初代聖女様の血筋
一度ティアルトと話し合わなければいけない。
そう思うもなかなか機会がやってこない。
と言うのも夕食時に姿を見せていたティアルトが、姿を見せなくなってしまったのだ。
その代わりに一度でも一線を越えてタガが外れたのだろうか。彼はローザンナの寝入りばなにやってくるようになり、問答無用でローザンナを毎晩抱くようになった。
「ティ、ル……」
「まだ喋る余裕があるんだな?」
「…………っん………ぁ」
言いたいことは全て唇で塞がれてしまう。
抵抗しようにも快楽に落とされ、身体を貪り尽くされる。そしてそれが終わると、ティアルトは朝を待たずに部屋を出ていってしまう。
そんな日が、一週間も続いた。
そして──あることに気付いてしまった。
「しまった……」
注意していたが、部屋に閉じ込められて日付の感覚が完全に狂ってしまった。
もう"あの日"が過ぎてしまったのだ。
過去の人生のどれもで──この時に身籠ったであろうという日が過ぎていた。つまりもうローザンナは、子供を身籠っている計算になる。
(ヤバい……)
焦るローザンナに、更に追い討ちがかけられる。
「ティアルト殿下より、部屋のご移動の指示を頂いております」
(やっぱりか……)
侍女が現れテキパキと、ローザンナの荷物の片付けに取り掛かってしまった。
ここからいくつかある脱出ルートは完全に割れていると思ったのだろう。おそらくもっと、厳重な場所に監禁されるはずだ。
「では目立たないように地味目な服に着替えさせてちょうだい」
「はい?」
「あまり移動中、注目を浴びたくないの。お願いね」
そう言うとなるほどと思ったのか、すぐにローザンナの身支度が始まった。
そしてなるべく地味で、侍女にも溶け込むような服への着替えに成功した。
そして部屋を出されたローザンナが連れて行かれたのは──あの王宮の外れにある棟だった。
「最近改装が終わりまして、過ごしやすくなっております」
(いやいや嘘嘘!)
確かローザンナの記憶では、天窓以外に何もない場所だった気がする。入り口を塞がられると、他に出口は無かったハズだ。
もう中に入ってしまえば、脱出は困難だ。
だったら今しかチャンスは無い。
(ごめん!)
ローザンナは一気に道を駆け抜ける。ピンポイントで人気が無い王宮内のルートを走り、王宮の秘密の裏口を目指す。
ちなみにこのルートは、前回の三回目の人生の時にここに連れて来られたルートだ。"罪人"だったローザンナは人目につかないようにする必要があったので、随分と遠回りになるが人気が無く目につかない場所のみを通って連れて来られたのだった。
「ローザンナ様!」
木陰に隠れると、侍女が焦った血相で駆けていくのが見える。
心の中で『ごめんなさい』と謝って、ローザンナは王宮から無事外へと逃げ出したのだった。
*
そしてとりあえず、途中道馬車を拾ってあの場所に向かうことにした。
ローザンナが居るはずだった場所で──二度も最期を迎えた、カトミアル教会だ。
(聖女様、ねぇ……)
この教会では女神が奉られていて、中央の祭壇には、大きな女神の像が鎮座されてある。
ガラスでできた長い髪は眩いほど青色に輝き──それは初代聖女様を倣ったとされている。
元々隣国の王妃だったと言う、初代の聖女様。
生まれつき青い髪色に、両腕に聖痕と言われる聖なる紋章と同じ痣を持って生まれ、聖なる力により国を繁栄に導いたとされている。
元々このカトミアル教会は、初代聖女様の余生を過ごす為に作られたものらしい。
国王である夫の死後、若くして産んだ息子が王へ即位する際、王太后の称号を拒み静かな暮らしを求め、この地にやって来たのだと言う。
そして晩年、密かに一人の子を産んだ。
その後彼女は亡くなり、子供ができなかった当時の王弟夫婦の養子として迎えられ、レーヴライン公爵家が創設されたとされている。
そして聖女の子孫であるレーヴライン公爵家の血筋には、ごく稀にその聖女の力を持つ者が産まれるとされている。
初代聖女様と同じく、産まれた時から青い髪に両腕には聖痕を持ち、聖なる予言の力を持って産まれてくるのだと。その存在は国を繁栄に導くと期待されている。
だから王家は何が何でも、レーヴライン公爵家を取り潰せない。聖女の血筋を絶やすわけには行かないからだ。
王家もその聖女の力にあやかる為に、定期的にレーヴライン公爵家から王妃を娶る。そして数世代空けてその逆が行われ……ということが繰り返し行われている。
逆を言うとレーヴライン公爵家は、聖女の血を絶やさない為だけに存在している家門だ。
聖女誕生の確率を上げるため、多くの子孫を残すことだけが求められている。両親が貴族社会に疲弊しているのはこの為で、父は普通の価値観とは逆に、数多くの愛人を持ち、数多くの子供を作ることが求められている。
そして母──と言うかレーヴライン公爵家に嫁ぐ者は、多くの子供を産み、聖女の血を絶やさない義務と、聖女誕生への期待を背負い続けなければいけない。
だから二人とも……いや二人だけでなく家族全員が、この貴族社会に疲弊しているのだ。




