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第1話「荒廃世界とエロMOD」


―――???


 ヘヴィー・ドーン・レッド。


 この神ゲーを世に齎した米国のセンチネル・コード社はほぼ米国で唯一生き残ったオープンワールドゲームの開発企業だ。


 コロラド州の場末の一角築130年の廃ビル寸前家賃9$9¢の社屋を構えていたのが功を奏して第三次大戦時の核の直撃を唯一免れた。


 300人の従業員の8割が死ななかったのは彼らがゲームを造りたい狂人であって、生活や金に左程の興味がないデブでハゲでチビでナードでバーガーとピザとコーラが好きなトイレの配管修理に3日毎に2時間掛かる仕事場でも文句のない愛するべき開発者(ネット住民談)だったからだとされる。


 殆どが個人開発をしていた人材で統一され、大手のような良い場所に本社を構えていたりしなかったのも大きいだろう。


 上場してて、キラキラ生活スタイルをSNSで見せびらかし、多くの人々に自分は善良だとか言い張る為に見栄を重視する……という企業はその好立地な本社現在地と都市部に住まうスマートな開発者達と共に核の炎と放射線で建物に焼き付いた影か、タンパク質の汚泥になったのだから、幸運というよりは生き残るべくして生き残った感が強い。


(ホント、ブサイクとナードしかいない最高の開発と運営と呼ばれて久しい彼らが儲けの殆どをサーバーの維持代と個人用の世界の保存機能を創るのに使ってくれてなきゃ、全世界で100万人は自殺してただろうし……救世主だよなぁ……)


 勿論、ガラークを名乗る人の世界もその恩恵に預かっている。


 彼らがネット有志達の力(資金提供及び一部高機能MODを公式ゲームアップデートで無償提供)を借りていなければ、不可能だった偉業だ。


 ゲームにドップリだった底辺人生ゲーマーと揶揄された人々が生きる希望を失わずに済んだ事はネット界では賞賛されて然るべきものだと実しやかに語られている。


(そろそろ、起きないと。昨日はハッスルし過ぎた……第7メインシナリオの六章はやっぱ長いんだよなぁ……ミスティーきゅんに慰められまくったせいで干乾びちまうな(´ー`)……うぅ、今の施工管理の人、マジで時間だけには煩いし、遅れないようにしないと)


 現実ではムキムキなマッチョ程ではないが、腰が怪しい以外はまだ健康な生活が遅れる程度の体である。


 寝起きがキツくなってきたら、危険信号だとの話は土建業ではよくある。


 だが、今の土建業の殆どは作業用ドローンの保持点検及び消耗品交換、部品交換が主軸であり、過剰に重いものを持たせるのは倫理規定違反でどんな下っ端からの苦情でもドローンによる確認派遣が義務化されたおかげで過剰な労働で過労死する底辺と名ばかり管理職は殆どいなくなっている。


 結果として程々に働いてもロクな稼ぎにはならないが、死なない程度に底辺暮らしが可能ならば、文句はそう出ないというのが今時だ。


 ヘルメットを頭に建材を運ぶなんてのは人権侵害だと言われて久しいが、安全保障の為に底辺層には仕事が斡旋されるし、ある程度の不合理は社会の安定化の為に推奨されるので生活に不自由はあっても理不尽な不満はあまり出ない。


「ぁ~~マジでちょっと控えないとなぁ……オレも若くないしなぁ(`・ω・´)」


 30代後半のおっさんとなって数年。


 今や人生を諦めている自分に必要なのは少しでも健康で長生きしながら、老衰で死ぬまでヘブンに居座る事くらい。


 それ以外は何も望まないし、食料も医薬品も最低限あれば構わなかった。


 娯楽というのは人生を掛けて楽しむものというのが此処最近のド底辺トレンドであり、それが実戦出来る限りは人生に絶望しても生きていく事に絶望したりはしない者が大半だ。


 だが、それを理不尽な理由(ヲタクは社会の汚物だから死ね!!)で取り上げられた時はその限りではない。


 独裁者の気分で下った法令によって革命が起きた独裁国家が3日で世界中のヲタク・ハッカー=サンの群れによる莫大な京回規模のハックで国軍(ドローン師団)を制御、乗っ取りで国家中枢を皆殺しにされ、全てのハコモノ庁舎を物理的に破壊され、政治家が血祭に上げられ、政治家の娘である美少女がヲタサーの姫よろしく丁寧に人権護られてますとSNSにアップされつつ、笑顔の汚いガンパウダーに煤けたミリヲタ(兵役経験者)に囲まれて顔が蒼褪め『人生オワタヽ(^o^)丿』と引き攣った表情を浮かべている人類の終末期(リアル)であるのだから、他人の愉しみを奪うのは本当に良くないと周知はされている。


「よし……起きよう。起きてる? はい。起きた(|Д|)!!」


 グッと背筋に力を入れて眠たいを眼を開いた時、風が……吹いた。


 明け方の黎明。


 世界は背景に荒野。


 鼻腔を抜けるのは据えた腐敗臭だが、夜明けが吹き抜けて来る朝日に滲んでよく分からない。


 ただ、そこは―――1934回は見た景色に違いなかった。


「おっかしいな。寝落ちした際に自動で終了掛けるMOD入れてるはずなのに……」


 頭に嵌っているはずのHMDを取ろうとして……取れなかった。


「?」


 生憎とインプラントの類は高いので入れていない。


 つまり、脳をハックされたりする事は無い……はずなのだが、何故かその光景は見え続けるし、聞こえ続けるし、何なら嘗て想像していた通りの荒野の埃っぽくも乾いた土臭い匂いがした。


「つ、つまり、オレはまさか死んでいて、オレの脳を機械に繋げた何処かのマッドによってAIプログラムになって蘇り、滅んだ世界のサーバーに取り込まれている……って事?」


 昨日読んでいたもう100年前になる異世界SF転生古典のオチを夢に見ているのだろうかと首を傾げるが、ソレが現代ならば可能なのも知っている手前、自分が自分か疑わしいのは嫌な汗が背筋に流れるくらいにアレな感覚であった。


「核戦争でオレは死んでて、オレ自身がAIだとすれば、と……決めつけるにはまだ早いか。取り合えず、此処がヘブンなら……あ、やっべ、このままだと放射能耐性が無いまま3時間で死ぬわオレ」


 イソイソ起き上がる。


 ヘブンのオープニングはそうだ。


 荒野に1人倒れ込んでいるところから始まる。


 記憶も無く。


 過去も無く。


 ただ起き上がり、立ち尽くした主人公の背景は生成AIによる様々なシナリオで後から追加される仕様であり、最終的にまったく違う背景の過去を勝手に付け足されて、色々な始まりと終わりを味わう事が出来るのだ。


「本当はロボでした系シナリオだと放射能無視で寝続けられるらしいけど、此処がゲームの世界かも疑わしいし、異世界転生系シナリオだとしたら、始まりから世界に色々な要素が付け足されて、星座や月が変だったり、増えてたりするけども……素だな。コレ」


 空を見上げて確認すれば、月の左上が丸く三分の1くらい刳り貫かれていた。


 ずっとやり続けたゲームの事である。


 素のヘブンのオープニングに近いのはすぐ分かった。


「ええと、南東に最初の街があるのがデフォ・シナリオだけど……」


 起き上がって周囲を見渡すが、街は遠方に見えなかった。


 だが、体を見て見れば、愛用していたMOD装備一式33個も無く。


 現実の自分の生身の肉体に見える。


 腹筋は割れていないが、筋肉は土建業で人並み以上にはあるし、案外ガッシリ体型でもあるし、顔はまぁまぁかもしれないが、30代のおっさんとしては底辺過ぎて殆どケアもしてない肌は乾燥気味。


 何処に出しても恥ずかしい底辺疑似細マッチョである。


 焼け付いたような肌色も相まって柄の悪い細身の中堅ヤクザみたいである。


 着ているのはボロボロのシャツに擦り切れたダメージ・ジーンズ一枚。


 要は荒野の野郎御用達の一般人スタイルであった。


「はぁぁ(*´Д`) 取り合えず、街がありそうな場所まで行ってみますか」


 トボトボと歩き出す。


 安全靴染みた硬い靴はちょっと蒸れていた……後、靴下も履いてなかった。


 *


 ヘブンの一番良いところは?と聞かれたら、色々あって語り切れないが、一番悪いところは?と聞かれたら誰もが同じことを言うだろう。


 つまり、この無限に生成AIによって独自生成された世界はガラパゴス化し易く、安定した攻略が難しいのである。


 シナリオも改変が加えられまくりであり、MOD次第では殆ど完全ランダムに等しいものがお出しされて、同じシナリオがまったく原型を留めない事も珍しくない。


 その為、シナリオ傾向に対しての推奨ロールなるものが存在し、比較的クリアし易い行動規範や行動手順がマニュアル化されたものが攻略サイトには載っている。


 なので、殆どの場合、ヘブンにおいては“クソゲー化”というプレイヤーへの理不尽なゲーム的要求現象を回避する為、高難易度は推奨されていない。


 だが、実際にはヘブンの最高難易度は存在する。


 7段階の難易度で4段階以降はソレをクリアした人間に公式が廃人の烙印しょうごうを与えてしまうくらいの代物だ。


 1段階目【ニュービー】。


 主人公補正のある正義のヒーローごっこが楽に出来る難易度。


 2段階目【アウトロー】。


 正義なんて生温い事をしていられるなら、どうぞしてみろください?な難易度。


 3段階目【ラッツ】。


 悪に落ちないとやってられない理不尽を前に人間の倫理と道徳の限界が試される難易度。


 4段階目【ロード】。


 世界の破壊を目論む完全無欠の悪人以外にはもはやクリア不可能な難易度。


 5段階目【カウンシル】。


 秘密組織を立ち上げて、ダイスの女神とダンスしながら、ロードを駆使して運ゲーに勝ち続け、最終的に世界を自分のものにしてようやくどうにかなる難易度。


 6段階目【ストッパー】。


 あらゆる事象に“量”があるならば、ゲーム機の限界を試すような超絶処理を要求する超規模な事件しか起こらないハードが壊れるか壊れないかを試される難易度。


 7段階目【アバドーン】。


 自分が持てる資金と人生の全てを捧げても、最良の筐体と最良の人選と最良の幸運に恵まれた者が地獄を見て尚……勝てるかどうか怪しい難易度。


(アラブの石油王が10年掛けてようやくアバドーンのメインシナリオを6つクリアしたって話だけど、オレも知り合いに4段階目以降のクリア者1人しか知らないし、普通は殆ど不可能なんだろうな……)


 明けていく荒野を歩きながら、本来ならば最初の街があるはずの場所付近に到達したものの……見えるのは低い禿山と低木と枯草が延々と続く世界。


 どう見ても街なんて欠片も見えなかった。


「はぁぁ(*´Д`) ハラヘッタな」


 歩き出して彼是1時間。


 もうそろそろ朝食の時間だ。


 しかし、空腹も襲ってくれば、尿意もある。


 何処かで水源を確保しなければ、3日も持たないのは確定に違いなく。


「でも、アイテム一つすら持ってないんだよなぁ……ステータスが確認出来るわけでもないと。ぶっちゃけ、AI化されてる案よりはどっかの犯罪組織に脳髄を機械に繋がれて犯罪に利用されてる説の方が現実的かもしれん」


 独り言は癖のようなものだ。


 孤独を紛らわす処方箋は心の平穏には不可欠なのである。


「此処で死んだら……まぁ、死にっぱなしかもしれないし、試すのは最後の最後にしておこう(・∀・)」


 イソイソと何もない荒野を通り過ぎようとした時だった。


 不意に風音に混じる異音。


 周囲を見回して、一番近い丘陵の先からのものだと気付いて思わず走る。


 ゲームで走るのは癖のようなものだ。


 リアルタイム系の時間管理で進むゲームは今時は多い。


 何かに乗り遅れると一生後悔するという感じのイベントが昨今は大量であり、タイム・イズ・マネーの格言通り、ゲーマーは時間にルーズでは最大源にゲームを楽しめない事が増えた。


「はっ、はっ、はっ、クソ……100m20秒でもきっついんです、け、ど」


 運動不足のつもりはないが、全速力で走るとイベントに巻き込まれた瞬間に即死という類のものも過去には色々と経験した。


 ある程度の動きが出来る状態で現地に到着するのもまたゲーマーの心得だ。


 丘陵の上にようやく上がり切って、息がまだ上がり切っていないという状態でソレを見る事となった。


「―――」


 廃墟だ。


 数百mはありそうな幅の荒野の街。


 板切れと金属板で補強された素のヘヴンの最初の街。


「明星街【リントラ】……ッ」


 初めてプレイヤーが到着する街は街道沿いにあり、多くのNPCがいて、実に200近い大小のシナリオが配置されていて、時間制限があるものも多かった。正しく荒野に似付かわしい西部開拓時代にも似た風情がある。


 しかし、実際には滅んだ世界が舞台なので高度な情報機器が馬鹿高い値段で売られていたり、一部の街の機能は現代水準だったりするのだ。


『いやぁ!? 放して?!』


 廃墟となった街の一角からの悲鳴。


 更に脚を早めて声の下に急ぐ。


 街は無人でボロボロな上に殆どが崩れており、人気が無いにも関わらず。


 新しい足跡が複数。


 更に車両の轍が遠方から続いて街の一角に向かって続いているのが見えた。


 50m程更に走って辿り着くと絹を割く悲鳴という類のものが耳に響く。


 10m程先にある廃墟に囲まれた空き地には車両が一台止まっていた。


 軍用車両だ。


 普通に米軍が使っていそうな兵員輸送車の後方に荷台となる車両が牽引されていて幌付き。


 とにかく硬いのと耐弾、耐爆硝子が優秀というのが謳い文句でライフル弾ならば貫通されないとの事。


 トゲトゲしいフロントバンパーは鋭角な剣山のようになっており、そこには血で錆びた部位ばかり。


 その背後では数人の男達がやはり継ぎ接ぎだらけの少女の衣服を引き裂こうと手を掛けている最中であった。


―――かなり、ブサイクと言っていいだろう。


 まぁ、美少女には程遠いが豚のような顔に体……いや、顔からもそうだったが、肌が明らかにピンク色だった。


「豚人……【ピグ】だったっけ? ええと、素のヘヴンにはいなかったような?」


 男達もヒト型ではあったが人間には見えなかった。


 狼型の獣人だ。


 ハイエナっぽい姿をしている。


「ゼノ・アニマ・タイプのヒト種族? 確か種族追加する【アニマル・ハイヴ】や関連のMODがどっちも扱ってたような……でも、エロMODなのに何故かアソコの形と体位がやたら動物寄りでマニア向け過ぎて入れてたけどオフにしてたっけ?」


『けけけけ♪ 豚ぁ!! オレらの餌にしてやるよ!! 愉しんだら、お前の肉はオレらの飢えをも満たすんだ!! 光栄だろぉ?』


『オイ。始めろよ!! さっさと済ませろ!! 此処にはもう数日であいつらが付くんだ。その前に逃げねぇと!!』


『おうよ。兄弟!! それにしても豚の癖にいい乳してんじゃねぇか!? おう!! 幾ら有るか言ってみろ!! 嫌がったら食っちまうぞ!!』


『ぴゅぎ!!? ぜ、全部ひゃ、ひゃくにじゅーいちですぅ』


『ひゅ~~~♪ 豚の癖にでけぇじゃねぇか? あの爆乳牛共よりは小ぃせぇが』


 少女がビクビクしながら、涙目で言うとゲラゲラと嗤い声が響く。


『これでも街で一番ですぅううううう!!?』


 豚少女がそう顔を真っ赤にして怒り始めた。


『くくく、それじゃあ、さっそく』


 溜息一つ。


 仕方なくステルスでしゃがみ込みながら、廃墟に隠れて視線が少女に向いているのを良い事に廃墟内部から男達に近付く。


 一番後ろで車の番をしていたジャケットを着込んだ獣人の男の首を片腕でサッと囲んで後ろに引き倒し、車両の背後に隠れるようにして首を捩じ切るようにして肘を傾けながら、体を反対側に逸らさせた。


 ゴギンッという音が一瞬鳴ったが、男達のせいで悲鳴を上げ続ける豚少女の声でまるで分らなかっただろう。


 背後から男の懐を漁るとナイフが一本に拳銃が一つ。


「(1世紀以上前のオールド・グロッグ? スタンダードか? まだ液体炸薬弾が普及する前の旧時代パウダー式? ええと、これも確か前に使ったような? 9mm口径のセミオート。MODはやたら反動が大きくて物理演算がおかしくなるバグのせいで撃った瞬間に弾が90度曲がるとか。あのバグ治ったのかな……)」


 黒い拳銃に弾倉が1つ。


 重さ的に弾倉には17発フルでは入って無さそうであった。


 すぐに弾丸が撃てそうだと判断して、安全装置を解除。


 後は車両の裏からそ~~っと重心を突き出して、90度曲がる弾の弾道を予測しつつ、少しだけ傾ける。


(当たったらごめん……まぁ、その時は運が無かったという事で(´ー`))


 両腕でガッチリ掴んだ拳銃を壁際に向けて撃った。


 ゴンッ、ゴンッ、ゴンッ、とまるで対物ライフルを撃ったような衝撃。


 現実で体感出来なさそうなソレに思わず手が痺れるも全弾打ち尽くす。


 すぐに銃を捨てて呻きと悲鳴が上がる現場に殴り込み。


 倒れ込んでいる男達の首目掛けて踵を使って一撃。


『だ、な―――ッ』


 ゴキャリと首を蹴り砕いて致命傷を入れていく。


「ひぅううううううううううう!!?」


 ジャヴァァアアアアアッと豚少女が顔を真っ青にして猛烈に黄色い液体を下腹部から漏らし、声も出ない様子で『((((;゜Д゜))))』と震え上がっていたが、気にしている暇はない。


 全ての男達が起き上がる前に4名の首を踵で蹴り砕き終えて一息吐く。


「ふぅぅぅぅ……どうになかった」


 高難易度のヘヴンは1撃死が基本であり、防御力とか、そんなものは殆ど意味がない鬼畜仕様なのである。


 先手即死攻撃がデフォであり、相手に情けを掛けてはいけない(392敗)、絶対に。


 特に最序盤の鬼門の9割は攻撃の躊躇や判断ミスや判断遅れにある。


 武器も防具も揃っていない素の状態でステータスも上がっていないままにまともな戦闘なんてしようものならば、その代償はリトライの数に跳ね返る。


 結果として悪鬼外道の類しか生き残れないという鬼畜難易度になる事が殆どであり、荒んだ攻略スタイルに心が折れたプレイヤーが数多く高難易度攻略を諦めたという経緯が有る。


「あ、あ、あぅ、ぁ……」


 まだ震えている豚少女に小さく両手を上げて敵意は無い事を示してみる。


「君を傷付ける意図はない。怖がらせたなら済まない。旅の途中で悲鳴が聞こえて来たから、思わず助けに入ったんだ」


「に、に」


「に?」


「人間だぁああ!!? 止めて撃たないで食べないで私は美味しくないでずぅううぅぅ((((((((;゜Д゜)))」


 錯乱した少女が男達の懐から落ちていた銃をこちらに咄嗟に向け―――。


 瞬時に車両の背後に隠れてバンバンと撃ちまくりの少女の銃弾が当たらないように身を縮めて、ガチガチと全弾撃ち尽くしたのを見計らって車両に飛び乗る。


「ぴぎゅぅうううううううううううううう!!?」


 混乱度MAXの少女が他の銃を使い出す前に車両にキーが刺さりっぱなしなのに感謝して、こんなところで幸運を使ったら、後で銃撃で死にそうだと思いつつ、そのまま車両を発進させた。


 猛スピードでアクセル全開のまま街の外に向かう。


 背後から銃弾は飛んで来なかった。


 ただ、一つ思う事は此処がゲームの世界ならば、仕様が違いそうな気がするという事に違いなく。


「本来、NPCはヘヴンだなら、どの勢力だろうと会話出来る知的生物カテゴリなら問答無用で生存闘争、即戦闘みたいな事にはなってないはず……人間とゼノ系獣人の確執? ええと……」


 頭の中からこの状況に関連していそうなMODを選び出す。


「前に確か新規勢力MOD項目複数は入れてた、ような……アレは人類とゼノ系獣人の最終戦争MOD……【アンフェア・ウォー】だったっけ?」


 あまりにも安定化したMODは殆ど入れっぱなしで確認すらしない事が多々あった為、此処が自分のゲームの中なのかどうかは分からないが、一応はその前提で考えるべきだろうと頭を捻る。


 呟いたMODは人類と獣人が覇権を争って勝った方の種族が星の支配者となり、負けた種族を家畜化して、永続的に奴隷にし、エロい事もし放題という代物だ。


 勿論PC版だけである。


 鬼畜外道系エロMODとして勝利したご褒美でエロ同人やエロ漫画やエロゲーのような事をして遊ぶにはかなり良質という評価を受けていた。


 のだが、エロに厳しいご時世……MOD開発者の邦がエロに厳格な御国柄だったせいで本人が適当な理由でタイーホされたのだ。


 結果として残された開発プランを有志が引き継いで完成させ、全世界ダウンロード数720万を超えるヒットMODとしてランキング100番台には常に付けていた。


(アレは入れたけど、入れたけどぉ……可哀そうなのは抜けなかったんだよなぁ。いや、奴隷系MODで美少女の肌に色々書き入れるのは愉しかったけどさぁ!!? うぅ、ミスティーきゅんに止めて?って涙目で言われたら、さすがにちょっと罪悪感がなぁ)


 此処が本当にヘヴンの世界ならば、最初期に必ず追い剥ぎならぬ、死体から剥ぐのは鉄板なのだが、豚少女からまた撃たれて即死というのも困る。


 取り合えず、4時間してから戻ろう近場の荒野に停車後、最初期ムーヴの鉄板である偽装……低木の枯れ木や草を集めて車体の上に載せたり、差し込んだりして装飾を行うのだった。


 *


「お、まだ死体はあるな」


 数時間後、死体がある一角に向かうとまだ死体自体が残っていた。


 消えていないという事はゲーム的な処理で消滅したりしない可能性があり、ゲームである可能性自体が下がる。


 豚少女はもう居らず。


 この数時間で分かった事は……あまりにもゲームには思えない解像度と通常の物理エンジンでは再現不可能そうな現実と遜色のない挙動をする土や小さな水溜まり、草、枯れ葉、更に人工物である車両の諸々であった。


 特に水の挙動は重くなりがちなのだが、それもなく。


 エンジンはフロント内部を覗いたが、全てしっかり再現されており、車両もほぼスクーターを自分で弄っていた自分からすれば、現実としか思えない作り込み。


 唯一、変な挙動だった拳銃の事が気に為り、戻って追剥ぎをしたのもこの世界がゲームなのか確かめる為というのが大きかった。


 まだ、昼頃という事で日も高い。


 誰かがやって来ても困るので追剥ぎをしてからすぐに車両は街の端に止め直し、色々と見分を始めて確認していく。


「車両に入ってたのは車両用の燃料。ガソリン入りのポリタンク。でも、英文や英語の刻印が無い。他のパーツにも刻印は無し。英語無し。このどう見てもグロックな拳銃にもまったく数字や文字が刻まれてない」


 何処をどう確認しても文字が確認出来なかった。


「食料は……黄色いビニールでパッケージングされた中身が透けてるビスケット袋が凡そ20kg。1キロ小分け20包分……カロリーにも拠るが、30日以上は何とかなりそうだ。というかポリマーは拳銃からしてあるんだよなぁ……科学技術はヘヴン相当、でいいのか?」


 ゲーム世界では科学文明が崩壊した余波でプラスチックの製造なんて殆どされておらず、何ならプレイヤーが製造企業を立ち上げて金策するのはよくある差異序盤ムーブだ。


「……それにしても英語がまったく見えないのも……」


 ゲームが英語もしくは販売国の言語に翻訳されているのは何処でも普通だ。


 AIにお任せでローカライズするのが当たり前となって数十年以上、特に言語的な不自由はゲーム内においては存在しない。


 だが、ソレがゲーム内だと仮定しても無いというのはおかしな話だろう。


 実際にゲームでの殆どの文明の製品には英語表記があるのだから。


 それを踏まえると此処がゲーム世界ではない可能性も大いにあるだろう。


「それにしても……」


 チラリと男達を全裸にした時の事を思い出す。


「勃ちっぱなしだったな。あいつら……」


 死体の股間があまりにもこんもりし過ぎて、衣服を剥ぐのが大変だったのだ。


 死んで数時間という事で糞尿も垂れ流し、そこはヘヴンと同じだったが、男性だけなのだろうかというくらいに股間は“怒りっぱなし”であった。


(アレって確かテクスチャとボーンで股間再現する時に一番最初に入れたエロMOD……【SEXY‐MOON】だよな……ゲームっぽくないのにゲームっぽい……)


 死んだNPCがモザイク無しで勃ちっぱなしになるのはそういう事をする時に必要な部分が死体になった後にそのまま衣服を剥がれる事で剥き出しになるからなのだが、衣服を“貫通”するバグが存在し、そのせいでゲームがクラッシュするという事がMOD公開直後に起こった後、使用者が倦厭して、バグが治ってもゲームサーバーの終了時まで使用者は低迷していたと記憶している。


(今のところ、おかしな挙動なのはグロッグだけか……)


 拳銃が4丁手に入ったが、状態の良さそうなものだけ2丁選んで後は捨てている。


 誤射率やジャムる……弾詰まりを起こした日には即死(321敗)というのもよくある事である。


 武器の厳選は必須だ。


 本来ならば、武装は出来る限り持っていたいのだが、今は整備施設も無ければ、整備の当ても無い。


 余計な重火器を現地で相手に利用されたりしては目も当てられない(978敗)ので、泣く泣く解体して、使えそうな部品だけストックという事になった。


(武器は揃えた。弾は合計で93発。案外弾倉持ち歩いてたな。あいつら……あぶねぇ……ハチの巣になるところだった……)


 今更、背筋に冷や汗が流れた。


 撃ち合いになっていたら、確実に死が見えていたというのは間違いない。


 ステルス・キルからの自分のMOD知識に頼んだ奇襲と容赦ない殲滅で事なきを得たが普通に考えたら、かなり危ない橋を渡っていた事は間違いない。


「それにしても井戸、無かったな……缶や瓶があればと思ってたけど、当てが外れたのもヤバイ……」


 本来のリントラは活気のある街道沿いの街であり、ついでに言えば、100%水に困らない仕様(開発のお慈悲)だ。


 しかし、井戸が有った場所には教会が立っていて、内部を一通り覗いたが、書物どころか石造や刻印のような類が一切なく。


 ただただ、様式だけ現実とほぼ同じで何もない伽藍とした空間に壊れた瓦礫だけが散乱する場所になっていた。


「此処がオレのゲームなら水分補給必須のMODが入ってたはず……文明圏で暮らす分には殆ど意味がないものの、サバイバルして遊ぶ分にはかなり臨場感があって、戦闘能力が下がるのも相まって確保に走るのは案外愉しかったんだよなぁ……」


 だが、何もない荒野では水が無ければ、3日も持たない。


 廃墟に何かを溜める壺や入れ物を期待していたのだが、ソレすらない。


 まるで全て掃除されたかのように瓦礫だけが存在する街は正しく空虚な程に伽藍洞になっていた。


(誰かが掃除したのか? それとも……)


 だが、それよりも更に深刻なのは排泄しなければならないという事だ。


 トイレに都合1度便意を催して、辛うじて枯れ草を揉んだもので処理したのだが、排泄物が出るという事は普通に飲み食いして衣食住を確保出来なければ、詰む可能性が極めて高い。


「リアルでトイレ時間にゲームプレイ時間を食われる苦痛よ。はぁぁ……でも、あのMOD……【ポープ・モア】戦闘用として破格の強さなんだよなぁ……」


 溜息を吐きつつ、戦利品を分別して纏めていく。


「ジャケットとシャツが4着。弾倉が10本。ヘアピンが2つ、ナイフ1本。これは……手帳?」


 ジャケットを漁っていると内部から小さな手帳が一つ出て来た。


 思わず手に取って中身を見やる。


 黒革のソレを除くと内部には……まるで見知らぬ言語が書き込まれていた。


「ダメだ。でも、言語系MODはもう100年以上前に絶滅したはず……何か入れたか?」


 首を傾げて考えてみる。


(………確か前に……本当に最初期に……何かあったような?)


 取り合えず、思い出せないので手帳をパラパラ捲って文字ではなく。


 図や地図が無いかを調べる。


「お?」


 すると、最後のページ。


 革の裏側に近隣の地図らしいものが手書きで書き込まれていた。


 どうやら4人の内の1人は小まめな性格だったらしい。


 文字は分からないが、辛うじてリントラらしい場所は分かった。


 地図の左下に位置する場所に向かって→が付けられており、その地図の中央とそれより北には更に大きな街っぽい図がある。


「取り合えず、近付いてみるか。水源の場所が分からない以上、留まってるだけでヤバイのは確実だしな……」


 本来は日が沈んでから行動したいが、日が沈むと方角が分からなくなる。


 月の位置で予測してもいいが、雲が出ていない日中に出来る限り、距離を稼いで水のある街に夜に侵入するのが丸いだろう。


「……行こう。死ぬよりマシだといいが……うぅぅ、ミスティーきゅん!? オレは一体どうなるんだ!? コレから?! ああ、君が此処にいればいいのに……」


 思わず涙しつつ、そう熱くない乾いた風が吹き抜ける荒野に車両を出発させる。


 凡そこの手の車両をゲームで運転していた身からすれば、移動出来て100km。


 燃料が無ければ、荷物は持っていけない以上、何処かに拠点となる場所が必要であった。

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