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第12話「おばちゃん魔法使いとエロMOD先輩」


―――衛星軌道上大型サテライト『アドンの庵』格納庫。


『諸君。地表の蛆虫共から仕事が入った。臭くて敵わないと思うが、一度下りて目標を確保して貰う』


『オイ。マジかよ……また地表かぁ』


『今回の依頼はどうやら辺境の蛮族共の頭の依頼らしい』


『地表の蛮族から鞍替えして、今度は辺境の蛮族の依頼を受ける……オレ達も落ちぶれたな』


『仕方ねぇ。今は停戦中だ。本国からの物資が届かない以上、略奪か、クセェ地表に降りての労働のどっちかだ』


『全部、奪えばいいものを……』


『連中も一枚岩じゃねぇんだ。それに対空砲火がある中央地域も未だ多い。交渉でどうにかなる内はそうする。仮にも停戦中だからな』


『オイオイ。引き分けか? アレで?』


『攻勢限界だ。物資が無けりゃオレ達はこの缶詰で一生中身になってなきゃならねぇ。寿命の減る冷凍ポットに入っていつ死んだかも分からんミイラになるのはごめんだ』


『チッ……高々、辺境惑星の蛮族共が……足元見て来やがる』


『資源はパワーだ。オレ達は兵隊だ。経営者じゃねぇ……そういう事だろ?』


『そこ。貴様らは空気も水も要らんらしいな?』


『『は!! 申し訳ありません!! 司令官殿!!』』


『罰として3週間の空調フィルター清掃を命じる』


『『は、謹んで拝命致します!!』』


『よろしい。では、続けるぞ。目標地点は大陸辺境にある小さな街だ。辺境の辺境……そこにいる個体を捕獲して貰う。名前はガラァクだ』


『げっほ、ごっほ?! し、司令官殿!? 一つよろしいでしょうか?』


『何かな? 諸君の1人たる君よ』


『名前、コード、どれでもいいですが、その発音でいいのですか?』


『……私としては乗り気ではないんだが、報酬は魅力的だ。如何に悪夢の名を関そうとも単なる辺境の単なる蛮族だよ。不敬過ぎて、怒る気にも為れん』


『そ、そうでありますか……』


『依頼に惑わされる必要はない。いつも通り、貴様らの仕事をしろ』


『了解であります』


『ブリーフィングをこれで終わる。各自、端末に送られた定時に配置へ付け。出撃時刻に遅れた者は日の水分摂取量を100mm減らす。覚えておけ』


『月面に帰りてぇ……』


―――辺境『断崖のアルマート』穀倉地帯10:33。


「ふぅ……( ´ー`)」


 農作業が一段落付いていた。


 別に農業が好きなわけではないのだが、ナンチャッテ農業は案外好きだ。


 ナンチャッテというのは農業の厳しさとか数字の計算をまったくせず。


 ただ、収穫作業だけ手伝うという自分は大地で生きてる感を演出してくれる労働の事である。


 実際の農業従事者が憤死しそうな話であるが、農業は数学であり、農業は科学であるという現代式農業は大規模化しなければ儲からないし、ブランドが無ければ売れないし、安くしたら泣きを見るという三重苦だと嘗ての部隊の連中の農家の息子が滅茶苦茶ゲッソリしていた。


 アレを見たら、農業を本格的にしようなんて露程も思えないのも無理はない。


 なので、こうしてオレ働いてます感が出る収穫は収穫の歓びを摘まみ食いするだけで何かちょっと申し訳なくなるが、愉しいのである。


「ごにゃぁああ!!? むしぃいいいいいいいいいい!!!?」


 雑穀畑をセントラルから買っているらしい機械で収穫。


 オイルで回るエンジンが唸りを上げて、普通の機械で収穫するんかい!!とツッコミを入れたのも朝の話。


 何で収穫の依頼が来たのかと思えば、雑穀に集ろうとするデカい蟲をぶっ殺してくれとのお達しであった。


「1mカメムシ……うん。地獄(≧▽≦)」


 笑うしかない。


 MODにそんなのは知る限りいなかった。


 雑穀の収穫時に寄って来る害虫の一種が超堅そうなメタルチックなバカデカ・カメムシ=サンとかビジュアル的にヤバ過ぎる。


 それが群れを成してやって来るのだ。


 いつもは近隣の連中を集めて、総出で対処するというのだが、今回はミスティークが力の有り余ってる猫達の訓練も兼ねて実益も出したいからと言って来た仕事であった。


 実際、実戦不足の兵隊は使いものにならないので猫達を動員。


 クローアームや直剣でどれくらい戦えるものだろうかと。


 防具込み込みでやらせてみる事にしたのだ。


 さすがに150人分の防具を揃える余裕は無かったが、先日から色々と得た資材や資金で多少は猫達の装備は良くなっていた。


 今まではほぼ活動時はマニアクス・ニャァンの軍服だった彼らだが、その上に防具を着込めるようになった層は様になっている。


 ちなみに雑穀が燃え易いので炎の類は禁止。


 刈り取り終わらない畑を背にしての防衛戦である。


 素手で殴り殺すか剣で串刺しにしてくれと命令しておいた。


「ひどいにゃああああああ!!? ごしゅりんのきちくげどーもっこりー(´Д⊂ヽ」


 重火器使用禁止令を出された大尉が猫達と同じくクローアームや普通の直剣で蟲を叩き潰しながら泣き言を零していた。


 突撃してくるデカイ蟲は衝突力もそれなりにあり、まともに突撃を喰らえば人間くらいの重量は吹っ飛ぶ。


 先日倒した部隊のゴリアテ4の装甲で造った盾も使っている為、戦線は突破されていないが、蟲の顔面がドアップでワシャワシャする様子を見た猫達の正気度はガリガリ削れいているに違いない。


 一部部隊が前方で圧し留め、それを叩き潰す一般猫は簡易の軽装防具……辺境の蛮族風味の一般流通品を身に纏っていた。


 軍服よりはマシ、くらいのものである。


 とはいえ、それでも群れを成した蟲の大軍と接近戦だ。


 あちこちで順調に駆逐してはいたが、悲鳴しか聞こえない。


『ヴォエ、オゲェエエエ!!? ぐっにゃ!? ぐっにゃ?!!」


 何とも言えない臭いが立ち込める穀物の刈り取り終わった畑にはメタル昆虫の死骸と鼻が捩じ切れそうな激臭が漂って交じり合い。


 猫達のやる気はマイナス域に突入。


 それを見て何やらサラサラと手に持った板の紙に書き物をしている依頼者であるミスティークは宇宙服染みた全身を覆うポリマー製っぽい防護スーツに身を固め、シュコーシュコーとマスク越しに息を吐いていた。


「一人だけ良いなソレ。売り物か?」


『いえ、特注品ですぅ。セントラルの方に頼みました♪』


「う~ん。周辺の連中もコレは苦労してるな」


『ええ、この時期だけは憂鬱だとあらゆる品物が売れなくなるくらいにゲッソリするのが定番だったので』


 言ってる傍から戦場で異変が起こった。


 ドガァンという激音と共にカメムシが一匹、宙を舞ってこちらに落ちて来る。


『ピギュアア!!?』


 滅茶苦茶慌てたミスティークが逃げ出す。


 さすがに慣れていても女の子。


 蟲は嫌いらしい。


 勿論、一緒になって逃げたが、戦場の方で何やら動きがあった。


 よく遠目に見ると……猫の一匹が防具も脱ぎ捨てた様子で何もなく。


 素手で蟲を殴り付けて吹き飛ばしていた。


 目を細めると健康状態が脳裏に流れ込んで来る。


「【仙術】待機中……え? 【カンフー】中? 何か目覚めたな?」


『ま、魔法、ですか? め、珍しいですぅ。あんまり“目覚める”魔法使いの人は大陸では多くないって聞きますけど……』


 こちらの言葉にミスティークも思わず驚いていた。


 魔法は体質的に発現するものもあれば、後天的に獲得するものもあるらしいのだが、今回は後天的に獲得出来てしまったようだ。


『ホォォォォニャタタタタタ!!?』


 その50代のおっさんをよく見れば、一番最初に白旗を持って部下を先導していた男だと分かる。


 細マッチョ・ダンディー猫と内心呼んでいたのだが、その体が気っぽいオーラにちょっとだけ覆われていた。


 漫画的やアニメ的な表現そのままである。


 しかも、それが本人の体を薄く覆っているだけなのにやたら動作が煩い。


 ブッピガァン!!!


 みたいな機械的表現染みた音が響くのだ。


 MODの能力に目覚めているのは間違いない。


 魔法と呼ばれている体系の一つ【仙術】。


 それを可能にするのはアジア発の面白系MODだ。


 超能力MOD【アジアンパンク・ボーナス・テック】。


『ニャァタタタタタタッッ、ホニャッタァアアアアア!!!』


 いつもは『にゃっ』とか『なう』とかダミ声の『ぐにゃっ』くらいしか喋れなかった猫のはずが、別言語を話すようになっていた。


 漫画やアニメでありがちなアジア系の創作された技術・能力を集めたコンテンツMODであり、状況や経験によって溜まったポイントが一定数に達すると能力や技術に目覚める代物だ。


 何故、面白系と呼ばれているのか?


 それはあまりにコッテコテのオールドタイプな意見……つまり、超古典的な認識によって作られた“狙ったMOD”だったからである。


 例えば、中華系の技能でカンフーが解禁されると滅茶苦茶旧い映画の人物のように攻撃時『ホァチャァアアア』と叫んだり、戦闘中いきなり演武し始めたりする。


 日本系の技能でサムライが解禁されると語尾に『ござる』が付いて戻らない。


 インド系の技能に何故か歌謡、舞踏というのがあり、戦闘中でも日常でも恋愛中でも『いきなり歌って踊り始める』のが現実と化すのだ。


 その代わりにかなり、そういう系統のスキルはギャグ要素分だけ強かったりするのだが、自分が映画の面白枠キャラになるのを許容出来る人間しか使っていない。


 結果として戦闘能力よりもコレは愉しさ充填の面白おバカMODと呼ばれるようになったのである。


『ニャタタタタタタ!!? ホニャッタァアアア!!?』


 ドガアアンと突撃してきて動きが取れない蟲達を正拳から放った気っぽいもので大量に吹き飛ばすカンフー50代細マッチョ・ダンディー猫の爆誕であった。


 ビガァアッと目から光が溢れ出し、口からも光が溢れ出し、もはや他の猫達もドン引きの様子だったが、戦力になるなら問題ない。


 ちなみに【仙術】は前に齧った事があるのだが、やたら小難しい本格仕様で修行や触媒の調達が滅茶苦茶面倒だったせいであまり深くは触っていない。


(というか、仙人修行をまんま内部に持ってくるなよ……シカイセンとかになるだけで滅茶苦茶面倒過ぎる……どんだけ時間掛かるんだっての)


 能力としては基本的に寿命が延びて体が健康になって、身体能力が常人の200倍近く上がり、傷の治りがどんな重症でも約1日、日常生活ではちょっとロックが掛かって握力がおじいちゃん並みに落ち、男ならば髭が滅茶苦茶伸びて白くなる、女なら何故か自由に浮けて移動出来るようになる、以外の効能は無い。


 あくまで基礎的なものというのが認識で合っている。


 難しい術を使うにはやたら面倒過ぎる手順がいるのでぶっちゃけ銃でOKとなるのは目に見えているような感じだったのだ。


「あ、終わった」


 プシュゥ~~っと何か気が抜けた様子でオーバーヒートした機械みたいに湯気を上げて、ヘニャッと倒れた面白枠第1号さんが仲間達に引きずられ、後方に運ばれていく様子が見えた。


(基本的に燃費も悪い、と)


「それにしてもいきなりでしたね? 何で魔法に目覚めちゃったんでしょう? あの猫の人……」


 それはきっと先日貰った勢力単位の能力向上バフのせいだが、黙っておく。


 ヘブンは基本的に得られる技能や能力は今までの行動と経験に対して確率である程度決まる。


 勿論、適正や遺伝子などの資質、本人の気性など色々な条件が重なって加味された上での事なのでぶっちゃけ、宝くじみたいなものである。


 事実上、最初から資質や適性として見えている性格や能力とは違って後付けのものは人為的に付与しない限りは中々に発現し難い。


 それを“あらゆる確率”を自分達に優位に傾けている現在はそういう稀な事が起こり易くなったと解釈していいだろう。


「きっと、明日には白髪、白くて長い髭のご老人と化してるな。たぶん」


「えぇ? わ、私魔法使えますけど、それはちょっと……」


 恐らく、現在進行形で経験値が溜まっていて、レベルアップ中な猫達である。


 レベルが見れるわけでもなく。


 単なる現状の健康状態が分かるだけなのでアクティブになっていない能力や資質が分からない以上、中身を精査して最適な育成プランなんて組めるわけもなく。


「ま、戦闘が終わったら確認してみよう」


 そろそろ蟲達が全て斃され切る頃合いであった。


「ふぅうううろぉおおおにゃぁあああああああああ!!!!?」


 こうして蟲の臭いと血でデロデロになった猫達は世の中に絶望したような瞳で拠点の裏手にある井戸とタライに殺到するのだった。


 消臭剤代わりに石灰を蒔いて消毒する事となるのも無理は無かった。


 こうして朝から嫌ぁ~な臭いに苛まれてから後片付けを終えた昼下がり。


「到着っと」


 猫達が気力体力精神力的なものをごっそり失っているのを横目にマイザス商会の店舗にやって来ていた。


 勿論、ちゃんと体を洗ってからだ。


 幸いにして怪我人は出たが、ちょっと蟲との戦いで打ち身と打撲があるくらいなので回復用の【治癒剤】を惜しげもなく使ってくれたミスティークに感謝だろう。


 見た目は陶器の試験管に入った怪しげな液体だが、効き目はしっかりあるので今では腰のポーチに入りっぱなしの薬である。


「で? あの資源使えそうか?」


 店舗の一角に来て、お茶を出されたテーブル越しに訊ねる。


 すると、ちょっと真面目な顔のミスティークがコクリと頷いて、無言で魔法系の採掘関連事業をしている専門家のレポートを手渡してくれた。


「ええと?」


 軽く目を通してみる。


「本調査で出土している太古の時代の金属資源の鉱脈は生物の細胞にも似ており、セントラル及び東邦にて開発されている【アルテック・マシンナリー】の原材料として最適なものと確認する。直ちに鉱脈の偽装を行わなければ、紛争の火種になりかねないと調査者は懸念するものである?」


「という事らしいです」


「アルテック・マシンナリーって知ってる?」


「い、いえ……聞いた話なんですが、博士達が太古の地層から発掘して再開発していたものとは違って、金属と細胞の特性をどっちも併せ持つ資材を使った新マシンナリーなんだそうです」


「新技術と来たか……」


「博士達が追放されたのも本国でその技術が開発され始めたから、もう古い技術の重要性が低下したからなんじゃないかとか……」


 脳裏を浚ってみても、MODにそんな技術は無い。


 はずなのだが、ゲーム世界かも怪しいので実際にはまた新しい派生技術や派生能力が生えて来ても一向に驚きはしない。


 そもそもAIによる改変は極めて大きくなる事が多々在る為、ゲーム内だと仮定したら、まったく驚きでは無かった。


「それで博士達の見解は?」


「精錬が必要無く。掘り出してから成型、ある程度の加工で筋肉みたいにものを動かす機関を作れるそうです。熱量を供給出来れば、それをモノを動かすエネルギーとして使えるとか」


 まぁ、あの街一つはありそうな巨体を動かしていたのだ。


 小さな荷物くらいは軽く持ち運べる機械なんて簡単だろう。


「金属鉱脈は街一つで使い切るのは不可能だし、街から少し遠いので近辺に諸々設備と人を入れるお金も必要です」


「つまり、不可能って事か」


「ちょっと必要になったら取りに行く。くらいの感じかもしれません」


「ふむふむ。ちなみに具体的に運用出来そうな商品てあるか?」


「博士達が言うには自分達の知識と技術だと研究が多少必要だと。でも、研究がちょっと進めば、防具やスーツ、大型の車両に転用出来るって言ってました」


「つまり、本格的な街の収入源というよりは……」


 ミスティークが頷く。


「便利な道具として秘匿して、街の生活を豊かにしたり、軍事力に転用するのが良いんじゃないかと。生産設備も人も足りないので数は用意出来ないと思います」


「街の工房も親方のとこの他は2つしかいないしな」


 そう、最果ての辺境は基本的に何処も人員不足なのである。


 猫達が重宝されているのはそういう事情もあったりする。


「はい。生産する人がそもそも少ないので」


「そこは今後の課題か。じゃあ、しばらくは秘匿の方向性でいいな」


 コクリとミスティークが頷いた。


「そ、それにしても後から聞いても信じられません……調査者の人に風景を描いてもらったら、あ、あんな大きさのものと戦ったんですか? ガラークさん」


「ああ、ちょっと腕が吹き飛びそうになっただけだ。ダイジョーブだ」


「ダイジョーブじゃありません!!?」


 ミスティークが膨れる。


 顔がちょっと残念になるが、愛らしさはそれなりかもしれない。


「もぅ!! もぅもぅもう!!」


「【牛人】になりたいらしい」


「もぉおおおおお!!? ちゃんと、自分を大事にして下さいね!?」


「分かってる……でも、さすがにいきなり襲われたらどうしようもないだろ?」


 すると今度はジト目になってしまう。


「大尉ちゃんが言ってましたよ? ごしゅりんは怯みもせずに突撃していったって」


「ま、まぁ……体が覚えてるんだよ。案外、たぶん」


「はぁぁ( ̄д ̄) 過去の詮索はしませんけど、本当にガラークさんは一体どんな道を歩んで来たんでしょうか。やれやれです」


 ミスティークが立ち上がり、無理はしない事!!と睨んで来るのでコクコク頷く以外無かった。


 仕事があるからと追い出されると店舗の店先にはスミヤナが待っている。


「あ、お仕事終わりましたか? ガラークさん」


「ああ、大丈夫だ。行こう」


「はい♪ 他の魔法使いの方が待ってます」


 今度はスミヤナと共に近場の魔法使い達が集まるという社交場(街の会議場の一角にある部屋に向かう。


 合わせたい人がいるという事らしい。


 石製の建築でも結構立派な造りのものが多いアルマートである。


 立派な木製の扉には何か魔法が掛かっているようだったが、生物を見るのでない限りは情報が何も出て来ないのでイソイソと中に入る。


「お、スミちゃん。来たわね」


「や、やめてよ。おばさん!? スミちゃんとか!? 他の人もいるんだよ!?」


「ほほほ、色気付いちゃって♪ ようやくスミちゃんにも春が来たわね」


「ち、ちが?! も、もぉ~~~!? 怒るよ!!?」


「あ~ら、貴方がガラークちゃんね」


「座って座って、ほら、あめちゃん食べる?」


 中にいたのは魔法使い(60代超えてそうな女性陣)達だった。


 魔法使いの多くは基本的に女性らしいと聞いたのはつい先日。


 何でも最長老がスミヤナのひいおばあちゃんという事らしい。


 魔法使い達の間では事実上、魔法使いの素養がある魔力の多い知性ある存在という各種のカテゴリに当て嵌るのがもう女性しか残っていないという事のようだ。


「要はよ。大昔は男の魔法使いも大量にいたけれど、体質とか。血統の問題みたいで減りまくりなのよね」


「そうそう。ウチもみんな男はダメだったわ。女も孫が一人ちょっと魔力持ってるくらいで年々魔法使いが減ってる感じなのよ。あ、ガラークちゃん。オカシ食べなさい。オカシ」


「あ、はい。頂きます。マダム。あ、この雑穀の固めたヤツ美味しい」


 完全におばちゃんの井戸端会議場である。


 魔法使いと言っても姿は普通のおばさんだ。


 着ているのもちょっと継ぎ接ぎだらけのデニム地を使った一般的な辺境ドレスだ。


 要は辺境によくいる高齢女性というヤツにしか見えない。


 唯一彼女達が日本のおばちゃん像と違うのは細い事だろう。


 基本、何かしらの動物の獣人。


 ゼノ・アニマルなのだが、目の前のは四足歩行の毛の生えた犬っぽい動物が大本になっているとしか分からなかった。


 毛の色は大阪のおばちゃん並みに染めているのかカラフルで紫、黄色、緑と色彩豊かだ。


 だが、それにしてもやはり細いと思える。


 基本的に栄養が足りないのだろう。


 辺境というのは荒くれものの方が脂ぎった肌をしているのに気付いてから世知辛い話だと思ったが、未だに辺境の食糧事情は慢性的に良くはない。


「で、あたしらはほら。魔力があんまりないのよ。大昔は違ったらしいし、80年くらい前に生まれてれば、大分……そうねぇ7倍くらい違ったんじゃないかしら?」


 その言葉におばちゃん達を目を細めてみると確かにMPがあると情報が脳裏に流れ込んで来る。


 しかし、数値的には多く無さそうだ。


 プレイヤーのレベル1が基本種族にもよるが人間の基礎スペックでMP12くらいなのだが、彼女達は34くらいであり、レベル3相当である。


「で、辺境の魔法使いの間ではね。これは一種の進化。あるいは退化なんじゃないかって言われてるの」


「退化?」


「そうそう。おおばば。あ、スミちゃんのひいばあちゃんの事ね? あの人が全盛期だった頃が恐らく一番魔法使いにとって良い時代。最後の灯火ってくらいの纏まった数がいた頃でね?」


「うちの母が言ってたわ。魔法使いが辺境でだけで消えてくのは生き残る為だって」


「生き残る為?」


「何か、昔はね? 滅茶苦茶乳児の死亡率が高かったらしいのよ」


「ほ、ほう?」


「で、スミちゃんのひいばあちゃんの時代から辺境の乳児死亡率が滅茶苦茶下がったの!!」


「おお?」


「当時は淫紋、は旧いか。クレスト・モジュールだっけ? モジュール・クレスト? どっちでもいいけど、母が子供の時に健康の為って親に入れて貰っててね。子供が無事に育つ以上に嬉しい事は無いって言われたらしいわ」


「なるほど」


「で、魔法使いの数がそこから一気に減ったのよ。新生児で生き残ってる子には魔法の素養が無いって事は分かってた。要は生きる為に魔力が無い代わりに強い体になったんじゃないか? あるいはそういうのが生き残り続けた結果として魔法使いは消え掛けてるんじゃないかって結論になったの」


「魔法使いは体が弱かった?」


「ええ、みんなそうなんだけれど、一度は子供の時に病気で死に掛けててね? 魔法使いは先天的に魔力みたいな力を生み出せるけど、辺境の環境には弱いって感じじゃないかって前に研究してたばあさまが言ってたわ」


「………」


「クレスト・モジュールのおかげで随分と病気で死ぬ連中が減ったから、みんな有難がったらしいわ。殆どお金も取らなかったって話!! だから、もう皆死んでるけど、言ってたのよ。あのおおばばは辺境の大賢者だって」


「それで何で今日は此処に?」


 本題を訪ねてみる。


「貴方!! ガラークちゃん。魔法使えるわよね?」


「え? ま、まぁ、かなり弱いが……」


「ほら、やっぱり!! 何かネズミ燃やしてたの見たのよ!!」


「えぇ!? ガラークさん。魔法使えるんですか!!?」


 思わずガタッとスミヤナが椅子を倒して立ち上がる。


「お、おぅ。そんな驚かれる事か? セントラルにはいるんだろ? 案外」


「ええ、いるらしいわ。ま、此処じゃ男の魔法使いは9年前に死んだじいさまが最後だったから、久しぶりに見たって感じかしら?」


「そうねぇ……」


「それが今回呼び出された理由なのか……何か問題でも?」


「あのねぇ。ガラークちゃん。よく分かってないみたいだけど、今貴方に辺境の魔法使いの……いえ、辺境全土の未来が掛かってるのよ?」


「へ?」


 思わず意味が分からないという顔になったのは間違いない。


「ほら、今話した通り。辺境の魔法使いは絶滅寸前なの!! でも、そうなったら、辺境はただじゃ済まないのよ」


「ど、どうして?」


「ガラークちゃん。ミスティークちゃんが最年少の魔法使いで他はもういないの。子供で魔法が使える子はね」


「つまり、ほぼ絶滅と」


「魔法使いの数が恐らく近辺の辺境で凡そ30人。それも高齢化しちゃって、毎年減ってるわ。自然減よ。で、その30人が何とか魔法の薬を作ってるわけ」


「あ……魔法関連の貴重な薬が無くなる?」


「そうよ!! セントラルみたいな技術が無い辺境は薬なんて殆どが魔法なのよ。薬学やるくらいに薬の材料も無いし、医学に必要な機材や資材も足りてない。殆ど身を護る為の武器製造と農具以外は工房も作らないでしょ? で、実質魔法使いが医者なの。居なくなったら医療終了のお知らせなわけよ」


 思っていた以上に大事だった。


「……オレも薬を作ればいいと?」


「違うわよ!! あのね!! 男の魔法使いと女の魔法使いが子供を造るとみんな子供は魔法使いなの。例外は無いわ。魔力が弱い強いみたいなのはあるけれど、例外無く血統は魔法使いになるの」


「ほ、ほう?」


「あらもう?! 鈍感ねぇ……ふふ、そこがいいのかしら? ミスティークちゃんも」


「ええと、つまり……」


「貴方、独身でしょ? 何も結婚しろとは言わないから、ミスティークちゃんとスミちゃんをドーンと孕ませて、しっかりお世継ぎ作りなさい!!」


「は?」


「あ、お見合いもいいわよ? でも、二人以外に若いのはいないから、おばさん達との火遊びになっちゃうけど……うふ♪」


 ゾワッとして、おばさん達の投げキッスを思わず回避する。


「そ、それは乱暴じゃない、かなぁ? あ、あはは……本気か?」


 思わず目が泳ぐ。


「本気よぉ!!」


 ズイッとおばさん達が身を乗り出して来た。


 よく見ると化粧がケバイ。


「だって、辺境が潰れるかどうかの瀬戸際よ?」


「魔法使いの男はそもそも貴重だったの!! 言ったでしょ!! 殆どいなかったって!! しかも、いても変なのばっか!! 子供作る甲斐性もないフニャチン野郎ばっかりだったわけ!!」


「それとも何? 今から、貴方がこの何もない辺境に医者と医療をばら蒔いてくれるわけ? 勿論、それならそれでいいけれども、此処にいる以上は貴方も辺境の住人よ……あの猫ちゃん達の事もあるし、魔法が消えたら困るのは貴方よねぇ?」


「う……御尤も……」


 おばちゃん達の圧が強く。


 ジリッとこちらににじり寄って来る。


 まるで獲物を前に下肉食獣である。


「勿論、ただでとは言わないわ♪」


「魔法使いとしては三流だけれど、あたし達こう見えて研究は得意なのよ? 勿論、ちゃんとした研究用の資材や場所があればだけど」


「研究が得意?」


「ええ、昔は私達もセントラルに留学したりしてね」


「魔法使いに留学とかあるのか……」


 思わず突っ込んでしまった。


「あるのよ!! 魔法使いだって人間関係はあるんだもの。人間が多いセントラルの魔法使いの集団とは交流も伝手もあるわ」


「それで若い頃は研究もしてたと」


「いや~~故郷に帰っても薬創る人生になるの目に見えてたからね」


「そうそう。でも、あっちじゃ人間の魔法使いが幅を利かせてるから。主に人間至上主義の七つの境界の丘だったかしら? 特定の国がちょっとアレなのよ」


「結局、居心地悪くて実家で家業継いでるわけ♪」


「人間コワイしね」


 おばちゃん魔法使い達がどうするの?どうするの?と滅茶苦茶愉しそうに追い詰めて来るのを見て、これは敵わんと引き攣った笑みが零れた。


「わ、分かった。まずは少し時間をくれれば」


「時間? あ、愛を深める? そうよね? まぁ、男と女なんて一夜を共にすれば、後はバンバン、ヤレバいいのよ。バンバン」


「いや、そうじゃなくて。医療関連の緊急事態は分かった。今すぐには無理だが、少し伝手がある。要は医学と医薬品のどちらもあればいいわけで、ソレがあれば、結婚はしなくてもいい。という事で?」


「勿論よ。でも、貴方。これは大変な事よ? 出来るの?」


「まぁ、色々と無茶をすれば」


「そう……じゃあ、ちょっと時間をあげましょ。本人もほら色々と覚悟したり、決意したりとか大変でしょうしね」


「そうねぇ。いきなり過ぎたわね。あ、研究はそれとは関係なくやってあげてもいいわよ。もし、この辺境に医療を取り戻せたら、その分の時間も猫の城の研究係として魔法の技術や知識を猫ちゃん達に色々教えたり、開発したげるわ」


「今回はご厄介になる前の挨拶みたいなもんよ。スミちゃんから魔法関連の研究が始まるかもしれないから後援して欲しいって言われてね?」


(そういう事か……)


「それなら一緒にやればいいって事になったの。頼むわよ? 辺境の大英雄さん♪」


 何故か、おばちゃん魔法使い3人が【猫の城】へ(勝手に)加わったのだった。


『けっこん、けっこん……ガラークさんとけっこん……ふぁぁぁ(ふしゅ~)』


 湯気を頭から吹いて目を回した少女を担ぐのはどう見ても自分の役目に違いなく。


 にんまりとした生暖かい目を向けられながら一室から去る事となったのである。

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