アップルパイとレモンティー
今朝の天気予報では、こんな土砂降りの雨になるなんて言ってなかった。昼過ぎから小雨が降るかもしれないという情報だけを頼りに折り畳み傘を持ってきていたが、間違いなくこれは判断ミスだった。濡れた靴を脱ぎ、ベチョベチョになった靴下の不快感から解放され、適当なタオルで足を拭きながらリビングへと向かう。その廊下には、既に待ち望んでいたあの香りが漂っていた。
ふと立ち止まり、目を瞑って気持ちを整える。2回深呼吸して、満を持して焦げ茶色のドアを開けると、そこには母親が焼いたアップルパイとお手製のレモンティーがあった。
「お帰りなさい。濡れちゃったね。拭いたら一緒に食べよう。」
焼きたてのアップルパイと、入れたてのレモンティー、それよりも温かい心がそこにはあった。