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10-7(31)

〈ピィ――ポ!〉〈ピィ――ポ!〉〈ピィ――ポ!〉……


 遠くから鳴り響くサイレン音が次第に大きくそして鳴り止むと、レストラン

のスタッフらしき女性と共に3名の救命隊員の男性が小走りで僕たち近づいた。


「彼女、30分ほど前から急に胸が苦しいって」

「なるほど、分かりました」

「すぐに楽なるからね~」と隊員はストレチャーの準備、受け入れ病院の確認

などそれぞれの持ち場を手際よくこなしながら淡々と作業を推し進めた。

「呼吸は26、脈は120。あと軽いチアノーゼが見られます」

「呼吸もかなり乱れてるな」「ストレチャー用意して!」


 ストレチャーで救急車内に運ばれた彼女には直ちに人工呼吸器が用意され、

隊員がモニターを見つめながら調整し始めた。


「FiO2は0.6でいいですか?」

「あぁ、0.6でいいよ」

「マスク付けるね。もうちょっとの辛抱だからね」

「ファイティングしてない?」

「大丈夫ですね。今のところ綺麗な波形です」

「どう苦しくない?」

「苦しくないんだね」「よし、こっちもOK。とりあえずこれで様子を見よう」


 人工呼吸器のお陰でそれまでの荒々しい息づかいがまるで嘘のように

消え去ると、彼女は穏やかな表情を浮かべながら静かに目を閉じた。


「あの~ 彼女、大丈夫でしょうか?」

「まっ、とりあえず安心していいと思います」

「いや~ 助かりました。本当にありがとうございました」

「いえいえ、これが私たちの仕事ですから」


 僕は穏やかな表情で眠る彼女に近づくと、そっと彼女の左手を両手で握り締め

ゆっくり彼女に視線を移した。

 懐疑心ゆえ、直に彼女の口から容態を聞くまで納得出来ない僕は彼女の目覚め

を強く期待するも叶わず、救急車は緊急車両専用の地下駐車場へ……。

 ドアが開くなり待機していた看護師の誘導で彼女は処置室へと運ばれ、僕は

廊下の長椅子に腰掛けひたすら彼女の無事を願い続けた。

 そして2時間が過ぎた頃、俯く僕に看護師の女性からそっと声掛けられた。


「ご親族の方ですね」

「あっ、はい。彼女、容態はどうなんですか?」

「今のところ呼吸も安定してますのでご安心ください」

「良かった~ お世話になりありがとうございました」

「いえ……」「実は担当の医師からお嬢さんの病状について説明があるので今、

よろしいでしょうか?」

「もちろんです」と僕は立ち上がり、彼女の案内でカンファレンスルームへと

向かった。


――

―――


「担当医の滝沢です。どうぞ、お掛けください」

「この度お世話なりありがとうございました」

「いえ、いえ。とりあえず呼吸が安定してるんで今のところは大丈夫だと

思うんですが……」

「今のところは、ですか」

「えぇ、まぁ。実は検査結果から見て、かなり厳しいですね」

「やはりそうですか」

「三宅さん、ご存知なんですか?」

「えぇ、彼女からある程度聞いてたんで」

「だったらどうしてこんなになるまで放置したんですか?」「確かに以前は

難病でほぼ根治は不可能な病でしたが、今は初期段階に適切な治療を行えば

助かる病なんですよ」

「えっ、そうなんですか!」

「彼女の場合ステージで言えば4、つまりこれから痛みも伴うんで緩和ケアを

優先しつつ解決策を模索する方向でよろしいですか?」

「はい、先生にお任せします」

「もう少し早ければな~」と医師は頭を掻きながら検査結果を何度も見返した。


 その後、医師から特別に許可を得た僕は病室に戻り、酸素マスク姿の彼女と

対面した。


「看護師さん、彼女、眠ってるみたいですけど大丈夫ですよね」

「えぇ、特に問題ないですよ。安心してください」

「良かった~」

「私、これからナースステーションに戻りますので、もし何かありましたら

このボタン押してくださいね」

「分かりました。お世話様です」と僕は深々と頭を下げ、彼女が部屋から出る

のを見送ったまさにその時だった!


『うわっ!』


「ふふっ、びっくりした?」

「驚かすなよな~」

「相変わらず小心者ね~」

「いきなり腕掴まれたら誰だって驚くよ」

「どうしたの? 私の顔に何か付いてる? あっ、マスクは付いてるけど」

「かおりちゃん、なの?」

「さぁ~ どっちでしょう?」

「どっちでしょうって? まさか」

「ふふっ! ただいま。レンちゃん! また会えたね」

「……お、おかえりぃ」

「何なのよ~ 私に会えて嬉しくないの? 久々の再会なのにさ。まっ、でも

色々ありがとね、レ~ンちゃん!」

「いや、それはいいんだけど~ いつからなの? いつナオミになったの?」

「そうね~ いつだったかしら? 確かぁ~ パパ活の頃かな」

「そ、そんな前からなの。じゃ、あの反抗期のかおりちゃんってナオミが

演じてたの?」

「そうよ~ 中々の名演技だったでしょ」

「どうしてその時教えてくれなかったんだよ!」

「だって言ったところで何も変わらないでしょ」

「ナオミってホント悪趣味だよな」

「何言ってんのよ! 元はと言えばアンタが誘拐なんて人生棒に振るような

大それた事するからでしょ! せっかく小説家になったのにさ。だから私

あえて嫌われ役演じたのにレンちゃんったらもぉ~ まっ、最後私が熱発した

のは反省するけどさ」


〈コン!〉〈コン!〉


「どうぞ~」

〈あの~ そろそろ時間なんで〉

「あっ、すみません。すぐ退室しますので」

「じゃ~ ナオミ明日も来るからね」

「何言ってんのよ、捕まるわよ」

「いや、いいんだ別に。その時はその時でさ。それに僕は小説家になるため

今まで頑張ってきたワケじゃないからね。もう分かるだろ、ナオミ。全ては

キミに会うためだよ」

「ちょっと~ 何カッコ付けてんのよ。冗談は顔だけにしてよね」

「ナオミ、ちょっと顔赤いんじゃない?」

「レンのバカ!」

「明日は髭の王子様から一転、黒縁メガネ、マスク姿で来るからね!」

「うん、待ってるねって…… ちゃっかり変装するんかい」


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