未来予知ができる聖女でしたが追放されたので、売れっ子(インチキ)占星術師として復讐相手に不運な未来を予告します。
「アメリー・ド・リヴァロル! お前との婚約を破棄する!」
王城の広間の中で私はそう告げられる。
正面に立つのは私の婚約者、ブリス・テランス・リエラルム第二王子。
彼の側には愛らしい見目の女性、コロンブ・ド・バシュロ子爵令嬢。
周囲には今日の夜会の参加者である貴族達。
そんな断罪におあつらえ向きとも言わんばかりの会場で私は身に覚えのない罪を突き付けられていた。
私の罪はどうやらブリスを甚振った事らしい。
人を貶める私は王族の婚約者として相応しくないと言われた。
またブリスを良く思わなかった私は、彼女を殺そうとまでしていたとか。
勿論真っ赤な嘘である。
「おまけにお前はリヴァロル公爵家の血が流れていない、ただの平民だ! いくら公爵家に籍を置こうとも、王族の婚約者になど相応しい訳もあるまい! お前との婚姻が許されるというのであれば――俺が本当に愛する女性、コロンブとの婚姻こそ許されるべきである!」
彼との婚約は私の望むところでもない。
ただ、国王陛下と私を公爵家へと引き込んだ義父の望みだった。
だからこの婚約破棄も痛くも何ともない。
「よってお前のような悪女との婚約は即刻破棄、そしてお前を公爵家から廃籍、追放する!」
このような発言、国王陛下も義父も許しはしないだろう。
しかし現在二人は王城の裏で政務に関する相談をしており、夜会の場には出ていない。
よって彼の滅茶苦茶な発言を止める者も、これが不可能な事であると告げる者もいない。
私にとっては好都合だ。
しかし
「本当に、よろしいのですね」
「フンッ、何故躊躇う余地があると思うんだ! 既にお前に選択権はない! これは決定事項だ」
念の為……あとは言質の為に問えば想定通りの返答が返される。
これだけの大衆の前で言い切ったのだ。
もう撤回は出来ないだろう。
「畏まりました。では私はこの辺りで失礼――」
「は? 何を言っている。罪人を一人で退出させる訳がないだろう! おい、こいつを捕らえて連れて行け!」
ブリスの命により、私は騎士に捕らえられる。
そして引きずられるように私は夜会の会場の外へと連れ出された。
そのまま騎士達によって王城のロータリーまで連れて行かれそうになっていた時。
「待て」
騎士達を止める声がした。
私達の背後に立っていたのは金髪に赤い瞳を持つ、美しい顔立ちの青年だ。
アルベール・エミリアン・リエラルム第一王子殿下。
「彼女を解放してくれ」
「し、しかし」
「これについて言及される事があれば私の名前を出してくれて構わない。……彼女とは学園の友人でね。ここを去られる前に少し話がしたいんだ」
アルベール様はそう言って騎士達を説得させると、私を解放させ、その場から立ち去るよう促した。
騎士達はそれに従って離れていく。
二人きりになると、彼は私へ手を伸ばした。
「馬車まで連れて行こう」
「どうも、ありがとうございます」
私は彼にエスコートされながら歩き出した。
私とアルベール様、そして先程のブリス様とコロンブ様は皆、同じ王立学園に通う学生だ。
アルベール様は私を含めたほか三人の一つ上の学年。
本来であれば私とは接点の薄い男性だが……学園生活の中で気に入られた私は、何かとアルベール様からちょっかいを掛けられる日々を過ごしていた。
「悪かったな、愚弟が。それに、駆け付けるのが遅くなったのも」
「いいえ。寧ろ好都合でした」
「……君ならそう言うと思ったから困っているんだが」
「正直、彼が暴走するのは時間の問題でしたから。ブリス様の手綱を握れなかった側の方に明らかな非があります」
「それも、未来予知の結果か? ――『聖女』殿」
私は溜息を吐く。
「こんなもの、聖女の力を使わずともわかる事です。アルベール様も、こうなる事を悟っていながら……わざと、彼を野放しにしましたね?」
「何の事やら」
『聖女』。
それは世界に一人しか存在しない、神からの寵愛を受ける乙女の事。そして――私の事だ。
聖女は人の怪我や病を治す癒しの力と、未来を視る力を持っている。
その力はあまりに強力で、聖女という存在の影響力は一国に留まらない程に大きい。
幼い頃、私は『聖女』である事が国王陛下にバレ、保護とご機嫌取りの為に公爵家の養子へと招かれた。
しかし私の正体が明らかとなれば、この力を利用しようとする存在は数多現れる事だろう。
そこでせめて王族と婚姻するまでの間は正体を隠して自由気ままな生活をさせて欲しいと交渉した。
故に私の正体を知っているのは国王陛下と義父であるリヴァロル公爵、そしてほんの一握りの関係者の方々しかいない。
因みにアルベール様に正体がバレたのも事故みたいなものというか……そもそもお忍びで下町を出歩いていた彼が私の『聖女』の力を見てしまったがばっかりに私は『聖女』として国の重要人物達に目を付けられる事になったのだ。
「この後はどうするんだ」
「そうですね。家に帰り、国王陛下や義父が慌てて動き始める前に家を出ようかと。義家族は皆悪い方々ではなく好意は抱いているのですが……如何せん、上位貴族という立場は私には合わなさ過ぎました」
「木に登って果実を貪るような女だからな」
くつくつと、アルベール様が学園での記憶を引っ張り出して思い出し笑いをする。
「いやしかし、リヴァロル公の胃は心配だ」
「申し訳ないとは思いますが、そもそも私が公爵家に籍を入れたのは王太子となる予定だったブリス様と繋がりを持たせ、未来の王太子妃として囲いたかったから。しかしそれも、大衆の前でブリス様が暴走したお陰で難しくなりました」
「あれだけ大っぴらに発言したのだ。あとから撤回しようにも批判や疑念は買うだろう。それに――『聖女』に殺人未遂の疑いを掛けた王族など、王族としても恥さらしだ」
「ええ、ですから陛下はブリス様を王太子の候補から外すか、私を王太子妃にする事を諦めるしかありません」
第一王子、アルベール様は妾の子だ。
それに加え、自ら王位に就く意思はないと公言している為、現在の王位継承権はブリス様よりも後ろに当たる。
「王位継承を考えていないような変わり者の王族でもいれば、また話が変わってくるかもしれませんが」
「そんな奴がいるのか。とんだ面倒臭がりできっとだらしがない奴に違いない。国を治めるには不向きだろうな」
アルベール様の返答に私は苦笑し、肩を竦める。
「まあ、そんな奴の気が変わるとすれば……国で一番の女性という称号を与えたい者――ともに添い遂げたいと思うようなものに出会えた時くらいだろう」
公爵家の馬車に着く。
赤い瞳が物言いたげに私を映していた。
私は涼しい顔を取り繕う。
「ではアルベール様、ご機嫌よう」
「ああ」
「一つ、『聖女』としての読みをお伝えするならば」
馬車の中に乗り込みながら私は彼へ笑いかける。
「平民は遠回しな言葉は好みません」
私の言葉の真意を悟ってか、彼は目を丸くした後、困ったように眉を下げた。
その頃には既に馬車は閉められ、アルベール様の発言する機会は失われる。
彼は苦く笑いながら、遠ざかる馬車を見送るのだった。
***
それから半年が経った頃。
私は王都から離れた街で、平民として暮らしていた。
公爵令嬢時代にお小遣いはたっぷり貰っていたから路頭に迷う事はなかったし、新たに始めた商売で収入も安定し始めていた。
路地に小さな屋台を出し、意味深長なヴェールを被って顔を隠し、大きな水晶玉を持つ私。
『いかにも』な雰囲気を醸し出す私の屋台の近くでこんな声が聞こえて来た。
「ねぇ、ここ?」
「そうそう。本当によく当たるって話で有名らしいよ。ここの占星術師」
そう言いながら屋台へ顔を出した二人の女性。
身なりからして、富裕層の平民だろう。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは。あの、恋人との関係について占って欲しいんですけど」
「わ、私は、仕事運について……っ!」
「畏まりました」
そう。
私は占星術師として仕事を始め――そこそこ名を広めつつあった。
まずは二人の相談内容と生まれに関する個人の情報などを聞いていく。
それからホロスコープと呼ばれる、相談者の情報を基に作成する星の配置の図などがあるのだが……これは適当である。
そもそも占星術についても、ましてや天文についても私は詳しくない。
しかしそれでいいのだ。
問題なのは――当たるかどうか。
そして私の『占い』は必ず当たる。
何故なら神から与えられたという未来予知の力は絶対だから。
神様もまさか尊き力と呼ばれるこの力がこんな雑な扱いを受けるとは思ってもみなかっただろうが、それを嘆くのならば精々私を『聖女』に選んだことを悔やんでいただこう。
私は裏で未来予知の力を使い、星の並び(私が適当に書いた点や線)を基に、未来を告げる。
明言はしない。ぼやかす程度だ。
的確に、詳細に未来を言い当てる事も勿論できるが、占いとは本来そういうものではない。
占い師の解釈によって考えられる未来の可能性を大まかに告げ、助言をする。それが占いの常識である。
一方で、何でも未来を断言できる人間というのは占いの範疇を超えるし、何より気味悪がられるものだ。
それではいけない。
私が『聖女』という事は隠す必要があったし、何より、未来が全てわかっている人生というのは面白くないものだ。
だから私も、普通の占い師と同じ程度の情報しか出さない。
ただそれが、全て的を得ているというだけの話だ。
こうして一連の占星術の工程を終える。
すると私の占いを聞いた二人の客は、満足した様子で帰って行った。
この一週間後には、彼女達の口コミが巡り廻って私の耳にまで届くようになっていた。
さて。
私の占いの腕はついに貴族の耳にまで届くようになっていた。
商売は大繁盛。大変喜ばしい事だ。
そんなある日。
「おい。お前が最近噂の占星術師か」
「えぇ~。何だかぼろ臭いし、嘘くさぁい」
見覚えのある顔が二つ。
私の屋台へ訪れる。
ブリス様とコロンブ様だ。
お忍びという体で来たのだろう。
だが庶民の服を着ているとはいえ、お忍びというには振る舞いが拙すぎる上、二人は本名で呼び合っていた。
尚、二人の訪問自体は別に驚く事はない。
コロンブ様が占いに傾倒している事は知っていたし、私はこの未来をあらかじめ『視ていた』。
二人は横柄な態度をとるが、お金を置いて行ってくれるならば気にする事ではない。
私は二人の要望を聞いて、個人の情報を聞き、占うふりをした。
それから……わざとらしく息を吐く。
「これは……よろしくありませんね」
「な、何……!」
「近い未来、貴方方お二人には破滅が訪れるでしょう」
普段ならば使わないような脅しめいた言葉を用いる。
「そんな……!」
「この未来を避けるには、今一度自身の行いを振り返り……もし、何か過ちを犯した自覚があるのならば、誠実に立ち回るべき、と星は告げています」
尚、『星が告げている』は嘘である。
「な……っ、お、俺達がなにか悪事を働いているとでも!?」
「いいえ。そこまでは……」
「酷いわ! こんな言い草、あんまりよ!」
「不敬だぞお前! くそ、こんな場所にまで姿を偽ってきたというのに……っ、この苦労の結果がこんなクソみたいな思いをさせられる事だったなんて!」
「もういいわ! 行きましょう、ブリス様! こんなインチキなお店、悪評で潰してしまえばいいんだわ!」
二人は散々暴言を吐いてその場を去って行った。
しかしお金は事前に頂いていたので私としてはどうって事もない。
私が気にしているのは、あの愚かな二人ではなく、別の事だった。
それから数日後。
またある客人が訪れた。
「一つ占ってくれないか」
茶髪に黄緑の瞳をした、ボロボロの服の男性。
しかし薄汚れた格好をしていてもその美しい顔立ちだけは誤魔化せない。
私は笑ってしまいそうになるのを堪えながら承諾した。
「畏まりました。何を占いましょうか」
「俺の恋の行方について」
「畏まりました。では、お答えしましょう」
「……まだ何も問われていないが? おまけに君はホロスコープすら作っていない」
「必要ありませんから」
私が占星術に必要な工程を全て飛ばした事。
それを指摘する彼はしかし、私の行動の意図に気付いているかのように微笑を浮かべている。
「貴方の恋はきっと成就する事でしょう。ただし、お気を付けくださいませ。何せお相手は……自ら愛を告げる事をしない恥ずかしがり屋の捻くれ者ですから。貴方から折れなければきっと結果は現れない事でしょう」
男がプッと吹き出す。
それから肩を震わせて上品に笑い――
「ああ、よくわかっているさ。アメリー」
私へ手を差し出す。
「きちんと想いを告げない俺が悪かった。だから、戻ってきてくれないか」
私はその手を数秒見つめてから言う。
「……足りないですね」
「はいはい、わかったわかった」
男――アルベール様は肩を竦める。
お忍びの為、魔法で変えていた髪や瞳が効果時間を超えた事で元の色合いに戻っていく。
「愛しているよ、アメリー」
学園で見る彼は飄々としていてつかみどころのない人物だと思っていた。
けれど、そう口にする彼の頬は僅かに赤くて、緊張揶揄羞恥からか笑みも僅かに引き攣っていた。
……私達は、どちらも皮肉屋で捻くれていた。
だから互いに好意を抱いている事を仄めかしておきながら相手の言葉の意図に気付かないふりをして来た。
そういう軽口の応酬も楽しくはあったけれど、本当はもっと心を通わせたいと私は思っていた。
ただ、それを簡単に成し得られる程私達は強くはなく、拒絶される事を恐れる臆病者だったからこそ現状維持を選んできたのだ。
それと……傍に居るなら、やっぱりきちんと気持ちを言葉にしてくれる人がいい。
どんなロマンス小説だって、王子様から愛を伝えるものだ。
だから私は意固地になって彼からの言葉を待ち続けていた。
「傍に居てくれ」
「……仕方がないですね」
可愛げのない返事をすれば、アルベール様がまた笑う。
それから彼は私のヴェールを持ち上げ、真っ赤になっているであろう私の頬に触れた。
「君って奴は、本当に素直じゃない」
目を逸らしていれば、彼が言う。
「俺はきちんと伝えたが? 君はどうなんだ」
私は口籠る。
彼は私の我儘に応えてくれた。
ならば、私は拒否する道理なはなかった。
私は羞恥に耐えながら何とか声を絞り出す。
「あ……あいして、ます」
それから私は、アルベール様の馬車に乗って王都へと向かう。
「俺が来る事はわかっていたのか?」
「いいえ。来るだろうとは踏んでいましたけど、未来を視る事はしませんでした。……というか」
私は馬車の窓へ視線を逸らしながら続ける。
「貴方の未来を視るなんてこと、したことありません」
「何故?」
アルベール様が目を瞬かせる。
純粋な疑問のようだ。
「だって……面白くないでしょう」
ああ、また顔が熱い。
早く収まって欲しいと思いながら私は答えた。
「恋って、わからない方がずっと楽しいもの」
アルベール様は驚いた表情をしてからじわじわと笑みを深めていく。
そして対面の席から立つと、私の隣に腰を下ろす。
「アメリー」
「狭いです」
「なぁ、こっちを見てくれ。キスがしたい」
「キ……ッ!?」
思わずアルベール様を見れば、彼はあざとい顔で私に強請っていた。
彼の様な美形にその顔は、非常にまずい。
私は目が回りそうになるのを感じながら、小さく頷いた。
「し、仕方がないですね……」
太陽のように眩い笑顔を湛えるアルベール様。
彼はこんなにわかりやすい方だったっけ、と私は思う。
そして……私達は互いの唇を重ね合わせた。
***
それから数日後の王城。
私が断罪された日のように、そこでは夜会が開かれていた。
壮大な音楽と談笑する無数の声に包まれた会場。
その扉の前に、アルベール様と私は立っていた。
「さて、行こうか」
「はい」
アルベール様にエスコートをされながら、私は大広間へ踏み入れる。
周囲の視線が一斉に集まった。
コツコツと踵を鳴らし、広間の中央へ。
そして――ブリス様とコロンブ様の前に立った。
「な……っ、あ、アメリー……!」
二人の顔が強張る。
「あ、兄上! 何故こいつを……っ、こいつは失踪したと……っ、というかそもそも、こいつは罪人で――」
「ブリス」
低く渋い声が響き渡る。
広間の最奥――椅子に深く腰を掛けた初老の男性がいる。
彼こそが国王陛下。前回の夜会では姿がなかった方だ。
事前にアルベール様が話を通してくれていたのだろう。
陛下は驚く事もせず、ただ静かに私達を見据えている。
「アルベール、続けろ」
「な、父上……っ!」
「はい」
アルベール様はそう言うと控えていた騎士を呼び出し、紙束を受け取る。
「こちらは、王城の調査員をお借りして調べた、アメリー嬢への冤罪に関する報告書です」
「んなぁ……っ!?」
「ブリスやコロンブ嬢の肩を持っていた者達が主張や証言を変えました。二人に依頼されて言ったのだと」
「う、嘘よ!」
「それと、二人が上げたアメリー嬢の犯行の日時全てにアメリー嬢はアリバイがある。また同時に、二人が何の害を受ける事もなく生活している姿への目撃情報も」
「で、出鱈目だ! だって、コロンブは確かに――」
「それから、彼女が陰湿ないじめ、ましてや人殺しなど考える人間ではないという確固たる証拠がある!」
アルベール様はそう言うと私を見た。
ここまでも、この先の展開も、全て二人で打ち合わせした結果だ。
私は一歩前へ出ると、私達の様子を窺っていた人々の中から一人の男性を手で示す。
「今身じろぎをすると後ろの女性とぶつかりますよ」
酔っていたのか、一歩後ろへ下がる瞬間だった男性。
彼はそのまま女性にぶつかった。
「それから指揮棒を落とさないようお気を付けください」
次に目を付けたのは、演奏を止めていたオーケストラの指揮者。
彼はうっかり指揮棒を落とすところだったが、私の指摘を受け、慌てて落としそうになっていた指揮棒を握り直した。
こうして私は次々と『少し先の未来』を言い当てる。
そうして誰もが私の未来予知を疑わず、唖然とした頃合いを窺い――公爵家で学んだカーテシーを披露した。
「皆様、ご機嫌よう。私はアメリー・ド・リヴァロル。家出していたリヴァロル公爵家の娘であり――今代の聖女です」
一斉に周囲がざわめき立つ。
その中で
「う、う、嘘だ!」
ブリス様が金切り声にも似た悲鳴を上げた。
「お、お前のような奴が聖女? そ、そんな馬鹿な事――」
「聖女は神がお選びになった尊き存在。神とは人である王族よりなどとは比べ物にならない存在――そのお方のお考えを疑う事そのものが大罪! ましてや、神に寵愛されし聖女にあらぬ疑いをかけ冷遇する事など!」
ブリス様とコロンブ様へ向けられる視線が一斉に冷たく鋭いものとなる。
この場に二人を味方する者など、もういなかった。
「あ、あぁ……っ」
コロンブ様がガタガタと震えながら崩れ落ちた。
「ち、父上、違うんです! これは――」
ブリス様が弁明をしようとする。
しかしその声は無情にも遮られた。
「この者達を捕えよ」
「な……っ!」
「……神の怒りを買う事はこの国の終わりを意味する。その危険をまさか、王族が為すとは。神への贖罪の為にも、我が国の未来の為にも、お前のようなものを王族として扱う事はできまい」
騎士達がブリス様とコロンブ様を捕らえる。
その場に膝を尽かされた二人を国王陛下が静かに睨んでいた。
「ブリス、お前は廃籍の後、国外へ追放する。またバシュロ子爵家の爵位を剥奪。コロンブ・ド・バシュロは地下牢へ幽閉した後、極刑に処す」
「そ、そんな! 父上、お願いします、それだけは……っ! 父上ぇぇぇええっ!!」
「い、いや、いやです! お願いします、私が悪かったです、ですからどうか、ご慈悲を……待って待って、連れて行かないで…………ッ、イヤァァアアッ」
騎士達に引きずられながら広間を出ていく二人の絶叫が響き渡るのだった。
(だから言ったのに)
僅かに憐れむ気持ちはあれど、元はと言えば彼らの悪事が原因だ。
二人が消えた方角を一瞥した後、私は小さく息を吐くのだった。
***
その後。
国王陛下の言った通り、二人には罰が下された。
それからアルベール様は王太子に任命され、彼自身もそれを受け入れた。
義父からは守ってやれなくてすまなかったと謝られ、また再会を喜んでくれた。私も勝手に出て行ったことを謝罪した。
それとアルベール様と国王陛下の希望から、私は晴れて未来の王太子妃となった。
王太子妃教育の為、あとは再び失踪されては困るという国王陛下の懸念もあってか、私は王城に住まう事となった。
王太子妃教育自体は大変だけれど、正直王城での生活は悪くない。
衣食住全てが最上級のものばかりだし、足りないものや望むものがあればすぐに揃えてくれる待遇の良さがありがたかった。
それに……
「どうぞ」
部屋の扉がノックされ、私は返事をする。
扉から姿を見せたのはアルベール様だ。
「アメリー」
アルベール様は私へ近づくと自身の腕の中に私を閉じ込めた。
一度素直に心を打ち明け、拒絶されるかもしれないという恐れを払拭したからだろう。
今や彼はあまりにも素直にスキンシップを求めてくるようになっていた。
そして私は……残念ながら、それを嬉しいと思ってしまう。
これまでは学園で時々顔を合わせる程度にしか会うことが出来なかったアルベール様だが、王城に住んでからは毎日のように会えている。
それに、こうして互いの愛を確かめる事までできている。
なんて幸せなのだろう、と思った。
(もう、未来予知を使う事はないでしょうね。だって……)
顔を上げ、アルベール様と見つめ合う。
それから私は背伸びをし、目を伏せた。
私の意図に気付いたアルベール様の笑う気配を感じる。
それから彼はそっと私の唇を奪い――私達は深い口づけに溺れたのだった。
私はこれからの一生を彼と添い遂げていく。
そんな私が自身の未来を覗けば、必然的に彼との未来も見えてしまう事だろう。
だから、インチキ占いとも未来予知とも、おさらばだ。
(――こんなドキドキが無くなるのなんて、勿体ないもの)
重なった唇の下で、私はくすりと笑みを零すのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました!
もし楽しんでいただけた場合には是非とも
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それでは、またご縁がありましたらどこかで!




