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1花


始まりの記憶は、冷たい目で私を見る父の姿。

母も産婆も悲鳴をあげて、穢らわしい物を見るような目を向けてくる。


そんな状況で、殺されなかったのは奇跡だろう。

後から知ったことだが、赤子や子どもを殺すことは、教義に反するという理由だった。

良心ではないあたり、私の扱いがわかるだろう。


生まれたばかりの私は、石造りの塔の、1番上に幽閉された。

当時は乳母がいたが、3歳になる頃からいなくなった。


一応、死なないように、人はつけられている。

監視とも言うけど。

でも、皆、人の子。

可哀想な子どもを演じれば、同情して手心を加えてくれる。


けれどそれも、父であるこの国の王にバレてしまった。

人の心を誘惑し、操る魔女として、両手足は鎖で繋がれ、目は封印の魔法が施された布で覆われた。

また、声を出せないように、喉にも目と同様の布で覆われている。

これが、6歳の時の私。

まだ小さかったから、加減がわからなかった。

きっと、今ならもっと上手くやれただろうに。

残念だ。


それからは、監視の人さえこなくなった。

完全に放置だ。


もっと言うなら、利用されるだけされている。


この部屋は魔法陣が施され、部屋にいる者から魔力を吸い取るようになっている。

常に魔力を限界まで絞られているから、いつも体が重い。


けれど、父から見て、1つの誤算があった。

魔力を限界まで絞られることによって、魔力の総量が桁外れに跳ね上がっているのである。

まあ、父は知らないだろうけど。


総量が多くなったことで、ここ5年ほどは、限界まで絞られることがなくなった。

残った魔力で、色々と快適に過ごさせてもらっている。


ちなみに、私から取った魔力は、王宮や国の結界、魔道具などに用いられている。


何故こんなに詳しいかって?


それはもちろん、魔法があるからだ。

魔法は、思い描いたものを具現化できる。

つまり、想像力さえあれば、やりたい放題なのだ。


え?表現がおかしいって?


いいんだよ、これで。


魔法があれば、本体をここに置いたまま、人形に魂の一部を移し、外を自由にで歩ける。

だから、不便はない。

むしろ、色んな人形を作って楽しんでいる。

人はもちろん、動物や植物でも簡単にできる。



現在、私は12歳。

5年ほど前から、人形を使って世界中を旅している。

普通の王女として生まれたら、きっとできなかったことだろう。

思うことはあれど、これで良かったと思う。

まあ、感謝はしないが。

魔力を吸われている分、むしろ感謝されるべきだと思う。

誰もしてくれないが。


世界中を旅して思ったのが、この世界は差別がたくさんあると言うこと。

外見、力、思想…少し普通の人から逸脱すると、差別の対象になる。


だから私は、彼らを助けることにした。

絶望から救われたら、絶対に裏切らないからね。

もちろん、慈善事業じゃないから、将来的に有用な手足になりそうな人たちだけだが。

気がつけば、裏社会を牛耳る一角になっていた。

備えあれば憂いなし、大は小を兼ねる、と言うし、まあ、気にしない。


彼らや人形を使ってわかったことは、この国はもの凄く腐っていると言うこと。

それも、根っこの奥から表面まで、全部。


まあ、その一端は、私にもある。

私の魔力が、利用されているのだ。

途切れることのない魔力によって、民を搾取し、他国を侵略している。

自国より国力が高い国にも、平気で喧嘩を売る。

だって、国と王宮には、強力な結界が張られているから。


私の魔力で!


もう一度言う。


私の魔力で!!


竜の威をかるネズミのように。


で、ここ1、2年ほど関係が悪化して、戦争になっている国がある。


ゼオン王国だ。


ゼオン王国は、複数の鉱山を有し、世界的に見ても軍事力が高い国だ。

一方で、魔法面はあまり発展していない。

魔石がほとんど取れず、他国からの輸入に頼っているため、非常に高価だからだ。


この国は、ゼオン王国の鉱山と軍事力に目をつけ、度々ちょっかいをかけている。


軍事力は圧倒的にゼオン王国の方が強いが、この国に張られた結界に足止めされて、侵入ができない。

だから、辛うじて拮抗しているように見える。


あ、因みにこの国は、ヘラード王国と言う名前だが、覚える必要はない。


だって、私が滅ぼすから。


正確に言えば、私が手を貸したゼオン王国に滅ぼされる。


すでに、配下と人形で、ゼオン王国に繋ぎはとってある。

国の内情やら、王宮の隠し通路やら、色々情報は流しておいた。



今夜、国の結界が壊れる。

結界の基点には、配下を配置した。

ゼオン王国側から合図があれば、同時に結界の基点を破壊する。

そうすれば、結界は壊れる。

外からの力に強くても、中からの力には弱い。


さらに、結界の破壊とゼオン王国の侵入は、国の上層部に伝わらないように、情報網を断つ。

首に刃を突きつけられているなんて、王都に、王宮に侵入されるまで、わからないだろう。


王と王妃が、国の上層部がどんな顔をするか、とても楽しみで仕方がない。

今夜は眠れないかもしれない。

楽しみすぎて。


国境から王都まで、7日。

近道を通れば、5日。


王が好きなパーティが始まるよ。

まあ、煌びやかなパーティではなく、血塗られたパーティだけど、ね。



ーーーーー


鳥の目で、ゼオン軍を確認する。

行軍は、順調に進んでいるようだ。

順調すぎて、あちらの指揮官は、疑っているよう。

それだけ慎重な方が、不測の事態が起きた時に対応できる。

今回は、不測の事態は、起きないだろうけど。


さて、彼らは王宮の目の前。

やっと気づいた、王たちは、慌てて兵を募っている。

その慌てようは、想像していたよりも面白くて、思わず本体でも人形でも吹き出してしまった。

胡乱な顔で見られてしまった。

失敗、失敗。

でも、本当に面白かった。


さて、ゼオン軍の勧告は、終わった。

最後の仕上げ。

今までのお礼に、特別に、私が結界を壊してあげよう。


私は、一気に魔力の出力を上げた。


狙い通り、王宮に張られた結界の基点が、私の魔力圧に負けて壊れた。


呑気に踏ん反り返っていた連中は、大慌て。

今更、何をしても遅い。


ゼオン軍が、一斉に王宮を制圧する。

さすがの軍事力。

瞬く間に、王宮各所、隠し部屋まで制圧していった。

もちろん、この塔も例外ではない。


足音と共に鎧の音が、下から徐々に大きくなる。


5、4、3、2、1…


バン!!!!


大きな音を立てて、扉が開く。


部屋に入ってきたのは、5人。

誰かが、息を飲む音が響いた。


どうしたのだろうか?

疑問のまま、首を傾けた。


あ、そう言えば、常識的に考えて、とんでもない格好だった。


ベッドすらない、牢のような石造りの部屋。

両手足を鎖で縛られ、目と喉を封印の布で覆われた少女。

普通に考えたら、事案だ。


ガキッン!!


つらつらと考えていると、手足の圧迫感がなくなった。

どうやら、剣で切ってくれたらしい。


「何と惨い。」


「これが、人のやることか?」


ボソボソっと声が聞こえる。


「大丈夫か?」


親切に問いかけてくれたが、残念ながら答えられない。

喉を指差して、首を横に振る。


「どうしたらいい?」


また、問いかけてくる。

指で空中に文字を書く。


『魔力が回復すれば、自分で解けます。』


「わかった。ひとまず、ここを出るぞ。」


この人は結構、偉い人のようだ。

部下に指示を出し、他の場所の応援に行かせた。


「抱えるぞ。」


コクリと頷くと、私をマントで包み、力強い腕が、私を抱き上げた。

それほど軽くはないと思うが、男性は、片手で抱き上げている。


大広間に向かう道中、名前や今の状況を教えてくれた。

彼は、ルシアン、と言うらしい。

しかも、ゼオン王国の国王だということが判明した。

あまり話すのが得意ではなさそうで、しばらく無言で歩いていた。




「こんなことをして、良いと思っているのか?この、野蛮人どもめ!」


開け放たれた大広間から、聞くに耐えない暴言が次々と聞こえてくる。


馬鹿な人たち。

まだ状況が、理解できないらしい。


「野蛮人とは、お前たちのことだろう。我が国に侵入し、我が国の民を徒に殺した。」


「儂らが、有効活用してやろうと言うのだ。黙って差し出すのが、筋であろう。」


「救えんな。」


ゼオンの王に全面同意する。


「お前たちに、聞きたいことがある。この娘は何者だ?」


ゼオンの王が、私の顔が見やすいように、マントをずらした。


「なっ!!セイレーン、この化け物め!役立たずが、儂を助けよ!!」


耳障りな声。

そう言えば、この人は、人を惑わす化け物として、私のことをセイレーンと呼んでいた。

そんな、どうでも良いことを思い出す。


私は、喉に巻かれてある布を取った。

魔法陣が、バチバチっと火花を散らすが、構わずに引っ張る。

外れた布は、青い火を出しながら燃え尽きた。


「お久しゅうございます、皆様。プレゼントは、喜んでいただけましたか?」


久しぶりに本体で話をする。

最初で、最後の、自分の意思であげたプレゼント。


「まさか、お前ーー!!結界を壊したのは、お前か!?生かしてやった恩を、仇で返したのか!やはりお前は、化け物だ!!」


「喜んでいただけて、とても嬉しゅうございますわ。もう、お会いすることはないでしょうが、最後の時まで、お元気で。」


嬉しさと喜びが隠せず、うふふと笑みが溢れてしまう。

まだ何か喚いているようだが、最後の挨拶も終わったことだし、全てを無視する。


「…はぁ…連れて行け。黙らせても構わん。」


「「「はっ!!」」」


「お前には、色々と聞かないといけないことがあるらしい。」


「お答えできることなら。」


「まだこちらもやる事がある。後で時間を取るから、お前もその格好をどうにかしてもらえ。」


「かしこまりました。ディオ、身支度を整えたいのだけど。」


「お任せを。」


私の配下の1人、ディオに声をかける。


「……」


ゼオンの王は、何とも表現しがたい表情を浮かべていた。



ーーーーー


ディオに案内された部屋は、王宮の客室。

本体では、初めての入浴を楽しんだ。


今まで着る機会がなく、異空間の肥やしになっていたドレスを着た。

時間だけはたっぷりとあったので、趣味で服やアクセサリー、魔道具なんかを作って、異空間に収納していた。

それがやっと、日の目を見る事ができる。

ドレスにそぐわない目隠しも、レースの目隠しに変えた。

もちろん、封印の魔法陣が書かれたものだ。


髪はハーフアップ、髪飾りとピアスをつけたら完成。

もともと素材はいいから、見栄えがする。

食事をとって健康的になれば、もっと美しくなるだろう。

少し楽しみである。


まだ歩くのには練習がいるため、ディオに抱えてもらう。


談話スペースに戻ると、ゼオンの王がいた。

後ろには、厳しい騎士が2人。


私を抱えるディオと、後ろには、後から合流したココナ。


ゼオンの王は、私たちを見て、また、なんとも言えない表情を浮かべた。


「…はぁ…座れ。」


顎で示されたのは、向かいソファ。

ディオに降ろしてもらう。


ココナが何処から用意した紅茶を、テーブルにザーブした。

安全な事を示すため、先に口をつける。

うん、美味しい。

本体で経験することは、何もかも初めてで新鮮な感じがする。


「で?何処まで、暗躍していた?」


「暗躍だなんて…。ただ少しお手伝いをしただけです。」


「少し、ね。」


ゼオンの王から、鋭い視線が投げかけられる。


「この国は、もう随分と前から腐っていました。放っておいても、自壊したでしょう。ですが、この国の強欲と傲慢は、他国に向かいました。」


尽きない魔力によって、傲慢になった国は、他国の物を欲しがるようになった。

この国が疲弊するのは、自業自得だが、他国に迷惑をかけることを許した覚えはない。


だから私は、この国が今、最も注目していて、民から慕われている、信用できる国に力を貸そうと思った。


手始めに、この国の情報を流し、接触できるように誘導した。

かつて国の上層部にいたが、王に進言した結果、左遷された心ある貴族、と。


「そこからは、そちらもご存知のはず。最後の仕上げとして、王宮の結界を破壊しました。」


「その2人、貴族の使いだと言っていたが、お前の子飼いとはな。上手く転がしてくれたものだ。」


ゼオンの王からの威圧が強まる。


「それで、何が望みだ?」


「??」


「望みがあるから、ここまで手の込んだことをしたのだろう?」


「…そうですね…あえて言うなら、この国の崩壊と、王の悔しがる顔を見たかったから、でしょうか?なので、目的は達しています。大変楽しませていただきました。ありがとうございます。」


礼と共に頭を下げると、ゼオンの王だけでなく、護衛からもなんとも言えない顔をされた。


あれがデフォルト…な、わけないよね。


どうでもいいことを考えてしまった。


「この国が嫌いなのか?」


「いいえ、言うなれば、視界の隅に写る生ゴミのようなものでしょうか?」


「「生ゴミ…」」


護衛の呟きが被る。


「んん。…これからどうするつもりだ?」


「さて、何も。旅でもしようかしら?」


ゼオンの王も護衛も、デフォルトになった表情を浮かべる。


「旅をして、何処か落ち着ける場所を見つけたいと思います。」


「落ち着ける場所?」


「はい。落ち着ける場所、と言いますか…帰る場所ですね。」


この世界は、多くの差別が蔓延っている。

保護した以上最後まで面倒を見るつもりである。

保護した子たちは、帰る場所がない。

だから、彼らの帰る場所を、落ち着ける場所を探したい。


そんなことをツラツラと述べていると、おもむろに、ゼオンの王がニヤリと笑った。


ものすごく、嫌な予感…。


「ならば、いい場所を紹介してやろう。衣食住完備、三食おやつ仕事付き。一般人が入れない場所も特別に許可しよう!どうだ?」


胡乱げな視線を向けてしまう。


「そんな、良い条件の場所なんてあるわけがないでしょう。」


「ふっ。それが、あるんだ。」


「…何と言う場所ですか?」


「ゼオン王国王城、役職は側妃、及びその側近。どうだ?」


「はあ!?何考えてるんですか!?冗談でしょ!?」


あははははーー


部屋には、私の声とゼオンの王の笑い声が響いていた。


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