Ⅳ 不穏 -9
「とりあえず、通りは押さえたけど、どうする?」
昨夜の約束通り、アランと信は町をぶらぶらしていた。アランは念のため、首から頭にかけて布を巻いていた。都で王太子の顔をしっかり覚えている人がいるかもしれないので、念のためだ。顔だけ出ているそのスタイルは、そんなに珍しいものではなかったので、おかしな目で見られることはなかった。
都の大通りや裏通り、信の顔見知りの場所に顔を出したりして、大体の道は歩いた。
信はチラリとも昨夜のことを持ち出さない。
今朝起きて、とりあえず謝罪の言葉の一つでもあるかと思っていたら、さっさと身支度をして部屋を出ていこうとした。呼び止めると、
「一人で着替えられないんだっけ?」
と、見下げたように言われた。そんなことはないと、自分で着替えている間に、信は食堂の方に行ってしまった。
食べ終わったら、すぐに出発となった。
生まれた時から王太子なので、長く歩くことはそうそうない。普通ならそうだが、アランはよくこっそり城を抜け出していた。神殿の町で蘭を助けられたのも、神殿の町での王宮を抜け出し中の時だったからだ。
コルがいつも付いてきたが、連れ戻されることはなかった。ぶつぶつ言いながら、いつも付き合ってくれた。
王宮の城下はアランも何度がお忍びで来ている。しかし、夜、城を空けるわけにはいかないので、遠くに行くことは出来ない。都でも、少し王宮から離れたこの辺りは、アランは初めてだった。
アランは市場を、何気ない様子で見ながら歩いていた。信が話しかけると、答えるものの、どこか上の空だ。
「なんだか、珍しいものが売っているな」
アランは、市場の一角をさした。その店は露天になっていて、野菜や果物が並べられている。確かに、なじみでない野菜や果物も数種類並んでいた。
「ああ、本当だね。確かに見たことがない」
アランは、しばし考えると、その店に向かって行った。
「わぁ、おばさん、こんな果物初めて見るよ」
アランは店番をしていた女に、愛想よく話しかけた。退屈していた女は、機嫌よく応じる。
「そうなんだよ。最近よく、北の方から行商人がやってきてね、珍しい果物や野菜を売ってくれる。どうやら、今年は豊作らしくてね、いつもは村で食べてしまうのを、余っちまうんでって、ここまで持って来るんだとよ。食べていくかい?」
女はペラペラしゃべってくれる。よっぽど暇を持て余していたのだろう。
「ああ、じゃあ一つもらおうかな。切ってくれるかい?」
後ろから、信が言った。女はガボという赤い果物を半分に切ってくれた。
「これで掬ってお食べ」
と、匙まで渡してくれる。
信が食べながら、言った。
「でも、都までわざわざ運んでくるなんて、ご苦労なことだね。運び賃も馬鹿にならないだろうに」
「さあね、他に運ぶものでもあるんじゃないのかい」
女は興味なさそうに言って、また店番に戻っていった。




