第4話 少年と少女は計画する①
鏡の前には、朝の用意を整える僕の姿があった。
今日からの高校生活を考え、冷たい水で顔を洗い、髪をセットして義眼を装着し、気合を入れて準備を整える。
昨日はあれから、神子さんと僕はラインのぼっち仲間グループを作り、互いの連絡先を交換した。
正直なところ、僕は彼女に見惚れたことは確かであったが、下手に恋心を持たないことで、自分が傷つかないようにしている僕の予防線を甘く見ないで欲しい。
仲間イベントから恋愛に発展するのはライトノベルの中だけの妄想、いや夢物語にすぎないのだ。
登校した僕はいつも通り、教室に入ると軽くあいさつをして、自分の席についた。
神子さんの机をみると、彼女はもうすでに登校して、自分の席についていた。
表情は見えなかったけど、僕の目には、ぼっち仲間ができた彼女は、いつもより心なしか元気そうにみえた。
クラスカーストで最下層に位置する僕や神子さんは、基本的に目立つことはしないようにしており、昼食は図書館のそばにある隠れ家ポイントかと思っていたが、彼女は保健室の先生と相談してくれたのか、昼休みは保健室で時間を過ごすことができそうだった。
だから昼休みになると、僕はビタビタゼリーとカフェオレをもって保健室に向かった。
保健室に入ると、まず保健室の先生に挨拶し、神子さんが座っている椅子に向かっていった。そこには、神子さんが昼ご飯を食べようとして準備をしていた。
彼女は僕に声をかける。「大城くん、昨日はありがとう。ぼっち仲間として今日からよろしくね」
僕は彼女から少し離れた椅子に座り、その声に頷いて「こちらこそよろしく」と答えた。
僕と彼女は緊張しており、お互い積極的に話をすることはなかったけど、久しぶりに誰かと一緒に昼食をとることができて、とても嬉しかった。
彼女の昼ご飯は菓子パンと牛乳で、僕は彼女が食事をしている姿をみてなぜか少し安心した。
食事を食べ終わると、僕は彼女と向き合い、今後の計画を立てようということになった。なぜなら、保健室で3年間、昼休みをずっと過ごすわけにはいかないだろうし、彼女を虐めているグループの人たちとも話し合いをする必要を感じたからだ。
思い切って、僕は彼女を虐めている陽キャグループの人たちについて聞くこととした。彼らは神子さんとどんな関係で、いつ頃から彼女に対して、嫌がらせをしてくるようになったのかを。
そして、僕は彼女と陽キャグループとの関係や、彼らに対してどのように対応していきたいか、彼女の意思を確認した。彼女の思いは「ただ普通の高校生の女の子として過ごしていきたい」、それだけだった。
僕は彼女の役にたつことを高校生活の目標にしたからには、彼女の夢をかなえてあげなければならない。でもそのためにはどうしたらいいか。
まず手始めに、保健室の先生には彼女が抱えている事情を説明し、しばらくは昼休みに作戦会議の場として、保健室を使わせて貰うようにお願いすることとした。
そして彼女の話では、彼らは付属中からの進学生が多い1Hのカースト上位の男女5人組であることが分かった。中学入学時から彼らは野球部やサッカー部で仲が良く、女子生徒はそのマネージャーだそうだ。
神子さんは右足が義足であったことから、運動は苦手分野で、体育の授業は遅れがちであったことから、スポーツが得意な彼らにとっては、目障りな存在だったらしい。
また、中学時代の彼女は1年だけ生徒会の風紀委員をしていたことがあり、その際に素行があまり良くなかった彼らに対しても、ひるまずに意見をしていた様である。
そんなこともあり、彼らは神子さんをターゲットに苛めを始めたのである。
確かに陽キャグループたちは素行は良くないようであるが、競技大会で優秀な成績を残している事から、中学校の先生や周りの生徒達も表立って注意することができず、彼らの行動について見て見ぬふりをしてきたそうだ。
そんな話を聞いた後、ぼくは解決策について頭を悩ませた。
つまり、彼女は厄介な人たちに目をつけられている。
学校の特に付属中からの進学生は、神子さんを助けるために協力してくれる人は少ないかもしれない。
ただ、陽キャグループとしっかり話をするためには、一人一人のことをもう少し知る必要があった。そして話をするときには、公の場面で話し合う状況を作りださなければならないのだ。望まないけど、彼らが暴力に訴えてきた場合には、抑止力として1Eの高橋君に協力をお願いすることも必要かもしれない。
彼らと自分たちのどちらが正しいかという視点では、物事は解決しないのだ。彼らが神子さんを面罵するのは、目的があるに違いなく、相手より優位な立場を示すことで自らの力を示したいのだろう。だから、彼らを言い負かしたとしても、復讐を画策し、報復してくるに違いない。
勝ち負けにこだわると、正しい選択ができない訳である。つまり、お互いにとっての落としどころが難しいのである。
彼らを刺激することなく話し合いを行い、彼ら自身から神子さんに対する苛めを止めるよう仕向け、また衆目もその話し合いを見届けることで、集団による抑止力が働くと僕は考えた。
そうなると、6月の体育祭がその舞台として一番であり、ただ学校行事である以上、生徒会に知り合いがいなければ、公の場面を作り出すこと=計画を進めるのが難しい訳である。
僕は頭を抱えつつも、昼ご飯のビタビタゼリーとカフェオレを飲み干すと、神子さんに目をやった。
はにかみながらも、少しだけ微笑んだ彼女の顔をみると、ぼくはこう思った。
「護りたい、この笑顔」