2花
ゼオン王国。
大陸の北に位置する国で、険しい山々が連なる。
その山々には、魔獣が多く棲息している。
また、1年の半分近く雪が降る、寒さが厳しい場所でもある。
国の特徴としては、鉱山が多いことと軍事力が高いこと。
一方で、魔法関係のことには、他国に遅れをとる。
ゼオン王国では、魔石がほとんど取れないので、輸入に頼っているからだ。
かと言って、魔石を大量に輸出できる国は、まずない。
自国で消費するからだ。
輸入で入ってくる分も少ないため、結果、魔法関係が遅れることになった。
南をヘラード王国と接していたが、2年ほど前から勃発した戦争で勝利し、属国化したのがつい数ヶ月前の話。
統合ではなく、属国化したのは、単に国が大きくて管理できないためである。
主犯格や直系王族を処刑し、傍系から幼い王を選び、ゼオン王国から監視者を送った。
属国になったヘラード王国の、直系王族の唯一の生き残りが、現在12歳の私である。
そして、いつの間にか気がついたら、周囲の反対を押し切ってゼオン王国国王ルシアンの側室になっていた。
いや、何で?
了承した覚えがないのに、先日、決定事項として告げられた。
今は、ルシアンの後宮に居を構えている。
ほぼほぼ、ルシアンの独断で決められたのに、他の女性から刺されそうな目で見られている。
見られるだけではない。
すれ違うものなら、罵詈雑言が飛んでくる。
お上品な仮面が剥がれているぞ、と言ってやりたい。
私には、後ろ盾がないから、やりたい放題なのだろう。
敢えて言うなら、ルシアンが後ろ盾だが、基本的に傍観を気取っている。
実害も色々あった。
生き物の死骸に、針、毒、食事が残飯だったり。
過激な虐めのオンパレードだった。
お嬢様がよくここまで思いついたな、と感心した。
実行した侍女も、大変だったろうに。
同情はしないが。
まあ、私もお礼に、色々やり返して差し上げた。
私は、お礼も遊びも全力でするタイプだから。
人形や配下を使って、それはもう遊び倒した。
今はもう、随分と静かになった。
少しつまらない。
ルシアンからは、これ以上、貴族を減らしてくれるなと言われた。
理不尽な。
でも、私は知っている。
ルシアンが、仕事が捗ると言っていたことを。
静かになった日常を、送っていたある日のこと。
ルシアンから、とある相談を持ちかけられた。
その内容とは、このまま、魔法関係が弱いままだと問題ある、だから何とかしろ、と言うもの。
言うだけなら、簡単である。
まあ、暇なので、協力しようと思う。
手始めに、何故この国は魔石がほとんど取れないのか、を調べることにした。
「で、何かわかったのか?」
「はい。一言で言えば、竜脈の乱れが原因です。」
そう、竜脈。
竜脈とは、簡単に言うと、大地に流れる魔力の道のこと。
その竜脈が乱れている、と言うより、堰き止められている。
ゼオン王国とヘラード王国の国境で、不自然に竜脈が途切れているのを見つけた。
おそらく、それが原因だろう。
それさえ何とかすれば、十数年後くらいには、魔石が取れるようになるはず。
「十数年後、か。」
「まあ、すぐに取れる裏技が、ないわけではありません。お勧めはしません。」
「その方法とは?」
「竜を連れてきて…」
「却下。他には?」
「私が魔力を放出すれば、たぶんいけます。」
「採用!」
「疲れるから、嫌なんですが…仕方ないですね。取り尽くした元鉱山はありますか?」
「ああ。案内しよう。」
「…ルシアンも行くんですか?」
「当然。」
こうして、ルシアンとの旅行が、決まったのだった。
ーーーーー
国王と側妃が公に訪問するとなると、多くのお供と、時間がかかる。
なので今回は、お忍びで行くことになった。
メンバーは、ルシアン、私、護衛10名+2である。
+2は、ディオとココナだ。
馬で移動することになったのだが、私は乗ったことがない。
なのでディオに乗せてもらおうとしたら、ルシアンに抱き上げられ、前に乗せられた。
護衛から、生暖かい視線を感じる。
なぜ?
今回は、野営込みの移動らしい。
その方が早いそうだ。
私は構わないが、他の女性なら絶対嫌がるよな、と思った。
野営の時は、私が大活躍だった。
魔法がつかえるからね!
これで、後宮を追い出されても、生きていける。
何でも魔法で済ませる私を見て、ルシアンは微妙な表情を浮かべていた。
てっきり元鉱山に行くのかと思ったら、先に竜脈をなんとかしてほしいらしい。
竜脈への道を聞かれたので、案内した。
道標のない道を、竜脈の痕跡を辿って案内する。
しばらくして、不自然に魔力が途切れている場所についた。
かつては、大きな木があったであろうその場所は、その名残の切り株だけがあった。
その切り株に、1本の棒が突き刺さっている。
「あれが、竜脈を堰き止めた原因ですね。」
その棒は、100年以上昔の魔法が使われている。
昔の魔法に興味があったが、特に真新しい発見はなかったので、さっさと壊す。
その瞬間、魔力の風が吹き抜け、髪を大きく揺らした。
「これで終わりです。」
「もう?」
「大して複雑なものでもないので。」
「そうか、では改めて鉱山跡に行くか。」
「ここから近いんですか?」
「馬で数時間、と言ったところだな。」
ルシアンに馬に乗せてもらい、鉱山跡に向かった。
ーーーーー
鉱山に着いて、馬を降りた。
護衛の半分は、ここで馬と居残りだ。
ディオをここに残し、ココナを連れて、ルシアンの後を追った。
「結構深いんですね。」
もう、歩いて随分と時間が経つ。
「昔は、国で1番大きな鉱山だったらしい。」
「それは、すごい。」
途中、休憩を挟みながら、やっとも思いで、中心部に辿り着いた。
竜が1頭入りそうなほど、大きな空間だ。
「それでは、皆さんは壁側によってくださいね。」
私は中心に立ち、目を閉じた。
普段は奥底に仕舞い込んでいる魔力を、見えない手で、ゆっくり引き上げる。
魔力の風が、髪とローブをゆったりと揺らす。
私の足元から、地面を伝って壁へ。
そして鉱山全体へ。
光の奔流が、私を、この空間を支配する。
時間にしてほんの十数秒。
魔力が行き渡った。
そして、再び、自分の魔力を奥底へ押し込んだ。
光の奔流が収まってもなお、自身の発する魔力で輝いている。
しばしの間、誰もがその光景に魅了され、言葉が出なかった。
「ははっ。これはすごい。」
「ふふふー。すごいでしょう?これ、ぜーんぶ最高級の魔石ですよ!」
先程の神秘的な光景と、今の無邪気な笑顔。
その差に、ルシアンは笑いを堪えられなかった。
「ははは!本当にすごいな!益々、手放せなくなる!」
「…ん?」
ルシアンの不穏な発言に、思わず固まってしまう。
そして私は、全力で聞かなかったふりをするのだった。