副業に適性しかない?じゃあそれでいっぱい稼ぐか!!
通貨の単位は「ネル」と言う。
通貨には二種類ある。紙幣と貨幣だ。
紙幣には三種類ある。100ネル紙幣、1000ネル紙幣、10000ネル紙幣。
貨幣には四種類ある。1ネル玉、5ネル銅貨、10ネル銀貨、50ネル金貨。
俺の財布には、銀貨が一枚。暗算の得意な俺は、すぐに合計金額を導き出せた。10ネルだ。...果たしてこれで明日まで食いつなげられるのか?(注釈:1ネルは日本円にしておよそ10円)
究極の節約は『何もしない』だという。よって、まだ夕方だが俺はベッドへ向かった。この体たらくに自分でも少し呆れてしまうが、貧乏人には貧乏人の知恵があるのだ。 俺は空きっ腹でなかなか寝付けなかったが、無理矢理目を閉じた。
お察し通り、朝起きてすぐ思った事も『空腹だぁ!』だ。いやもう、それはそれは人生に於いて二番目くらいに。
でも考える暇はない。俺はすぐに仕事へ出なければいけないのだ。
俺は手早くカバンにタバコや水筒などを放り込むと、足早に家を出た。
10分だった、移動時間は。だがその間の俺の頭を占拠していたのは、『腹が減った』だけなのだ。歩いていただけなのに。しかも道中には、俺への当てつけのように、いい匂いをプンプン発する焼き鳥屋やパン屋があったのだ。俺の胃袋を刺激する為だけに存在しているように。
着いた所は、人通りの多い道路だ。昨日は「まずこの場所に来てくれ」と言われた通りに、まずこの場所に来た。
俺を待っていたのは、俺にこの仕事を紹介した張本人の彼だった。
「おはようロールキ君。時間通りに来るとはなかなか意識が高いじゃないか」
彼は軽く手を振りながらにこやかにそう言った。俺は挨拶を返し、「さっさと仕事詳細を教えてくれ」と切り出した。
彼は足元に置いていた箱を指差しながら、説明を始めた。
「まず君には、ここらの道のゴミを拾ってほしい。集めたらこの箱に入っているビニール袋に。手袋やらもここに入っているからそれを使うといい」
そして彼はポケットから銀色の球体を取り出し、掲げた。
「これは君の仕事ぶりを確認する、自動追尾カメラだよ。ま、サボったりさえしなければ気にする必要は無いさ」
言い終わると彼は、その球体を手から離した。
「おい、危ないじゃないか」
俺がそう口に出しかけた時、球体は微かな機械音を発しながら宙へ浮かんで見せたのだ。
この機械が行っているのはは反重力魔法か、それとも超軽量化魔法だろうか?なんて考えていると、彼は「んじゃ。掃除が終わった頃合いにまた来るね」と言って去っていった。
「さて、やりますか」
箱から取り出した手袋をはめながら、俺は道のゴミを探した。
タバコや菓子の袋をつまみ、ビニール袋へ入れる。そんな単調な作業だ。気が逸れて空腹が紛れはするが。
そういう頭が暇な時に俺は、いつも何かしら考え事をするのが癖だ。
冒険者を志す者、魔法の仕組みはいつでも言えないとダメだろう。よし、いい機会だ、魔法の仕組みをおさらいしておこう。
魔法とは、魔気をエネルギーに変換し放出することである。
魔気とは、空気中に存在している物質のことである。魔気は魔法などにより消費されるが、世界のあちこちにある『パワーストーン』がそれらを放出している。パワーストーンの性質として、周りの魔気の濃度が薄いほどたくさん魔気を放出する。つまりこの性質があるから、魔気の濃度はおおよそ一定に保たれているのだ。
ちなみに魔術とは、複数の魔法を組み合わせて相乗効果を出したり、コンボのように活用したりすることである。まぁ、魔法のワンランク上といった所だろうか。
さて、おおよそ設定が分かってくれただろうか、読者諸君。...ん?セッテイって何だ、ドクシャって何のことだ?
そう考えているうちに、結構な数のゴミが拾えていたらしい。袋が結構膨らんできた。俺は新しい袋に変えようと箱の所へ戻り、ついでだからと休憩をした。
5分休むだけでもだいぶ違った。痛くなりつつある腰を伸ばせた、それで十分だ。だが、それだけではなかった。
休憩中に水筒の水を飲んでいると、ふとアイデアが閃いたのだ。
俺は急いでゴミ袋の中からペットボトルをいくつか取り出し、手に持ったまま走り出した。行き先は、公園である。
公園では無料で水が汲めるなんて幸せだなあと思いながら、水洗いしたボトルにたっぷり水を注いだ。全部に水が入ると流石に重いが、それでも俺は風のようにまた仕事場へ戻った。
仕事場に戻った俺は、ペットボトルの水を全部道にぶちまけた!側からみると完全なる変人だが、これにはちゃんと意味があるのだ。
俺は何が得意なのか、思い出して欲しい。そう、水魔法だ。水魔法にも様々な種類があるが、基本的には「水を思いのままに動かす」魔法だ。つまり俺は、水を自由に動かせるのだ。
軽く手をかざして念じるだけで、道路に広がっていた水は丸く集まり、そして手足のように動き始めた。
液体でゴミという固体を持つのは少しコツが要ったが、慣れれば自分は一切動かずにどんどんゴミを拾うことが出来た。
この体制を始めてから小一時間、ここら一帯のゴミは恐るべき早さで拾い終わったのだ。
ゴミがもう無いのを確認した俺はカバンからタバコを取り出し、彼が来るまでそれをふかしながら待った。
丁度一本目が終わったタイミングで彼はすぐに来た。
「まさかこんなに早く終わるなんて...!」
彼は心底感心したようにそう言った。そしてこう続けた。
「もう今日の仕事は終わったけれど...また午後からもやるかい?」
答えは1つ。
「はい、やりたいです」
「オッケ。じゃあ午後は〇〇に来て」
「分かりました」
会話は終わり、2人とも別々の方へ歩き出したタイミングで、彼は振り向いて言った。
「日給は口座に入れてるからね!」
至り尽せりだ。
そうして俺は、引き出したてのお金で、約30時間振りのご飯を食べましたとさ。めでたしめでたし。