4話
「ただいまー」
「ラキ、おかえりなさい」
「おじゃましまーす」
「おや、アイナちゃんこんにちは」
「こんにちはラナおばあさん!」
オレンジ色の太陽が地面を照らす中、僕は友達と、今日知り合った白猫さんを連れて帰宅する。
「いつもラキと遊んでくれてありがとうね、アイナちゃん」
「いえ!ラキと遊ぶのはすごく楽しいので!こちらこそありがとうございます」
「アイナちゃんはすごく心が綺麗な子だ......おや?ラキ、その腕の中にいる子はなんだい?」
先ほどから早鐘を打っていた自分の心臓の音がより大きく、そして速くなったのが伝わってくる。もし駄目だと言われたらどうしよう、根拠のない不安が突如として頭の中に現れ、自分の思考を奪っていく。どうしよう......頭が回らない...えっと...えっと......
「ラキ、きっと大丈夫よ」
アイナの声で僕はハッとする。耳元で囁かれた、とても小さな声なのにやけに鮮明に響いた。
そうだよね、お願いする僕がこんなことを思ってたら駄目だよね......よし!
僕は心の中で自分のほっぺたを思いきりパシンと叩き、気合を入れなおす。そして大きく息を吸い──
「ラナおばあちゃん、この子のことうちで飼いたい!!」
「なるほどねぇ......だからあんなに緊張した顔をしてたのかい」
どうやらおばあちゃんに緊張していたことはバレバレだったらしい。でも人生で初めてのお願いだったのでしょうがないと思う。
「ラキ、一つだけ聞かせてもらうよ。その子に対してちゃんと責任が持てるのかい?」
いつもとは雰囲気の違う真剣な眼差しで僕の双眸をじっと見つめるラナおばあちゃん。いつもニコニコしている優しいおばあちゃんからは想像もできないほどの真剣な表情だ。
「うん、この子のことは僕が責任をもって大事にするよ。約束する」
「......ラキ、しっかりとその子の面倒を見るんだよ?」
「...うん!」
今だけ時間が引き延ばされているのではないかと錯覚してしまうほど短くて長い数秒間、ラナおばあちゃんは僕の目を見つめた後、いつものような穏やかな笑みを浮かべる。どうやら僕の真剣さが伝わったようだ。
僕は大きな返事をして、そっと胸を撫で下ろす。棒でも入ったのかと思うほどに固くなっていたからだから自然と力が抜ける。自分でも緊張しているなとは思っていたが、想像以上に緊張していたらしい。
「良かったわねラキ!それに白猫さんも!」
「うん、ありがとうアイナ。アイナのおかげだよ」
「私は何もしてないわよ」
手をひらひらさせて何もしていないというアイナだが、アイナがいなければ僕は緊張のせいで何も言えないまま立ち尽くしていたに違いない。後で何かお返ししないとなぁ。
「それでラキ、その子の名前は一体なんて言うんだい?」
「えっと......」
そういえばそうだ。さっきから白猫さんと言っていたがこれから一緒に過ごすのならば名前は必要だよな。うーん......名前かぁ......
テト。
「ん?アイナ今なんか言った?」
「へ?何も言ってないわよ?」
「そ、そっか。ごめん」
確かに聞こえた。あれは聞き間違いじゃない、自分の頭の中に確かに女の子の声が鳴り響いた。もしかして僕具合悪いのかな?それで幻聴が聞こえたとかなのか...な?
「ラキ?どうかしたのかい?」
「え?あ、ううん。この子の名前はテト!」
「テト......いい名前だね。今日から新しい家族としてよろしく頼むよ、テト」
「にゃあ」
「ふふふ、かわいいねぇ」
「私にはそんな態度取ってなかったのに...むぅ」
ラナおばあちゃんが頭を撫でるとテトは嬉しそうな表情で頭をスリスリとラナおばあちゃんの手に擦り付ける。それを見てラナおばあちゃんは笑みを深め、アイナは不満げな声を上げる。
頭の中に響いた言葉。もしかしたら幻聴なのかもしれない、でも何かしら意味があるような、この白猫さんに沿う名前を付けろと言われているような、そんな気がしてならなかった。
「にゃあ」
「ん?はいはい、こっちおいで?」
ラナおばあちゃんがそういうとテトは僕の腕の中でもぞもぞと動き出し、そしてラナおばあちゃんの腕の中へとするりと移動する。
「ラキ、この子...テトとはどこで出会ったんだい?」
「実は──」
ラナおばあちゃんにテトと森でばったり出くわしたことを説明する。
「おや......それは珍しいねぇ」
「僕も思った。ねぇラナおばあちゃん、森にテトみたいな猫がいるのってやっぱりその...変?」
「うーん...森に猫がいること自体は稀にあるだけどねぇ、私も昔見かけたことがあるし。それでもこんな綺麗な白い毛並みをした猫を見るのは初めてだねぇ」
「そうなんだ......」
「まぁでもこの子はきっといい子だ。何せラキの髪と同じ色の毛をしているからね」
「あ、私もそれ思いました!テトの髪色と似てますよね!」
自分の髪は他の人とは大きく異なっている。雪のように真っ白な色をしているのだ。別に僕自身この髪色のことを嫌っているわけではないけれど、周りの人からはやはり君が悪いと思われている。もしかしたら悪魔の子なのではないか?とかあらぬ噂が立つくらいには。
森で会った時も感じたけど、テトはもしかしたら僕と......
そう考えるとあの時抱いた親近感や、見捨ててはいけないという直感のようなものが明確に形を帯び始める。そして心の中からあの時の自分の判断は正しかったのだなと思えてくる。
もしかしたら群れから追い出されたのかもしれない、ならテトのことを大切に、大切にお世話しなくては。ラナおばあちゃんが僕にしてくれたように。
「にゃあ?」
ラナおばあちゃんの腕の中にいるテトがこちらを不思議そうに見つめる。どうやら無意識のうちにテトのことをじっと見つめてしまっていたらしい。
「改めてこれからよろしくね、テト」
「にゃあ!」
これから新しい家族として、この子と楽しい時間を過ごそう。僕はそう心に誓った。




