お弁当の代わりに婚約者が欲しいもの~不思議娘のグレーシアの場合
なろラジ参加作:タイトルに「お弁当」
「タンジー様」
剣術の稽古を終え、力尽きている僕の元に、学校の秋季休みで帰省中のグレーシアがやってくる。
僕は彼女の声に手を振って応える。
剣術が苦手な僕が、彼女の実家で剣術の稽古に励もうとした理由は、簡単だった。
一つ年下の彼女に『弱いタンジー様はシアが守るのです』と言われれば、流石に彼女よりは強くありたいと思った。
彼女の住むこの国は特に魔獣が多いため、その父も兄も剣術の達人である。婿入りするわけではないけれど、だから、彼女の父親に稽古をつけてもらっている。
「お疲れ様です」
キラキラした大きな碧眼を、何の恥じらいもなく向けてくる、ちょっと妹みたいな存在なんだけど。
今この瞳を向けられると、先程まで扱かれていた彼女の父親を思い出すのも確かなのだけれど。
「シア様は元気だね」
「はい、シアは元気です。朝に剣術のお稽古を終わらせたので、午後からは領内視察です。久し振りに皆様に会うことが出来ます。きっと、美味しいパンもいただけます」
そして、パンを食べることを想像し、両手で頬を覆うと、嬉しそうにする。
「お弁当を持って参りましたわ」
蓋を開けると、色彩豊かな野菜のタレに絡まる肉団子、根野菜の煮物、魚のムニエルと主食だろう米とその上に掛けられたいり卵。
だけど、こうやってお弁当を持ってきてくれる行為は、僕が学校にいた時も月に一度あった。
「美味しそう」
一国のお姫様なのに『手ずから』を全く気にしない。僕が会ってきたお姫様達は、自分が選んだものに誇りを持つことが多かったから、彼女は本当に変わっている。
もちろん彼女が目利きでない、というわけでもないのだ。
実際、彼女が慕う者たちは皆それぞれに特筆すべきものがあり、それを見出しているのが、彼女、グレーシアなのだから。
そこに僕が含まれているということは、本当に光栄なことなのかもしれない。
「明後日学校へ戻るんだよね」
「はい。また寮のご飯が食べられますので楽しみです」
頬に両手をあてて喜ぶ姿を見て、確信した。
笑ってしまいそうになるのを堪え、次の句を彼女に掛ける。
「食券もらいに来たでしょう?」
やっぱり。大きな瞳を丸くしたグレーシアが僕を褒める。
「凄いのです」
「そのくらい分かるよ」
だって、君は月に一度、学食が食べたいからってお弁当を持ってきて、次の日に余った食券を僕からもらうのが習慣だったんだもの。
そんなものを喜ぶ姿も、僕はとても好きだったんだもの。
分かるに決まっている。
自作長編にある日常の一コマを描いていますので、初見の方には彼らの生きている世界背景が少し分かりにくかったかもしれません。そのあたりは、気にしないで、こんなふたりなんだなぁと思っていただけるとありがたいです。1000文字ジャストにできたので、投稿したくて<(_ _)>
お読みくださりありがとうございました。
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