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恋人(但し戦闘力は世界規模)

作者: ラララ

https://ncode.syosetu.com/n2863kw/1


連載版始めました。

これの続きみたいな感じなので是非!!

 昼下がりの青空は、どこまでも穏やかだった。

 夏の終わりを告げるように、陽射しは優しく、けれど確かに眩しい。

 蝉の声が途切れ途切れに続き、グラウンドでは野球部の掛け声が響いていた。


 教室の窓際で、私はノートをぼんやりと眺めていた。

 世界史の小テストは――まあ、壊滅的だった。

 後ろの席の美咲が「今回は追試だねー」と笑って言ったとき、私も一緒に笑った。

 何も特別なことのない、ただの放課後。

 特別じゃないことこそが、私の“日常”だった。


 ――その“日常”が、唐突に破壊されたのは、ほんの数秒後のことだった。


 空が、割れた。


 はじめは誰もが、目の錯覚かと思った。

 教室中の視線が、窓の外へと集中する。

 そして、誰かが叫んだ。


「――なに、あれ……?」


 天頂にぽっかりと口を開けた、黒い裂け目。

 まるで紙を裂いたように、世界そのものが断ち切られていた。

 そこから降ってくるのは――光ではなかった。

 闇。圧倒的な、理不尽の塊。


 鉄の塊のような“それ”は、ゆっくりと姿を現す。

 人型とは言い難い。

 腕のようなものは四本。背中には無数の鋼線と刃のような突起が生え、目に相当する場所からは血のような赤い光がきらめいていた。


 機械? 生物? それとも――その両方なのか。

 正体なんてどうでもよかった。

 一つだけ確かなのは、“それ”がこの世界にとって敵であるということ。


「避難! 避難して!!」


 教師の声が響いたが、生徒たちは混乱して立ち尽くしていた。

 私もそうだった。

 逃げなきゃ、そう頭ではわかっていたのに、脚が動かない。


 “それ”は、一歩、また一歩と着地しながら前進し、

 眼下の都市を見下ろすように、両腕を広げた。


 次の瞬間、ビルのひとつが――潰れた。


 爆発音。悲鳴。悲鳴。悲鳴。

 誰かが泣き叫び、誰かが崩れ落ちる。

 スマホで撮影しようとした男子がいたが、それを見た誰かが叫んだ。


「死ぬぞバカ!!」


 現実感が、追いついてこなかった。

 私の手は震え、心臓は壊れたみたいに暴れた。


 こんなのおかしい。

 アニメでも、映画でも、ゲームでもない。

 これは、“現実”なんかじゃない――そう思いたかった。


 けれど、破壊されていく街の風景は、容赦なく私の“現実”を塗り替えていった。


 そして、そのときだった。


 グラウンドの向こう。

 砕けたフェンスの隙間から、ひとりの少年が歩いてきた。


 制服のシャツは少し乱れていて、

 手にはコンビニのビニール袋をぶら下げている。


 まるで散歩帰りのような、その少年――

 その彼の姿に、私は息を呑んだ。


「……またか。せっかく唐揚げ弁当買ったのに」


 呟きながら、彼は空を見上げる。

 その視線の先には、黒い裂け目と、空を覆う異形。


 彼が立ち止まったのは、ちょうど怪物の真下だった。

 あまりに無防備で、あまりに無謀で――あまりに、非現実的だった。


「君を傷つけるやつは、全部、僕が壊す」


 その言葉と共に、風が吹き抜けた。


 彼は、跳んだ。


 足元が砕け、グラウンドが砂煙に包まれ、

 その身体はまるで風そのもののように――空へと駆け上がった。


「――――っ!」


 怪物が反応する。

 赤い光が集中し、雷のような音が響き――


 ドンッ!!!


 衝撃。雷鳴。閃光。

 だが、それは怪物のものではなかった。


 それは、少年の拳だった。

 地上数十メートル、空中で彼が繰り出した拳は、

 機械の怪物の頭部を真正面から殴り抜いた。


 金属が砕ける音がした。

 煙が舞い、破片が散り、空に閃光が弾ける。


 怪物は、一瞬で沈黙した。


 私はその光景を、ただ呆然と見ていた。

 理解が追いつかない。

 あの怪物を、一撃で。

 あの人が――あの彼が――


「……誰……?」


 私は、声にならない声で呟いていた。


 彼がゆっくりと地面に降り立ち、煙の向こうから姿を現す。

 制服の袖が破れていたが、彼は気にも留めず、

 手にしたビニール袋をひょいと持ち上げて言った。


「温め直さなきゃな、これ」


 あまりにも普通の言葉に、私は思わず吹き出しそうになった。


 そんなの、唐揚げ弁当どころの騒ぎじゃないよ――!


 彼は私を見つけ、そして歩いてきた。


「君、大丈夫だった? 怪我してない?」


「え、あ、うん……たぶん……」


 顔を近づけてきた彼は、どこか安心したように笑った。


「よかった。間に合って」


 その笑顔に、私は言葉を失った。

 優しくて、どこか儚くて、そして何より――強い。

 ただの高校生とは思えない、圧倒的な存在感。


 このとき、私はまだ知らなかった。


 彼の名前が真宮祐真まみや ゆうまであること。

 そして――この出会いが、私の人生を丸ごとひっくり返す“始まり”であることを。


 それからの日々は、普通じゃなかった。

 デート中に戦闘機が飛んでくるし、

 バレンタインには国家機密が絡んでくるし、

 彼の親戚は元・神だったりする。


 とにかく、規格外の連続。

 でも彼は、いつだって笑って言うのだ。


「大丈夫。君を守るためなら、僕は世界とだって戦うよ」


 ……重すぎるよ、それ。


 でも、たぶん。


 それでも私は――彼のことが、好きなんだと思う。



 〜〜



 あの空が裂けた日のことは、今でも夢だったんじゃないかって思う。

 だけど、目覚めるたびに隣で寝息を立てている彼を見ると、

「ああ、現実なんだな」って、変な意味で納得する。


 だって――


「よっ。朝だよ、つぐみちゃん。朝ごはん、豪華にしておいたからね。あと、庭で戦車壊しちゃった、ごめん」


「……朝から何やってるの?」


 今日は日曜日。

 本来なら、二度寝してからのんびりパンケーキでも焼いて、

 恋人とイチャイチャしながら動画でも観る予定だった。

 なのに現実は、玄関前にうずくまっている半壊の戦闘兵器と、

 それを手刀で解体したうちの彼氏。


 ――私の彼氏、真宮祐真は、やっぱり強すぎる。


 出会ってから数日後、私はある政府機関から呼び出された。


 正確には、「彼と接触した者としての記録確認」とか何とか。

 部屋に入ると、スーツ姿の怖そうなおじさんが4人。

 そのうちの1人が、名刺を差し出してきた。


「内閣直属・特異災害対策局――通称“黒班くろはん”だ」

 なんかもう、その名前からして物騒。


 私は椅子に座らされ、何度も同じ質問を受けた。


「真宮祐真と、いつどこで会ったか」

「接触後、異常な現象はあったか」

「身体に変化は――」

「実際に彼と交際を?」


 最後の質問で思わず噴き出しそうになった。

 というか、それ、尋問じゃなくて恋バナでは?


「……一応、彼氏ってことで……」と答えると、

 おじさんたちは一斉にメモを取った。


「……“付き合っている女性は極めて重要な観測対象”と……」

「“戦闘時、彼の感情波動が急激に上昇”……これは恋人起因か」

「前例がない……付き合ってみた例なんて……」


 もう、勘弁してほしい。


 帰り道、彼が待っていてくれた。


「ごめんね。やっぱり呼び出されたか……」


「うん。なんか“観測対象”とか言われた。付き合うだけで監視対象になったの初めて」


 祐真は申し訳なさそうに目を伏せて、それでも真っ直ぐに言った。


「でも……僕は、君を巻き込みたくないって思いながらも、君を離せなかった。

 あのとき、街に現れたあいつを倒したのは……正直に言えば、街じゃなくて――

 君を守りたかったからなんだ」


 私の鼓動が、一瞬だけ止まった気がした。

 この人、本気なんだ。

 この世界で一番強くて、いちばん危険で、いちばん不器用な人が、

 こんなにも真剣に、私のことを見てくれてる。


「……じゃあ、ちゃんと責任とってよね?」


「責任……?」


「私、祐真くんの彼女でいるってことは、きっと、普通の女の子でいられなくなるってことだよ?

 危険な目に遭うかもしれないし、狙われるかもしれないし、

 もしかしたら世界滅亡のスイッチになっちゃうかもしれないよ?」


「……全部、僕が守るよ。世界も、君も。例えどんな敵が来ても、僕が君の盾になる」


「……言ったね?」


「うん。何度でも言うよ」


 そう言って、彼は私の手を握った。

 大きくて、温かくて、でもときどき砲弾を跳ね返すような、そんな手。


 ……私の彼氏、やっぱり強すぎる。


 でも――


 そんな彼を選んだのは、私なんだから。


 その夜、祐真のスマホが鳴った。

 画面には見たことのない英数字と、「コード・C-999」の文字。


 彼は私を見た。


「ごめん。ちょっと、宇宙の裂け目がまた開いたらしい。すぐ戻ってくる」


「うん。いってらっしゃい。夕飯、温めておくね」


 キスをひとつだけ交わして、彼は空へと跳び立った。

 文字通り、空へ――まるで風のように。


 私はその背中を見ながら、ちょっとだけ笑った。


 明日、また学校に行くと、きっと誰かがこう言うだろう。


「えー!? つぐみちゃんの彼氏、またニュースに出てたよ!? なんか宇宙で戦ってたけど!」


 ……だから私は、きっと、こう答えるんだ。


「うん。私の彼氏、ちょっと強すぎるの」


 そしてその“ちょっと”は、きっと、世界規模の話。


 でも――

 この恋だけは、世界でいちばん“普通”に、続けたいと思ってる。


 たとえ、どれだけ非日常に囲まれていても。



思い付きで書いたものです。

pv付くんだったら連載考えます(現金)

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