歪んでる、それでも、それが真愛
顔が好きだから許せる
「恵実見てみて。田口だっけ? あいつ、すっごいブスじゃん。なのにイケメンの和泉に告ったんだって。やばくない? えぐいって。マジで可哀想すぎる」
「うん、そうだね。振るほうも心が痛いもんね」
「いやいや、痛いどころか痛々しいでしょ」
「そうかな?」
「恵実って顔も良ければ性格もいいし、ほんと仏かよ」
私の前の席で振り返って話しかけてくるのは、黒髪ボブで猫っぽい顔をした恵子。入学式の日に目が合って、名前が似ていることもあって仲良くなった子だ。
恵子は自分の名前が好きじゃないらしく、呼ぶときは「恵」ちゃんと呼んでる。
正直、顔がタイプじゃなかったら絶対友達に欲しくない人間トップ5に入る。
……でも顔がいい。どタイプ。
猫っぽい顔に、少しだけ尖った八重歯。出っ歯になっていないところがまた良くて、笑ったときに少しだけのぞくのが最高だ。
長いまつ毛がつり目を縁取り、唇は口角がきゅっと上がってニヤリと笑う小悪魔的な表情を作る。
無駄なお肉のない骨格もシュッとしていて、美そのもの。
私とは正反対。
私はよく「優しそう」とか「ほんわかしてる」と言われる、刺激のない顔立ち。
だからこそ刺さる。
こんなに整った顔、見たことがない。似ている人はいても、この端正さはけいちゃんだけ。
だからどんなに性格が悪くても気にならない。
むしろ顔を歪めている姿にすら胸がときめく。
「ちょっと、何にやついてんの?」
「ん? けいちゃんが可愛いなって」
「……はぁ? ばっかじゃん」
耳を赤くしてプイッと顔をそらすのも、やっぱり可愛い。
愛おしそうに見つめていた私の視線に気づいたのか鏡越しに目が合い、さらに赤くなった耳まで隠してしまった。
「なんかもう、バカらしくなってきた」
そう言って、ため息をついた恵子は、真っ赤な顔を両手でパタパタと仰いだ。
「あーもう何の話してたっけ...」
「ブスは調子乗るなって話じゃないの?」
「わたしそこまで言ってないけど...まぁ概ね合ってるけど」
(けいちゃんの発言をざっくりまとめただけなんだけどね)
うげっとした表情になるが否定はしない。
自分で性格悪いとか言ってるし自覚あるだけ好き。
「でも告るぐらいならいいんじゃない?相手が迷惑じゃなければの話だけど」
「いやいや、ブスに告られたらイケメンは迷惑だってwwだって美人なら嬉しいけどブスに時間割くなんてもったいないでしょ」
「そうだね、興味のない人からの告白だったら断る理由とか考えないとだね」
「そうそう、やっぱり恵実と話合うわ。わたし悪口とか言いたいからさ普通の人には言えないじゃん、だから恵実だけだよ」
ふっと安心したように微笑む。
その視線には、私だけしか映っていない。
澄んだ瞳の奥に閉じ込められているのは、他でもない私だけ。
「うん、私もけいちゃんの話聞くの好きだからどんな話でも嬉しいよ」
「っっぅ、かわいい~!!もうほんとに天使なんだから、恵実見てると癒されるわ。わたしも恵実見習って性格良くなりたいんだけど、ストレス溜まるから無理!!」
机越しにぎゅっと抱きついて頬をピタッと触れ合わせてくる。
ひんやりとしあ触感にドキドキと胸が高まるのをそっと隠す。
(私は性格が良いわけじゃないよ、けいちゃんだから共感するんだよ。けいちゃんじゃなかったら無理なんだよ)
微笑みの中に汚い下心の気持ちを隠してけいちゃんの前では優しい女の子を演じる。
彼女の特別な枠としてずっと隣に入れるように。
けいちゃんの悪口を聞いて共感してあげられるのは私だけ。
この席は誰にも譲らないし変われない。
私だけの特等席。
今もこれからも。
「あ、もうすぐ授業始まるじゃん。また後でね~!」
「うん。また」
ぱっと切り替え前に向き直る。
先生が来るまであと五分ぐらいあるのに、変な所で真面目なのも愛おしい。
後ろから見るけいちゃんのピンとした背筋、綺麗に切り揃えられたタッセルボブカット。
全てが繊細に作られた作り物のように美しい。
先生が来てもその後ろ姿を眺めてしまう。
私の目には彼女の存在だけしか映さない。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
短編作品として描かせて頂いたので続きはあまり考えておりませんが好評でしたら描かせて頂きます。
とりあえず今は色々な短編作品を描きたいので、短編作品に集中して更新できたらなと思います。
これからもよろしくお願い致します