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第14話「ド・エロ・邪神とエロMOD」


 ゾンビ。


 それは人類の夢。


 ゾンビ。


 それは人類(映画)の至宝。


 ゾンビ。


 それはホラーの金字塔。


 サメ=サンと比べても劣らないモッティーフである(実際、ゾンビ映画は現代サメ映画と共に国民的な人気を博している)。


「(死ぬ程)弱い。(倒れるのが)早い。(戦い)易い、のはずなんだがなぁ?」


 ゾンビウィルスがコワイという方はいるかもしれないが、彼らはヘブンにおいては癒し枠だ。


 設定次第だが、根本的に弱い。


 上位個体。


 特殊変異個体。


 この辺りにならないと通常の蛮族、レイダー的な存在にすら劣る。


 銃弾で死に難いというのは頭に当てない人間の言い訳である。


 走っていてすら、ぶっちゃけ機関銃の掃射でイチコロ。


 事実上そんなのに対して貴重な弾丸を使うとか。


 マジで無いわ~~というのが嘗ての自分の感想だった。


「うん?」


 頭をスパッと一般的にナタで切り落としてみたのだが、何故か死なない。


 基本的にゾンビ戦の基本は相手に突撃して群がって来る敵を適切な手順で労力を使わずに殺戮する事である。


 ナイフを持ってファイティングポーズなんて取らない。


 ナイフを振りながら急所ではなく関節と心臓、頭部などをそのゾンビの種類毎の適切な処理手順を心掛ける。


 丁寧は下処理は料理とほぼ一緒だ。


 動きが早ければ距離を意識して2体ずつ相手にするし、相手との個人戦を心掛けるのだが、動きは遅いのに違和感があった。


「ううん?」


 腕を飛ばし、脚を飛ばしてみても何故か動いていた。


 ヘブンのゾンビは基本的に物理法則で動いている。


 血が足りなくては筋肉が動かせないし、心臓が破壊されたら倒れる。


 死ななくても攻撃出来ないのならば、無力化したのと同じだ。


 ゾンビMODはかなり多いので入れたMODのゾンビとの適切な対処方法や攻撃方法が分かっていれば、難なく勝てる。


 だが、血が筋肉を動かす量に達していないのに動き続けるゾンビは明らかに心臓を使わずに動いていた。


(どういう事だ? MODで物理法則以外で動くゾンビは入れてなかった気が……)


 チュドーンと遠方でプラズマ・ボムの洗礼を受けたゾンビだけがごっそり消え失せているようだが、何やら普通のゾンビと違うのが戦ってすぐに分かった。


「ゾンビ強化MODなんて入れてたか? ん~~?」


 目を細めてゾンビ達の健康状態を確認してみる。


 情報が脳裏に流れ込んで来た。


 相変わらず、この仕様もUIのようなものが見えないので何処か気持ち悪い。


「………不死属性が付いてるわけでもない。HPが減ってないわけでもない。というか首が無くても致命傷じゃない? 破損? あれ? もしかして、こいつら……」


 よ~~く、ゾンビ達の断面を見てみる。


 ノロノロやってくるゾンビ達の断面が何か金属っぽかった。


「どっかで見た恐竜サンの山にそっくりだなー……はははは( ̄▽ ̄)」


 ゾンビじゃねぇ!!?


「ゾンビじゃなくて、SF系ホラーの動く生体機械だコレぇえええええ!!?(´Д⊂ヽ」


 恐竜さんがゾンビになったドン。


 どうすればいいのさ。


 という本音はともかく。


 あちこちで銃弾を撃ちまくっていた守備隊の発砲音が消える。


「た、弾切れ。オウ、ジィザス(´Д`)」


 マジでどうしようかとゾンビ達の中で息を切らしながら首を飛ばし続けていると今度はあちこちから怪物の吠え声のようなものが聞こえ始めた。


 よく見ると、あちこちの倒れた首無しゾンビさんがモコモコと寄り集まって3m強の巨大な変異ゾンビ的なクリーチャーへと変貌しつつあった。


「うわぁ……帰ろ……無理(´;ω;`)」


 と帰ろうとしたら。


 こんにちわ♪


 と、周辺で首や四肢を飛ばしまくっ50体程のゾンビ達の寄り集まった何かと沢山目が合った。


「こんなところで即死は嫌ぁああああ(ノД`)・゜・。」


 即逃走。


 街の方に走ると猫と守備隊がやはりゾンビに為り始めていたボロボロなインナースーツの人々に薬を飲ませて張っ倒すのに忙しく。


 他はぞろぞろやってくるゾンビ軍団を片っ端から首や腕や足を切り飛ばして放置し、変異ゾンビ化したのと更に戦うという劣勢状態に陥っていた。


 あちこちでプラズマ・ボムの爆発音が響いているので一発30体程度で減ってはいるだろう。


 だが、相手の数が恐らく数千体規模なので焼石に水感が半端ない。


 そんな中、懐の博士達謹製の小型無線通信機……小さな炭素製の棒にしか見えないものに連絡が入る。


『英雄殿。そのゾンビの正体が分かったぞい』


『どうやら、我らが研究していたキョーリューとやらの金属細胞で出来ておるようだ。サンプルを解析しているのだが、それにゾンビ化を促す既知のウィルスが感染しとるようだ』


『こんな事例は初めて見る。恐らくだが、ゾンビ化の原因はウィルスに採掘前の金属細胞が感染、本来排他する代謝機能が消えているからだと思われる』


「どう倒せと?」


『何か適当な消毒するもんを掛けるとかすればいいんじゃないかのう』


 滅茶苦茶適当な倒し方だった。


 それにしても雑過ぎる話だろう。


『ウィルス自体は金属細胞の表面に付いているように見えた。顕微鏡で破片を見て見たが、内部で増殖しとるようにはまるで見えん』


『変異しているというよりはたぶん金属細胞の動作不良なんじゃよ。今まではプログラムで制御されていた形がウィルスの遺伝子を命令のように受け取っているのではないか?』


『まぁ、まだ何も分からんが、原理的なもんを想像するとそういうのが一番理屈に合うように思える』


「そういう事か……でも、消毒?」


『河に集めて洗ったらどうかのう? 恐らく、連中目的があるはずだ。ウィルスが増える目的は感染して子孫を残す事じゃが、人間を襲うだけなら、こんな場所まで来んだろう』


『左様。ゾンビウィルスの殆どは親株が全て一緒という事が故郷では判明しているが、ゾンビが人を襲うのは宿主の栄養補給の為に血を欲しているのであって、長距離移動自体は大まかには帰巣本能のような場所に縛られる傾向が分かっとる』


「どういう事だ?」


『普通のゾンビはほぼ野生動物という事じゃな。積極的に人間は襲わん。栄養が足りなくなったら、宿主の状態を保つ為、腹が減ったように動物を狩る。その対象に人間も入っとるだけだ』


『キョーリューの採掘現場とはかなり離れているしな。あのゾンビに為り始めた連中に事情を聞いてみたらいいんじゃないか? 何か分るかもしれんぞ』


 三博士の言う通り、一番近場でアタフタしながらガクブル中のインナースーツ集団にちょっと事情を尋ねてみる事にした。


「は、はろー?」


 コミュニケーション不全の人見知りの中年おっさんの第一声なんてこんなものである。


「助けて下さい!? どうかお願いします!? こ、この子だけでも!!?」


 どうやら抱き締めているのは娘ちゃんのようだ。


「一つ訊きたいんだが、ゾンビの事で知っている事があったら教えてくれ。君達の事も掻い摘んでお願いする。とても、大事な事なんだ。君達を護る為にも」


 笑顔で相手に話し掛ける。


 嘗てのゲーム中で得た対人スキル……作り笑顔である。


 何故か、あまりうまくいかないのだが、そんな事言ってる場合じぇねぇ!!と母親も思ったようだ。


「ひっ!? わ、我々は冷凍ポットでずっと寝ていたんです!! ですが、機材の故障で起きたら、既にゾンビ達が施設に侵入していて!!?」


 何故か、滅茶苦茶怖がられた。


「ほう? どうして襲われたか心辺りはあるか? あるいはゾンビ達の何かおかしな行動や気になる点、みたいな些細な事でもいいんだ。後、此処に来た理由もお願いしたい」


「そ、それが……よく分からなくて、た、ただ……」


「ただ?」


「逃げる際に地図が施設のディスプレイに映ってたんです。コールドスリープから3000年は経っていて……此処には大規模な軍事施設があるって……昔、聞いた事があって」


「軍事施設?」


「はい。旧い時代の立て籠れる地下施設があるはずだとディスプレイには……恐らくAIによる誘導だったんだと思います」


「軍事施設。此処なのか? 此処から近い場所、とかではなく?」


「いえ、たぶん、迷ってはいないはずです。個人端末を持っている方がいれば、それに軍事施設があるとまだデータが残っているかもしれません。地図の現在地表示は此処のはずです」


 どうやらまだ軍事衛星は生きているらしい。


 もしも、この世界がゲームだったならば、過去の軍事衛星が生き残っているというのはクエストの一つであり、地表で様々な序盤の事件を追っていると解決したら衛星の運用コードがうっかり手に入ったりするのだ。


「ふむ。分かった。ゾンビに関しては逃げてる最中におかしな事は?」


「……あ」


「何か?」


「む、娘が言ってたんです。ゾンビさんが地図を見てるって」


「地図を?」


「え、ええ、確かにディスプレイを見ていたような仕草というか。立ち止まって眺めていたような個体を何体か見ました。ふぅ、ふぅ……」


「分かった。オイ、このご婦人に薬を!! 感染してる!!」


「え!?」


「にゃ!!」


 常在をすぐに持って来て内服薬だからと口に含ませ、小さな陶器製のボトルから水を含ませた猫が再び別の場所へと駆けていく。


 ゾンビウィルスの初期症状は黄色い目と浅い呼吸音だ。


 生憎と此処は超科学ディストピア文明が滅んだ跡という設定であり、ウィルスもその一つというのが多くのMODでの設定でもある。


「元々は恐竜さんでゾンビウィルスに影響されてるとはいえ、命令はある程度残ってるはず……ゾンビ・ウィルスの帰巣本能か。はたまた最初の命令か。それが合致したか」


 ゾンビ達の方を見やると大型化した個体がゆっくりとこちらに迫って来ている。


 どうやら速度はまだ左程早くないらしい。


(理由は何でもいいが、この街には何かある。3000年か。あの廃墟は精々が200年くらいに見えた。明星街【リントラ】に似ている廃墟……あそこは軍事拠点じゃない)


 考える事は色々と有ったが、ゾンビ達の動きが何だかゆっくりとだが、統制が取れ始めているように見えるのは気のせいではあるまい。


 金属細胞と言っても要は金属原子を塩基に持つタンパク質の塊。


 現代でもよく使われていたナノテクの結晶たる超小型の分子機械、要はナノマシン技術よりも遅れていた細胞型マイクロマシンに相当する。


 細胞というかなり大きなシステムが機械の命令を実行するようになった昨今はその恩恵はかなり大きかったのだ。


 元々が同じ細胞だったおかげで電波を感じ取れる範囲でならば、恐らくある程度の連携が取れるような情報のやり取りはあると考えていい。


「はぁ、仕方ないな……あんま、他人の見てるとこで力を使うと後で解析されたり、見たヤツが情報の為に殺されたり……ロクな事にならんのだが……」


 そろそろ前方集団が足止めも空しく壁の直近に抜けて来る頃である。


「博士。各隊の猫共に避難民の直掩を指示してくれ。オレが後は片付ける。大尉にはオレが危ない状況になるまで射撃禁止を。それともしもの時は“投げろ”と」


 無線機越しに指示出しを終えて、近くの猫に預ける。


『了解じゃ。済まんな。電波塔の建設が進んどらんくて、間に合わせの材料では小型無線の距離を伸ばせんのだ』


「問題無い。行って来る」


 無線機と拳銃を近くの猫に預けてモコモコと人間の手足が何本の食み出しながらも肉体に収斂し、人間の形を取り戻そうとする怪物達の群れを見やる。


「悪いが夕飯前の軽い運動に付き合ってくれ」


 ―――ッ、ooooooooooooooooooooooooooo。


「ゾンビが怯えるなよ。前の戦闘記録残ってるのか? It's party time……」


 人気があるので密やかに呟いて突撃用にボクシングスタイルで構えを取る。


 それと共にBGMが流れ出した。


 緊張感のある戦闘序盤の出撃に使われる代物だ。


 大本は数十年も前のロボアニメだったはずだが、考えているより先に1秒で20m近い距離が肉薄し、嘗て……普通のゲーマーをしていた頃よりも確かに反射速度自体が、実際の生身の反射が上がっている事に気付く。


(そうだ。嘗てはゲーム内の反射速度が上がっていた。だが、今はオレ自身の反射速度が上がってる。MODはゲーム内のアバターに適応されるもので意識を機材で直結しても機械内部で生身の反射速度が向上する事はない)


 そういう違法はMODも存在してはいたが、動画で見ても常人の数倍程度以上にならない。


 だが、正しく脳内の分解能、クロックが上がっているような気がした。


 漫画やアニメ的な表現で言えば、光景が遅く見える主人公や敵のような思考加速状態であった。


「まずは一体」


 殴り抜けた時、その拳の直線状にある全てが地表毎抉れていく。


(思っていたよりも強化幅が高くなってる? ああ、避難民を後ろにしてるからか)


 高速でステップしながら、銃で撃つ要領で拳を相手に叩き付けるのではなく。


 拳の直線状の全てを殴り吹き飛ばす。


 金属細胞で出来たゾンビ達がバラバラになりながら舞い上がり、次々に小動物レベルまで粉々になっていく。


「ならッ」


 上空に跳んだ。


『な、何だぁああああああああああ!!?』


『あ、アレは!? 人が空に!!?』


 拳で敵集団の中央に向けて大振りのストレートを放つ。


 ゴッと気圧が大きく偏った気がした。


 猛烈な圧力で潰れたゾンビ達が薄く薄く広がり、クレーター内部で地面に対するメッキのように引き伸ばされていく。


 “【エアロ・ナックル・マシンガン】……辺境の英雄が駆け抜ける時、遥か天に舞い上がり、その一撃は大気の怒りと化して怪物を撃滅する!!”


『な、え? な? こ、この声は!?』


『辺境の英雄?』


 茫然とする後方を置き去りに上空から更に見える範囲に滞空中、拳を乱打した。


 “【エアロ・ナックル・バースト】今、限界を超えて、力無き者の為、その肉体が壊れるのも厭わぬ英雄の拳が嵐を巻き起こす!!!”


『そ、そんな!? まさか、あ、あの人はい、命と引き換えに!!?』


(いや、命とか賭けてないから!?Σ(・ω・ノ)ノ)


 確かに大気を蹴り付けて空中滑走しながら上から戦闘ヘリみたいに地表を殴り付けて爆撃しているが、殆どMOD強化のおかげだ。


(後、ついでに高難易度戦闘を経験してれば、これくらいはなぁ( ̄д ̄))


 思ってても声に出せないのがカッコイイを貫く弊害だろう。


 遂にほぼ全ての担当区域の群集団を駆逐。


 高速で別方面に向かうとそこでは更なる非常事態が起こっていた。


「あの大きさ……10mはあるか……」


 複数の巨大化ゾンビが更に集まっており、次々に融合していた。


 その理由は防衛戦を展開していた猫達ではなく。


 1人群集団のど真ん中で戦闘継続していた自分を“せんにゃ”と名乗った中尉が殴り倒している個体が更なる力を求めるように密集して波状攻撃を仕掛けているからだろう。


『フニャッタァアアアアアアアアアア!!!』


 だが、上半身裸の白い青年猫はゾンビ達を気を纏う体で次々に薙ぎ倒し、相手を行動不能になるよう出来るだけ小さく分割するような手刀や相手との距離を離す弾き飛ばし、蹴り飛ばしで粉砕し続けていた。


 だが、明らかに疲弊しており、その体は滝汗だ。


 レベルが足りない上に燃費も悪い。


 10分と言ったのはやはり正しく。


 限界が来る前に撤退を開始。


 こちらに気付くと大きく手を振っていた。


 その一瞬後、10m級の巨体が凡そ7m程離れた場所から瞬時に中尉の後方、すぐ後ろへと機動する。


「ッ」


 咄嗟に空を蹴って割って入った時。


 金属疲労したような音と共に相手の振り下ろしがこちらの腕を直撃し、圧し折れて後方へと流れ弾よろしく飛んでいった。


 複数の猫達が慌てて盾で耐えたが吹き飛ばされ、その腕から再び分離したゾンビ達が湧き出して、周囲では防衛線への負荷が増大する。


「ごしゅりん!!?」


「下がって後方を固めろ。任務を果たせ。中尉」


「ッ―――申し訳にゃくぅうううううううう!!」


 涙目敗走した中尉が去るのを後ろに拳で相手を直撃すると瞬時にバラバラに爆発。


 一瞬で周辺の10m級が距離を詰めて来るが、遅い。


 何よりも瞬間移動染みたノウキン・スタイルは良いのだが、あまりの重さで地面に機動した後が付いているし、その機動を見れば、どれくらいの速度と旋回性能なのかは分る。


 超接近戦によるほぼ0距離での格闘で使えば、相手は吹き飛ばせるだろう。


 だが、瞬発力勝負では加速力がものをいう。


 どれだけの質量も加速した見掛け上の限界無く上がる物質の衝撃には耐えられないものだ。


 そして、兵役中に敵との超接近戦……消耗戦になった挙句に互いの武器弾薬の供給が滞った最前線では夜間の浸透襲撃に際してソレは発生していた。


 戦力の削り合いが砲爆撃回避の為の存在の隠蔽を余儀なくされ、ナイフやスコップでの塹壕戦染みたものになったのだ。


 市街地ですら弾薬枯渇した現場で後にも先にもアレ以上の地獄は見ていない。


 先に二階級特進してしまったナイフとボクシング、組手による空手、CQCなどを教えてくれた格闘技マニアで笑顔の汚い尊敬するべき部隊長には感謝しかなかった。


『相手を殴り壊すんじゃない。お前よりも大きいヤツなんて五万といる。そんな奴らをお前は壊せない。だから―――』


 殺到する怪物が周囲の自勢力に攻撃が当るのも構わず。


 次々に拳を突き出して来る。


「―――相手に相手を壊させろ。だったか」


 相手の攻撃をガードしてはいけない。


 ガードしてもダメージがあれば、体の優劣がある相手には最終的に敗北する。


―――避けて当てる。


 最初の目の前の一撃を跳躍で回避して、相手の首を両手で持ちながら上空で上半身を捩じって、背部に着地。


 捩じ切った頭を捨てて、両手に後ろの背中を回し蹴りで拳の前に押し込んで拳を粉砕させ、よろめいた相手の動きが止まったところで両足を踏ん張り、脚を一歩前に突き出し、正拳を放つ。


(相手の力を使うのは古武術に通じるものがあるよな)


 “【技極組手ストレンジ・グラップル】……反逆の英雄に隙は無く。反逆の英雄に勝敗は無い。全ての敵は己の力にて滅んだ間抜けというだけの事であった!!”


『じ、自滅させているのか!? 相手の攻撃で!?』


 何かやたらBGMが盛り上がっていく。


 目に見える場所で守られているインナースーツの人々が吹き飛んだ怪物達が金属の染みのように溶けていく様子に茫然としながらもこちらを見ていた。


 だが、その合間にもあちこちでゾンビ達が次々に起き上がると溶け出した。


「何?」


 その溶けた金属塊が濁流と化し、こちらが吹き飛ばした怪物達を呑み込んでザアアアッと水音をさせながら渦巻き、その450mを越えたくらいの塔のようなものを伸ばして、その先に口のようなものを形成した。


『う、うわぁあああああああ!!? 何だアレは!? 一体!!?』


『逃げてぇえええ!!』


―――叫び。


 ほぼ5秒で500m近い領域を囲んでいたゾンビ達が集まり、再び金属塊として己の形を一つにしたのだ。


 対応しようにも今の猫達にはお手上げだろう。


 無貌の蛇の如き長さを持つ塔の口が遥か上空から何かを吐き出す寸前。


「どうして、オレが黙って待ってると思ったんだ?」


「?!!」


 ソレがグリンと口を自分の頭部に再び形成した。


 が、その時にはもう全て終わっている。


 相手の頭を蹴り付けて、塔の上から超高速でぶん投げられたプラズマ・グレネードランチャーを片手でキャッチ。


 ようやくこちらを向いた口だけお化けを下に見る。


 プラズマ・グレネードランチャーは電力供給が無ければ動かない。


 そう、スチューデント・スーツを着込んでいなければ、電力は供給されない。


「!!!!」


 相手の猛烈な咆哮は圧縮空気を打ち出す、振動波そのものだ。


 重火器の初期動作までの時間は凡そ2秒。


 その間にも衣服が振動で分解されて千切れ跳んでいく。


 しかし、その下から現れるのは―――。


「塵と化せ」


 個人の攻撃倍率が跳ね上がった状態で品質EX武装による最大火力が火を吹いた。


 世界が明るく照らし出されていく。


 墜ちる日が再び昇っていくかのような光量。


 ボムであるはずのソレは濁流となって、ゆっくりと……空気の流れも相手の金属の肉体も当る前に蒸発させながら地表に落ち。


 こちらを呑み込みながら光の柱となって遥か大気圏上空を突き抜けていく。


『コード/シャット起動します』


 背部の機関から音声が運用者の脳裏に直接響いた。


 あまりの熱量がプラズマの本体から立ち昇り、全てを蒸発させたが、【スチューデント・スーツ】の緊急起動した“対戦略攻撃防衛機能”が起動。


 溜め込んだ電力を放出し、兵装そのものを破壊し兼ねない威力を電磁的防壁と空間を歪める歪曲式の領域で被害が出ないように防ぐ。


 周辺全土が蒸発する前に発動されたのはあらゆる物理現象を歪めて逸らす防御機能そのものであった。


【ヴォイド・シャット】


 これはスーツと自勢力の拠点を護る力であって、運用者を護る力ではない為、運用者の死を前提として、使っている当人は護らない。


 要は大規模攻撃に対して兵士を生きた盾にする為の代物だ。


(生体認証を博士達が突破してくれたおかげで使えるようになってたのデカ過ぎるだろ。ホント……良い仕事するな。あのご老人達……)


 勿論、仕様は知っていたのだが、明らかににプラズマ・グレネードランチャーが過剰威力になっていたのは否めないだろう。


 大気圏を突き破る光の柱なんて、明らかに大事である。


 “今、世を光が貫いた。この暗黒と退廃の荒野に示された希望がやがて多くの者達を巻き込んだ新たなる秩序の再編へ動き出す事を……まだ誰も知らない”


 また嘘ナレーションが響いていたが、言葉が聞こえる範囲には恐らく誰も入っていないだろう。


 全てのBGMが潮が引くよう途絶えた後。


 地表に降り立つと体の高揚感が消えていく。


 どうやらMODの効用が失われたのが感じられた。


「ふぅ(´-ω-`) 終わった終わった。さ、帰る……か?」


 普通に帰ろうとした時、クレーターと溶鉱炉と化した傍に地表からヌッと何かが迫り出した。


 その時、拍動が空間を歪めたような……世界が捩じ切れるような、“音”……肉を引き千切ったような異音が世界という小さな領域を埋めた、ような気がした。


(ッ、こ、これは?! 昔、一度だけ―――)


 パラパラと周辺の空からは周辺領域で吹き荒れた爆風のせいで樹木の破片やその他の残骸が次々に落ちてきている。


 それがジュッ、ジュッと蒸発しながら、そのクレーターから這い出した何かに当たる前に散っていき。


 最終的に熱量という熱量の大半がシュウゥゥゥゥゥと鎮火。


 いや、ソレに吸収された。


 再び、プラズマ・グレネードランチャーを構えると。


「あら?」


 ソレがゆっくりと褪めた体をズチュルルルルと金属細胞とは比べ物にならない滑らかさで移動させて、シュルンとこちらの眼前まで迫って来る。


「ッッッ―――」


 ソレに見覚えがあった。


 上からヒュルヒュルと何かが落ちて来てベシャッと傍の地面に墜ちた。


 金属製の立て看板である。


「あらあら? あらあらあらあら?」


 ニィィィィッと。


 左顔面に3つ、右顔面に4つの睫毛も何もない造りモノのような……白と黒の幾何学模様が光彩の中心に引き込まれたかのような複雑な象形を内包する瞳が上から並んだ能面のような……屍蝋のような顔。


 口元までもが仮面のように見える流体金属で出来たソレがゆっくりと豊満な肉体を形成し、フルンと震える胸部と尻と尻尾が生えていく。


 その尻尾の禍々しい事。


 単分子ペネトレイター形状物体。


 事実上、物質であれば、ほぼ全てのものを貫ける槍としても使える3mはあるモノがウネウネして、黒く染まっていく体積が完全に人体を形成した。


 最後に頭部からブワッと黒緑の長髪がサラサラと溢れ出した。


 衣服めいたものがその髪の色の何かで紡ぎ上げられ、金の刺繍が浮かび上がっていく様子に思わず汗が滴る。


 あまりにも禍々しい。


 まるで巨大なタコのような軟体動物の何かの乱杭歯の並んだ口のような象形。


 多くのプレイヤーを恐怖のどん底に落とした象形はソレの象徴でもある。


 腕や爪先はカチカチと硬質な精緻にパーツを縒り合わせたような黒曜石のような色合いのメタリックな靴や手甲のようなものまでもが形成される。


 髪一本がサラリと音を立てた。


 ソレ単体でも凡そ2km圏内を両断出来る単分子ワイヤー形状物体であり、それが数十万から数百万本……凡そ惑星上を歩けば、あらゆる存在を撃滅可能であろう。


「あのぉ~~出会ってすぐで悪いとは思うのよ? でも、ほら……これ……」


 看板が持たれて嬉しそうに揺らされる。


「わたくし、実はナースですの……お雇い頂けないかしら? お強そうな貴方」


 そこにいたのは顔だけが異形のムチムチ・エロ・ボディの怪物。


「うわぁあああああああああああああΣ(°ω°ノ)ノ。宇宙四大狂神種族だぁあああああああああああああ!!!? オレはお前らを絶対に勢力には入れないと決めてるからなぁああああああ!!?!」


 恐らく、今世紀最大に叫んでる気がした。


 邪神降臨MOD【インモラル・ケイオス】。


 貴方の世界に邪神をお届け♪


 沢山の淫靡な邪神達と退廃的な世界を愉しんじゃおう♪


 という、エロMODこそが、このヘブンにおける最大火力にして最大防御力を誇る種族を生み出した悪名高い代物だ。


 普通に使う限りは信徒になったら、エロ効果のあるプレイ道具に困らなくなるし、NPCとの夜の生活が愉しくなるよというだけの代物であり、ミスティーきゅんとアヴァンギャルドな夜を過ごすのに良かったのだ。


 が、問題は邪神が種族である事だ。


 うっかり、別の種族利用MODと一緒に居れたら、邪神が拠点に攻めて来たり、邪神が拠点に居ついたりした挙句に全てが滅びる事が多発。


 更に開発者がどうやら天才の類だったらしく。


 メタ認知能力の高いAIが実装されており、個体毎にこの世界がゲームだと言及したり、まるでプレイヤーのように振舞ったり、極まるとゲーム世界から飛び出して、ゲーム領域外から様々な情報を集めて勝手にウィルスみたいにPCを使い始めた事で配布が停止された曰く付きのMODである。


 しかも、ゲーム世界を自分で普通にカスタマイズし始める事例も多発し、もはや新手のヤバイ・ウィルスとして多くのプレイヤーに恐れられた。


「あら? こんな辺境惑星にいるのにわたくし達の事知っているの? お強そうな貴方。貴方お名前は? ねぇねぇ、此処は何て名前の惑星ですの? 俄然、貴方と此処に興味が湧きましたわ♪」


 ムニュッと胸が押し付けられてくる。


 能面の口元が少し歪んでいる気がした。


「ひ、人の話聞いてる!? お帰り下さい!? お帰り下さい!? 【黒緑の種族】!!?」


「あらあら? まさか、“送還用の呪紋”まで知っているの? 俄然、貴方に付いて行きますわね♪ ああ、お仕事と給金は要相談ですわ♪」


 MOD配布停止直前に配られた各邪神種族の強制退場コードを叫んでみる。


 だが、パチーンと“彼女”の上に開いた黒穴が一瞬で尻尾に叩き落とされ消えた。


「ひぎぃいいいい(´;ω;`)。もうダメだぁ!? お終いだぁ!? 押しが強過ぎるぅぅぅぅぅ?! お願いだから帰ってぇ!? 何でもしますからぁ!?」


 完全に哀れな犠牲者は自分であった。


「うん? 今、何でもするって?」


「いや、今のは無し(/ω\)!! 何もしません!? 何もしません!?」


「あらあらあら!? 契約、しちゃいましたわね♪ あ、な、た?」


「うぼぇああああああ(ノД`)・゜・。 」


 ゲロを吐きそうなレベルで深刻な精神障害に陥った気がした。


 気絶待った無し。


 これがクエスト報酬だとすれば、システムは絶対にバグっていると断言出来る。


「それにしてもわたくしを召喚出来る程の供物とエネルギーに空間の歪み……うふふ、此処も案外楽しめそうですわね?」


「人材登用に高次元存在の自動召喚機能とか要らないからぁ!? システム・クラッシュの危険性があるからMOD設定オフにしてたはずなのにぃいいいい!!?」


「もぅ、そんな本当は興味あるのに興味ないみたいな事ってぇ……カ~ワ~イ~イ~♪ わたくしのもっとーは『お呼びとあらば、即参上!!』ですわ~~♪」


「いいから帰れぇ!!?(/ω\) 前にお前らのせいでいっちゃん大事な一戦で拠点崩壊したんだぞぉぉおおお!? 気軽にブラックホール潰してラストリゾートするなぁ!?」


「あら、愉しそう。今度やってみようかしら?(^◇^)」


「邪悪ぅぅぅぅ?! 何がバカンスしたかっただぁ!? そのせいで周辺銀河星系軒並み重力変動で爆縮されて超新星爆発で吹き飛んだじゃないですかヤダぁああああああ!!?(/口\)  ミスティーきゅん!!? ごめんよ救えなくてぇええええ!?」


 一瞬でトラウマの過去回想が挟まる。


 宇宙を賭けての大一番。


 愛するミスティーきゅんと一緒にMODラスボス倒して大団円寸前。


 突如、超新星爆発で破壊される拠点。


 ブラックホール跡地で降着円盤の上にプールを浮かべてちゃぷちゃぷ遊んでるヤバイ種族が良い笑顔でニッコリ。


「あらあら? これは酷いトラウマね( ^ω^ ) さっそく治療してあげないと。うふふふふ♪」


「宇宙無自覚に滅ぼす系クソ強“邪神種族”は呼んで無いでずぅぅぅぅぅう。おがえりくだざいぃぃぃ(´;ω;`)」


「ちなみに此処のご飯は美味しいのかしら? ( ̄▽ ̄)」


「聞いてねぇええええええ?! カフッ(゜Д゜)」


 あまりの現実に意識がブラックアウトした。


 暗闇にはミスティーきゅんが爆発する拠点惑星を背景に『まぁまぁ』と宥めるような笑顔になって微笑んでいるのだった。


 ミスティーきゅんの事なら何でも知っている自分にそんな欺瞞は通用しない。


『ミスティーきゅんの顔で近付くなぁあああ!? 人の夢と記憶に干渉してくるんじゃぁないよぉおぉぉぉ(´;ω;`) あ―――』


『あらあら、うふふ……夢の中ですら気絶してしまわれましたわ』


 怖ろしい現実から逃避するより先に再び声が聞こえたような気がした。


『―――勢力撃滅ポイントが一定数に達しました。勢力撃破報酬が配布されます。以下の内容から2つをお選び下さい。1.邪神種族【フェイスレス】雌型1個体。2.ゴミ。3.勢力Luck.Lv.G(確率偏差導入)-』


『あらあら? 眠ってしまった貴方様の代わりに選んでおきますわね♪ 勿論、1と3に決まってますわぁ。うふふふ~~♪』


 常闇の終わり。


 命の果て。


 無明の中で何かが微笑んでいるような気が、したのだった。

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