繰り返す先にあったもの
最終話です。
※わりとグロテスクな場面があります。
だが記憶がある自分とは違い、ローザンナには記憶が無かった。
だから"守ってね"の意味とは、こういうことかと思った。
彼女にまた、あんな辛い思いをさせたくはない。自分が矢面に立って彼女を守る。そう決意した。
そしてまず、ローザンナに全てを話した。
これから起こる全てのこと。結婚し子供が産まれると、その子が聖女であったこと。目の前でその子が殺されてしまったことも……。
最初こそ信じていなかったローザンナだったが、未来を言い当てたことにより、徐々に信じるようになっていった。
ただ一つの計算外。
それは"記憶を保持する者"が他にも居たこと。
しかもそれが、一番厄介な敵だった。
──だから戦争を回避できず、再び二人は捕虜になってしまった。
そして彼は、出産前のローザンナのお腹を切り裂き……無理矢理子供を引き摺り下ろした。拘束されているティアルトは、それを隣で一部始終見せられていた。
「駄目だ、聖女の輝きは未完成だ」
まだ小さな胎児の体は、粉々に砕かれた。
瀕死のローザンナは、最期の力を振り絞ってティアルトに囁く。
「次は、私が、死ぬ。こんな姿…………させたく、ない」
彼女は自分が死ぬと、巻き戻ることを知っている。
だからこそ、こうも願った。
「だから、あなたは私を……殺して」
そしてローザンナは息絶え、また時間が巻き戻った。
どうしてヴィアンノも一緒に巻き戻るのかはわからない。だけど聖女の心臓に触れ、聖女の力に干渉し巻き込まれたのだろう。
確かにあの胸を貫いた時──産まれたばかりの子供の中に、青く光る何かを見たのだ。
だけど三度目の人生が始まると、ローザンナと結婚しない選択をした。もし同じように子供を身籠ったとして、守ることが出来なければ──またあの子が殺される。そんな姿を見せたくなかった。
だけど未練がないわけではない。
だからわざと王命として、遠い国に嫁がせるように仕向けた。ヴィアンノと戦うために、全てを忘れようとしたのだ。
だけどあの日──ローザンナが身籠るはずの日が過ぎると、また時間は巻き戻る。
だけど、それでいいと思った。
他の人と結婚したローザンナは、自分との結婚よりも幸せそうにしていたのだから。
「家を空ける時は必ずプレゼントを置いていってくれるの。恥ずかしいぐらいの愛の言葉と一緒にね」
不思議とあの日が近くなると、ローザンナはティアルトの近くに居た。
嬉しそうに夫のことを語る彼女の顔は、ティアルトが見たことがないぐらい幸せそうな顔だった。
自分よりも幸せにしてくれる相手だったら……だったら身を引いて、永遠に彼女の幸せを見守って行こう。そう決めたのだ。
ただその間にもヴィアンノは、徐々に力を付けてきた。
ティアルトが策を練っても、ヴィアンノはその上を行く。そしてついに、あの日が来る前に──地図から『ドストラム王国』という名前が消えた。
ティアルトが死ぬ前に見た光景。それは沢山の仲間の屍が積み上がった光景だった。
「バカね。あなたは永遠にこの時を生きることになるわよ」
何十回そんな人生を繰り返すと、またあの娘が目の前に現れた。
「それでいい……ローズが幸せだったら、それでいい」
どうせまた時間は巻き戻る。
死んだ人も全て、元通りだ。
だけどそれが──辛くないわけじゃない。
彼女は呆れたように、ため息をつく。
「やっぱりあなた一人だけだと無理だったのね」
彼女はティアルトの手を取ると、暗闇を駆けていく。
その先にあったのは──横たわるローザンナの姿だった。
「次からは二人で頑張ってね。私は早く、あなた達に会いたいんだから」
彼女はローザンナの首に、ペンダントを着けた。
するとペンダントは光を放ち、暗闇を青い光で染めていく。
そしてまた時間の巻き戻りが始まる。
その最中にティアルトは、ある映像が頭の中に飛びこんできた。
無事に子供が産まれたことに喜ぶ二人に、聖女誕生を祝福をする国民の姿。
その産まれた青い髪の女の子は、日に日に大きくなっていく。
やがて一人の男の子が現れ……その子が成長すると、また一人、幼い男の子が現れた。女の子は幸せそうに、二人の世話をしている。
──そしてそれを眺める、ローザンナとティアルト。
見守るローザンナは幸せそうに微笑み、ティアルトは片時も離れず、隣でそれを見守る。
その光景は、紛れもなく"もしも"の世界。
そしてティアルトが一番望んだ未来の光景。
──この未来に行きたい。
そう強く思ったのだ。
そしてまた、時間が巻き戻った。
次こそは、あの未来に行きたい。
だからローザンナと再び結婚する道を選んだ。
彼女を幸せにしよう。そう決意した。
だけどやはりヴィアンノは、それを許さない。
また"聖女誕生"の可能性があると知ると、全力で手に入れようとした。
ローザンナの命は"聖女の体"が作られるまで持てば用済みだ。だから捕まれば瀕死状態であっても──苦しみながら生かされる可能性があった。
何度も彼女に話そうか。そう考えた。
だけど、そうすると……彼女は自分から死を選んでしまうかも知れない。
だったら何も知らない方がいい。
だけど失敗し、あんな子供の姿は見せたくない。
その結果、三度も自分の手で殺すことになってしまった。
記憶があることに気付きながら、三度も彼女を殺すことになってしまったのだ。
*
その後ローザンナとティアルトは、簡素な式を挙げてひっそりと結婚した。
結婚の事は極秘にされ、子供の誕生──百年ぶりの聖女誕生と共に公表されることになった。
聖女が産まれる神託があったから結婚も隠していたと、そう言うことになった。
そしてローザンナへの反感は、聖女誕生により帳消しとなった。
あの悪女の振る舞いは、子供をハンベリル王国やヴィアンノから守るため、わざと追放され雲隠れする振る舞いだったと、そう言うことになった。
戦争の首謀者だったヴィアンノが亡くなり、ティアルトが全力を尽くしたこともあり、ハンベリルとの戦争も避けることができた。
──そして子供が誕生し、四年が過ぎた。
子供はフィリーゼと名付けられ、すくすくと大きく育った。誰に似たのか利発で、頭が随分と良い。
それに聖女の力は本当なのだろう、彼女には未来を言い当てる力があった。
そしてますます、あの日現れた子供に似ていく。
「ねぇお母様、そろそろ弟が来ると思うんだけど」
「えっ……!」
また彼女の突拍子も無い話が始まったが、恐らくこの当たり前と言った口振りだと、その通りの未来になるのだろう。
確かに懐妊かな?と思う兆候はあったのだ。
「でもお父様が嫉妬するから注意して欲しいのよね。ほら自分の子供でも男じゃない?そう言えば知ってる?お父様はね……」
「フィリーゼ」
後ろから現れたティアルトは、ひょいとフィリーゼを抱き上げる。
「世継ぎが産まれると、更に王家は安泰だ。喜ばない理由はないだろう」
ティアルトはニコニコと笑顔なのだが……眉間には物凄い皺が寄っている。
それを見てフィリーゼはぷっと吹き出した。
「さぁお茶の準備はできた。フィリーゼは抱っこで運んであげよう」
そしてローザンナの後ろに、フィリーゼを抱いたティアルトが続く。
数歩歩くとティアルトは、フィリーゼに軽くゲンコツをくらわせる。
「いだっ!」
「おい、何を言おうとしたんだ?」
「お父様の願いよ」
確かにあの時、ティアルトは『ローザンナを守れますように』と願った。
でも厳密に言うと、もう一つある。
ティアルトの願いは
『ローザンナを守れますように』
そしてもう一つ。
『死ぬまでも、死んでからもずっとローザンナと一緒に居れますように』
そう願っていた。
「あーあ、お母様は可哀想だわね。仮に寿命を全うしても、またこんなお父様と人生を歩まなければいけないなんて」
ぶーっと口を尖らせるフィリーゼに、ティアルトは得意気に微笑んだ。
「その分、俺が幸せにすればいいんだろう?」
(いや、その笑顔が怖いんだって!)
何十回と繰り返した人生は……ヤンデレ熟成期間となってしまったようだった。
あーあ、失敗したかなぁ。
なんてそんな事をフィリーゼは思ってしまった。
そして前を行くローザンナが、微笑みながら振り向いた。
「何を話していたの?」
フィリーゼは無邪気に微笑んだ。
「お母様には内緒よ」
──そして後日、医師の診察により妊娠が確認された。
その後順調な妊娠期間を経て、待ち望んだ王子が誕生した。
「私ね、すっかり出産時の痛みを忘れていたわ……」
前回は何がなんでもこの子に会う!という気持ちが先行していた。だから必死すぎて……産まれた後もほっとする気持ちが強くて、何故かすっかりと陣痛の痛みを忘れていた。
「もう、子供はいいわ……」
あと一人誕生することを知っているティアルトとフィリーゼは、顔を見合せて苦笑いしていた。




