第5話 少年と少女は計画する②
神子さんと、ぼっち仲間の初日を過ごした夜、僕は自分の部屋のベッドの上で悩んでいた。体育祭までに生徒会に知り合いを作るには、どうしたらいいのか。
僕は悩みながら3つの作戦を思いついた。
1つ目は、1週間後に生徒会による持ち物検査があり、あえて僕の禁書を持っていき、風紀委員に捕まることで、それをツテに生徒会とお知り合いになる作戦。
2つ目は、生徒会長の行動を綿密に調査し、その上で生徒会室の前で会長を待ち伏せして、体育祭での協力を仰げないか直訴する作戦。
3つ目は、担任の木村先生に、生徒会活動に興味があると伝え、そこから生徒会メンバーとの面談につなげる作戦。
ただし、どの案もリスクが高く、1つ目は大切な禁書没収リスク、2つ目は生徒会長のストーカーと疑われるリスク、3つ目は話が順当に行き過ぎた場合、生徒会入会を断れなくなるリスクがあった。
僕の生徒会イメージは、会長と副会長が恋愛頭脳戦をしていたり、ピアノが得意で風変わりなお嬢様書記がいたりする、マッタリした活動を思い描いていた。
そんなライトノベル的な雰囲気であればよかったのだが、立命高校はカリスマ性あふれる女王様、もとい生徒会長により統べられている、かなり厳しめの生徒会だそうた。
僕は色々と悩む中、まず5人の生徒と知り合いになり、そこから生徒会に繋げていく知り合いの知り合い作戦でいくことにした。
とはいえ、高校デビューに失敗している人間には、勧誘の終わりかけた部活や委員会活動を見学するのも難しいし……と思ったが、悩んだところでしかたない。
まずは生徒会と双璧をなすといわれている、図書委員会をあたることにした。
というのも、図書委員会は立命高校の中で、本の貸し出しや蔵書管理だけではなく、委員長や副委員長、書記や会計が、図書館展示物の企画や広報までをこなす、本格的な委員会なのである。
特に新刊書籍の選別や研究図書の予算配分にまで影響力を持っているため、生徒会とも何かしら繋がれる可能性があるのだ。
僕は翌日の午後の授業と終礼がおわると、さっそく図書館に向かった。
カウンター当番をしている子に、僕が委員会に興味があると話をして、委員長への取次ぎを頼むためだ。
カウンターでは何人かが交代で当番をしており、文学女子風の子もいれば、爽やかメガネ男子や、お姉さま系の子もいた。
僕はタイミングをみて、一番話しやすそうな文学女子風の子に、何とか声をかけることができた。
「すいませんっ」
少し声が裏返ってしまったが、
「何か御用ですか?」
彼女は落ち着いた声でそう答えてくれた。
「僕は1Cの大城洋一と言いますが、実は図書委員会の活動に興味があって……」
僕が何とか要件を伝えると、
「1年の大城さんですか。図書委員会に興味がおありなんですね」
「はい!僕は本が大好きなので、ぜひ図書委員会の事を知りたいんです」
本当に本は好きなので、僕は熱っぽく話してみた。
「わかりました、委員長と面談のお約束をさせて貰ってもいいですか」
彼女はどうやら、図書委員会の委員長との約束を取り付けてくれるようだ。
取り次ぎには少し時間がかかるらしく、僕は図書室の中を探索することにした。
蔵書数は県立図書館に及ばないが、大学からの寄贈分も含め、かなりの量である。
科学系や哲学系、心理学系など様々な書籍に加え、サブカル系や純文学、ライトノベルまで揃えていることには脱帽した。
それから、先ほどの文学女子が少しだけ図書館内を案内してくれた
僕は心理学系の本が大好きなので、本来の目的を忘れて思わず数冊の本を読みこんでいた。その姿をみて、彼女は「大城さんは、本当に本がお好きなんですね」と言ってくれた。
そして、僕は3日後に図書委員会の委員長と面談することになったのだ。
次の日も、保健室で神子さんと昼ご飯を食べた後、作戦経過を話し合っていた。
あの事件以降、陽キャグループは神子さんに手をだしてはいなかったが、僕や高橋くんのことを調べているようで、何かしらの行動に移ってくる可能性はありそうだった。
僕は、1Eの高橋くんに先日のお礼を伝えていなかったことと、今後起こるかもしれないことについて、話をしたいと考えていた。
そこで作戦会議の後、昼休みの時間がまだ残っていたので、僕は1Eに足をのばすことにした。
神子さんもついていこうかと言ってくれたが、彼女と1Hのグループが鉢合わせる可能性があり、「僕の方が自由に動けるから」と伝え、申し訳なさそうな彼女に「心配しなくていいよ、ありがとう」とお礼を言って、1Eに向かった。
教室に入り、近くの生徒に「高橋くんはこのクラスにいますか」と伝えると、教室の一番奥、窓側の席を指さし「あの席だけど、昼休みは教室にいないよ」と言われ、僕は少し困惑した。
ただ、そういえば自主トレをしている可能性を思い返し、僕は用具倉庫の方に歩いて行った。
ほどなくすると、用具倉庫の前で、ストレッチをしている高橋くんをみつけたので声をかけた。
「高橋くん、この前は本当にありがとう」
「おお。君はこの前の、確か名前は……」
「僕は大城、大城洋一というんだ。クラスは1Cなんだ」
「悪いね、名前を覚えるのが得意ではないんだ。1Cの大城くんだね」
よく見ると背は高いのに身体は引き締まっており、一目で厳しい鍛錬を続けていることが分かる。
髙橋くんはストレッチをしながら、僕に声をかけてきた。
「この前のことは気にしないでくれ。俺も見過ごせなかったのでね」
僕は彼にこう言った。
「本当に面倒ごとに巻き込んでゴメン。彼らは高校の陽キャグループで、君にも嫌がらせをしてくるかもしれないんだ」
髙橋くんは笑いながらこう答えた。
「俺は高校からの入学生で、普段は授業とトレーニングのために学校に来ているようなもんだから。学校ではぼっちで、嫌がらせをされても困ることはないし、気にもしてないよ」
話を聞くと、高橋くんは中学からボクシングジムに練習生として通うようになり、午後4時から毎日休みなく3年以上トレーニングを続けているとのことだった。
彼は高校卒業後にプロボクサーを目指したいと考えており、立命高校に入ったのは午前中から勉学に集中しやすい環境であったことと、授業の質が高く、かつ夕方遅くまで授業がないため、午後4時からのトレーニングを続けられることが理由とのことだった。
だから、学校で友達を作る暇もないし、日々懸命に努力をしていることから、周りの事を全く気にしていないのである。
高橋くんの眩しい生き方に心を打たれ、僕は右目のことや神子さんのことを話していいかと思った。
用具室の横でストレッチを終え、教室に戻ろうとする高橋くんに僕は声をかけた。
「高橋くん、君に謝らないといけないことがあるんだ」
「どうしたんだい、藪から棒に」
「僕が君を探したのは、この前もお礼も勿論あるけど、彼女と僕のボディガードを頼もうと考えたんだ」
「恥ずかしながら、僕は君の力を利用しようと思ってた」
僕は右目の漆黒色の義眼を外して高橋くんに向き合った。
髙橋くんはその姿に少し驚いたが、すぐ元の表情に戻った。
「僕は人と上手くやることが苦手なんだ。でも君と話をして、その真剣な生き方に感銘を受けたんだ。だから、僕のぼっち仲間になってくれないか」
髙橋くんはこう答えた。
「あの状況で、一人女の子をかばおうとした男に悪い奴はいないと思ってる」
「ただ、俺はボクシングが最優先だから、何かあれば協力するぐらいの関係であれば仲間になってもいい。あと同級生なんだし、俺のことは良介でいいから」
僕は彼の目をまっすぐ見て、すこし気恥ずかしいが感謝の言葉を紡ぐ。
「ありがとう……良介。僕も君に何かあれば全力で協力させてくれ」
彼をぼっち仲間グループに招待し、信頼できるぼっち仲間を得ることが出来た。
ちょうど昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、僕は義眼を装着して2人急いで校舎に戻っていった。
ー図書委員会の委員長との面談まであと2日ー