Ⅳ 不穏 -10
「さて、今度は金貸しに行ってみるか」
ガボを食べ終わり、しばらく歩くと、アランが言い出した。
「金貸し?質屋か」
「情報屋だ」
「俺とアランじゃ、怪しまれないか」
一人は少年と言っていいほどの歳だ。若い二人が情報を求めてとなると、目立つ。
「ああ、そうだな」
あっさりアランは認めた。
「じゃあ、お前ひとりで行ってきてくれ」
信がため息をつく。
「腹芸はあまり得意じゃないんだが」
「よく言う」
アランは鼻で笑った。
「後宮では情報取り放題だったじゃないか」
「あれは取られるとも疑っていない、女の子たちからだろ」
信は悪びれもせず言う。
「プロの狸親父からなんて、自信ないよ」
……どの口が言ったのだろう。
金貸し屋でさりげなく情報を取っている信を、少し離れた待合席で、アランは呆れて見ていた。
おどおどした様子で、店を持ちたいのだが、いくら借りられるだろうかとの話から始まって、今はどこの何の産業が上向きなのか、どのあたりが危ないのか、などとまさに言葉巧みに聞いていた。
「北の方が今は良いと聞いたんだが、実際のところ、どうだろう」
信は自信がない様子で、窺うように訊いている。
「ああ、北ね」
窓口の男は複雑な表情を浮かべた。
「確かに景気はいいらしい」
そして、声を潜めて言った。
「でも、景気のいい場所の周りは、なぜかスラム化しているらしい。治安も悪いらしいから、おすすめじゃないよ」
意味ありげな目で、信を見た。
「悪いものが流行っているらしいしね」
今日は巫女姫が巫女たちの舞の練習をご覧になられる。
今朝、指導役の巫女がそう伝えると、巫女たちの間に喜びと緊張が広がった。
三ヵ月後には豊穣祭が行われる。舞姫が選ばれる時期が近付いていた。
二年前の即位の儀以来、巫女姫は巫女たちの前に顔を見せるようになった。普通であったら、即位の儀以降は、巫女姫は部屋に閉じこもってしまうのが普通であったが、この度の巫女姫は神殿の中を見たがった。
まぁ、三年も前に決まってしまったから。
古参の巫女たちはそう囁きあう。これまでは婚礼の儀の一ヵ月前に巫女姫が決まれば、早い方であった。三年も前というのは例がなかった。
三年も前に死ぬ日が分かっているというのは、どういう気持ちだろう。
サラは胸の内でそっと思った。
あの時、わたしがアシュランに気が付いていれば、リンは巫女姫にならなかっただろうか。
三年前の豊穣祭のことを思うたび、サラは夢の中にいるのではないかと錯覚する。豊穣祭より前のリンを思い出すと、どちらが現実か分からなくなる。
あの時の豊穣祭から、去年の豊穣祭まで、サラは舞姫を担ってきた。でも今年あたり、そろそろ若い子がでてくるかもしれない。
大勢の付き巫女に伴われて、巫女姫が姿を現した。白い衣に、白い布を首まで巻いている。
その神々しさに、巫女たちは感嘆の目を向けた。美しく儚くほほ笑む口元。透き通った目。バラ色の頬。確かにこの方は巫女姫だ。
豊穣祭以前のリンとの他愛無いおしゃべりを思い出して、サラはそっと胸を抑えた。




