3話
「び、びっくりしたぁ.......でも何でこんなところに猫がいるんだ......?」
棒でも入ったのかと思えるほどに固くなっていた体はいつの間にかいつものように自由を取り戻していた。少し荒くなっていた呼吸と心臓の音は安静を取り戻し、不思議と頭の中はいつもよりもクリアに感じられた。
そんな頭の中で一つの大きな疑問が思い浮かぶ。なぜこんなところに猫がいるのだろうか?確かに森に猫がいないこともないけど、それにしてもこんな白い毛並みの猫がいるのは大分珍しい事なのではないだろうか?
「にゃあ」
不思議そうに見つめていると、白猫はこちらの方に鳴き声を上げながら寄ってくる。敵意はない......のかな?
僕はその場にしゃがみ込み、自分の目の前にやって来た白猫と目を合わせる。
「にゃあお」
言葉はもちろん分からないが、なんだか挨拶されている様な気がした。
「こんにちは白猫さん。僕はラキ、君はどうしてこんなところにいるの?」
「にゃあ」
僕の言ってることを理解しているのか、鈴を転がした様な声で返事をしてくれる。
でも何言ってるかわかんないや。しょうがないことなんだけどね。
「君はひとりなの?」
「......にゃあ」
なんて言っているか、詳しくは分からない。それでも分かる。この子は1人なんだと、この子は孤独なんだと。
何故だろうか、不思議と親近感が湧いた。僕の髪の毛と同じ色をしているからかもしれないし、もしラナおばあちゃんとアイナに出会っていなかったら自分もこの白猫と同じようにずっと孤独な人生を生きていたのかもしれない。そう思うと、この子のことを放ってはおけなかった。
「ねぇ、君がもしよかったらなんだけどさ。僕と一緒に来ない?」
「......にゃあ?」
「うん、この森の近くに僕が住んでいる村があるんだ。君が良かったらそこで僕と一緒に過ごさない?」
白猫は僕のことをじーっと見つめる。瞬きをすることなく、僕の頭の中を見通すかのようにただじーっと僕の目を見つめる。そして──
「にゃあ!!」
「うわちょっ!!」
白猫は突然声を上げたかと思えば、僕の顔めがけてぴょんと飛びかかってきた。僕の体は反射的に避けようとするも、しゃがんでいたせいで上手く避けることが出来ず、その場にあおむけで倒れこむことになる。
「っつつ......まったくもう......」
胸のあたりに感じる温かさと重みに苦笑を浮かべながら、僕はそーっと優しく毛並みを楽しむ。これは一緒に行くってことで大丈夫......だよな?
ゴロゴロと喉を鳴らしながら僕の体にスリスリとしている白猫を視界の端で捉えながらそう考える。
「よし、じゃあ行こっか!」
「にゃあ!」
猫を抱えて少し場所をずらしてから体を起こす。とりあえずアイナと合流しよう。それに今からラナおばあちゃんにどうやってお願いするかを考えないとなぁ......。
行き当たりばったりと言ってはなんだが、後先のことを考えずにこの子に一緒に来るかと聞いてしまった。これでもしラナおばあちゃんに駄目だと言われたらどうしよう......。でも今更無理だと言われてもこの子のことは放ってはおけない。この子を一人にさせたくない。
「まぁ、なんとかなる......かな?」
「にゃあ?」
「ううん、こっちの話。ひとまず友達と一緒に来てるからその子と合流しようか」
「にゃあ!」
僕は白猫を抱いたまま、アイナを探しに元来た道を戻る。アイナはまだ木の実を探しているかもしれないが、森の外で待っていたらきっと合流できるだろう。まぁ木の実集めで負けちゃうのはこの際良しとしよう、ほんとはいやだけど。
「ラキ―!......ってどうしたのその猫!!」
森の外に出てしばらく待っていると、ぱっと見でも僕のものより多くの木の実が入っている籠を持ったアイナが森の中から出てくる。
アイナは驚きの表情を浮かべながら小走りでこちらの方に近づいてくる。この子のことが気になって仕方がないらしい。
「実はさっき森の中で出会ったんだ」
「ふーん、珍しいわね」
「ね、僕も初めてだよ」
「ま、いいわ。私はアイナ!よろしくね白猫さん!」
「......にゃ」
「何よその反応!?」
「まぁよろしく」という上から目線の挨拶をされ、驚きと少々の怒りを感じるアイナ。僕にはあんなに元気に挨拶してくれたのに......もしかして相性悪いのかなぁ?
「あーあ、帰りラキに荷物持ってもらおうと思ってたのになぁ。ま、いいわ今回はその白猫さんに免じて許してあげるわ。感謝しなさいよね」
「あ、ありがとう...?」
どうやら僕は大量の木の実を持たされそうになっていたらしい。ありがとう白猫さん、なんとか明日筋肉痛にならなくて済みそうだ。
「それじゃ帰るわよ!それとラナおばあさんのところには私もついてってあげる!その子のこと飼わせてってお願いするんでしょ?」
「そうだけど......いいの?」
「もちろんよ!」
「じゃあお願いするよアイナ、ありがとね」
「ふふん、当然よ」
おばあちゃんにお願いすることは一言も言っていないのによく分かったなぁと感心する。でも一人でお願いするよりもアイナがいた方が話しやすいのは確かなのでここはアイナの厚意に甘えることにしよう。
「それじゃあ行こっか白猫さん」
「にゃあ!」
「ねぇ、私と態度違いすぎじゃない?」
「...にゃあ?」
「...にゃあ?じゃないわよ!」
相性悪いって思ってたけど......そんなことはない...のかな?
そんなことを思いながら僕は村へと足を動かすのだった。




