Ⅳ 不穏 -11
「北だな」
信の部屋で地図を見つめながら、アランは言った。信も横で頷く。
「間違いないと思う。北に穴が開いているな」
北から入る見たこともない果物。潤う北の都市と、その周りの荒んだ町。
この国は他国と国交がない。北にそびえる険しい山と、西に広がる深い森。南は海が広がっている。初代太陽神が国を造った時、周りの道を全て閉じてしまったそうだ。
他国へ行こうと思っても、道がなくなっている。別に他国との交易を禁止しているわけではないが、行路がないので、交易は国内のみだ。そもそも自分の国の外に国があるなど、思ってもいない人々がほとんどだ。
だが、王太子であるアランはもちろん、他国の存在を知っている。信も蘭もコルに教え込まれた。今思えば、二人を手放す気などなかったのだろう。
そこに、見慣れない果物が入ってくるようになった。さがせば他にもあるかもしれない。それよりも、気になるのは……
「悪いものが流行っているらしいことだよな」
入ってくる悪いものといえば、病気、人買い、麻薬……
「どれも、悪いね。国の病になる」
信の言葉に、アランが呟いた。
「……行ってみるか?」
「誰が?」
即座に信が聞き返す。
「おれとお前」
若干口ごもりながら、アランが言う。信は鼻で笑った。
「調子に乗るな」
即、言い捨てられる。
「あんたは唯一無二だろう?」
唯一無二の相手にあんたとは、恐れ知らずだが、信は真面目だった。
「何かあったら、皆が困る。やめてくれ」
コルの下で働いているうちに、だんだんコルに似てきたな。
アランはため息をついた。ただ、信の言うことは正しい。自分の身体が自分のものではないことは、アランが一番知っていた。
「俺と蘭で行ってくる」
信がそういうのを、アランはしぶしぶ頷いた。
「なぁ、シン」
思いついたように、アランが信を呼んだ。
「なに?」
「針森でのランの名前の呼び方、教えてくれよ」
「……なぜ?」
「呼んでみたいから」
信のこめかみがピクリと動いた。
「……俺の名は、信だ」
ああ、とアランがうなずく。
そうか、お前もだったよなという、アランを残して、信は蘭を探しに部屋を出た。
で、ランは?という声が後ろで聞こえたが、信は聞こえないふりをして、乱暴に扉を閉めた。




