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【R15】王女様の耳は猫の耳〜甘く囁かれて王女は今日も、にゃんと鳴く〜  作者:


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呪い、解除

本日二話目の更新です。

先に前話『魔女の観察、カナンの実践』をお読みください。

 魔女がセリーナの前に立ち、両手を翳す。


「さぁて、解除の時間だよーん♪」


 軽やかな声とは裏腹に、彼女の周囲には神秘的な魔力の波動が広がる。ふわりと指先を動かすと、彼女の手から無数の光の粒がこぼれ落ちた。


「ん……っ!」


 光の粒はセリーナの体を包み込む。心地よい温かさが全身に染み渡り、ふわりと体が浮き上がるような感覚がした。


 そしてーー


「……!」


 一瞬の眩しさの後、セリーナの身体が軽くなった。

 気が付けば、頭や腰の違和感が消えていた。


「戻った……! 戻ったのね……!」


 思わず自分の頭と腰を触る。猫耳も尻尾もなくなっている。ーー間違いない。


「やった……!」


 喜びが込み上げ、パァッと笑みがこぼれる。 


「セリーナ……」


 カナンが微笑みながら、ゆっくりと近づいてきた。


「よかったな」

「ええ、本当に……!」


 彼の言葉に大きく頷く。しかし、彼の表情はどこか複雑そうだった。


「カナン?」


 セリーナが不思議に思って見上げると、彼はふっと苦笑を浮かべた。


「いや……喜んでいる君を見て、俺も嬉しい。でも……ちょっとだけ、寂しい気もする」

「え?」

「君の猫耳と尻尾、可愛かったからな」


 セリーナの顔が一気に赤くなる。


「な、なに言って……!」


 恥ずかしさに身をよじるセリーナを、魔女がニヤリと眺めていた。


「ふふっ、そんなカナンくんのために、ちょっとしたオマケをつけといたよ?」

「……オマケ?」


 嫌な予感がした。だが、魔女はそれ以上の説明をせず、くるりと踵を返すと、ヒラヒラと手を振りながら去っていった。


「いいものを見せてもらったお礼よ〜♪ じゃあねー!」


 魔女は意気揚々と扉から出ていった。後を追いかけるが、部屋から出た途端にその姿はあっという間に消え去ってしまった。

 彼女が姿を消すと、部屋には静寂が戻る。


「ふふっ、嵐みたいな魔女さんだったわね」


 思わず笑いがこぼれた。


「人騒がせな魔女だったな。もう二度と関わりたくない。……セリーナ、俺の子どもの頃の無責任な発言で、本当にごめん」


 セリーナは首を横に振り、カナンの手をそっと取った。


「いいえ、むしろ……ありがとう」


 ふっと微笑み、カナンを見上げる。


「カナンのおかげよ。ずっとそばにいてくれたから……ここまで頑張れた」

「……俺は、何もしてないよ」

「そんなことないわ。私に猫耳が生えてから、ずっと支えてくれたでしょう?」


 優しい手つきで撫でてくれた。

 困った時は助けてくれた。

 寂しい時は、そっとそばにいてくれた。


「私が猫の姿の間、カナンがいなかったら、きっとすごく心細かったと思う。だから……本当に、ありがとう」


 真っ直ぐな言葉。

 カナンは一瞬驚いたように目を瞬かせ、それから、ふっと柔らかく笑った。


「そうか……」

「ええ」


 二人の距離が、少しだけ縮まる。

 静かに流れる時間。

 カナンの瞳が、優しく、けれどどこか切なげにセリーナを映していた。


「……セリーナ」


 彼の目が真剣な色を帯びる。彼の手に添えられたセリーナの手を優しく握り直し、息を呑むと、ずっと心に留めていた言葉をゆっくりと告げた。


「俺はね、子どもの頃から、本気でセリーナが好きだったんだ」

「……え?」


 セリーナの心臓が大きく跳ねる。


「最初はただの幼馴染だった。けど、君はいつも一生懸命で、どんなことでも手を抜かない。冷静で、しっかりしていて……けど、本当は誰よりも優しくて、誰かのために全力で頑張る。そんな君を、気が付いたら好きになってた」


 カナンの言葉が、真っ直ぐに胸に届く。


「だから、王配に……君の夫になれるように努力した。婚約者候補になれた時は、本当に嬉しかった」


 彼の目に宿るのは、紛れもない誠実な想い。


「急に猫耳が現れた時は驚いたけど……」


 ふっと微笑む。


「そのおかげで、いつも冷静だった君の、今まで見られなかった姿が見られた。無防備な顔や、甘えた声……どれも新鮮で、可愛かった。今まで以上に、君に近づけた気がした」

「カナン……」

「だからーー前よりも、もっと好きになった」


 彼はセリーナの手を引き寄せ、そっと彼女を抱きしめた。


「俺と、この先の未来も一緒に歩んでほしい」


 セリーナの視界が滲む。

 気づけば、涙が零れていた。


「……っ」


 何も言葉が出てこなかった。ただ、強くカナンの胸に縋り付く。


「セリーナ……」


 カナンがそっと、セリーナの髪を手に取る。そして、その柔らかなプラチナブロンドの髪に、そっと唇を落とした。


「君がどんな姿でも、俺は君を愛してるよ」

「……っ!」


 胸がいっぱいになり、思わず声を詰まらせる。


「わ、私も……カナンのことが……」


 その時ーー頭にムズムズとした違和感が走った。


「……え?」


 違和感の正体がわからず、思わず手を伸ばす。

 その途端ーー


 ピョコッ


 ーー耳が生えた。


「ま、まさか……」


 恐る恐る腰下に手を当てる。

 ふわりーー柔らかい感触。


「……尻尾!?!?」


 セリーナの絶叫が響き渡った。



   ◆



 一方その頃、魔女はどこかでご機嫌に鼻歌を歌っていた。


「そろそろ気づいたかなぁ〜♪」


 彼女の『オマケ』ーーそれは、普段はない猫耳と尻尾が、感極まった時だけ出てくるというもの。


「だってカナンくん、セリーナちゃんの猫耳と尻尾がなくなった時、ちょっと寂しそうだったしねぇ?」


 セリーナたちの様子を想像してながら、くすくすと笑う。


「今頃、『さすが魔女様!』って、感謝感激雨霰よね! 呪いを解きながら、もっとイイ感じに改良しちゃうなんて、やっぱあたしって天才♡」


 悲鳴が王宮に響く中、どこかの空の下で魔女はケラケラと笑い続けた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

次で本編最終話となります。


次話『エピローグ 舞踏会の抱擁』

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