Ⅳ 不穏 -4
馬車が裏上門に到着すると、待っていた警備兵に門が開かれた。キースが気安く挨拶をする。
「やぁ、信」
警備兵は見事にそれを無視して、奥に座っている蘭に挨拶した。
「やぁ、蘭。元気だった?」
信はあれからずっと兵士勤めだ。蘭が辞めた時、一緒に辞めると申し出たが、アランとコルに一蹴された。
蘭がいないのなら、ここにいる意味がない、と訴えても、そんなの理由になるかと、文字通り蹴飛ばされた。
石工の修行の最中だから、と言うと、コルは出かけて行って、ノックを王宮付きの石工にしてしまった。そうして、これで解決とばかりに、
「空いている時間は、修行して良いぞ」
と、修行を許可した。
連れてこられたノックは、まず、呆れ顔で信を眺めまわし、
「本当に、王宮の仕事を持って来るとわな」
と呟いた。なんで受けたんですか、という信の嘆きには、
「王宮付きなんて、好条件、受けないわけがないだろう。だいたい、王宮がここまでやってくれるなんて、文句言ったらバチが当たるぞ」
と鼻を鳴らし、
「ま、お前は、爪を出しすぎたってことだな。あきらめな」
と、降ってわいた好条件の仕事に、ニヤニヤが止まらない師匠に言われたらしい。
しかし、信の兵士としての仕事に、空き時間などほとんどない。信は騙された恨みを、ふつふつと煮えたぎらせていた。
「忙しいの?信」
心底心配そうな蘭の声に、思わず頬が緩む。最近、王宮の中は平穏だが、外側が少し気になるとのことで、信はアランにこき使われていた。はっきり言って、心身ともに忙しい。しかも、昨日、アランはとんでもないことを言い出した。
そんなことはおくびにも出さず、ニッコリ笑って言った。
「心配してくれるの、蘭?大丈夫だよ」
その笑顔に蘭は思わず、ウッと引いた。隣で、キースが苦笑いをする。
「悪魔の微笑みだな」
悪魔がこちらを向かないうちに、キースは礼を言って、門を通り抜けた。
並べられた反物を前に、夜の君は満足そうに頷いた。
「お前の母の反物は、見ていて楽しい」
「ありがとうございます」
……知っていたのか。
それには触れず、蘭は深々と頭を下げた。
后や後宮に卸しているこの布が、母たちの織ったものだということを、蘭は特に后には言っていなかった。后も今まで触れたことはない。それが、突然、これだ。
夜の君は蘭の素性をほぼ知っている。蘭が漏らしたこともあるが、そういう時でもだいたい、知っていた、と言われることが多い。しかもそれを小出しにするから、恐ろしい。
「ああ、そうだ、ラン」
「また、仕事ですか?」
無礼な物言いに、女官長の眉がピクリと動いた。女官長と蘭を見比べて、夜の君は蘭に訊く。
「お前、わざとやっているのか?」
「は?」
怪訝そうな蘭に、夜の君はクックと笑った。
「まぁ、いい。あまりカナエをいじめてくれるな」
「はぁ」
蘭のはっきりしない返事を受け流して、后は本題に入った。
「今回はわたしの仕事ではない。すぐに帰っていいぞ。その前にアウローラが頼みたいことがあるらしい」
「アラン様ですか?」
夜の君がにやりと笑う。
「なんでも、持って帰ってほしいものがあるそうだ」




