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太陽の妃  作者: さら更紗
Ⅳ 不穏
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Ⅳ 不穏 -2

 太陽神が治めるこの国は、百二十年ほど前に、初代太陽王によって建国された。その時、他の国とは国交を殆ど断ってしまったし、今日まで侵攻されることもなかった。この国の人間は、自分の国の外に別の国があることに、意識が及んでいないのである。

 空も、針森の外には、都やら他の町があることは分かっていても、それらを全部含めたこの国の外に、違う国があるということまでは考えていなかった。

「別の国……」

 空が呟く。

「ガザ帝国という」

「ガザ……」

 空の目がだんだん遠くに行こうとする。

「ガザの人間が、針森の村に入り込んだこともあるよ」

「村に?」

 空の目が戻ってきた。

「入ってきて、どうしたんですか?」

「村人になったのさ」

 今度は青が遠い目をした。

 遠い昔、青の周りの人間の運命を変えていった男。

 しかしそれは昔の話だ。青は現実に戻ることにした。 ここにしか生えていない薬草が、この崖には植生していた。その為に、ここまで来ると言っていい。比較的上の方に生えていて、採りやすいものだけを採って帰る。

 青は目当ての薬草を空に教え、自分はロープを近くの木に結び付けて、崖を降りる準備を始めた。

「青さん」

「なんだ?」

 ロープを固く結わえながら、青が応じる。

「あそこにたくさん生えていますよ」

 ん?と首だけひねって、空の差した方を見た。確かにたくさん生えている。しかし、そこの崖の角度はかなり急で、足場もない。木の根っこのようなものが飛び出しているだけだ。

「あそこは無理だろ」

 青がなだめると、空は何でもないことのように言った。

「ちょっと行ってきます」

 そう言うと、ロープの反対側を自分に結び付け、崖から生えている木の枝や、根っこを軽々と伝って行った。ロープにはほとんど力がかかっていない。空の運動神経と身軽さは超人の域だ。

 あっという間に、籠いっぱいに薬草を詰めて帰って来た弟子に青は感心する。

「さすがだな」

 空はナイフも得意で、鹿なども一人で斃すことができる。それを思い出して、青は言った。

「狩師にならなくてよかったのか」

 空はぽかんとしてから、ああ、と合点がいったように照れる。

「動物を殺すのは、あまり好きじゃないんですよ」

 食べるくせに、そんなこと言えませんけどね、ときまり悪そうに笑った。


「あれ?」

 空がおかしな声を出した。見ると、眉をひそめて、川向こうの森を見ている。

「どうした?」

 青が尋ねると、空が指で森を指して言った。

「あそこ、森に道ができてませんか?」

 空の指さす所を見ると、確かに緑の森の中に、土色の線が森の向こうから、川に向かって伸びていた。

 材木でも運ぶための道かもしれない。しかし青は、不吉なものを見たような、嫌な予感がした。


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