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3花


ゼオン王国は今、かつてないほどの繁栄を見せている。

その理由は、1年ほど前、国内で魔石が発掘されたのだ。


今まで魔石は、輸入に頼っていた。

簡単に手を出せないものだったが、今は違う。

国内で見つかった魔石鉱山は、見たことのないほど大規模なものだった。


魔石が出回るようになると、魔石を加工するものが出てくる。

そうして経済が回り、魔石産業は瞬く間に成長しているのである。


その裏に、ヘラード王国の元姫が関係していることを知っているのは、ゼオン王国上層部の中でも、一握りの存在だけだ。


そんな元姫は、と言うと…


風通しの良くなった後宮で、今日ものんびり過ごしていた。



ーーーーー


最近、高官によく相談を持ちかけられる気がする。

以前と比べて、私に向ける視線も、柔らかくなっている気がするけど、どうしてだろう?


まあ、特に実害はないので、放っておいている。


この後宮に来てから、1年と数ヶ月。

私は1つ歳をとり、13歳になった。


ゼオン王国で魔石が取れるようになったのはいいが、すぐに魔道具が作れるわけではない。


ルシアンから相談を受けて、私の配下の中でも魔道具関係が得意な子を数名貸し出した。


その子たちと定期連絡をとっていたが、ルシアンから何もなかったので、あまり気にしてなかった。


なのに気がついたら、魔道具が日常に紛れ込んでいた。


ルシアンに聞いたら、あの子たちのおかげで、早くも魔道具産業が、軌道に乗り始めたとか。


いつの間に、と驚いた記憶がある。


後宮は外と遮断されているため、外の情報は、故意に入手しないと、入ってこないのだ。


なので、後から知らされて、驚くことが増えた。

そして、何故か、私が驚くと、ルシアンが喜ぶのである。


本当に、謎だ。



最近私は、温室で植物を育てている。

手をかけるだけ、応えてくれるので、とても楽しい。


ルシアンに植物を育てたいと言ったら、温室をプレゼントされた。

初めは、大袈裟だと思ったけど、今はとても感謝している。


今の暇つぶしは、専ら、植物を育てるか、植物を研究するかだ。


後、時々相談にも乗ったりする。


今の悩みは、ルシアンからの大量のプレゼントだ。

誕生日でも、お祝いでもないのに、いつも大量のプレゼントをくれる。

断ったら、仔犬のような、哀しそうな目で訴えてくるので、非常に心に刺さる。

だから断りきれず、毎回貰ってしまう。


まあ結構、私好みなので、実は嬉しかったりもする。

複雑な心境である。



ある日のこと。

侍女から、気になる話を聞いた。


「…疫病?」


「はい。怖いですよね。」


疫病か。

一言で疫病と言っても、原因は様々。

治療するには、適切な薬と、適切な対応が必要だ。

でも、原因を探るのは容易じゃない。

小さな虫から大きな動物、渡り鳥まで千差万別。

運良く原因を見つけても、薬が作れないなんてことはザラにある。

一度流行れば、村がいくつか滅ばないと治らないことだって、歴史には存在しているのだ。


疫病が流行り出したら、国も忙しくなるだろうなぁ。


その時の私は、他人事のように、のんびりと考えていたのである。


ーーーーー


「え?ルシアンが、倒れた?どうしてまた?」


ルシアンからの、可及の知らせを持って来た侍従は、信じられないことを言い出した。


「はっ!大臣の1人が疫病に罹りまして。その大臣と接触した、陛下を含めた数名が、疫病に倒れられました。」


「…そう。」


「側妃様におかれましては…」


「ルシアンに、会いに行くわ。」


「え??」


「さ、案内してちょうだい。あ、あなたたちは念のため、来ないようにね!」


「お待ちください!危険です!」


「危険なのは、ルシアンでしょうに。それに、私は魔力が強いから、病に罹らないのよ。ほらっ早く、早く!」


「そ、側妃様〜!」


だって、万が一、億が一、ルシアンに何かあったら、せっかくののんびりダラダラが出来なくなるじゃない!

そんなのは、絶対ダメ!


私の今後のためにも、元気でいてもらわなくちゃ!


侍従を急かし、ルシアンの寝室までやって来た。


「ルシアン、入るわよー。」


「そ、そ、側妃様!?」


「ルシアンの状態は?」


「え?あ、はいっ。指先から徐々に黒いあざが広がっています。熱も常時、高いようでして。なのに、手足は氷のように冷たいのです。」


「そう。ちょっと失礼します。」


医師の説明を聞きながら、自分の知っている病と照らし合わせていく。

ルシアンの手に触れると、医師の言うとおり、とても冷たい。


これは、魔力枯渇の症状と…


私の手からルシアンの手へ、魔力を流して、身体の状態を確認する。


魔力が、所々で固まって、全身に流れなくなっている。


ゼオン王国の人間は、もともと魔力が少ない。

魔力を使う機会がなかったから、この国で、疫病として流行るのはおかしい。


何か裏がありそう。


でも、その前に、治療するのが先ね。


ルシアンに今度は、強めに魔力を流す。


「うっ…」


体内にある魔力塊を、丁寧に解きほぐす。


1つ、2つ、3つ…よし。


最後に、全身に魔力を行き渡るのを確認して、手を離す。


「こ、これは…」


手の変色が、元に戻っていく。

ルシアンの呼吸もさっきより、穏やかだ。


「これで、ルシアンは大丈夫よ。」


「疫病を…治されたのですか!?」


「ええ。もう少しで、意識も取り戻すはず。後は任せたわ。」


「はっ!!」


ルシアンの状態と、私の知る方法で治療できた。

と、言うことは、あれは疫病ではなくて…


考えるのは後にしよう。


他にも罹った人がいるようだから、急いで薬を作らないと。


私は、来た時同様、早足で後宮に戻った。



ーーーーー


ルシアンを治療してから、2日。

侍女から、ルシアンが無事に目を覚ましたことを教えてもらった。


さらに、その3日後。

ルシアンが後宮を訪ねて来た。


「お前が助けてくれたと聞いた。礼を言う、助かった。今回は、死ぬかと思った。それでなんだが…」


「ルシアン、その事で話があります。」


ルシアンの言葉を途中で遮り、今回の疫病について話をする。


ゼオン王国の人間は、殆どの人が、魔力が少ないため、魔法を使うことができない。

それが、大前提。


今回の疫病の正体、それは『魔力凝固症』。

魔力が多い人は、定期的に魔力を放出しないと、古い魔力が固まり、魔力が詰まってしまう。

魔力が詰まると、手足などの末端に、魔力が流れず、枯渇状態になる。

手が徐々に黒くなったのは、そのせい。


「要するに、『魔力凝固症』は、魔力が高い人がなる病気。魔力の低い、ゼオン王国の人間が、自然に罹ることはまずないのです。そして、その病気を故意に引き起こせる方法があります。それは、デモニシアを摂取すること。そして、デモニシアは、暑い地域でしか栽培できない。南から茶葉か果物を輸入しませんでした?」


「…最近、南のラ・ワン国と貿易をし始めた。その中に紛れていた、と言うことか?」


「おそらく。故意か偶然かわかりませんが。」


「輸入品を調べ直させよう。」


「その方がよろしいかと。それから、こちらが『魔力凝固症』の特効薬です。足りなかったら追加で作るので、おっしゃってください。」


「本当に、助かる。お前がいてくれて良かった。急ぎで、手配する。ではな、行ってくる」


「うえっ!」


部屋の入り口まで見送ると、挨拶と共に、頬に口づけが落ちて来た。


思わず、変な声を上げて、飛び上がってしまった。


あはははーー


閉まった扉の向こうから、いつものように、楽しげな声が響いていた。





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