白日の下に晒される
男子の運動部に女子のマネージャーが数人いる部は、バレンタインデーの日に、マネージャー達が個包装されたチョコを選手達に配る、という光景は多分に見られるだろう。
反面、その一ヶ月後のホワイトデーに選手達がマネージャーにチョコを贈り返す、という光景はあまり見られないだろう。
しかし、そこに男女の恋愛関係が生じるなら話は別である。
彼――『相田真』は、とある中学校のサッカー部に所属していて、先月のバレンタインデーにマネージャー達から義理チョコというか、"部チョコ"をいただいた一人である。
それだけなら何のことは無かったのだが、彼にとっての今日は特別な日。
何故ならば、
「(今日はホワイトデー……今日この日こそ、宮前ちゃんに告白してみせる!)」
真の言う「宮前ちゃん」とは、同じサッカー部のマネージャーの一年生、後輩に当たる『宮前御幸』のこと。
朗らかで頑張りやな性格に、人形のような可愛らしい容姿は、部員達の間でも人気である。
そんな彼女にアタックするため一大決心、少ないお小遣いを叩き込んで買った、お高めのチョコレートをスポーツバッグに仕込ませて、いざ登校。
さすがに昼休みに仕掛けるのは、周りの目もあるために愚策。
であればチャンスは放課後、今日の練習が終わった後しかない。
放課後になり、さぁ今日も張り切って練習だ、と意気込んでサッカー部の部室に赴けば。
「よう相田、今日は頑張れよ!」
「気張っていけよ!」
「大丈夫っすよ相田さん、俺らがついてますから!」
何故か部員達から発破をかけられた。
今日は何か特別なトレーニングでもあるのだろうか、と思った真だが、今日のこれからを思えば、どれほど辛いトレーニングが待ち受けていようともやり切ってみせる自信がある。
「おう、よく分からんけど頑張っていこう!」
しかし真の予想に反して、特別なトレーニングらしいトレーニングも無く、下校時間間際になって、今日の練習は終了。
練習前のあの発破は一体何だったのかと思いつつも、最後に顧問の前に全員集合。
連絡事項と、最後に「お疲れっした」の挨拶をするための集合だが、ふと顧問は「あぁそうそう、それとな」と前置きを置いた。
「相田。お前、今日はなんかあるんだろう?」
「へ?」
いきなり名指しで呼ばれた真は目を丸くする。
「おっ、行くか?行くのか?」
「よっしゃー行ったれ真!」
「ここで相田先輩の男気を見せてほしいっすね!」
またしても部員達から発破が。
不自然な発破に、今日これからのことを合わせて考えると……
「え……ちょっ、何でみんな知って……ってか、今ここで!?」
マネージャー達の方からも、
「御幸ちゃん、ファイトっ」
「大丈夫大丈夫、お似合いだから!」
などと、御幸を応援する声が聞こえる。
「はわわわわわ……」
その中心で頬を赤くして待っているのは、御幸である。
ほらほらさぁさぁ、と急かすような逸らせるような視線と声が真を攻めたてる。
「あーもう!分かったよちょっと待ってろ!」
真はダッシュで部室に駆け戻り、
すぐにその小綺麗にラッピングされたそれを持ってくる。
部員達と顧問の間に挟まれるように立つと、彼女を呼ぶ。
「宮前御幸ちゃん!」
「は、はひっ!」
名前を呼ばれて、御幸が慌てた返事をしながら真の対面位置に立つ。
「先月のバレンタインチョコ、ありがとう!これ、ホワイトデーのお返し!」
「あああありがとござましゅっ」
まずはホワイトデーのお返しとして。
そして、
「それと、お、俺は君のことが、す、好きです!付き合ってくださひぃ!!」
告白。
暫しの、沈黙。
「こ」
「……こ?」
「こちら、こそっ、よろしくお願いしま、ゅ……」
瞬間、盛大な拍手と、マネージャー達からの黄色い声が駆け巡り――当然それは校内中に響き渡るわけで、気が付けば周囲にいたサッカー部とは無関係な生徒や職員まで拍手をしてくれている。
今日このあとすぐにでも、真と御幸の関係は知れ渡るだろう。
『白日の下に晒される』とは、まさにこれ。
白日の元に晒されるって、つまりはこういうことです(大嘘)