん達は何かちょっと若返った様子。


 肌艶のみならず。


 体型まで何かスリムボディーがふくよか~~~な体系になり、大阪のおばちゃん化が著しい。


 バスケットを受け取った三人がおいでおいでと手招きしてくる。


「スミヤナは?」


「ほら、こっちだよ。うふふ」


 おばちゃん達が小声でニヤニヤしながら誘導してくる。


 すると、研究開発室横にある仮眠部屋でスゥスゥと寝息を立てているあどけない横顔のスミヤナがいた。


 その様子は容貌と素直で明るい少女の性格も相まってか。


 かなり、カワイイと言わざるを得ない。


「可愛いだろう?」


「ほら、襲ってもいいんだよ?」


「赤ちゃんはいつでも歓迎だからね?」


 完全にエロ話で笑うおばさん達である。


「はぁ……(*´Д`) 寝てるなら起こさないっての。ちゃんと寝かせてやってくれ。というか、家にはちゃんと返せよ? 未成年なんだから」


「ふふん♪ 勿論、おおばばに許可は取ってあるさ」


「あの方も喜んでたよ? これでまだ魔法使いは絶滅しなくて済みそうだってね」


「実際、街にいるお腹の中の赤子で魔法使いが何人か見つかったからね。いきなり……」


「そうか」


 ガラクシオの魔力が開放されて、MP不足な世界はようやく魔法MODがまともに活躍出来るようになるのだろう。


「アンタのおかげだよ。どういう方法を取ったのかは分からないけれど、いきなり世界が変わった。魔法使いにとって魔力は血みたいなもんだ」


「それが枯渇してたはずの世界に新しい息吹が、色合いが、色彩が、追加されていった」


「あの日、アンタのおかげできっと辺境の運命は変わったのさ」


 何処か厳かに告げる巫女のようにおばさん達が告げて来る。


「それがアンタとあの猫に従ってるのは分かるさね」


「古の伝承……星の獣……花開く星獣……正しく御伽噺だねぇ」


「いや、アンタが御伽噺なのかもね。さぁ、ガラークちゃん……いや、英雄殿」


「我ら三名。貴方の為にお仕えしましょう。御伽噺の魔法使い達のように……」


 三名が片膝を付いて頭を下げて来る。


「雰囲気はいいから。実務やるぞ。ほら、立て。やる事は山積みだ……」


「「「まったく、雰囲気も何もありゃしない。ははは♪」」」


『うにゅ……がらぁくひゃん、じょんびにぃ……かいぞぉーしまひゅね……』


 寝てれば更に美少女なスミヤナの幸せそうな顔の寝言が何か物騒だった。


「い、一体、夢の中のオレに何が((;゜Д゜))」


「「「くくく、愛されてるのさ♪」」」


 こうして三人のおばさん魔法使いに竜の遺骸とガラクシオの小さな花の種を使った諸々の制作するべきものの開発、魔法の基礎技術の確立を急がせるのだった。


 *


 魔法MOD【MAGIC-UUU】の内の二つのUはウルトラ・ユーマのUだ。


 ガラクシオ討伐のおかげで周辺領域で始まった大量の魔力の供給で魔法に目覚めるものがちらほら出ている合間にやらねばならない事が幾つかあった。


「親方」


「おう。来たな。入れ」


 親方の工房に来ると何やら徒弟らしき少年少女が数名いた。


「ああ、こいつらはウチに弟子入りした元古代人の子達だ」


 忙しそうに雑務やら道具の手入れを行っている。


「元?」


「今や立派な街の、いや……ウチの従業員てこった」


「はは、それなら食いっぱぐれなさそうだ」


「おうともよ!! お前らぁ!! ちょっと手ぇ止めて挨拶しろ!! ここの一番のお得意様だ」


 そう言うと少年少女達がビックリした様子ですぐ近寄って来た。


「が、ガラーク様だ!? 本物だ!? すげー!!?」


「さ、さま?」


「ガラーク様!! せ、先日は助けて頂いてありがとうございました!! オ、オレ将来ガラーク様の武器とか防具とか作れるようになりたいです!?」


「お、おう……」


「あ、あの、お母さんを助けてくれて、あ、ありがとう……ございました。こ、此処の人達が、ガラーク様がいなかったら、街に人間を受け入れる事は無かっただろうって……母も本当に感謝してて……あのゾンビ達に追いかけられてた時、本当はもうダメだろうなって思ってたんです」


 少女が目を潤ませて俯く。


「で、でも、ガラーク様がこの街の人達を助けてくれてたから、私達まだ……猫の皆さんも言葉は話せないけど、よくして貰って……ほ、本当にありがとうございました」


「「「「ありがとうございました」」」」


「お、おう。頭上げろ。別にお前らの為に何かしてるわけじゃない。偶々だ。だから、そういうのはお前らの為に命を懸けてくれた親に言え」


 少年少女達……まだ、10歳程度の“人間”の子供達が頭を下げてまで言う事など本当にありはしないと顔を上げさせる。


「じゃ、将来は頼んだ。今はお前らを叩き上げる親方に頼むんでな」


 そういうと全員が笑顔で頷いてくれた。


(め、滅茶苦茶いい子ばっか;つД`) う、後で猫に街の見回り強化させよう……)


 取り合えず、様付けは要らないと言って聞かせつつ、親方のいる部屋へと入った。


「いつの間にか。街も変わってるんだな」


「そりゃな。一番変えてるオメェが言うだけはあるな」


「そ、そうか?」


「オイオイ。テメェでした事も覚えてねぇのか? ま、オレには関係無いがな。重火器の部門は今切り離してあっちはあっちで儲けられるように徒弟を集めさせてる。セントラルから馬鹿高い設備を入れる最中だ。儲けは出てるから心配すんな」


「いや、金勘定は金庫番の子に任せ切りになってるんだ。今」


「ああ、あのおおばばのとこの子だろ? じゃ、問題ねぇな。問題なのはお前の方だ」


 親方がジト目になってC4ガントレットを片方だけプラプラさせた。


「何か問題在ったか?」


「問題あるというよりは本当に化け物みたいな火力を使う相手がいる事の方が驚きだ。よく腕が吹き飛ばなかったな? もっと威力が低いもんを詰める想定だったんだが……何で辺境最強の爆薬を詰めてんだ?」


「まぁ、そういう用途だったんだ」


「相手の事は知らん。が、ガントレットに使われてる金属が限界だ。一発で疲労限界とか。ホント、鍛冶師泣かせだな……」


「悪い」


「フン。もう片方はどうした? 無くしたか?」


「ちょっと仲間の為にぶん投げて無くした」


「ガハハハハ!!! ぶん投げたと来たか!! 貴重な金属だ。溶かし直せば、また別のモンにしてやったんだがな。まぁ、いい。それで誰も死ななかったんならな」


「ああ、本当に世話になった」


「じゃ、それもいいな。でだ」


 ガントレットを横に置いて横に置かれていた革袋が紐で吊り上げられ、ニヤリとした親方がこちらに付き出して来る。


「出来てるぜ? ご要望通りのもんが」


「無理言ってスマナイ」


「いいさ。オレも死ぬ前に打つとは思ってなかった金属をやたら打つ事になったからな」


「仕様は?」


「そのままだ。ただ、重火器の研究開発は弟子共が率先してやってる。此処が辺境の兵器工廠になるのもそう遠い未来の事じゃねぇな。あの馬鹿品質の古代火器の研究開発で随分と新しい技術が取得出来てる」


「そうか」


「だが、それを扱う道具や設備が追い付いてねぇ。設備が届いた後に使い慣れるようになって、品質を安定化させられる腕の職人と安定して供給される鉱物資源があってようやくだ。今の値段じゃ精々が辺境一番の品を作る場所程度のもんだ」


「数はやっぱり揃えられないか」


「武器の生産はセントラルですら大規模な生産設備に莫大な資金が必要で掛けてる金の額がまったく違う。手仕事、手工業の限界だ」


「そこが分かるだけアンタ良い鍛冶師だと思うが」


「はっ、昔はなぁ。オレの一つ前の代は名品を打つ為に30個の駄作を捨ててたんだ。どうしても納得出来ねぇってな。でも、それを打ち直してクズみたいな値段で売って……今もそんな変わらんが、品質を高く保つ方法を色々試し続けてようやく数が出せるようになった」


(MODの影響が滅茶苦茶生活必需品の生産を圧迫してる(T_T) スッゴイ悪い事した気分……)


「セントラルの連中はそれを機械化で推し進めてやがる。金儲けに疎いゼノ・アニマル様が勝てる道理はねぇのさ」


「ミスティーク見てるとそうは思えないが……」


「そりゃ、あそこの家がほぼ辺境の商売を取り仕切ってるヤベェ一族だからだ」


「そうなのか……」


「でも、アンタが来た……アンタのおかげで街はまだ滅びそうにない。平和な時代に農具を安く売ってられそうなくらいの夢は見てもいいと思うんだが? どうだ?」


「オレはただの傭兵だ。三流でも武器が一流なら死ぬ時間くらいは稼げる。これからも頼みたい。アンタが生きてる内……いや、あの子達が立派になるくらいまでならな」


「はははッ!! なら、精々長生きして老害になってやるから、これからも来い。定期的にな?」


 親方のウィンク一つ。


「分かった。これは貰っていく。何か運用に際して有るか?」


「そいつは事実上、お前みたいなヤツしか使わんだろう。使い易くは出来たと思うが、色々試せ。一緒に説明書は入れといた」


「分かった。ガントレットの方は打ち直しといてくれ」


「3日掛かる。今は忙しいだろう。猫の城の連中に届けておくからな」


「感謝する」


 革袋を背負って工房を後にする。


 少年少女が手を振ってくれたので振り返した。


 現実では中年の底辺労働者のおっさんに手を振ってくれる子供なんて絶滅しているのだから、今日はかなりパーフェクト・コミュニケーションだろう。


「ガラークさぁん。大変ですぅぅぅ!!?」


 豚人の少女が慌てた様子で駆け込んで来る。


 どうやら、街に事件は尽きないようであった。


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