第17話「エロMOD先輩とディノクライシス」
―――夕暮れ時。
すぐに明王号で戻ったこちらからの情報でアルマートの商隊が複数、例の遺跡より少し離れた場所にいる山椒魚の死体を解体。
高級珍味として珍重されているらしい肉を大量に切り出して、次々にアルマートへと大きな台車と現代式の車両を用いて引きずっていった夕方。
遺跡内部には猫達の一隊が到達し、更に規模を増した勢力を養う為にとミスティークが用意していた車両3台が牽引する台車に次々に開放したポット内のマシンナリーの肉体を箱詰め。
ポットも冷凍睡眠ポットの規格だったので明日には運び出して拠点に持ち帰る手筈となり、現場監督を終えたら一足先に明王号でアルマートに戻っていた。
「今日は助かった。エーラ」
「そんな……ガラークさんを助けられて、とっても嬉しかったのだわ。えへへ」
「そうか。良い子良い子」
「も、もぅ。は、恥ずかしい……のだわ」
思いっ切り顔を赤くされたので手を引いておく。
「あの怪獣の肉は珍味みたいだから、牧場に手配しておいた。にぃさん達と愉しんでくれ。それと今日付き合わせた分の給料という事でコレ」
「あ、【治癒剤】……で、でも、これ高いんじゃ?」
「ウチのヤバイ医者が無駄に滅茶苦茶量産してるから、別に大したもんじゃない。もしもの時の為に1人1瓶くらい持っておけって事で。受け取ってくれるか?」
「うん。にぃさんもきっと喜ぶのだわ♪」
「そう言ってくれると助かる。今日は疲れただろうし、ゆっくり休んで明日またミルク持って来てくれ。じゃ、お疲れ様」
お疲れ様なのだわ~~とのほほんとした声が響いて、そのまま牧場の方角へと消えていく。
「じ~~~~(´・ω・`)」
「おわ?! ミスティーク!?」
明王号を止めた駐機場でミスティークがこちらをジト目で見ていた。
「今日はお楽しみでしたね? ガラークさん」
「お、おう? ちょっと見付けた小規模遺跡を探索して、マシンナリー見付けて、河の怪獣を珍味にしただけだが?」
「ちなみにガラークさんが倒したのはウチの大河渡りをしている人達から“船呑み”と呼ばれていたヤツで伝説級の怪物なんですけど」
「いや、珍味なんだろ?」
「それは両手で持てる大きさの話ですよ? というか、それも殆ど出回らないのにいきなり、あんな量が出回るなんて吃驚ですぅ」
溜息が吐かれた。
「そ、そうなのか?」
「取り合えず、全部干し肉にして辺境中に売り出しますけど」
「お、おぅ。儲けて貰えれば幸いだ」
「今回の儲けで猫の城に提供してた機材の値段の20倍近い儲けになりそうなので問題は無いですけど……あのマシンナリーの体、売らないんですか?」
「アレはウチの人員。いや、ウチの猫共が死に掛けた時用や腕や足が跳んだ時に使う」
「ガラークさんはホント優し過ぎですね。捕虜なのにちゃんと扱って、もしもの為に準備までしちゃって……」
「そうか?」
「そうですぅ!! もぉ、エーラちゃんの胸元をマジマジ見ても怒られないのはガラークさんくらいですよぅ。フン」
「いや、見てないだろ!?」
「本当に?」
「う……ちょっとだけ見てました」
視線が冷たかったのでゲロしておく。
「はぁ、あの子、本当はとっても街で人気があるんですよ? でも、ガラークさんのところにミルク持って行くからって、オトコノコ達からの誘いも断っちゃって……お仕事忙しいからって、ホント愛されてますぅ。フン」
ミスティークが頬を膨らませた。
「ようやく落ち着いた場所で仕事を頑張る健気な美少女!! こ、これは実質的にオレが親切おじさんムーブがちゃんと出来ているのでは?(/・ω・)/ やっぱ、この路線がイイヨネ(´▽`)」
「親切な人は自分で親切とか言いませんよぅ。ホント、ガラークさんは……ふぅぅぅぅぅ(。-∀-)」
何故か苦笑が零される。
「という事でガラークさん」
「あ、はい。何でしょうか。ミスティークさん」
思わず姿勢を正した。
「マイザス商会では遺跡が拠点化出来る場所を随時買い取ってます。あの遺跡、まだ動くみたいですし、拠点化すれば、アルマートの商隊が安全に休息して、物資を安全に保管出来るようになって、活動範囲も広がって、更に広い地域との間に商売が可能になるんです。拠点売ってくれますよね?」
商人のコワイ笑みであった。
有無を言わさぬ凄みがある。
「あ、はい。どうぞどうぞ。オレ別に拠点とか持ってたいわけじゃないし」
ちょっと惜しくはあったが、別に秘密基地でもあるまいし、そういうのは自分で創るのが醍醐味であって、拠点をもう一応構えた後ならば、此処以外に造っても別荘くらいだろう。
「じゃ、アレと引き換えにウチの方で新規の商人用に定期航路で使おうと思ってた小型船、お譲りしますね?」
「え?」
「船が在れば、更に遠くまで行けますよ? 海岸線沿いや海辺にも行けるはずです」
「いいのか?」
「あの地下遺跡で軍事物資の他にも多数の古代の消耗品が見つかりました。更に大きいのは古代の大型コンテナです。アレ、実は滅茶苦茶高いんですよね」
「そ、そうなのか?」
「はい。特に商会の多くは品物を保管する機材にはお金を掛けます。でも、今の技術じゃ辺境のみならずセントラルにもあのクラスの頑丈さと内部の品物を安全に保管出来るものが無くて。なので、セントラルにも輸出出来る商材なんですぅ( ̄▽ ̄)」
その売り上げの予想、概算が木板の上の紙にサラサラ書かれたが、車両なんて目じゃないような金額が載っていた。
「ほうほう?」
「古代の消耗品は一部を研究開発用資材に当てて、荒野でも育てられる植物の類から類似品を作るのに役立ちますし、高級品としてそれなりの額で辺境で出回ると思います。軍事物資は猫の城にお任せですかねぇ」
「分かった。それでお願いする。で、何だが」
「?」
「畑増やそうと思う。何か人が増えて食料足りないんだろ?」
「え? あ、はい。儲けの大半はきっと食料買うのに使っちゃうと思いますけど、畑増やすんですか?」
「ああ、準備と外壁拡張工事だけ猫達には指示しとくから、明日からちょっと出かけて来る」
「え? 出かけて来るって何処に?」
「辺境で食料に困らなくなったら、嬉しいだろ?」
「そりゃ、嬉しいですけど」
「ちょっと当てがある。戻って来なかったら、その時はそういう事だと思っておいてくれ。恐らく2週間くらいで戻ると思うから」
「ッ―――どっか、行っちゃうんですか? ガラークさん」
「いやいや、戻って来るって。此処に色々物資置いてるしな」
「……ちゃんと、戻って来て下さいね?」
「ああ、ちょっと居なくなる程度だ。護りに大尉を置いていく。新型の重火器は取り合えず守備隊に渡して訓練だけさせといてくれれば、何処かの勢力が来ても早々負けないはずだ」
「はい……」
「もしもの時には戻って来るさ。遅く為ったらごめんだけども」
「ふふ、ちゃんとそういう風に考えてるところがガラークさんですね」
「ッ―――」
一瞬だけ、ミスティークの笑みがミスティーきゅんに被った気がした。
「?」
「な、何でもねぇ。正義の味方って柄でもないのを思い出しただけだ」
「おかしなガラークさん♪」
ミスティークがフフッと笑って振り返る。
「始めは人間だ~~ってビックリしてましたけど、でも……二回目に助けられた時から―――」
微笑みは確かに被っていた。
「ガラークさんはずっと私の憧れですよぅ♪」
(ミスティーきゅん……もしも、浮気したら……ごめんな……)
そんな昼間とは打って変わって穏やかな夜。
明け方に向けて準備をする為に少女と別れたのだった。
*
―――翌朝。
「にゃっぐにゃっぐ」
「にゃごごご?」
「にゃーごん」
「にゃっごごごごろろろ」
「ナウなうな~♪」
猫達がキュコキュコと明王号を拭いていた。
メンテナンスはしていないが、ある程度の整備は宇宙テックなレベルのドローンだと必要無い。
過剰な摩耗や耐久度の減少はパーツ交換となるが、日常的な稼働では僅かな摩耗や劣化の多くを部品や装甲そのものが在る程度自力で元に戻してくれるからだ。
その意味で言えば、先日の蜂さんと大激突した時の摩耗は半端では無かったという事であり、辺境の生物の屈強さは事実上ヤバイという事となる。
今まで、カメムシ、蜂、山椒魚と見て来たが、どれもこれも普通に宇宙テックな武装が無ければ厳しい相手だ。
(アレがこの世界におけるMOD以外の一般的動物という事なら、まだまだそういうのが出て来そうではあるか)
楽に相手出来ているものはいないだろう。
それでも逞しく生きている辺境の人間は正しくワイルドを絵に描いたような人々であり、使えるものは何でも使えという精神は大いに見習うべきものだろう。
それこそ再辺境で人間が恐れられていたのも子供の頃から人間のレイダーや野党や山賊や諸々の恐ろしい集団に受けてきた被害を口酸っぱく大人達が子供に教えていたからであり、猫達が来てからは捕虜とは言っているが、事実上人間である彼らを受け入れたのは当人達が人間の実際のところを理解したからだろう。
相手は怖がるだけでは勝てない。
捕虜にも出来れば、奴隷にも出来る相手なのだ、という実際の現状が分かれば、過剰に恐れる必要は無いという事であった。
「ご苦労さん。行って来る」
「にゃご!!」
「にゃーごにゃーご」
「にゃくくくくく」
ごしゅりん磨いておきやしたぜ!!みたいな顔の猫の男性陣である。
どうやら、こういう機械弄りは男の方がロマンは分かっているらしい。
軽く挨拶して、メインシートに載り、サクッと出発した。
「さて、まずは……あの種族の遺跡見付けるか……」
前日に猫達と博士達、おばさん達、スミヤナには言っておいたのでエーラにも今日中には伝わるだろう……大尉達や中尉達はまだ発掘作業中なのでドローンが掘り起こせるようになって作業が捗れば、すぐにでも街の防衛に付く事となる。
拠点を確保出来た事は大きい。
街の傍には未だ危険な動物がウヨウヨしているので外壁を広げて田畑を増やして行けば、やがては別勢力からの大規模襲撃も受ける事になるだろう。
だが、そこは心配していなかった。
問題は真面目に魔法の薬を大増産して、毎日100ダースの治癒剤をバカスカ放出し、ミスティークには良い人と思われてる女医とかだ。
『あらあら? わたくし、普通の女医ですわよ?』
「普通の女医は人の心を覗いてコメントするのえぬじーなんだよなぁ(*´Д`)」
『うふふ。しばらく、黙っていますわね♪』
あるいはまだ見ぬMOD勢力とか種族もかなり危ない。
数百種類レベルで入っている種族には一個人で一拠点落とせるようなのもかなりいるし、戦闘能力よりも内政能力において比類なき存在となれる資質があったりするのも沢山だ。
結果的に彼らを勢力に引き入れるリスクと引き入れないリスクを天秤に掛けた場合、入れないリスクの方が戦争や戦闘の外圧的なものとして高いと判断せざるを得ない。
「まずは【ヴァシックの緑玉】探しますかぁ……」
「それ、なんにゃ?」
「ああ、とある種族が過去に創ってたヤバイ代物でな。かなり、そいつを使ったイベントを起こすと食料を増産するのに役立つんだ……ソレそのものが役立つわけじゃないけど……;つД`)おまえぇぇ……拠点護れって言ったのにぃ!?」
思わず後ろを振り向くとこっそり載っていたらしい猫が一匹。
「にゃ♪ あのじょいにゃーがいきたくてだだこねてたら“あとでわたくしにたびのおはなしをしてくれたら、かわりにきょてんまもってさしあげますわよ? うふふ”っていってたにゃ」
大尉の言葉に血の気が引く。
つーか、駄々こねてたのかよ!!?というツッコミも今は無しだ。
「ッ―――」
今世紀最大に汗が滴った。
「あのぉ……邪神女医さぁん」
「?」
虚空に話し掛けてみる。
だが、声は帰って来ない。
普通に見たら、虚空に話し掛ける痛いヤツか精神異常を疑うべきだろう。
きっと、話し掛けても無駄に違いなかった。
邪神の笑みがクスクス聞こえて来そうだ。
「クソゥ!? 約束は守れよ!? ああもう!!? お前もだからな!! あの医者との約束は何が在っても護れ!? いいか?! お前が首一つになっても、ゾンビになっても、機械になっても、何があろうとだ!?」
「にゃ? そのつもりにゃ~~♪」
「はぁぁぁ(*´Д`) また、心配事が増えちまったぞ。こんちくしょう」
「にゃぁ~~~♪」
こうして、格好よく旅立ちを決めたかと思った時だった。
ドガァンという音にビビッて思わず、そちらを見やる。
すると、カバがカバと戦っていた。
爆発する即死系MOD動物達だ。
「は?」
だが、何かオカシイ。
片方のカバが何か金属片的なものを埋め込まれたような感じで強化されていたのだ。
口の牙とか足腰の部分とかがメタリックになっている。
他にもよく見るとあちこちで何か変な色合いのメタリック部位を持つ動物達が何かちょっと顔付きが鋭くなったような感じで野生の決闘と洒落込んでいた。
強化されたっぽい部位は見覚えがある色合いであった。
「あ、にゃーりゅーのいろにゃ」
「ッ―――生体金属細胞、大量に飛び散って周辺土壌を汚染、それを生物濃縮でムシャる即死系動物……う、頭が……ッ、アレ? 例のMODで知らない内に自発的バイオッ、ハッザァアアドッて、前にネットニュースで見たような……」
記憶を確認してみるとピキィィィンと来た。
「うわぁあああああああああああああああ!!? 恐竜=サンがディノハザード起こしてるぅうううううううううううううううううううううΣ(゜Д゜)」
思い出してしまった。
MODは色々と設定出来るのだが、恐竜追加MOD【ディノマゲドン】は何故、アルマゲドン的な名前なのかと言えば、倒した恐竜の残骸が多くの動植物を汚染し尽くした最終戦争シナリオ【ディノマゲドン】を解決するのがエンドコンテンツなのだ。
そう、すっかり忘れていたが、オンオフ可能なシナリオだったのでまったく使っておらず、忘れていた。
「ヤバイヤバイヤバイ!!?」
シナリオ【ディノマゲドン】はバイオハザード・シナリオと呼ばれる類のものだ。
最初期はプレイヤーとNPC以外のあらゆる動物を恐竜の残骸が汚染する上、最終的にはプレイヤーとNPCを含め、全知的生命が恐竜サン化するのだ。
放っておいても基本的には無害だが、恐竜サンを倒せば倒す程に被害が広がり、野生動物における食物連鎖で次々に感染が拡大。
最終的には世界の全てが【種族●●●(ティラノサウルス族)】みたいな表記になってしまう上で爆発的に能力が向上する(もちろん、その場合のシナリオはDINO-END。つまり、バッドエンド)。
これを逆手にとって、最序盤で【ディノマゲドン】の初期段階である“ディノハザード”を引き起こし、勢力全体を強化して、倒した恐竜サンの生物資源で無双する“ディノハザート・チャート”なるヘブンのRTA術が存在しているが当方齧っていたりはしないので内容が分からない。
「ああ、でも、別に汚染され切っても性格が変わったりするわけじゃないんだよなぁ。ちょっと体質や資質が強く為ったり、生肉が美味しく頂けたり、爆発的に能力が向上したりするだけで……恐らく恐竜要素が強制的にアバターに導入されたりする事以外の実害は……」
取り合えず、何度か脳裏でシミュレーションしてみる。
「ただ、アレがあの周辺で起こっても大挙して別の動物が汚染されに来たりしなければ、野生動物が超強化されてもあいつらと重火器なら全然……ええと、確かNPC扱いのモブは感染したけど、ネームドみたいな名前在りの連中は……」
「にゃ~~?」
首を傾げる猫を背後に影響を脳裏で計算する。
「ええと、ええと、動植物に対しての影響が汚染された食物を取った場合だから、食物連鎖系に組み込める他のMODでの上書きには対応してたはず。具体的には……魔力開放まで行ければ、効果の上書きまでは確か……うん、よし!!」
「にゃ?」
「オイ。大尉!! 2週間以内に【ヴァシックの緑玉】を手に入れて帰るぞ!!」
「にゃ? どうしてにゃ?」
「そうしないとお前らが猫じゃなくて“にゃーりゅー”になる」
「たいへんにゃああああああ!!!? がんばるにゃぁあああああ!!!?」
驚愕の事実に思わずガッツポーズする大尉である。
こうして、さっさと食糧事情を解決するアイテムを得る為、爆発するカバさん対決を後に明王号の速度を上げるのだった。
*
―――セントラル辺境領界域【アバンシア・アマゴステ】領。
『大佐殿。辺境領1個師団の動員が完了致しました』
『分かった。本国の連中め。やたら本気のようだな』
『はい。まさか、虎の子のスーツと装備を辺境の衛星領域に貸与するとは思いませんでした』
『フン。使い捨ての駒くらいにしか思っておらん。連中は我々の事などな』
『使い捨ての蛮族だと?』
『いいや、使い捨てられる少しだけマシな蛮族、くらいのものだろう』
『ははは、違いありません。ですが、今回の司令官は……』
『ああ、分かっている。辺境の英雄……彼だ。しかし、もう期待はするな』
『はっ? どういう事でありましょうか。将シアーニアと言えば、我ら辺境マニアクス・ニャァンの希望の星でありましょう』
『もう、昔の彼はいない』
『え?』
『先程、会って来た。だが、面影が全くない』
『お知り合い、だったのですか?』
『ああ、兵を合理的に使い捨てる実直で質実剛健な兵法を得意とするお方だった。兵に死ねと命令する時、確かに悲哀を滲ませながらも、それを表に出すような方では無かった』
『………』
『今の彼は違う。あの大敗北で全てを失い。数名の部下によって命を長らえ……今や半分機械の体となった彼は……もはや、あの頃の彼では無いようだ』
『その……そういう事は戦場では多いのでは?』
『ああ、そうだな。だが、彼ほどの精神性を備えた兵が“折れた”……悪夢だ……その原因が最辺境にいる……』
『辺境の大英雄【反逆のガラーク】ですか……』
『此処最近聞くようになっただけの名だ。しかし、決して油断するな……我らは恐らく、過去最大の難敵を相対する事となる』
『それほどまでに? 確かにあの敗北は多くの辺境の者達に脅威と映ったでしょうが、あの時、“トカゲ”によって邪魔されなければ、地表に降りる事もなく。全てを蹂躙していたはずでは?』
『そう思うか? 本当にそう思うのか?』
『どういう事でありましょうか? 大佐殿』
『……最辺境の情報を集めている“草”達から情報が入った。今や大辺境【断崖のアルマート】は新たな勢力として勃興し、恐ろしい速度で事態は進展しているようだ。これを見ろ』
『これは……報告書ですか? 数千規模のゾンビを退けた? 変異覚醒種数千体?! な―――第一次要塞化建築の完了……鉄塔のような現代建築の出現、研究開発機関【猫の城】?』
『問題はそこじゃない。その程度なら、優秀な蛮族領の勢力なら有り得る。が……』
『マ、マニアクス・ニャァンの捕虜多数……捕虜による生産活動と壁外活動……精神制御技術の疑い?! 目視は出来なかったが、変異覚醒したゾンビ達の集合体を相手にガラーク単騎で殲滅……光の柱を出現させた? に、俄かには……』
『更に下を読め』
『ッ―――馬鹿な!? 【破棄の楽園】の最精鋭が全滅!? その機体の頭部を四方の塔に貼り付けて他勢力を威嚇し、力を誇示していると!!?』
『ああ、気付いたのは草達だからだろう。多くの辺境の連中は何か知っていても喋らんからな』
『あのバケツ頭共の最強部隊を倒したって言うのか……信じられない』
『しかも、連中はゾンビ事件の際に大量の古代人を受け入れているようだ』
『ま、まさか? 最初からコレは……』
『ああ、古代人達による徹底的な隠蔽が行われていた可能性がある。つまり、反逆のガラークは古代人達の勢力勃興を覆い隠す為のブラフかもしれん』
『まさかとは思いますが、邪魔な者達を排除して再辺境で新たな勢力を興す為に今まで反逆のガラークと言う大仰な名前で隠して?』
『……うむ。馬鹿げた火力、馬鹿げた戦績、馬鹿げた身体能力、馬鹿げた単騎の個人……これが存在していると考えるよりも後ろでヤツを支える超科学文明を生きた古代人達が全てを演出していたと考える方が自然だ』
『本国はこの事を?』
『先程、レポートとして送った。だが、作戦に変更は無いだろう』
『で、では、我々は……』
『そうだ。これより行われる戦闘は空前絶後のマニアクス・ニャァン勢力が勃興して以来、過去最大のものになる可能性がある』
『何てこった……じゃあ、あの兵達は……』
『本当の本当に捨て駒だ。本国が対策を練る時間のな』
『クッ!?』
『命令の拒否は銃殺だ。分かっているな?』
『……はい』
『更に悪い知らせがある。先程、“草”の連中から届いた“私宛のレポート”だ』
『こ、これは……古代遺跡よりドローンを発掘!? ば、馬鹿な?!! AI式ドローンだと!? そんな事をすれば―――は? 四基の古代ドローンが殲滅された? 更に戦闘を目視で確認出来なかったが、同時に辺境最大の対空陣地を張る【ガシャナの蜂】を9割以上殲滅だって!? 馬鹿げてる!?』
『ああ、オレも最初は誤報か。“草”の精神異常を疑った。だが、検査の結果は白だ』
『そんな……辺境で無線ドローンを運用出来ないのはあのトカゲよりも低空を飛行していると追い掛けて来るアレらのせいなんですよ?! 数、質、共に今の我らの全戦力でも駆除出来るか怪しいはずの蟲共をたった数名の人員で駆除だって?! こ、こんなの―――』
『炎のドローン、雷のドローン、重力のドローン、精神のドローン……その全てが破壊された模様だ。つまり、ヤツは“宙”の勢力に匹敵する強敵という事だ』
『大佐殿!! どうにか作戦を遅延させられないのですか!? 先日、本国から光の柱の調査を打ち切れという命令が在った際にも思いましたが、コレはあまりにも本国を疑わざるを得ないような状況の連続です……』
『不可能だ。そして、君には悪いが一緒に地獄に落ちて貰おう。本国の伝手で得た資料だ。読みたまえ』
『ッ……そんな、【アドンの庵】……宇宙からの侵略者の残党を拠点毎撃墜? あの光の柱は恐らく対空防御機構【グランデス】……ッッッ』
『気持ちは分かる。だが、落ち着け』
『分かっているのですか? 大佐殿……兵達は皆……』
『分かっている。分かっているから落ち着け。考えがある』
『何です!? ただ死ねと!?』
『そうではない。本国が辺境に“正式な外交官”の派遣を決めた』
『ッ、まさか? そんな事をしたら、全てのセントラルが引っ繰り返りますよ!? つまり、セントラルとして【円卓コミッション】への“登録の資格在り”と見なされた。そういう事でしょう!?』
『ああ、そうだ。故に此処が正念場だ』
『正念場?』
『外交官殿は本国から既にこちらに向かっている』
『……つまり、相手側の領域に送り込めば、戦争を回避出来る可能性がある?』
『ああ、そうだ。彼女は名うての商人だったからな。現地の魔法使いとも親交があると聞く。その伝手で逸早く彼女を送り込み。国交を開くのだ』
『本国は先に叩かせる算段では? 生き残れても相対的な国力差が覆らないならと地位を安定して確保させようという事でしょう?』
『ああ、そうだ。だから、偶然にもまったく手違いで外交官殿は我々よりも早く現地に到着してしまい国交を開く交渉を行ってしまった……という事にすればいい』
『外交官殿はソレを?』
『承知している。彼女もまた辺境出だ』
『……期日は?』
『本国からは直ちに進軍せよとの事だが、2週間後の会戦期日までに間に合わせられなければ、私の首が飛ぶ……が、ふふ……天の恵みだな』
『風が……空も……今日は本国の予報では晴れだったのでは?』
『ははは、この空模様荒れそうだな。外交官殿と外交団にはこれに乗じて先に行って貰おう。君には最精鋭1個分隊を預ける。必ず、我々より先に現地へ彼女を送り込め。これは君が死んでも成し遂げろ……それ以外にもはや我らに出来る事は無い』
『―――分かりました。大佐殿。では、これより【ヒガノ・ベルチャー】少尉、出発致します』
『辺境マニアクス・ニャァンの未来をどうか頼む……』
『顔を上げて下さい。貴方は指揮官でしょう。相手が例え、神だろうとも食い下がってみせますよ。それがあの子を殺した相手でもね』
『そうか。そうだったな。君は……』
『古い話です。では、大佐殿。次は地獄でお会いしましょう』
『スマナイ。君のような若者を……』
『良いのです。貴方は立派だ……こうして、可能性を与えてくれるのですから。なら、その部下も立派な兵でなければ、それだけです。それではオタッシャで!!』
『………若者と一緒に死んでやれないとは……フン、何が辺境最優の佐官だ……無力感など……当の昔に捨てたと思っていたのだがなぁ……』




