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プロローグ

 あぁ......自分はここで死ぬんだろうなぁ。


 自分の目の前に広がっている光景を見て自然と理解する。


 自分よりも体の大きい魔獣やこん棒や人間から奪ったのか、鉄製の武具を身に着けている魔獣が、村の作物を荒らしながら自分のいる方向へと近づいてきていた。


「皆は上手く逃げきれたかな......逃げ切れてるといいなぁ」


 今この村には自分以外の人間は一人もいない。不幸中の幸いというやつだ。


 自分は住み慣れた家をとても愛おしいものを見るようにぼんやりと眺める。何故か死に対する恐怖は無かった。自分はこれから死ぬのだ、ただそう感じるだけ。


 死への恐怖以上に自分の頭の中には今までの楽しかったこと、嬉しかったこと、悲しかったことがまるで物語のように頭の中に流れていた。


「......アイナ、ごめんね」


 自分の唯一の友達と言っても過言ではない、幼馴染の顔を思い浮かべる。彼女は今おそらく勇者としての仕事を全うしているのだろう。そんな立派な彼女の友達になれたことを心から嬉しく思う。


「僕が死んだって聞いたらアイナ怒りそうだなぁ......まぁ少しくらいは悲しんでくれるかな」


 そんな彼女のことを出来るだけ悲しませたくはないが、こればっかりは自分の力ではどうしようもない。


「おばあちゃん......もうすぐそっちに行くよ。話したいことがたくさんあるんだ」


 この家でおばあちゃんと一緒に過ごした穏やかで心温まる日々を思い返す。おばあちゃんとは血が繋がっているというわけではない。それでも普通の家族のように、いやそれ以上に心が繋がっていたと思う。


 魔獣の呼吸音、足音、鳴き声が近づいてくるのが分かる。この音が目の前までやってきたら、自分は晴れておばあちゃんとの再会を果たすことになる。そう思えば自然と笑みがこぼれる。


「今まで15年生きてきたけど、本当に色々あったなぁ......」


 目を瞑り、今までの人生に思いを馳せる。良いことは少なかったのかもしれない、というか悪いことの方が多かったのかもしれない。それでも僕は今までの人生に誇りを持てる。素晴らしい人生だったと胸を張って言える。


「楽しかったなぁ......」


 幼き頃、おばあちゃんとアイナと過ごした日々。これがあれば魔獣の大群なんてこれっぽっちも怖くない。手に持っていたナイフをぎゅっと握りしめ、閉じていた目をゆっくりと開ける。


「あ、そういえば......あの子猫は今どうしてるんだろ」


 目開けた時、ふと懐かしい記憶が鮮明に蘇る。自分が7才の時、森の中で白い毛をした子猫を拾い、それから約2年間お世話をしたことを思い出す。何故今このことを思い出したのかは知らないが、こうして思い返してみるとあの時が人生の中で一番楽しかったのかもしれない。


「元気にしてるといいなぁ......ってもう来ちゃったか」


 もう思い出に浸る時間も終了らしい。ぱっと見で20体はいる魔獣達がこちらを見つけ嬉しそうにニヤリと笑う。この村唯一の人間のためそれはそれは嬉しい事だろう。


「待っててね、おばあちゃん。今から最後の戦いだから僕のことちゃんと見守っててね」


 ただでは死なない。一秒でも多く生き残り、一体でも多く魔獣を倒す。それが僕に与えられた最後の使命。ここで勇敢に立ち向かい、おばあちゃんに褒めてもらおう。


「グルァアアアア!!」


 魔獣達が一斉にこちらへと走り出す。自分は足を肩幅に開き、ナイフを構える。戦闘経験はほとんどないが、それでも一体は確実に仕留めて見せる。


「はああああああ!!」


 後数センチで魔獣の群れと衝突する。しかしその直前で不思議なことが起こる。


「ギヤアアア!!」


「っ!?......青い......炎...?」


 魔獣の群れが突如として青い炎に包まれる。魔獣達は苦痛の叫び声を上げながらその場で膝をついて熱さに悶えたり、地面を転がって痛みに苦しみ始める。


「あ、あぶないところだったぁ......」


 初めて聞く女性の声、それなのに何故か懐かしいと感じてしまった。


「大丈夫?怪我はない?」


 尻もちをついていた体を起こし、声のする方へと顔を向ける。


「君は......」


「久しぶり......あぁ...この姿じゃわかんないか」


 少し困った表情を浮かべる少女。そんな彼女は絹のような長い白髪をしており、今まで見たことのない民族的な衣装を身に纏っていた。そしてなんと驚くべきことに頭部には獣のような耳が生えていた。


「久しぶりだね主、私だよ、テトだよ」


「テ...ト......?」


 これは後になって分かったことなのだが、僕が昔助けた猫はどうやらS級魔獣だったらしい。

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