Ⅲ 王の子 -30
太陽神様!
セレネは胸の内で歓声を上げた。
リンを巫女姫として、正式に承認するとの書面が、王宮から本日、神殿へ届けられた。刻印はもちろん、太陽王である。
それにしても、意外に時がかかった。
セレネの異母兄である太陽王は、意地が悪い。大巫女や大神官と違って、巫女姫など誰でもいいと思っているくせに、セレネが希代の占い師と言われているだけで、異母妹の自分に意味のない嫌がらせをしてくる。
今回もそうだ。豊穣祭では、リンをもう巫女姫と認めたような口ぶりだったのに、なかなか承認を出さなかった。
リンを巫女姫と決めてしまうことに、積極的ではなかった大巫女と大神官の説得に、セレネが腐心している間、王はのらりくらりとセレネの催促を受け流していたのだ。
やっと大巫女と大神官が承認したとき、太陽王だけがまだ、承認を出していない状態であった。
それが、やっとそろった。
婚礼の儀まであと二年。
手抜かりのないようにしなければ。
セレネは跪き、太陽神へ一心に祈った。
「俺も行きます!」
「……シン、これは極秘の会議だって、分かってる?」
信の大声に、呆れたようにコルが注意した。
「だから、シンは呼ぶな、と言っただろう」
イラついたように、アランが言った。
「呼ばなくても、どっかからかぎつけてきますよ」
コルは蘭を見ながら言った。蘭には前科がある。蘭は黙って、視線を外した。
王太子の私室で、会議といっても、出席者は四人。何が極秘かというと、巫女姫の即位の儀に、どうしたら蘭を連れていけるかということを話し合っているからだ。
凛が正式に巫女姫になってしまったので、公で会うのはもう無理であろう。巫女姫は婚礼の儀まで、極力隠される。
では非公式では、というと、おそらくこれは神殿側が良しとしないだろうということであった。特に姉である蘭は問題外だ。巫女姫に、里心がついてしまってはならないからだ。
つまり、もう、強引に潜り込むしかなくなってしまった。そこで、正式に巫女姫が決定したことに伴って行われる、即位の儀の時がよいだろうということになった。
即位の儀は、太陽王、大巫女、大神官、王太子、そして神官たち、巫女たちで執り行われる。一般の人はもちろん、王たちのお付きの者も入ることは出来なかった。だが、儀式場の外までは、女官や警備兵は入ることはできる。
「蘭は女官としてわたしに同行し、巫女に化けて巫女たちに紛れれば、儀式場には入れる」
聞けば聞くほど、無茶だと思う。しかも見つかれば、不敬罪で死刑になるかもしれない。信は唇を噛んだ。
「ただ巫女姫とは離れているだろうし、もちろん話すこともできない。それに、見つかった時は、助けることはできない。悪いが、われわれはお前を切り捨てる」
アランはまっすぐ蘭を見た。失敗すれば、確かにこの人は、即座にわたしを切るだろう。
蘭もアランを見返した。
「わたしは凛に会うために、命を懸けました。命の危険が、凛に会う唯一の機会を逃す理由にはなりません」
しばらくアランは何も言わなかった。
「分かった」
しばらくして、アランは頷き、信を見た。
「シン、警備兵としてなら、同行を許す」
え?と信が顔を上げる。
「せいぜい護ってやれ」




