プロローグ「クズの未来とエロMOD」
「ミスティーク……」
「ああ、ガラーク!! ようやく貴方とゆっくり暮らせるのね!!」
「ああ、そうだよ。これからは二人で小さな農場でもやって、家畜でも育てて暮らそう」
「嬉しい!! こんなに嬉しい事ってある? 貴方があの戦いを生き延びて、一緒に私と―――」
一組の男女が今正に街の正門前で抱き合っていた。
片方は街娘風のパッチワークだらけのドレスを着込んだ10代程に見える金髪碧眼美少女エルフ。
片方は煤けながらも未だ銀の布地を長いアバランチ軍用トレンチコートを中肉中背の肉体に着込んだ何処か笑顔の優しいトゲトゲしい茶褐色の髪を乱雑にオールバックとした3枚目の男。
ようやく2人は結ばれ。
晴れやかな天の下。
大勢の街の人々が興味津々で見やる中。
口付けを交わし、エンディングが流れ始める。
「うぅぅぅ、このEDだけはいつ見ても理想……」
15年前に発売されたAC・OW・RPGロールプレイングゲーム。
【ヘヴィー・ドーン・レッド】
人類の終末。
ポスト・アポカリプス世界を舞台にして何を“やってもいい”というよくある広大なマップを用いるオープンワールド・ゲームだが、全世界2000万本を売り上げ、今もネット購入では全ての追加要素の入ったものが1000円税込みで買える此処20年で最高のゲームの一つ。
愛称はヘヴン。
つまりは天国。
多くのプレイヤーに愛され、次世代型生成AIシステムを構築した上でVRにも対応していた事から当時はゲーム機及びPCの熱暴走が心配されるような量の演算を行う爆熱(物理)ゲームとしても名を轟かせた。
ネットワークに繋がなくても対戦型ゲーム内要素がAI相手でほぼ問題無く使えた事から公式サーバーの閉鎖が告知されてからも人気は衰えなかった。
ワールド生成機能、ワールド保存機能、各種サーバー依存機能そのものは個人所有サーバーやゲーム機本体で代替可能なように軽量化された結果、多くの“自分だけの世界”をプレイヤー達は保存する事が出来たので今も愛好者が多い。
オールド・ゲームとしても未だにゲーマー達から初心者にお勧めされる傑作だ。
「ふぅ……お楽しみお楽しみ」
エンディングを迎えてもゲーム世界自体は終わらない類のゲームであり、大まかな公式が生み出した大小の1300近いシナリオはメインのものも含めて殆どが生成AIによる“続編”がプレイ可能であり、これ自体もPCを使ってプレイしているのならば、機能やシナリオを改変出来るプログラム【MOD】がある為、飽きる事は早々ない。
公式もまた当時より対人戦となる要素以外へのMOD導入は推奨しており、ネットコミュニティーのストレージには今も15万近い“僕の欲しい機能とシナリオ”がゴロゴロと転がっている。
「ミスティーきゅん!! うぅ、オレの唯一の青春!! オレの嫁!! いや、実家のおばあちゃん並みの安心感!! いや、もはやおばあちゃん? 君がいなかったら、オレはもうこの世にいなかっただろう!! 今日も愛し合おう!!」
VR技術の進展は基本的に多くの面で人類に不利益を齎した。
ゲームが情報兵器となって久しい昨今。
脳機能に直接的に介入する機械の多くが戦争のせいで制限を受けて、21世紀初頭程までも機能を強制退化させられて以降、視神経に過剰な負荷を与えないくらいのものだけが普及した。
視覚を直接網膜投影式にする以外は音声もHMDから流される音の音質が改善されたくらいに収まった機能は脳機能直結式の電子ドラッグがヤレるインプラントとは違って健全の部類だ。
『ガラーク。ふふ、今日はその……あ、赤ちゃんが欲しいな!? な、なんちゃって~~ッ、なんちゃって~~!?!』
「うぅう、頬を染めて恥じらう君に癒して貰ったのはこれで何度目だろう。本当に君は……妖艶な爆乳美女の時も可憐な美少女の時もくっころ女騎士の時も奴隷美少女の時も亡国の姫騎士の時も褐色部族民の時もケモ7ヒト3くらいの時も妖精の時も妹の時も姉の時も母の時もホンッッットうにカ゛ワ゛イイな゛ぁ(≧▽≦)」
世界はゲームにしなくたって破滅と絶望のしんふぉにーである。
環境汚染も酷けりゃ、地球温暖化と氷河期も酷い。
どちらも鬩ぎ合うせいで巨大災害が毎年の恒例行事だ。
宇宙に脱出する富裕層と地球に残る貧民がテロと法規制と独立と革命と諸々の事情でドローン越しに罵り合う世界である。
正しく、そのウチにポスト・アポカリプスがやってくるとニュースが伝えるくらいには崖っぷち。
現実を忘れたい世界に21世紀並みのHMDで夢を見たって誰にも文句は付けられないだろう。
「肉体労働者苦節14年目……中卒で童貞。ああ、もはや人類が滅びる瞬間でも君を手放したりはしないさ。ミスティーきゅん!!」
狂人と人々は今やHMDで現実を回避する人々を罵るが彼らの誰も弱者の救済なんてしないし、自分達が生き残るだけで精一杯。
合理性とやらで自己解決、自助努力が足りないと切り捨てられた側からすれば、人の趣味に文句を付ける前に核シェルターでも買う努力をしろというのが実際のところだろう。
砲弾の音が聞こえない夜も明日には死体になってそうな地域に暮らす朝も孤独を癒すのは常に優しい他人であって、倫理と道徳はあろうと他者を虐げ、追い落とし、自分の糧にしようとする隣人ではない。
例え、それが単なるAIの挙動に過ぎずとも、自分だけの世界は……癒しは……常に必要だし、何なら人間よりも彼らの方がまともな事を喋ると報道番組どころか政治番組で言われる始末の世界に人間関係で未練は1mmもありはしないだろう。
『ふふ……カワイイ人ね。もう、こんなにして……』
「ふぉおおおおおおおおおヽ(^o^)丿 エロMOD最強!! EROモッド最強!! 大勢の神(MOD職人)達よ!! 貴方達のおかげでオレはまだ生きています!! MOD界の住人に幸あれぇえええええ!!」
【うるせぇぞおおおお!! 何時だと思ってんだ!? ラジオが聞えねぇだろうが?!! このクソ底辺クズ野郎!! 真夜中に機械と盛ってんじゃねぇえええ!!! こっちは静かに世紀の大天体ショー中なんだよぉ!!?】
安普請のアパートの1階。
隣室のヒス持ち50代独身天体観測大好きババ様からのまったくその通りだろう叫びに肩を竦めつつ、ノイズキャンセラーを起動。
今、1人の漢はエロの海に沈んでいくのだった。
『ふふふ、ガラークはホント、カワイイわね♪』
ミスティーきゅんの笑顔が世界の光に沈んでいく。
例え、死んでも自分の天国だけは護り抜きたい狂人のサーバーは耐爆対弾耐熱耐放射線仕様と相場は決まっている。
例え、人類が滅んでも、軍用核電池内蔵の内部電源が落ちて尚、この枕とした正方形筐体の中の小さな世界は滅ばない。
ソレがプレイヤーとしての【我落博】の小さな天国へ賭ける情熱に違いなかった。




