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10-2(26)

 ホームレスの男性と別れた後、僕はパパ活の待ち合わせ場所を徹底的に

調べ上げると同時に聞き込みも続けた。

 当然ながらはん華街での人捜しは容易ではなく、特に若者からの情報収集

に関しては思いのほか苦戦を強いられた。


『あの~ ちょっと聞きたい事あるんだけどいいかな?』

『はぁ? 何やねん、おっさん。むこういけや!』


『ちょっといいかな? 実は人を捜しててね』

『それやったら警察行けや!』


『あの~ パパ活やってる子捜してるんだけど。ちょっといいかな?』

『きっショ! 何なん、自分? そんなん知らんわ!』


 警戒心が働くのか或いはホームレスに対する拒絶反応なのかは分からないが、

僕は彼らに話すキッカケすら与えて貰えなかった。

 それでも僕は一切諦めることなく聞き込みに加え、人通りが少ない裏通り

をも徹底的に探索し続けた。

 そして何の成果も得られず早3日が過ぎようとした頃、えびす橋で記念撮影

をする観光客をぼんやり眺め、ほんの一瞬視線を下の遊歩道に移した瞬間!!

うなだれる僕にとある衝撃が走った。


(あの派手なスカート、もしかしてかおりちゃん!?)


 僕は写真撮影する観光客をまるで押しのけるかのように橋の縁に近づき、

上半身をめい一杯伸ばしながらその女性を覗き込んだ。

 派手なピンクのミニスカートからスラっと伸びた長い脚、壁に寄り掛かり

スマホを覗き込む彼女の姿は遠目ながらナオミを思わせるほど酷似していた。

 僕は駆け足で木製の階段を降りきり、怪しまれないよう慎重に慎重を

重ねながらゆっくりと彼女に近づくと偶然にも顔を上げた彼女と目が合って

しまった。


(……ち、違った)


「何? おじさん」

「あっ、いや、その~」


 彼女はまるで僕を品定めするかのように視線を足元からゆっくり上げると、

彼女の顔つきが明らかに僕を嫌悪する表情に切り替わった。


「実は人を捜しててね。それでキミのその服装があまりにも似てたからつい

声を掛けちゃったんだ。ごめんね」

「もう分かったから、どっか行ってよ!」

「申し訳ないんだけど今からその子の特徴言うからさ、知ってるか知らないか

だけでいいから。ねっ、頼むよ~」と僕は深々と頭を下げ両手を合わせた。

「どんな特徴?」

「ありがとう。キミ優しいね!」

「もういいからどんな子?」

「年は19歳でキミとそっくりなスカート履いてて、あと色白で今どき珍しく

携帯もスマホも持ってないちょっと変わった子なんだけど、知らないかな?」

「えっと……」

「どう? ウワサだけでもいいんだけど」

「ちなみにおじさんとその子、どういう関係なん?」

「関係ってつまり~ その~ パパ活関係みたいな、そんな感じかな」

「つまりおじさんは前にパパ活で知り合った子にもう一度会いたいって事?」

「そ、そうなんだ。簡単にいうとね」

「じゃ~ その子を保護するとか、そういうんじゃないんやね?」

「もちろん。もう一度会いたい、ただそれだけだよ。でも彼女、スマホ

持ってないからさ~」と僕は呆れ顔で後頭部を掻いた。

「ところでおじさん、その子にいくら払ろたん?」

「えっ、いくらだったかな~」(ヤバイ、パパ活の相場なんて知らないよ~)

「どうしたん? もちろんお金払ろたんやろ」

「うん。たぶんご、5万だったかな」

「え――っ! そんなに払ったん! やっば!」

「ちょっと高かったかな?」

「そんな払って何したん? もしかしてラブホとか行ったん?」

「いや、一緒に食事しただけだよ」

「あかね、やっば!」

「あかね? あかねってキミの友達?」

「あっ!」

「もしかしてそのあかねって子、スマホ持ってないの?」

「うん、まぁね」

「出来ればその子に会わせてもらえないかな?」

「えぇ~ でも」

「何か都合でも悪いの?」

「じゃ~ おじさん、その子紹介したら、私とパパ活してくれる?」

「いいよ。その子の次ってことで」

「じゃ~ ちょっと待ってね!」


 彼女は僕から少し距離を取り、髪をかき上げながらスマホで話し始めた。

 そして話がついたのか、彼女はスマホを小さなバックにしまいながら再び

僕に近づき笑顔で手招きした。


「今ちょうどこの近くにいるみたいやから」

「なんだか悪いね。でも助かったよ」


 僕は彼女の案内で遊歩道を通り抜け、商店街から少し離れた風俗店や飲み屋

が建ち並ぶ裏通りへと向かった。


「そのあかねって子と仲いいの?」

「うん、まぁね。天然っていうかちょっと変やけどね」

「彼女、変わってるの?」

「だってスマホ持ってへんし、カラオケ行っても歌知らんかったり。あと

東京弁やし」

「そうなんだ」

「あっ、おじさんも東京から来たん?」

「うん、そうだけど。関西じゃこの喋り方、ちょっと浮くんだよね」

「ちょっとちゃうで。めっちゃ浮いてるで」

「ははっ、そうかい」「ところでそのあかねって子、スマホなしてどうやって

パパ活してたんだろね」

「そんなのウチらのスマホで出来るやん」

「そうなんだ。じゃ~ キミ達が協力してたんだ」

「スマホ以外もこのスカートだってあかねに貸したし」

「あっ、なるほどね。だって2人とも超スタイルいいもんね!」

「どっちかっていうとウチの方がちょっとだけ脚長いで、ほら!」


 彼女が懸命にケンケンしながら片足を伸ばすも、ほぼ確定的となった彼女

との再開を目前に僕の緊張感が一気に跳ね上がった。


「おじさん、どうしたん。急に黙って」

「えっ、なんかちょっと緊張しちゃってね、ははっ!」

「好きなんやね、あかねのこと」

「ま、まぁね」

「大丈夫なん。もうすぐやで」

              『あっ、まゆみ!』


「お―い! おじさん、連れて来たよ~」


 彼女は笑顔で両手を大きく振りながら小走りで若者の集団へ近づいた。


「あかねは?」

「あかね―っ! まゆみがご指名の客連れて来たって!」

「も~ いったい誰? 私を再指名したい男って?」

「ひ、久しぶり。元気だった?」


『せ、先生!』


「えっ!アンタ、先生なん?」「もしかしてウチを騙したん?」

「いや、僕は学校の先生なんかじゃないよ」

「おい! おっさん、ええんか? 聖職者がパパ活なんかして」とキャップ

を斜めに被ったヒップホップ系の男性が僕に顔を近づけた。

「だから僕は聖職者じゃないってば。ただ彼女に勉強を教えてただけで

どこの学校にも属してないんだよ」

「何やねん、それ」

「先生、私、言ったわよね。これで最後にしょうって」

「あぁ、そうだけどもう一度だけなんとかならないかな?」

「私、そのつもりは一切ないから」と彼女は友人をかき分けるかのように

集団の奥へと消えてしまった。

「ちょっと待ってよ! ねぇ、最後に話だけでも聞いてもらえないかな?」

「おっさんもしつこいなぁ。あんなに嫌がってんだから諦めろや!」と

男性はタバコをほおり投げ、その手で僕の胸ぐらを掴んだ。

「痛ててっ! わ、分かったよ」

「ホンマやろうな。もうストーカーみたいな事二度とすんなよな、おっさん!」

「あぁ……」


 僕が男性の剣幕に圧倒され、その場にへたり込んだまさにその時だった。

 突如、一人の女性が集団をかき分け男性に助けを求めた。


『大変! アツシ、ちょっと来て!』


 手招きする女性の元へ駆け寄る僕たちの視界に飛び込んだのは自販機に

もたれ掛かるように座り込む彼女の姿だった。


「あかね、大丈夫?」

「うん、もう平気。ちょっと立ちくらみしただけだから」

「お水、飲む?」

「うん。ありがとう、まゆみ」


 彼女はペットボトルを受け取ると僕の存在に気づいたのか伏し目がちに

ボソッと呟いた。


「先生、ちょっと来て」

「えっ!」

「私を指名しに来たんでしょ。だからもう一度交渉してあげるわよ」

「あかね、ウチらも行こか?」

「大丈夫。お互い知らない仲じゃないから」


 僕はとりあえず彼女に誘導されるがまま、角にあるコンビニの駐車場まで

やって来た。


「何なのよ、その恰好?」

「最近日雇いの仕事サボり気味でね。で、まぁ、外で寝泊まりするのも

たまにはイイかなって。ちょっと身体臭ってきたけどね」

「そんな哀れな恰好して私に同情して欲しいの?」

「そ、そんなんじゃないよ!」

「そんな事して何になるの? 先生は大人でしょ、社会人でしょ! だったら

こんなの無意味だって事まだ分かんないの! どうして自ら人生を棒に振る

ような事するの! バカな私に分かるように説明してよ!」

「それは~ そもそも僕に全ての責任があるっていうか~」

「責任? 何の責任よ! 先生は私をあの酷い環境から救ってくれた。勉強も

教えてくれた。もうそれで十分じゃない!」

「実はかおりちゃんに謝らないといけないことが……」


『か、かおりちゃん!!』


 突如、彼女は額に手を当てながらまるで崩れるようにその場にしゃがみ

込んだ。


「かおりちゃん、大丈夫?」

〈はぁ〉〈はぁ〉「ちょっとフラっとしただけよ」

「うわっ、凄い熱っ!」「かおりちゃん、ココ動かないでね」と僕は彼女を

残しコンビニへと向かった。


――

―――


「もうすぐタクシー来るからね」

「先生、余計な事しないでよ」〈はぁ〉〈はぁ〉〈うぐっ〉

「かおりちゃん、もしかして気持ち悪い?」「ちょ、ちょっと我慢して」と

僕は大急ぎでバックからビニール袋を取り出した。


〈ゲホ!〉〈ゲホ!〉〈ゲホ!〉……


「全部出た? まだスッキリしないんなら、もうちょっとこうしてよっか」

「はぁ、はぁ、先生の手、汚れちゃったね」

「そんなの気にしなくていいから」

「ありがと、先生。もう大丈夫みたい」

「はい。これで口拭いて」と僕は彼女にテッシュを手渡した。

「ところで先生、どうしてタクシーなんか呼んだの?」

「病院に行かなきゃ。ねっ、かおりちゃん」

「私、病院なんか行かないわよ。はぁ、はぁ、これぐらい平気よ」

「ダメだよ。顔色もよくないし」

「いつもの薬飲めば楽になるわ」と彼女はポシェットからタブレットケース

を取り出した。

「手伝おうか?」

「大丈夫よ」「それより先生、はぁ、はぁ、約束して」

「約束?」

「小説続けるって。そしたら私、パパ活も止めるし病院にも行くから。

それと私、施設に戻るね」

「そ、そんな事したらまたかおりちゃんが……」

「そんなの平気よ。もうあの時の私じゃないんだから心配しないで、先生」

「と、とにかく横になれる場所に移動しよう」


 その後僕たちはタクシーに乗り込み、コンビニにほど近いビジネスホテル

へと向かった。


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