魔女の観察、カナンの実践
「すごい……すごいわぁ……!!」
魔女はセリーナの耳を食い入るように見つめ、感動したように両手を握りしめた。
「形、完璧! この曲線美、ふわふわ感……! しかもこのサイズ、もふりがいがあるじゃない……!こんな理想的な猫耳、二次元かフィギュアの世界にしか存在しないと思ってたのに、実在してたなんて……!!!」
何やら早口でまくし立てる魔女に、セリーナは目を白黒させた。
「ちょ、ちょっと待って……何を言ってるのかわからない!興奮しすぎ!!」
「いやいや、これは興奮せざるを得ないわよ! 尊い! 奇跡! 圧倒的感謝!!」
魔女は興奮しすぎて、涙目になっている。
そんな彼女を横目に、カナンは冷静に頷いた。
「うん、わかる」
「ちょっとカナンまで!?」
「セリーナの耳は可愛いからな。俺も好きだ」
「~~っ!!?」
真正面から肯定され、セリーナの顔が一気に熱くなる。
「ばっ……そんなの、簡単に言わないでよ……!」
カナンはいつも通りの穏やかな表情を浮かべているが、少しも照れた様子がないのがまた腹立たしい。
(私ばっかり意識してるみたいじゃない……!)
そんなことを思っていると、魔女がニヤリと笑った。
「じゃあ、ちょっと触ってみてもいい?」
「え? ちょ、ちょっと……!」
「おじゃましまーす♪」
魔女の指が、セリーナの耳にそっと触れた。
その瞬間――
「にゃっ……!?」
ピクンッと耳が震え、思わず変な声が漏れる。
セリーナは一瞬にして顔を真っ赤にした。
「きゃー! かわいい!」
「ちょ、やめ……!」
「いやいや、これはすごいわね。どれ、もうちょっと……」
魔女は調子に乗り、セリーナの耳をさわさわと弄び始めた。
「ふにゃ……!? ちょ、待っ……やぁっ……!」
くすぐるように優しく撫でられると、耳がぴくぴく動いてしまう。
そのたびに、変な声が漏れそうになって――
「……魔女殿、何をしているのかな?」
静かに響いたカナンの声に、空気が一変した。
セリーナも魔女もビクッと肩を震わせる。
「えへっ♡ 思い出すために、観察させて?」
「それはわかっている」
カナンは微笑んだまま、しかし鋭い眼差しを向けた。
「だが、そんな触り方ではセリーナの可愛さを引き出すには生ぬるい」
「……!?」
「まず、セリーナの耳は根元が弱い」
カナンはそう言うと、セリーナの耳の付け根を指先でそっとなぞった。
指が触れた瞬間、セリーナの全身がピクリと震える。
「ふにゃ……っ」
柔らかく、温かな指先が、ゆっくりと耳の根元を撫でる。最初は軽く、羽のように優しい動き。だが、次第に指がじんわりと押し当てられ、くるくると小さな円を描くように動き始めた。
「ん……や、やめ……」
恥ずかしさで声がかすれる。必死に平静を保とうとするが、身体は逆らえない。耳の奥がじんわりと熱を持ち、心臓が早鐘を打つ。
「なるほどねぇ……耳の付け根、ふむふむ」
魔女は感心したように頷く。
「撫でるのも好きだが、ここはこうやって摘むように揉むと……」
カナンの指が、耳の付け根を優しくつまむ。指の腹で軽く圧をかけながら、くにくにと揉みほぐすような動き。
「んにゃっ……ん……っ!」
小さく甘い声が漏れる。耳の付け根は、ただ撫でられるだけでも敏感なのに、優しくつままれて揉まれると、頭の芯が痺れるような感覚に包まれた。
「おおおおっ!!!」
魔女の歓声が上がる。
「さらに、耳の先はもっと敏感だ」
カナンの唇がそっと近づき、耳の先を軽く噛む。
「ちょっ、カナ……っ!? んぁっ……!」
ビクンッと体が跳ねる。歯がそっと当たるだけで、全身が甘い痺れに襲われる。さらに、カナンはそのまま耳を甘噛みしながら、根元をくすぐるように撫でる。
「ん……っ、はぁっ……!」
息が上がる。熱い吐息が漏れ、力が抜けそうになる。
「そして……ここが大事なんだが」
カナンの手が、ふわりと尻尾へと移動した。
「ちょ、尻尾は……!!」
必死に抗議しようとするが、もう遅い。カナンの指が、ふわふわの毛並みをゆっくりと梳く。
「セリーナの尻尾は、根元が特に敏感だ。こうやって……」
指先が、尻尾の根元をそっと撫でる。ふわり、ふわりと毛並みを整えるように優しく触れ、その後トントンと軽く叩かれると、ゾクゾクと背筋に甘い電流が走る。
「んっ……ふ、にゃ……」
尻尾は、想像以上に繊細な感覚を持っていた。毛先まで、カナンの指の動きをしっかりと感じ取ってしまう。
「そして、もう少し強めに……こう」
今度は、指先で尻尾の根元をつまみ、ゆっくりと揉むようにマッサージを始める。
「はにゃあぁぁんっ!!」
思わず悲鳴のような甘い声が漏れた。体が跳ね、カナンの胸にしがみつくように寄りかかる。
「すごい……っ! これは貴重な研究資料……!」
魔女が大興奮しているが、セリーナにはもうそれを気にする余裕がなかった。
「ちょ……ば、バカぁ……! もうやめ……っ!!」
涙目になりながら叫ぶと、カナンが少しだけ気まずそうに手を離した。
「……ちょっとやりすぎたか」
「当たり前でしょぉぉぉ!!!」
思い切りカナンの胸を叩くが、全くダメージを与えられた気がしない。
「し、師匠と呼ばせてください!!!」
魔女が目を輝かせて叫ぶ。
「もうっ……!!!」
セリーナは恥ずかしさで耳まで真っ赤に染めながら、怒りと羞恥の入り混じった視線でカナンと魔女を睨みつけた。
カナンは苦笑しながら、魔女に向き直った。
「さて、そろそろ呪いを解いてくれるかな」
「……しょうがないわね、いいもの見せてもらったし、呪いの構造もわかったし、解いてあげるわ」
魔女は満足げに頷いた。
(いいものって何よ……!)
セリーナは心の中で叫びながら、早くこの呪いが解けることを祈るのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本日もう一話投稿します。
次話『呪い、解除』




