婚約破棄?もちろん喜んで!
ひっそり新作始めます。
「国王の命におき、ローザンナ・レーヴライン公爵令嬢と王子ティアルトとの婚約破棄を宣言する」
城の大広間にて。沢山の人が集まる舞踏会の中、ドストラム王国の国王が声高らかにそう言い放った。
そして群衆の視線は一気に、ローザンナの方に向けられる。
今のローザンナの出で立ちは、元々派手な顔立ちを強調させるケバケバしい化粧に、こんもりと盛られた縦ロールの髪。それに体のいやらしい部分が強調されたドレスは、王子の婚約者として淑やかさを求める者達が眉を顰める。
だがそんな人々の冷たい視線とは裏腹に──ローザンナはなぜか浮かれていた。
(はい!もちろん喜んで!)
そう言いたい気持ちをぐっと堪え、口を食い縛る。
その表情が、悔しさに満ちた顔に見えたのか。
国王は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「元々ローザンナは目に余る行為が目立っていた。ティアルトの婚約者としてもう何年が経つ?妃教育に身も入らず遊び呆けていたではないか。それに今日の行いは不敬罪にあたる。いくらティアルトが悪いとは言え、毒を盛るなど言語道断だ。そなたの行いは聖女の末裔としてあるまじき行為であり、王家に迎え入れることなんぞできるわけはない!」
「はい!国王陛下のおっしゃる通りにございます!」
威勢良く返事するローザンナに、会場全体にどよめきが起こる。
だがローザンナはちっとも気にしない。
「このような不届きものは、社交界に相応しくありませんでしょう。熟考いたしました結果、カトミアル教会の修道院にて罪を償いさせていただきたいと思います」
「そ、そうか……」
「では世俗を離れる私はこの場に相応しくありませんでしょう。失礼させていただきます」
そしてさっさと踵を翻し、大広間の出口に向かい駆けていく。
全員がぽかんとした表情を浮かべていることには気付かないまま。
(やったー!ついに成功!)
ローザンナはガッツポーズをしながら、颯爽と待機させてあった馬車に乗り込んだ。
行き先は勿論、この国の外れにあるカトミアル教会。これからローザンナが一生過ごすであろう、修道院だ。
勿論、修道院行きは両親からも反対された。
だが婚約破棄に向かい奮闘する姿を見て、思う所があったらしい。
──そこまで思いが強いなら、私達も賛成しよう。
最後はそう言って納得してくれた。
家の取り潰しを心配したが、両親も取り潰し万歳!どうぞお願いします派である。
だからひょっとしたら追いかけてくる心配はしなきゃいけないのかも知れないが。
──待っていてね!
過去に……いや、過去の人生で見たことが頭に浮かぶ。
広い原っぱの中に佇む、重厚な石造りの歴史あるカトミアル教会。
教会の敷地内には孤児院と修道院が併設されており、毎日子供達と一緒に掃除や畑仕事に追われていたこと。
毎週日曜日にはミサが行われ、村人達と共に祈りを捧げた後は、宴を開催し楽しい一時を過ごしたこと。
そのどれもが楽しい思い出で、今の人生ではここに戻ることだけを夢見ていた。
やがて夜が明ける頃には馬車は山道を抜け、視界が一気に開けた。
──ようやく、戻って来れた……!
地平線の向こう側に、小さく灰色の石造りの建物が見える。
これが何度も帰りたいと願っていた、カトミアル教会だ。
(この時だとケイシーは居たかしら?ジェロジェとヴィルバンは恐らく居るだろうから、好物だった野いちごを沢山摘んであげなくちゃ)
ローザンナの頭には、過去に一緒に過ごした子供達の姿が浮かんでいた。
そして馬車は教会の手前に到着し、ウキウキで飛び降りた、その瞬間……だった。
「ローザンナ」
教会の入り口に立つ一人の男性を見て、ローザンナは倒れそうになった。
「な、なんで……!」
夜明けのさわやかな風が、彼の美しいプラチナブロンドの髪を揺らしている。
美しいのは髪だけではない。
透き通るような薄い紫の瞳も、それを強調するような優しく垂れ下がった目尻も。そんな優しそうな目とは対照的な、力強いくっきりとした鼻筋と口元も余すことなく整っている。
そんな美しい顔の持ち主とは、ティアルト王子。
つまり──ローザンナの婚約者だったはずの人物だ。
ローザンナは気を取り直し、どうにか作り笑いを浮かべる。
「今更何の用ですの?王命により私達は婚約破棄になった筈で」
「残念ながらまだ有効だよ?」
「へっ?!」
「だから私は承諾した覚えはない。だからまだ有効だよ?」
「はぁっ?!」
呆気に取られている間に、ひょいとティアルトはローザンナを担ぎ上げた。
「まぁちょっと話でもしようか」
「どど何処で?」
「勿論城に帰るんだよ?」
恐らくティアルトが移動してきたであろう馬車に押し込まれ、ガタンと激しい音を立てて扉が閉められる。
そしてさっきまでティアルトが保っていた爽やかな笑顔は、一瞬にして憎悪を含ませたヤンデレ臭満載の笑顔に変わった。
「俺から逃げられると思うのか?」
顔を背けるローザンナをちっとも気にせずに、強引に頬にキスを落とす。
「愛してるよ」と囁きながら。
──でもあなたは気付いているだろうか。
ローザンナにとってその言葉は、呪いの言葉だ。
なぜなら過去に三度も、その言葉と共に……彼に殺されているのだから。




