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【R15】王女様の耳は猫の耳〜甘く囁かれて王女は今日も、にゃんと鳴く〜  作者:


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移動中も気が抜けない

本日二話目の更新です。

先に前話『政務再開(ただしカナン付き)』をお読みください。

「……お忍び視察?」


 セリーナは思わず聞き返した。


「ああ、予定されていた視察が、今回の騒動で延期になっているだろう? 国王陛下の許可を取った」


 カナンは当然のことのように言ったが、セリーナには信じがたかった。


「え、ええ……でも、本当に? さすがにこの状況だと難しいと思っていたのだけど」


 自分の身に起きた異変を考えれば、父が視察を許可するとは思えない。猫耳と尻尾のことが公にできない以上、人目につくような場所へ行くのはリスクが高すぎるはずだ。


「市井の民の様子を直接見るのは大事だ。百聞は一見にしかず、だろう?」


 カナンは静かに言いながら、じっとセリーナを見つめる。

 確かに、それは彼女自身が強く願っていたことだ。民の生活を直に見て、声を聞き、政治に反映させるーーそのために、この視察は欠かせないと考えていた。しかし、事情が事情なだけに、延期どころか、もう行けないのではないかとさえ思っていたのだ。


「それに……」


 カナンは言葉を切り、ふっと微笑んだ。


「君はこの視察をとても楽しみにしていただろう?」


 その言葉に、セリーナの胸が強く揺さぶられる。

 視察の話が決まった直後、セリーナはカナンとのお茶会で視察に対する意気込みを話していた。そのことを、彼は覚えていてくれたのだ。


「……本当に、お父様が許可を?」


 まだ半信半疑なまま、セリーナはもう一度確認した。


「もちろん。国王陛下は慎重だったが、俺が誠意をもって説明したら納得してくださったよ。条件として、お忍びで行くことになったが、万全の護衛をつけることが許可された」


 カナンはさらりと言ったが、セリーナは思わず彼の顔を見つめた。


(そんな簡単に言うけれど……お父様を説得するのがどれだけ大変か、カナンだってわかっているはず)


 セリーナの父は慎重な性格で、彼女の身を案じるあまり、危険を冒すような決断を下すことはほとんどない。それを、カナンが説得したというのならーー。


「……あなた、一体どうやってお父様を説得したの?」


 カナンは少し目を細め、柔らかく微笑んだ。


「そうだな……ただ、君のためにできることをしただけさ」


 その言葉にはぐらかされて、セリーナは思わず唇を噛んだ。きっと彼は、自分の知らないところで、並々ならぬ努力をしてくれたのだろう。


(本当に、なんでこんなに……)


 嬉しい反面、どこかくすぐったくて、少しだけ悔しくなる。カナンに助けられてばかりで、自分は彼に何か返せているのだろうかーーそんな考えがよぎる。


「……ありがとう、カナン」


 素直な感謝の言葉を口にすると、カナンは満足そうに微笑んだ。


「どういたしまして、セリーナ。君が望むことなら、俺は何だって叶えたいから」


 その声音があまりにも優しくて、セリーナの心臓が跳ねる。


(もう、本当に……)


 こんなにも真っ直ぐに思われてしまうと、まともにカナンの顔を見るのが恥ずかしくなってしまう。視察が決まったことへの喜びよりも、カナンの優しさが胸をいっぱいに満たしていくのを感じながら、セリーナはそっと視線を落とした。



   ◆



「こんな格好で……大丈夫なの?」


 馬車の中で、セリーナは落ち着かなげに、フードの上からそっと猫耳を押さえた。彼女は裕福な商人の令嬢風の衣装を纏い、ゆったりとした長めのフードをかぶっている。猫耳と尻尾の膨らみも目立たないようにしているが、それでも完全に隠せているかは少し不安だった。

 カナンもシンプルな商人風の衣装を身にまとい、彼女の隣に座っていた。

 馬車の窓には、万が一を考えてカーテンがかかっている。これなら、外から中の様子を覗かれる心配はない。


「心配するな。誰も君が王女だとは思わないさ。耳もちゃんと隠れている」

「……そう言われても、バレたらどうしようって緊張するわ」


 セリーナがぎゅっとスカートの裾を握りしめると、カナンがふっと小さく笑った。


「どうした、今日は随分と大人しいな?」


 そう言いながら、カナンはすっと手を伸ばし、セリーナの握りしめた手を包み込むように重ねた。


「っ……!?」


 手から伝わる彼の体温に、セリーナがびくりと肩を震わせると、カナンが小さく笑った。


「そんなに驚くなよ。ただ手を握っただけだろう?」

「……っ、誰か見てるかもしれないじゃない……!」

「窓にはカーテンがかかってるし、馬車の中には俺たちしかいない。つまり……誰にも見られない」


 そう言って、カナンは指を絡めるように、セリーナの手を優しく撫でた。熱を帯びた掌の感触に、セリーナはどうしようもなく意識してしまう。


「セリーナは可愛いな」

「!? な、何言って……!」

「今からそんなに緊張していたら、視察どころじゃなくなるぞ?」


 カナンの低く甘い声が耳元で響く。

 まるで小さな子供をなだめるような声音に、セリーナは反論できず、頬を赤らめたまま視線を逸らした。

 今、緊張しているのは、猫耳のことがバレたらという思いよりも、カナンのせいだ。でも、そんなことは絶対に教えたくない。


「……そんなこと、言わなくてもわかってるわよ」

「なら、リラックスして」


 そう言って、カナンの手がふわりとフードにかかる。

 くしゃ、と布がずれ、ふわりとしたプラチナブロンドの髪が現れる。


「ちょっ、カナン!? それ取ったら――」

「大丈夫だ、俺しか見ていない。馬車の中でくらい、リラックスして欲しい」


 カナンの指が、セリーナの耳の付け根に触れる。


「んにゃっ……!」


 思わず甘い声が漏れた。

 ピクッと震える猫耳を、カナンがそっと撫でる。


「ふにゃぁっ……! ちょ、やめ……!」

「君の耳、ほんとに柔らかいな……」


 楽しげに指を滑らせながら、カナンが微笑む。

 耳の先をくにっと摘むと、セリーナはびくっと肩を震わせた。


「んにゃぁっ……!」

「へぇ……なんだか、この間より敏感になっていないか?」

「~~っ! もう、やめなさいってば!」


 セリーナが慌てて手を振り払おうとすると、カナンはふと、彼女の腰のあたりをじっと見た。


「……ひょっとして……」

「えっ?」


 カナンの手が、スカートの裾へと伸びる。


(ちょ、ま、まさか!?)


「猫耳だけじゃなくて、尻尾もあるのか?」

「~~~~っ!!?」


 セリーナは顔を真っ赤にして飛び上がった。

 カナンの指が、そっとスカートの中へ――入ろうとした、その瞬間。


「お二人とも、そろそろ到着です」


 御者の声が響いた。

 カナンの手が、寸前で止まる。彼は残念そうにため息をつくと、ひょいっとセリーナのフードを元に戻した。


「残念。次は確認させて」

「~~~~っ!?」


 セリーナは顔を真っ赤にしたまま、思考が完全に停止した。


(か、確認って……何をするつもりなの!?)


 止まらない鼓動を抱えながら、馬車の扉が開く音を聞いたのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


次話『お忍び視察』

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