突然の絶望
「じゃ、今日の18時に駅前で」
「あぁ、わかった」
俺は村上春斗。高校を卒業し、大学生になったばかりの18歳。雲ひとつない晴天の日曜日、彼女と夏祭りに行く約束をして一旦帰宅。彼女は友達との約束で準備を兼ねて買い物へ行ったため、同棲中のアパートに帰って身体を休めていた。
彼女の名前は白井真希。俺と同じ18歳で高校時代から付き合っていて、彼女の両親とも仲が良く、既に結婚の了承をもらっていた。
大学に通いながら焼肉屋でアルバイトをして、結婚資金やその後の生活費をコツコツ貯めながら就職先を探しているがなかなか見つからない。「春斗なら大丈夫」と真希に励まされながら日々を過ごしていた。
「今年も夏祭り一緒に行こ」
彼女に誘われ約束したが、いつも行ってるこの夏祭りが俺たちの運命に終止符をうつなど夢にも思わなかった。
「遅いな」
約束の30分前、彼女は既に俺を待っていたが昼寝をしていた俺はうっかり寝過ごしてしまい、遅刻してしまった。
「はぁ……はぁ……お待たせ」
「もう! 遅いよ」
「すまん」
必死に謝るも彼女の機嫌は直るどころか悪くなる一方。不満そうな表情で俺を見つめてくる。
「なんだよ」
「なんか気づかないの?」
そう言われ彼女を見ると、真新しい水色の浴衣に身を包んでいた。どうやら今までの赤い浴衣はボロボロになったので処分したようである。新しい浴衣姿に目を奪われ、しばらく動けなかった。
「なにボーッとしてんの? 行くよ」
「あぁ」
「罰として今日は全部春斗の奢りだからね」
「へいへい」
彼女と手をつなぎながら、いろんな露店を見て歩いたりゲームをしたり美味しいものを食べたり。こんな幸せがずっと続いてほしいと思っていると夏祭りも終わりに近づき、何発かの花火が打ち上げる。
――ドーン! ドーン!――
まるで俺たちを祝福してくれているかのようなたくさんの花火……このあとの大事件など誰が予想できただろうか? 帰ろうと祭りの会場を出てしばらく歩き、横断歩道に差し掛かった時だった。
「春斗! 危ない!」
――キキー! ドーン!――
前方不注意の車が俺たちに突っ込んできた。真希に突き飛ばされた俺は怪我もなく助かったが気づいた時には手遅れだった。
「真希! 真希! おい真希」
周りの素早い対応ですぐ救急車と警察が駆けつけ、運転手は逮捕され彼女は病院に運ばれたが間に合わなかった。医師から「既に息を引き取られています」と告げられた瞬間、俺は膝から崩れ落ちて泣き叫ぶしかできなかった。
「真希! 真希!」
医師から連絡を受けた彼女の両親が駆けつけてきて事実を知った途端。
「春斗、お前がいてどうしてこんなことに」
「やめてあなた! 春斗くんのせいじゃないわ」
胸ぐらをつかんできた父親とそれを止める母親。医師から詳しい説明を受けても父親だけが納得してくれなかった。
「あなた、真希は春斗くんを助けたの。春斗くんも助けようとしたけど気づいたらもう……」
「真希に怪我させてでも命を守ろうと思わなかったのか! お前のせいで真希は」
「だから間に合わなかったって言ってるでしょ!」
二人で激しい言い争いが始まる中、医師と俺が必死に宥めるが正直、頭を下げて泣いて謝るので精一杯だった。楽しかった夏祭りが一変し、突然の絶望を若くして味わってしまったせいで俺はしばらく家から出られなくなってしまう。
「また来年も来ようね」
「もちろんさ」
これが俺たちの最後の会話。この約束が果たされることはもう二度とないのだ。